| 2022年04月06日(水) |
桜の花弁がひらひらと舞っている。ワンコと散歩に行く道中、あちこちで花弁に出会う。花弁によって桜の樹が近くにあることに改めて気づくことも。それにしても今日は午後から風が強く、それゆえに宙を舞う花弁も一層多くあった。そういえば今日は息子の小学校で入学式があったはず。この花弁舞う中での入学式、美しかったろうな、なんて、想像を巡らす。 イフェイオンは白っぽい子と青い子とが入り乱れて咲いており。おかしいな、うちの子たちはみんな青い子だったはずなのに、と首を傾げる。何故白い子がいるんだろう。植えっぱなしにしている子たちだから、いつのまにか色が変わった、なんてことがあるんだろうか。考え巡らすほどに不思議で仕方がない。
戦争のニュース、性加害のニュース。私にとってどちらも、しんどいニュースだ。できるなら見たくない、聞きたくない。でも、どこを向いてもそれらが目に入る。もういっそ何も見ないで目を閉じていようかと思ってしまう程。 時代が変わり始めている。性加害のニュースがここまで連日巷を賑わすなんて、これまであっただろうか。 昔関わりのあった被害者の子らは、今どうしているんだろう。こんな世の中が来るとはあの頃思ってもみなかった。たとえば十年も経った被害についてカミングアウトできる世の中が来るなんて。そしてそれに耳を傾けてくれるひとたちの存在があり得るなんて。 それを考えれば、この変化は大切な変化なんだと思う。それは分かっている。でも、心がこの状況についていききれていない。
でもいつも思うのだ。 被害者です、と名乗りを上げることはそのまま、加害者の存在を指し示すことだ、と。加害者がいなければ被害者は生まれない。加害者による加害行為があってはじめて、被害者というものが生まれる。だからつまり、被害者ですという名乗りは、加害者がそこに存在しているのだということを指し示す。 この重さ。
それにしても身体が痛む。たぶんこういったニュースに対するストレス反応なんだろう。特に右半身、痛くて痛くてたまらない。その話を家人にしたら、こんなことを言われた。トラウマ体験が右半身にあるからなんじゃないの?それが疼くのかもしれないよ、と。そう言われて、改めて省みれば、被害に遭った時掴まれた肩は右側だったな、と。右肩を掴まれ、押し倒されたのも確かに右肩が先だったかもしれない、と。そんなことを思い出す。家人に言われなければ改めて思い出すこともなかっただろう事柄。 あまりに痛いので、息子を寝かしつけてからずっとテニスボールでケアしているのだが、あまりにがちがちに筋膜が固まっているらしく、びくともしない。また被害に遭うかもしれない、またとんでもないことに巻き込まれるかもしれない、という危険信号が、身体の奥から発せられているのかもしれない。身体が臨戦態勢だ。 心と身体は密接につながっている、とは、よく言ったものだと思う。己の心の状態をまだ言語化し得ないうちに、身体は正直に反応する。そのくらい敏感なのだ、身体は。 主治医から習ったケアも取り入れてみているのだが、あまりに痛みが酷くて、仕方なく鎮痛剤を飲む。
私が最初にカミングアウトした時。自分が被害に遭った、ということを誰かに伝えることは本当に本当に恐ろしかった。自分がそれを為してしまうことによって、何もかもが狂ってしまう、反転してしまう気がした。そして、そこに加害者の存在もまた、あった。 私が被害に遭ったと告白することによって、加害者は炙り出される。炙り出された加害者は再び私に牙を剥いた。もう最初の被害でずたぼろになっていた私は、為されるがまま、それを受けるしかできなかった。 地位利用型性暴力とか、対価型性暴力とか、グルーミングとか。いまでこそそういった言葉が用いられるようになってきているけれど、私の被害の当時はそんな言葉は皆無だった。私の被害を言い表す方法がなくて、言葉がなくて、私は苦しんだ。 言葉が存在することのありがたさ。痛感している。 自分の被害について明確に表現し得る言語が存在するということは、それだけで、救われる。それだけで安心度合いが増える。その言葉によって、物語ることも可能になる。 物語ること。己に起こった出来事をつらつらと物語ること。これが、被害者には必要なことなのだと思う。正確に物語る、よりも、思いつくまま物語ることの大切さ。それには、それを遮らない忍耐強い「耳」の存在が必要不可欠になる。 第三者の「耳」がそこに在って、物語れるだけの言葉があって、はじめて、被害者は語りを取得する。これは、いずれ、その者の回復を大きく後押しする。
何となしに窓の外を見やる。闇が深い。厚手の靴下を履かず裸足でいても何とか耐えられるくらいにあたたかくなった。私はごくり、手元のコップで水を飲む。動物園の方から動物の遠吠えのような吠声が響いてくる。 私の眠りは、まだしばらく、先のようだ。久しぶりにチャイでも淹れようか。眠れそうにない自分の為に。 |
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