ある町の、場末の花街のそばに森があって、 森の中に一台のグランドピアノが捨ててある。 そのピアノは誰にも弾けない。音がでない。 花街で育った小学生の海(カイ)が 触ったときだけ、ピアノは音楽を奏でる。
単行本が6冊でているけどまだお話は完結していなくて、 どういう結末を迎えるのかは見当もつかない。 しかし森の中のピアノのイメージで 作者の言いたいことは、語り尽くされているのではないか と私は思う。
カイはピアノを弾く。人前で弾くことの快感を知る。 もしかして世界へ出て行って 素晴らしい演奏家や先生や友人に出会って、 悩んだり苦しんだり喜んだり悲しんだりするかもしれない。 でも、カイの心はいつもピアノの森に帰っていくだろう。
6巻終わりで、ピアノは無くなってしまった。 この世で帰る場所が無くなってしまったら、 彼は自分の弾く音楽で森の中へ帰るしかない。 それはカイにとってはいいことかどうかわからないけれど、 聴衆にとっては幸せなことなんだろうな。
私は雨宮くんがけっこう好きだったりする。 天才に対する秀才であることを、 小学生で自覚してしまった子供は切ない。 でも、作者の雨宮くんを見る目は優しい。 音楽は他人と競うことではなくて、 いつも自分自身との対話であることを 繰り返し言ってくれるから。
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