こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2009年01月31日(土) ラテン系の彼


 昨日の朝、

 
 「来月会える日をメールで送って。」


 と彼が電話で言っていたから、

 夕方スケジュールを見ながら彼にメール。

 一晩返信が無いのはいつものこと。

 翌朝になって、仕事前の彼から電話がありました。



 あの人との時は会いたいという気持ちを時には小出しにしていたけれど、

 彼との場合はそんな必要は一切無いことが分かりました。

 彼の帰国後の1週間は私達双方にとって多忙な週になりそうです。

 私の気持ちの中には帰国後出来るだけ早く一目会いたいという気持ちと

 お互い時間が十分ある時にゆっくり会いたいという気持ちがあって、

 口にするのをためらっていました。


 「本当のことを言えば…。」


 と私が欲張りな本心を伝えると、彼は何故か大受け。^^;


 「とりあえず、翌日は一緒にランチしよう。

  但しその日はランチだけ。

  後は週末ゆっくり会えばいいでしょう。」

 
 彼が笑いながら、さらりと提案してくれました。


 「はい。Tさんは大丈夫?」


 「いいよ。

  でも、ランチの日は本当にランチだけ。

  それは大丈夫だよね?(笑)」


 「もちろん、私は大丈夫ですよ。

  我慢出来ますから。(笑)」


 「我慢出来るか。(笑)」


 彼がまた大笑いします。


 「そんなに可笑しいですか?^^

  Tさんこそ私に会ったら我慢出来ないんじゃないですか〜?^^」




↑エンピツ投票ボタン 

 若い頃、スペインやキューバに住んでいたからか、

 彼の性格は普通の日本人男性とは違ってどこかラテン系で、楽天的。

 そして、彼が私に向ける欲望もまた

 降り注ぐ太陽の日差しのようにいつも明るいのでした。



2009年01月30日(金) 反省と応用


 一日彼を独り占めしていたというのに、

 いえ、独り占めしていたからこそ余計に

 次の日も彼に会いたくなってしまう…。

 しばらく会えない日が続けば

 それにもまた慣れてしまう自分がいるのに、

 今すぐに会いたいと思ってしまう自分が嫌です。



 昨夜の楽しかった記憶がまだ鮮明に残っていたけれど、

 会いたい気持ちが半分だけ見え隠れするようなメールを彼に送りました。

 しばらくして、オフィスに向かう彼から携帯に電話がありました。


 「どうしたの?」


 朝から元気な声。

 毎晩のように飲み歩いている人なのに、

 彼は寝不足や二日酔いとは一切無縁の人です。

 既に仕事モードに入っている彼に

 昨日の恋愛モードを露にすることはためらわれました。


 「ただ、会いたいと思ったから。」


 月末に二日続けて会うことなど無理だと分かっている私。

 新しい恋をしても学習出来ない幼稚な頭でそのまま口にしてしまう…。


 「嬉しいよ。」


 意外な言葉が返ってきました。

 会えない日に恋人に会いたいと言われることは

 男の人にとってはひどく面倒なことだと思っていたから。


 「ほんと?」


 「本当に決まってるだろ。^^

  でも、今日は時間がないよ。

  我慢しなさい。(笑)」


 「な〜んだ、つまんない。」


 「そりゃ、ないだろうが。

  昨日会ったでしょ。」

 
 少し憤慨して彼が言いました。

 彼が憤慨するのも無理の無い話。

 ランチも映画も露天風呂付きのホテルのお部屋も

 居酒屋さんでのお酒と楽しいお喋りも、

 昨日の楽しい一日は全て彼がセッティングしてくれたものだから。



 昨日は一緒にいる時間が長かった分、

 デート費用もいつもよりかかっているはずでした。

 たとえ彼が経営者で私よりずっと年上だとしても、

 何もかも支払ってもらうことは気が引けることでした。



 夕食のお会計の時に、

 
 「今日は映画代も払って頂いちゃったし…。」


 と私がお財布を取り出すと、




↑エンピツ投票ボタン
 多分、どんな形であれ、

 私がデート費用の一部を負担することを彼は望まないでしょう。

 私は日頃は感謝の気持ちと言葉を忘れずに、

 何か特別な日にプレゼントという形でお返しすべきなのだと思いました。




 「昨夜、あれから映画の夢を見た?^^」


