KALEIDOSCOPE

Written by Sumiha
 
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  evergreen with you


2003年10月25日(土)
 



「何をしているんですか?」
「うるさかった?」
「いえ、ただの好奇心です」
「ジグソーパズルやってたの。むっずかしくて。ピースをかきまわしてたのよ」
「どんな絵柄なんですか?」
「ラッセンのイルカ。千ピースって意外と多いわね。昨日からやってるんだけどまだ全然完成しないのよねー」
「完成させたらどうされるんです?」
「……考えてなかった。衝動買いしたから」
「あまっている額縁があるので宜しければお譲りしますよ」
「じゃあ甘えちゃおうかしら」
「助かります」
「置き場所に困ってたの?」
「ええ。入れておくものもありませんし」
「額ってひとつ?」
「いいえ。五つか六つほどあまってます」
「なんでそんなに」
「話しませんでした? ゼラスさんから絵を預かったんですが、返す時に額はいらないからと頂いたんです」
「え、聞いてない」
「一ヶ月ほど前の話です。頂いた物なので捨てる訳にもいかなくて」
「飾ればいいじゃない、って、入れるもの無いんだっけ」
「ええ」
「ふうん……。ね、じゃあ、時間ある時にでも二人でジグソーパズルやらない?」
「他にもパズル買ったんですか?」
「そーなの。家にある本は全部読みおえたし、暇だったから。買いすぎたみたい。こんなに時間かかるとは思わなかったわ」
「そうですか。私は構いませんよ。パズルなんて久しぶりです」
「良かったー。実は途方に暮れてたのよね。完成する前に飽きたら押入れの肥しにさせなきゃならないかなって思ってたから」
「完成させたら飾るんですか?」
「そうしようと思ってるけど……昨日替えたって言ってた壁紙、クリーム色だったわよね?」
「ええ、白に近いクリーム色です」
「それなら青って割と映えるわよね」
「いいですね。壁紙を替えてから部屋がどうにも殺風景に見えてしまって」
「一つか二つ、こんぢょーで完成させるわ。責任持って飾ってね」
「喜んで。リナさんは飾られないんですか?」
「ポスターとか剥がせば場所できると思うから、そこに」
「……もしかしてまだ貼ってあるんですか」
「いーじゃない好きなんだから。次のW杯、楽しみだわ」
「ベッカムじゃないだけマシと考えておきます」
「どういう意味よそれ」



「先週ね、」
「はい」
「帰りにデパート寄ったんだけど」
「お一人で?」
「みんなとは方向違うもの。気紛れ起こさなきゃ真っ直ぐ帰ってたし」
「そうですか」
「でね、昨日話した紅茶、ちらっとだけ見たんだけど。やっぱり置いてないみたい」
「取り寄せでないと駄目ですか」
「らしいわ。頼んどく?」
「お願いします」
「おっけー。それからあれも……あったにはあったけど種類が無いのよね、あんまり」
「あれ、とは」
「……あ。えぇと。そうだった話してなかった……」
「なんです?」
「……毛糸」
「毛糸?」
「そう。毛糸。いまから編めばセーターとマフラー、クリスマスまでに二つ編めるかなあって」
「どなたに贈るんですか?」
「…………ときどき天然よね……。あなたによ。決まってるでしょ」
「……………………」
「もしかしていらなかった?」
「いえ、そうではないんです。……その、」
「なによ」
「……ありがとうございます」
「わっかりにくー!」
「笑わないでください」



「ここ二ヶ月ほど時間が空いた時に空の写真を撮ってるんです」
「カメラ買ったの?」
「いえ、家にあったもので」
「どんなの?」
「十年くらい前の古いカメラです。シャッターが押せればいいので気にしてませんが」
「姉ちゃんからのおさがりで良ければ、ちゃんとしたカメラ、譲るわよ?」
「……ですが、」
「あたし使わないし。いらないなら捨てるだけなんだけど」
「では譲っていただけますか? 新しいのが欲しいと思っていたところなんです」
「いいわよ。そうねえ、お代はあなたが撮った写真一枚」
「お見せできるものはありませんよ。ピントを合わせるのさえ四苦八苦してるんです」
「自信を持って見せられるものが撮れたらでいいから」
「だいぶ先になっても構いませんか?」
「見せてくれるんならいつでもいいわ」
「わかりました。いつとは言えませんが、いつかお見せします」
「待ってる。撮ってるのは空だけ?」
「たまに花や外の景色なども撮りますよ。どこを撮るにしても光の加減が難しいですね」
「逆光なったりとか?」
「ほかにも自分の指が写ったり」
「古典的!」
「カメラが小さいので仕方無いんですよ。現像の段階で光を入れてしまったこともありますし」
「自分で現像してるの!?」
「ええ。空き時間を使って。いくら写真屋さんでも恥ずかしくて見せられた代物ではありませんから」
「じゃあ見るとしたらあたしが初めて?」
「そうなりますね」
「……ちょっと優越感」
「誰にですか」
「……だれだろ」



「うしろの、なに?」
「ああ、魔王です。シューベルトの」
「へえ。そう言えば中学生の頃に聞いたことあるわ。音楽の授業で。ドイツ語版と日本語版を聴いたんだけど、あれ言葉がわからなくてもちゃんと向こうので聴いた方がいいわよね。日本語だと……なんて言うか、ちゃちくて」
「クラシックはお好きですか?」
「嫌いじゃないけどCDは持ってないわ。たまにアメリアに借りる程度」
「………………」
「今ちょっとむっとしたでしょ」
「……そんなことは」
「隠さなくていーわよべつに。今度はあなたから借りるわ」
「子供扱いしてませんか」
「してないしてない。拗ねないでよもう」
「拗ねてません」
「そういうこと言うとあたしが拗ねるわよ」
「どういう理屈ですか」



