私季彩々
DiaryINDEXpastwill


2001年09月04日(火) 車窓にて

 久々に駅のホームにたった。暮れていく郊外のホームはまばらで、夏服の中高生達の白がひんやりとした空気に映えて、空気の蒼をひきたてた。
 数分後にやってくる汽車を待ちながら、柵に寄りかかる。体温を奪う金属の感触に心地よさを感じる日は、今年はなかったなと思い返してみたりする。

 汽車に乗ることは高校三年間の日常だった。1時間に一本あれば上等の汽車は、北海道では珍しくわりと混んでいた。朝の通学はぎゅうぎゅう詰めの満員。一度乗った東京の満員電車に引けを取らないものだった。今思えば、東京に就職しても何とかやっていけたかもしれない。学生の賑やかな会話が錯綜する中で、樽前山の季節のうつろいをボーっと眺めていた。山裾はなだらかで、冠雪すると見事な帽子をかぶる。秋が深まる季節、葉を落としたセピア色の森と良く似合う。あせていながらも山は凛としていた。そう、思い出すのは秋色だ。

 今日私の前には、30階もあろうかというタワー型のマンションがそびえている。明かりが漏れているのは数件しかない。不思議と、対面の窓の中心一列だけが明るい。ホテルなどでたまにやるメッセージを、このマンションの窓で書いてみたらどうだろう。札幌へ向かう駅のホームで少し顔を上げると、短いメッセージが浮かび上がる。雪降る早すぎる夕闇に浮かべるなら、とっても純情なメッセージが似合う。そう、目の前の制服カップルあたりに似合いそうな。

 ホームには岩見沢に向かう汽車がやってきた。赤に薄黄色のライン。車内は青い地のボックス席と、出入り口付近では横に伸びる座席。北海道では古くから走る旅情味のあるディーゼルだ。私が学生の頃乗ったものと同じ型。”キサ”と側面に書いてあった。
 私が座るのはボックス席ではなく入り口付近。ボックスは友達仲間で占領する賑やかな閉じた空間だったが、通路を挟んで向かい合う席ではお互いが他人。顔を上げると、山裾を広がる街並と乗客の顔。たまに合う視線をどことなく避けて、流れる街の灯りを眺めていた。家の光が街灯へと変化して規則正しい点滅が窓を流れていく頃、乗客はほとんどいなくなる。窓はいつのまにか闇の鏡となって私を映し出す。空席になった向かいの席には、私と隣に座っている人がいる。森に入る頃、その姿はいよいよ鮮明になって、私は私と向かい合う。時にどきまぎ、時にうざったく、醒めた目に戸惑う頃再び街灯が流れ出す。私が降りるのはそのすぐ後だ。

 汽車は発車した。わたしもこの汽車に乗ったことがあったかも知れない。見送るすぐあとに、札幌行きの列車がすべりこんできた。乗り込んだ列車に座席を探したが、全て進行方向を向いていた。

 窓にうっすらと映る私。斜め向きの顔はどこか私以外のほうを向いているようだ。灯りはだんだんと賑やかになって札幌駅へ着いた。

 大分昔によんだ吉本ばななさんの短編小説で、列車の中での話があった。隣に座る人物と会話をするというものだ。その人物は自分の心を反映して老人に代わったり美女に代わったりする。主人公の彼はきっと前を見据えていた事だろう。窓に映る姿をみて、その人物の存在感を隣に感じて。 Home&Photo


とんと |MAILHomePageBBS

My追加