 電話で彼が尋ねました。

 昨日二人で観た007の最新作があまりに面白かったから、

 今夜は007の夢が見たいねと二人で話していたのでした。


 「それが、ちっとも。

  Tさんは?」


 「俺は勿論、いつものように爆睡。(笑)」


 話しているうちに彼がオフィスに着いたので、

 私はそれ以上我侭は言わず、自分から電話を切りました。

 会いたいという気持ちを伝えるだけなら

 彼は喜んでくれるということが分かりました。

 でも、会えなくてもそれ以上の我侭は言わない…

 一つ前の恋の反省を私はどれだけこの恋に生かせるでしょうか。



2009年01月29日(木) 会えない期間


 来月は彼の海外旅行と私の仕事のスケジュールの都合で、

 2週間ほど会えない日が続きます。

 今までで一番会えなかった期間が10日間なので、

 2週間は最長ということになります。



 久しぶりにシアターで映画を観た後、

 居酒屋さんのカウンターで来月の話をしました。


 「2週間会えないと寂しいなぁ。」


 「I miss you.」


 私の言葉に彼は茶化すように言いました。


 「たまには思い出してね。^^」




↑エンピツ投票ボタン
 彼らしくない言葉に驚いて彼の目を見たら、

 真面目な表情で私を見ていました。


 「お土産買って来るよ。^^」


 その時彼には言わなかったけれど、

 お土産そのものよりも、

 遠い南国の空の下でお土産を選ぶ時に私のことを思い出してくれる、

 そのことが何より嬉しいと思いました。



 家へ帰ってからメールをすると、彼から電話がありました。

 彼は旅行の前後に私に会えるようにスケジュールを調整すると

 言ってくれました。

 ゴルフでいっぱい日に焼けて帰って来ると嬉しそうに言っていた彼。

 帰って来たら楽しい話が沢山聞けそうです。



2009年01月25日(日) ずっとこのままで


 彼と会わない時間はお互いほとんどコンタクトを取りません。

 基本的に私達の間をメールが往復するのは、

 会う前に時間や場所を決める時だけ。




↑エンピツ投票ボタン
 彼は付き合い始めの頃から、メールは誤解を生みやすいし、

 頻繁にメールでやり取りしていると

 会った時に話すことが無くなってつまらなくなると言っていました。

 初めてそう言われた時はあまりピンと来なかったけれど、

 今では私も会えない時間はお互い距離を置いて過ごす方が、

 会った時に新鮮な気持ちで過ごすことが出来る気がするのです。



 先週は二度彼に会いました。

 最近では週に二度も会えるのは久しぶりでした。


 三日と置かずに会った週末のデートでも

 私達は飽くこと無く抱き合い、語り合い、

 あっという間に楽しい時間は過ぎていきました。


 12時近くなってお店を出た私達は、

 彼の携帯電話のスケジュールを見ながら次のデートの約束をしました。

 美味しいお酒と食事のお礼を言ってタクシーに乗り込んだ私。

 窓越しにお互い見つめ合い、手を振って、数分間の挨拶。

 またすぐに会えるから、さっぱりと笑顔で別れられる…

 こんな関係がいつまでもずっと続きますように。



2009年01月20日(火) 会いたい気持ち


 ルナが遅れて彼と会う約束の日にぶつかりそうだったので、

 その前に会いたくて彼にメールをしました。

 会えば必ず抱き合いたいと思う私達にとって、

 抱き合えないデートはとてももどかしいものだから。

 彼からすぐに返信があって、電話で話をすることに。


 「今日は早朝から事務所に出ていて、一日仕事が終わりそうにないんだ。

  今夜遅い時間は会えないだろう?」


 「やっぱり、今のままの日時にしておきましょうか。

  映画は観られるし。^^」


 「そりゃ、映画は観られるさ。

  金曜日はどうなの?」




↑エンピツ投票ボタン
 彼が疲れているだろうと思い、

 私は初めからその日は無理だろうと思っていました。

 電話での数分の会話だけで、彼が私に会いたいと思ってくれていること、

 そして求められていることが伝わって来ました。


 「金曜日は金曜日で、今はまだ予想がつかないし…。^^;」


 「それは俺にはもっと予想出来ないことだよ。(笑)」


 彼が電話の向こうで大きく笑うのが聞こえました。


