不幸せ競争

人が苦しんでいる話を聞くのは面白いわよ。
本当に感情移入できたり自分も苦しんだりするのは
極々身近に限られるのよね。
向かい側にすんでいる親戚だって、なかなかわかってくれないのよ。

ウチの親戚は向かいにはいないけどさ。

もうそろそろ時効かなーと思うので書いてしまうよ。

大分以前に、生死に関わる事故(災害)にあった友人が
その後暫く精神を病んでいた。
自分の都合と気分に合わせて電話をかけてきては
2時間くらいざらに喋りまくる。それも夜11時からとかね。

「○年目の浮気」なんていうタイトルがあるけれど
歌も映画も既に越えてしまった私たちの年代は
夫婦がお互いに「愛してる」を表明しなくなる時期なのかも知れない。
熱烈に「相思相愛」を欲して、想像し続けて、
友人は「愛されている」という妄想に負けてしまった。

負けたいよね。きっとすごく気持ちいいと思う。
自分の思いを寄せている人が、密かに自分を愛してくれている。
本当にそう思いこめたら、きっと日々幸せだろうなぁ。

でも、彼女の電話に付き合わされる方は結構苦痛だった。
ある友人はかなり危険な状態の家族をかかえ、
下手をすると病院から呼び出しがかかるかもしれないという状況の中
夜中まで電話責めにされて酷く消耗していた。

そして、私は惚け老人を抱えていた。

ある日の晩。
電話で延々と架空の恋愛話を聞かされて、いい加減嫌気がさした私は
思わず「良いわねぇ専業主婦していられて」と皮肉った。
暗に「暇だからそんな架空の恋愛で悩むのよ」と。
しかし彼女は間、髪を入れずに返答したものだ。
「暇を持て余すよりボケ老人抱えてる方がいいじゃない。」

唖然とした。

少々反応の鈍い私は、呆然としたままろくに文句も言わずに
電話を切ったのではないかと思う。

あとで(苦笑)猛烈に腹がたったよ。
不幸の競争をするに事欠いて、「暇」と「惚け老人介護」を比べるなんて。
しかも「介護」が負けてるこの事実(笑)
彼女にとっては色々規制されている自分の人生が
思うようでなくて、暇でさえ苦痛だったのだろうと思う。

でもねぇ。

今は何も連絡がないので、良くなったのだろうと思うけれど
どうしても彼女に対する「いつか再発?」疑惑は消えない。
「どこでどう地雷を踏むか」とビクビクしながら電話していた
あの悪夢の日々を忘れるには、もう少し時間が必要らしい。
2001年10月18日(木)

花のもとにて / しっぽ

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