文庫で全五巻のこの作品を読むにあたって、 私の中にはいくつかのハードルがあった。
それは、「市川ジュン」さんであるということ。 大正〜昭和期の女性の生き方を扱っていること。
このふたつがなぜハードルになるかというと、 市川さんはデビューからずっと見ていたので、おそらく根っこの部分はわかっている。 別マ掲載作品は全部読んでいる。でもそのあとを知らないので 彼女の作品とは数十年ぶりの再会になる。 昔の友達がどんなふうに変わったのか?変わってないのか? 確認しながら読んでいく感じ。 そして、この時代を扱った作品はどうしても、ある程度パターンをなぞるような 女性の生き方になってしまうので、そこから抜け出ることが出来るのか?どうか? という見方をしてしまう。
そして読み終わった感想はどうかというと・・・ 市川さん変わってないわ。でも、昔のひとじゃなくてちゃんと今の人になってるんだ。 という安心感と、ハードルを越えたのか越えなかったのか? どちらか判断をすることができないもどかしさ・・・かな。 お話はとてもおもしろくて一気に読んじゃったんだけどね。
自立して生きるということと、自分の気持ちに正直に生きるということ。 自分のまわりにいる人たちを大事に生きるということ。 全部が満たされることはめったにない。だからこそ葛藤が生まれてお話が生まれる。 市川さんはとても上手にこなしていく。 ごまかさない。逃げない。正面からぶつかる。それは昔と同じ。 でも、巧妙に物語世界自体がやっぱり優しいんだなあ・・・ 物語が現実をなぞる必要はない。でも、少しでもそこに硬い話を混ぜてしまったら そのレベルで判断されてしまう。それにしたら話は甘い。
別マ時代のお話にも、社会運動のことが出てきたかな? きっと学生時代にそういうことについて議論してきた人だんだろうな。 そういう問題についての私の態度はこの年になっても いまだにはっきりしていない。興味がないわけではないけれど。
咲久子的なものと卯乃的なものを同時に認めることができるなんてほんと? 昔の話のパターンだったら咲久子が卯乃よりになるんだろうな。 それをしなかったのは前進したということかな。 市川さんも年をとってよりしたたかになったということかもしれない。 (社会党が連立政権に参加したみたいに・・・)
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