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2001年06月14日(木)
一色まこと 『ピアノの森』  

ある町の、場末の花街のそばに森があって、
森の中に一台のグランドピアノが捨ててある。
そのピアノは誰にも弾けない。音がでない。
花街で育った小学生の海(カイ)が
触ったときだけ、ピアノは音楽を奏でる。

単行本が6冊でているけどまだお話は完結していなくて、
どういう結末を迎えるのかは見当もつかない。
しかし森の中のピアノのイメージで
作者の言いたいことは、語り尽くされているのではないか
と私は思う。

カイはピアノを弾く。人前で弾くことの快感を知る。
もしかして世界へ出て行って
素晴らしい演奏家や先生や友人に出会って、
悩んだり苦しんだり喜んだり悲しんだりするかもしれない。
でも、カイの心はいつもピアノの森に帰っていくだろう。

6巻終わりで、ピアノは無くなってしまった。
この世で帰る場所が無くなってしまったら、
彼は自分の弾く音楽で森の中へ帰るしかない。
それはカイにとってはいいことかどうかわからないけれど、
聴衆にとっては幸せなことなんだろうな。

私は雨宮くんがけっこう好きだったりする。
天才に対する秀才であることを、
小学生で自覚してしまった子供は切ない。
でも、作者の雨宮くんを見る目は優しい。
音楽は他人と競うことではなくて、
いつも自分自身との対話であることを
繰り返し言ってくれるから。