 「まぁ、始まらないことを祈ってます。^^」


 「そう祈ってて。(笑)」


 「お仕事頑張って下さいね。^^」


 「お互いにな。^^」



 電話を切った後、心の中に温かいものが流れました。

 大らかで飾り気のない彼の声を聞いたからでしょうか。

 彼は電話で会いたいとも抱きたいとも言わなかったけれど、

 その気持ちを示すような提案をしてくれたからだと思います。



 恋愛初期において、

 心を通い合わせることはどうしてこんなにも容易いのでしょうか。

 自分が会いたいと望み、

 相手も自分に会いたがっていることを感じる…

 ただそれだけで幸せな気持ちになれるこの輝く季節のためだけに、

 人は恋をすることを捨てられないのかもしれないと思いました。


 恋はいつか必ず眠れない夜や切ない胸の疼きを運んで来るということを、

 幾つ恋を重ねても人は忘れてしまうのでしょうね。



2009年01月19日(月) 手相


 「私、酔ってきたみたい。

  手が赤いもの。ほら。」


 居酒屋のカウンターの左隣に座る彼に両方の手の甲を見せました。


 「飲み過ぎたんだろ。」


 その日の私はいつもよりも1杯多くお酒を飲んでいて、

 彼はそのことに気づいていたようです。


 「どんな手相してる?」


 今度は彼が両方の手の平を私に見せました。

 私も左右の手の平を彼の前に広げました。


 「俺達の手相、似てるなぁ。^^」


 彼が言うように、私達の左手の手相は本当によく似ていました。


 「占いとか信じる方じゃないんだけど…」


 と彼は以前知り合いの占い師に初めて手相を見てもらった時のことを

 話し始めました。


 「こっちは自分の情報は何も与えていないのにさ…。

  守られているって言うんだよね。俺は。

  ほら、この線…。」


 彼が左の手の平の中央に長く伸びる線を指して言いました。


 「これに一生守られているから安心なんだって。」


 「お母さん?」


 「だろうね。」

 
 彼が小学校に入学する前に病気で亡くなった彼の母親のことは

 今までに何度か聞いていました。


 「良かったね。

  お母さんはずっとあなたのことが気になっているはずだから。

  天国でもあなたのことが気になって仕方が無いはずだから、

  いつまでもずっと見守ってくれていると思います。」


 彼と目が合って、ほんのしばらくの間見つめ合いました。




↑エンピツ投票ボタン
 「今日は泣かないですよ。」


 「当たり前だ。(笑)」


 彼は今まで自分の生い立ちの話を何人の女性にしたのでしょうか。

 大人になってから味わう孤独なら

 大人の賢さで対処することが出来るけれど、

 子供の頃に味わった本当の寂しさは

 いつまでも心の奥に染み付いて消えないと思うのでした。



2009年01月18日(日) 言葉


 女という生き物は言葉を欲しがるものです。

 でも、あの人と色々なことがあってから、

 言葉を欲しがるのはもう止めようと思いました。

 たとえ恋人からとびきり甘い言葉を引き出したとしても、

 それらの言葉は移ろいやすく、

 いずれ心から離れて独り歩きしてしまうものだから。

 それに男性から自分にとって嬉しい言葉を引き出そうとする

 その女の行為自体、男性にとってはげんなりさせられるものなのです。



 その日、彼と私は居酒屋さんで飲んでいました。

 彼は焼き魚の一番美味しい部分を骨からはがして私に勧めてくれたり、

 私のグラスが空くとすぐに

 私がその時飲みたいと思っているものを注文してくれたり、

 いつもと同じ優しさを見せていました。

 そして、そんな彼の紳士的な振る舞いとは対照的に、

 彼の口からポンポンと発せられる自由奔放な言葉は

 時々私の胸にズキンと来るのでした。

 彼は女友達が多いから、常連であるお店のご主人との会話の中には

 私が知らない女性の名前も数人登場していました。

 彼は初めて私に打ち明けた時以来、

 元カノや今まで付き合った女性の話は自分からしようとはしないので、

 話に出てくる女性達はただの友達や仕事関係者なのでしょう。



 お店では笑って聞き流していた彼の話が

 別れてから急に気になりだしました。

 半ば酔った頭で私は彼にメールしました。


  私が焼餅を焼くようになったら鬱陶しいですよね〜?


