ささやかな日々 / 浅岡忍

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2020年05月19日(火) 
 粉のような雨が舞う朝。粉のようなのにしばらくベランダに出ていると髪の毛の先がじっとり濡れる。
 オクラの葉がぱっと開いてきた。薄い黄緑色の葉っぱ。丸く、ちょっとまだ皺が残っている。でも元気いっぱいな様子。息子が歓声を上げる。植木鉢びっしり芽だらけ。向日葵もまた双葉を開いていて、こちらは緑色のつるんとした葉っぱ。ネモフィラはまるで髭のような細さでまっすぐ立っている。こんな細っこい身体なのに背筋がピンと伸びているような感じ。当たり前のことだけれど、種それぞれに現れる姿もこんなに違う。あんな小さな種の中にどれほどの宇宙が秘められているんだろう。想像しながら惚れ惚れしてしまう。
 息子と朝早くから、昨夕買ってきた鰯を処理する。私が腹を切り頭を切り落として渡すと息子が腸を出す。正直、彼の手つきにはいつもひやひやする。ああもうちょっと丁寧にやって、もうちょっときれいにやさしく!と、つい口に出して言ってしまう。息子はだんだん卑屈になってしまって「どうせ僕がやるとだめなんでしょ」と言い出してしまう。私は深呼吸して改まって彼に伝える。「あのね、お魚さん生きてるでしょ?生きてたでしょ?つまりみんな命を頂くんだよね。だから、ありがとうの気持ちを込めて、やさしく丁寧にやってあげないと申し訳ないと思うんだよね?」。息子は納得したのかしてないのか、ほんのちょっとだけ指先が丁寧になって、時々、ありがとねー、と鰯に声をかけている。やっぱりちゃんと伝えないとだめなんだな、と、私は心の中反省。そうして圧力鍋に調味料やら生姜やら梅干しを加え、しっかり煮てゆく。鰯が安く手に入った時はこれに限る。何せ24尾600円。ありがたや。
 このところまたレンタル屋でDVD「弱虫ペダル」を借りてきて息子が観ている。彼は鳴子君が一番好き!と言って憚らない。時々関西弁を真似してみたりしている。私は、巻島さんの声がナルト疾風伝に出てくるシカマルの声だと気づいて以来つい巻島さんに聞き耳を立ててしまう。まぁそれだけならどうってことないのだが、息子はあの御堂筋くんの一挙手一投足が気になってしかたがないらしく、よく物真似する。今日はあの両手を曲げて機関車みたく廻しながら「きもっきもっきもっ!」と言うのをやってくれた。その大げさなアクションぶりがそっくりで、思わず大笑いしてしまう。
 犬と一緒に夕方散歩。今日はあの公園まで行ってみようかということで、ねぇねが飼っていたハムスターのお墓がある公園まで出向く。息子はそこへ行くと、お墓のある場所、今は草むらになっているのだが、そこで立ち止まっては、「花ちゃんと太郎ちゃん、空からねぇねのことちゃんと見てるかなあ?」と言う。だから私は「大丈夫、ちゃんと見ててくれてるよ」と応える。雨は相変わらず粉のように降り続いている。

 夜、家人とつい言い合いになってしまう。私の予定を無視して仕事の予定を入れていた彼に私が気づいて、これこれこうなってるけど?と訊ねたところ、そんなのしるかよ俺は仕事なんだと。その言い方にかちんとして、言い返してしまう。彼のこの、「俺は仕事なんだ」という言い方が私はとても嫌い。最近特にこの言葉を彼は使う。しかもそのタイミングが、いつだって、私の口を封じるためのタイミングで。それが不愉快。
 結局私が予定を変更することに。
 今更だけれど。男尊女卑半端ない我が家。娘がここにいなくてよかった、と、いつも思う。娘がいたら絶対、怒り狂ってる。

 ため息をつきながら横になるのはまっぴらなので、とりあえずウォークマンのスイッチを入れてボリューム大にしてヘッドフォン片方だけ耳に突っ込む。一服しながら周囲から自分を切り離す。気持ちの切り替え。
 煙草の煙が換気扇に吸い込まれてゆくのを、ぼんやり見やる。何やってんだろ、自分。そう思わないではないけれど、とにかく今は、気持ちの切り替え。嫌な気持ちを引きずりたくない。
 そうだ、自分の為だけに珈琲を淹れよう。もう真夜中だけれど。美味しい珈琲を。それが、いい。


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