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2001年06月27日(水)
山岸凉子『舞姫テレプシコーラ 1』

手にとって見て驚いたのは装丁の美しさ。
紙質、色、デザイン、帯。帯を外した時の表紙。タイトル文字のデザイン。
こういう本を見るとうれしくなりますね。

バレエ教室を主宰する母を持つ二人の姉妹と
かつてバレエのプリマだった伯母を持つ貧しい家庭に育つ少女。
踊ることが大好きな三人の少女がバレエを通してどんなふうに成長していくのか?
優等生の姉とコンプレックスを持つ妹
というのは、『アラベスク』の冒頭に似ている。
そこへ、『ガラスの仮面』の北島マヤのような空美(くみ)が現われる。
生活保護を受けても、生活が苦しい環境で暮らす空美は、
家計を助けるためにポルノ写真のモデルまでさせられている。
バレエだけが彼女の支えになっている。

主人公は多分、妹の六花(ゆき)だけれど、
お姉ちゃんの千花(ちか)の努力の仕方はとてもまっすぐで好感が持てる。
二人とも空美の踊る姿を見て、良い意味でのライバル心をかきたてられる。
六花が主役だとしたら、物語の中心に持ってくるためには
千花がバレエができなくなるような話になりそうで心配。
(いや、これは私の勝手な予想だけどね)
空美との対比で六花の成長を描いていく話になるんだろうか・・・
それとも三人それぞれを描いてもらえるのか?

空美の環境があまりに強烈なので、読者の同情は
彼女に集中している。今のところ完全に主役を食ってる感じ。
空美ちゃんがちゃんとバレエのレッスンを受けることができることを
みんな願ってるぞ(というところでお話は続く・・・)

子供達だけでなく、出てくる大人たちみんなが
それぞれきちんと個性を持った人間に描かれているところがすごい。
母でありながら指導者でもあるお母さんのシビアさ。
それをフォローするやさしいお父さん。
空美を大事に思わないわけではないだろうけど
生活に振り回されて空美に犠牲をしいる母親。
財産を食いつぶして、家庭を滅茶苦茶にする父親。
プリマだったかつての栄光を忘れられないで落ちぶれていく空美の伯母。
金子先生の存在が、少しずつ状況を変えるかもしれないところが
今までのお話と一番違うところかな。
少なくとも六花は、金子先生のおかげで希望を与えられたから。
空美にも希望を与えてやってください。

『アラベスク』第一部連載開始から30年。作者は今も最前線にいる。