 私のメールの内容には触れず、彼から返信がありました。


  今日は楽しかったです。

  早く次に会いたいねぇ。^^



 翌日のメールのやり取りでは、

 焼餅の件に関しては私の考え過ぎと言われました。

 付き合って下さいという言葉も無しに何となく始まった私達。

 Tさんにとって私はどんな存在なのかメールの中で尋ねました。




↑エンピツ投票ボタン
 彼はそのメールを最後にしてそのまま眠ってしまったようです。

 とびきり寝つきの良い彼に、

 恐らく翌朝読むであろうメールを送りました。

 ありがとうとごめんなさい半分ずつの気持ちをこめて。



2009年01月11日(日) 情と愛情


 あの人と繋がっていたいと思う気持ちは

 彼に会いたいと思う気持ちよりも強いのです。

 多分彼から一週間何の連絡が無くても私は平静でいられると思うのです。

 それに比べて、

 あの人とのメールや電話が途絶えてしまったら、

 私はきっと居ても立っても居られないでしょう。

 どうしてなのか、その理由は自分でも分かりません。

 彼は放っておけるけれど、あの人のことは心配なのかもしれません。

 そんな気持ちをあの人に伝えたら、




↑エンピツ投票ボタン
 あの人は私から解放されたいと強く思っているに違いないのに…。



 あの人は私の心のよりどころでした。

 叶わなかったけれど、

 私もあの人の心のよりどころになりたかったのです。

 7年も付き合っていて一度もそんな存在になることは出来なかったけど。



 あの人への気持ちが愛情ではなく単に情に過ぎないとしても、

 その感情を超えた強い気持ちで誰かを愛することは

 もう二度とないような気がするのです。



2009年01月09日(金) 今年初めての


 今年初めて彼に会いました。

 年末に会ってから10日ぶりです。

 彼と付き合い始めてから、

 こんなにインターバルが長かったのは初めてのことでした。



 以前彼が話してくれた、おでんと串焼きのお店に行きました。

 お店に着くと個室のテーブル席に案内されました。

 時々仲居さんがオーダーを取りに来るだけで、あとは二人きり。

 ラストオーダーの時間になるまで、

 飲んで、食べて、お喋りして過ごしました。



 今年初めてのデートには特別なことがありました。




↑エンピツ投票ボタン

 家に帰ってからメールがしたいなと思っていたら、

 彼からおやすみメールが着信しました。

 最近では珍しいことです。


  今日も楽しく素敵に過ごせましたね。

  ありがとう。^^

  
 彼と同じ時間を同じ気持ちで過ごせたということが嬉しくて、

 優しい気持ちで眠りにつきました。



2009年01月06日(火) 久しぶりの電話


 午前中、彼からメールがあり、

 時間がある時に電話が欲しいという内容だったので、

 お昼休みに電話をしました。


 「久しぶり、お正月はどうだった?^^」


 彼の声を聞いたのは一週間ぶりです。


 「おせち料理を食べたり、初売りへ行ったり、

  のんびり過ごしていました。

  Tさんは?^^」


 「俺はずっと仕事だったよ。」


 「お疲れ様です。^^」


 「今度いつ会えるだろうか?」


 お互いが会えそうな日時を調整しました。




↑エンピツ投票ボタン
 「俺もだよ。」


 と言う言葉が返ってきました。



 ただ、それだけのことなのに、

 とても幸せな気持ちになりました。



2009年01月04日(日) 思いがけない訪問者


 先日、この日記に思いがけない訪問者がありました。




↑エンピツ投票ボタン
 あの人にこの日記がリアルかどうか聞かれました。

 私は全部がリアルではないと答えました。

 これはリアルと非リアルを織り交ぜたネット上のラブストーリーだと。



 私はあの人と見知らぬ女性のリアルではない関係に

 長いこと苦しみました。

 私が泣いていた時、あの人はこう言いました。


 「君には何の実害も無いのに、どうして嫌がるの?」と。


 あの時、私は即座に答えられなかったけれど、今ならこう答えます。

 
 「あなたと見知らぬ女性のネット上での擬似恋愛を見る度に、

  あなたが私との関係に満ち足りていないという本音を

  突きつけられるから…。」と。


 「ネット上であなたが誰かを情熱的に口説いていれば、

