ささやかな日々 / 浅岡忍

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2020年05月15日(金) 
 種を蒔いて以来、早起き息子は毎朝一番にベランダに出てゆく。種の様子を確認しないと気が済まないらしい。今日はオクラの芽が増えた、向日葵の種はぐいぐい育って葉っぱ拡げ始めた、ネモフィラの芽は糸みたに細い、などなど。彼から報告を受ける。確かに向日葵の芽は勢いが凄まじい。もうたぶん全部芽が出た。そしてどれもこれも双葉を広げている。ネモフィラの芽は息子の言うように糸のように細く、なのにクリサンセマムよりしっかり根付いている感じを受ける。種の個性なのだな。ひとつひとつ、こんなにも違う。でもどれもこれも、生命の塊。
 朝顔の芽は順調に育っている。しかし、数本、強風に折れてしまったものがいる。こればかりは仕方がない。我が家は丘の上に立っている。ゆえに風の通り道でもあるから、四六時中風が吹いている。この中のどれくらいが無事に大きく育ってくれるだろう。息子に黙ってこっそり息子のプランターに蒔いたラビアンローズもぐいぐいっと頭を持ち上げ始めた。おかげで息子のプランターは新芽で大賑わい。息子がほくほくしながら眺めている。その様子が何ともいえず微笑ましい。
 通院日。何となく昨日の実家での出来事を話してしまう。父の無謀な言いぶり、それには賛同できない私の意志表明、それに対して怒り狂う父。結局私が早めに切り上げ席を立った。「捨て台詞で終わりにするんじゃない!」と父は言ったが、捨て台詞は父の方だと私には思えて仕方がなく。実家を出てしばらく自転車で走ってから、涙がぼろぼろ零れた。
「私、おかしいでしょうか」
「おかしくないわ。あなたはあなたの気持ちをきちんと伝えただけ。それが相手の意に染まなかっただけ」
「そう、ですよね…」
「まああなたのお父様だったらそういう反応に出るでしょうね。仕方がないことよ。あなたはあなたの領域を守らないと」
「私のせいでまた怒らせてしまった」
「そうじゃないの。そうやって自分を責めても何にもならないわよ。あなたはあなたの領域を守っただけ。気持ちをきちんと伝えただけ。それを受け取って怒るかどうかはお父さんの問題なのよ」
「そうなんですか? よくわからない」
「そうなのよ」
私はまだ、自分の領域を守るだとか、気持ちを伝えることの正しさを信じることができない。特に私はそれをしちゃいけないと思い込んでいるところがある。自分をまるっきり他人として見下ろしても、「おまえにはそれは赦されない」と断罪する誰かが私の内奥に居座っている。
「あなたは自分を責めない練習をしないとね」カウンセラーがそう言ってにっこり笑う。私は俯いてしまう。

そういえば、その後だか前だかに、「あなたのボートを乗っ取ってしまう相手なのか、それともそうじゃないのか」その見分けをちゃんとできるようになりたいわね、とカウンセラーが言っていたっけ。今度その話をもう一度しないと。

帰りがけ、スーパーに立ち寄る。が、バターもなければクリームチーズも売り切れ。これじゃ明日息子と何を作ったらいいだろうと悩む。ふと思いついて寒天を手に取る。これで作れるものは…。考えながらスーパーをもう一周。

明日は雨らしい。今日の夕方の植木への水やりは、しなくていい、かな。


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