私季彩々
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2002年01月27日(日) 前野君 

 小学校1年生の頃、記憶はあやふやなのだが仲の良かった友達に前野君というのがいた。彼の家の前でよく遊んだ記憶がある。平屋の長屋で典型的な公営住宅。今では炭鉱跡にでも行かないと、お目にかかれないようなものがたくさんあった。

 小学校低学年の頃の記憶なんてほとんど無いけれど、なぜか彼の顔は覚えている。前歯が何本か無くて、白のT−シャツは何処と無く色褪せていた。席は一番後ろだったような気がする。当時はやったビックリマンチョコのシールを彼にあげていた。私はそういうものに全く興味が無く、中のチョコばかりバクバク食べていた。

 一学期が終わって2学期が始まると彼はいなかった。何日か経っても彼はこなかった。
 それで担任の先生と何人かの生徒とで彼の家を訪ねた。夏のある日、小学生にしては遠い道のりを先生達と歩くのはピクニック気分でなかなか楽しかった。
 彼の家の少し錆びた緑色の扉。人気はなかった。近所の人の話では引っ越したようだとのこと。”夜逃げ”という言葉がその中にあったような気がする。
 そんな最中の古びて黄色みがかった壁と砂利が記憶に残っている。その話を聞いた時、私は地面をみていたようだ。土に書いた落書き、アスファルトに軽石で描いた○。ケンケンパー。

 それからしばらくして、誰も彼の事は話さなくなった。小学校の一学期だけの事ということで、すっかり忘れてしまわれたように。あまりに綺麗になかったので、私にも本当にそんなことがあったのか今思うと不確かだ。先生と彼の家を訪ねるなんてことをするものかと不思議に思えるし、脚色が入っているのかもしれないが、そもそもそんなことは無かったのかもしれない。

 ただその一瞬だけを知っていて、その後の事を全く知らない前野君。多分もう一生会うことはない前野君。もしかしたら存在しないかもしれない、私の空想だけかもしれない前野君。彼の事は私にとって特別な存在である事は確か。彼より仲のよくなった友人は多々いるけれど、再び会うことがないということが、何故か思い出を安心なものにしているよう。

 そう、前野君。君の思い出は私にとって特別。だから私は君とはあいたくない。まだまだ私は臆病なようです。 Home&Photo


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