  否が応でもそれを私に対するクールな対応と比べてしまう。」と。



 あの人はこの日記を読んで、

 『彼』について書かれた文章全てを自分に対する不満のように

 感じたそうです。

 比べられているような気がするとも言っていました。

 それは私の感情も同じでした。

 ネット上だからこそ、

 余計に傷つくということもあるのではないでしょうか。

 私はあの人と私の見知らぬ女性が取り交わした

 文字や画像に傷つきました。

 恋愛における一番の悲しみは相手が自分に向ける無関心です。

 相手の関心が強く他の女性に向けられている、それがリアルな相手なら

 そのうち飽きたり、失望したりすれば私のところに戻ってくるでしょう。

 でも、その相手がリアルでなかったら、

 たとえ実在していたとしても

 相手があの人の中で作り上げた偶像だったら、

 私は永遠にそのイメージにはかないっこないのです。



 私にとって文字や画像はただそれだけのものでしかありません。

 多少なりとも私自身を映し出しているものではあるでしょう。

 でも実像か虚像かと聞かれれば、それは明らかに虚像なのです。



 ジェラシーとは英語では醜い負の感情を意味します。

 でも、本当のジェラシーの苦しみはパートナーの気持ちが向いている

 相手に対する感情ではありません。

 それはパートナーの気持ちを惹きつけられない自分自身への自己嫌悪、

 自分自身を強く責める気持ちなのです。



 あの人がここを訪問してくれたことに、

 私は不謹慎ながら喜びを感じていました。

 少なくともこの場所を探している時だけは

 あの人の関心は私にあったと思えるからです。

 あの人の私に対する関心は

 もうずっと前に失われていたと思っていたから…。



2009年01月01日(木) 師走の冷たい街で


 仕事帰りに彼と待ち合わせをしました。

 その日は夜から冷え込むという予報が出ていたにもかからわず、

 私はハイヒールを履いて家を出ました。



 彼の車から降りると、夜の街を歩くための道路は凍結し始めていました。

 道路の向こう側に渡る時、彼は私の左手をサッと握りました。



 その日、私は深みのあるグリーンのシルクのブラウスを着ていました。

 レストランでコートを脱いで席に着くなり、


  「素敵な服を着てるね。」


 と彼が褒めてくれました。

 この頃、私はまだ時々あの人に会っていました。

 あの人の心は完全に私から離れていたけれど、

 私の心の中ではまだどこかで繋がっていたいという感情がありました。

 それは愛情というよりも、むしろ依存に近いものでした。

 けれど、あの人との縁が完全に途絶えてしまったら、

 彼との関係を含め、全てを見失ってしまうような気がしていました。

 彼との関係はいつでも不安定になりうるものだったので、

 お互いに不信感を抱きながらも、ある意味全ての障害を乗り越えて来た

 あの人との繋がりが私には必要だったのかもしれません。



 この日の彼はいつになく優しく、温かでした。

 たとえそれが一時のものにしろ、

 今彼が恋をしているのはこの私だと確信出来るのでした。

 私は親に深く愛されたという思いがないため、

 相手に強く求められているという実感がないと

 堂々と前を向くことが出来ないのでした。



 お店を出ると、外の空気は冷たく思わず身体が震えるほどでした。

 彼は自分のマフラーを私の首に巻きつけ、

 私の左手を自分のカシミアのコートのポケットに入れました。



 彼といてもあの人のことをどうしても思い出してしまう日があります。

 あの人と完全に縁を切ってみたところで、

 その苦しみからは解放されないような気がしていました。



 そんな日は彼が優しければ優しいほど、

 私はあの人のことを思い出してしまい、

 いつか彼の私に対する気持ちも

 冷たくて無表情なものに変わり果ててしまうと思うと、

 あまりに悲しくて涙がこぼれてしまうのでした。



 ホテルの部屋で彼は服を着たまま私を抱きしめました。

 私が彼の前で泣きそうになっている時、

 彼は欲望を抑えて、穏やかに静かに私を抱きしめるのでした。





↑エンピツ投票ボタン
 その行為が愛情なのか、ただの欲望なのか、

 その時の私には知る由もありませんでした。


 < 過去  INDEX  未来 >


理沙子

My追加