「来月はお忙しいですか?」
「後半はね。レポート出される時期だから」
「では前半、いつでもいいので空けておいてください」
「なんかあるの?」
「ええ。美術館のチケットを買ったので、ご一緒にどうかと」
「どこの?」
「上野にある――先日行ったところです。次回公開予定になっていたあれです」
「行きたいってあたしが言ったヤツ?」
「そうです。なるべく早めの方がいいと思いますよ。公開期間が短いので、あとのほうが混むでしょう」
「じゃあ第一日曜。ええっと何日だったっけ」
「五日です」
「五日ね。いつもの時間で。それでいい?」
「はい。昼食はどうします?」
「んー……。たまには」
「たまには?」
「レゾの手料理食べたい」
「……私ですか」
「だめ?」
「私で良ければ有難くご指名お請け致します。リクエストはありますか?」
「コックさんにおまかせするわ。あっ、ひとつだけ」
「何でしょう」
「一緒に作りたい」
「……」
「笑ったわね」
「いえ、まあ」
「否定してるのか肯定してるのか、どっちよ」
「断言すると怒るでしょう」
「それって肯定してるってことじゃないの」
「リナさん」
「……なに」
「五日、楽しみですね」
「ごまかしたわね。いいけど。……五日かー……。半月も先なのね」
「……。そうですね」



「……会いたいな」
「――――あさって」
「え? なに?」
「明後日、お暇ですか」
「土曜だからサークル無いし、約束もしてなかった……と思うし。暇だけど」
「久しぶりにドライブでもどうです? この時季の海もいいですよ。人がいませんし。流石に泳げませんけど」
「いいわねそれ。でもちょっと寒くない?」
「そうですね。天気にもよるでしょうが」
「雨だったら?」
「考えておきます。十一時ごろにお迎えにあがりますよ。防寒対策しておいてください」
「ん、わかった」
「……それでは」
「明後日ね。寝坊しないでよ」
「リナさんも」
「ひっどいわね、十一時ならちゃんと起きてるわよ」
「寝起きのあなたも見てみたいんですが」
「ばっ、なに言ってんのよっ」
「いいじゃないですか。何度も見ているんですから」
「いつ!?」
「車で出かけると必ず寝てしまわれるでしょう」
「もう寝ないっ」
「冗談です。怒らないでください」
「知らないっ、おやすみ!」
「おやすみなさい。――良い夢を」


 子機を充電器に戻す。
 ベッドに座り片膝を立てる。立てた膝の上に顎を乗せ足を抱きしめるように両腕をまわす。戻したばかりの子機を眺めた。
 なかなか会えない。お互い時間の都合が合わないから。ほとんど遠距離恋愛のノリよね。
 だからたまにでも掛かってくる電話やメールを大事にしたいと思う。ケンカも、しちゃうけど。
 メール……送っといた方がいいかな。むすっとした顔で会うのはイヤだから。
 ……これでよし、と。
 素直じゃないわよね、我ながら。普段はなんでもかんでも言いたい放題のくせに。本心はいつだって表に出せない。ありがとうは言えても、ごめんなさいや、……好き、が言えない。
 会うまで、とっておこう。
 言うなら顔を見て言わないとね。
 さてっ、もう寝よ。けっこぉ長電話しちゃった。いまごろ何してるかな。ちゃんと睡眠とってるといいんだけど。会ったら訊こう。また倒れられちゃたまんないわ。
 いい夢を、か。あなたもね。レゾ。――おやすみなさい。


件名:ちゃんと寝なさいよ
本文:土曜日、楽しみにしてるから。おやすみ



――終。

稿了 平成十五年十月二十四日金曜日
改稿 平成十五年十月二十五日土曜日

evergreen/MY LITTLE LOVER





執筆中のBGM
西脇唯
「二人」に帰ろう

タイトルに苦しみました。辞書ひっくり返したり思い付いた言葉を英訳したり。で、結局辿りついたのはこれかな、と。内容と合っていないと思われるかもしれませんが(だとしたら私の力不足)、言いたいことはこれなので。BGMと違うのは、内容に合わせたBGMをかけていたのではなく自分の気分に合わせたBGMをかけていたからです。こっちの曲はまた別の機会に。B'zの「It's Raining...」もそれっぽいかなあと思いましたが、こちらはまた別の話で使いたいなあと。

狙いは(最初の方で)二人が同じ部屋で別々の作業をしながら話している図(でなければ電車内や喫茶店などで同じ場所にいて話している図)を想像させること、だったんですが。(会話が進むにつれその想像を裏切っていければいいなと)失敗してそう。ぎゃふん。

作中に出て来るポスターはカーンを想定してます(笑)。ドイツのキーパーです。(リナの自室に)リナには合わないポスターが所狭しと貼ってあるイメージで。部屋だけ見ると綺麗好きな男の部屋のような(笑)。あくまでこの話のリナの部屋です。現代パラレルのリナが全てこの設定という訳ではありません。

最後にこっそり。レスが遅れたお詫びとして駄文ではありますが緋崎様に捧げます。



BGM
zabadak
 



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