こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2008年12月31日(水) ジェラシー


 その日、彼は私と夕方別れた後、忘年会に出る予定になっていました。

 私達はお昼過ぎに待ち合わせをして、

 中国料理の美味しいお店へランチに行きました。

 私達は食事をしながら、新年の予定について話をしました。

 彼は来年の3月に沖縄に行くかもしれないという話をしました。


 「来年どこか海外に行くという話もしてませんでしたっけ?」


 「それはタイの話でしょ。

  両方行くかもしれないし、いずれにしてもまだはっきりしていない。

  今夜一緒に行く人と会うから話をするんだ。」


 「沖縄はお仕事で行かれるんですか?」


 「いや、ゴルフだよ。」


 「何人で行くんですか?」


 「二人で。」


 その時の彼はどこか私の質問に答えることを避けているかのように

 見えました。



 ホテルで抱き合った後、彼が借りて来た映画を観ました。

 私の頭の中で昼間食事をした時の会話が引っかかっていました。

 漠然としたジェラシーが心の中に広がって、

 映画に集中出来ませんでした。

 彼が沖縄に一緒に行く相手は誰なのかな…。

 もしかしたら、それは女性で今夜彼女と二人で会うのかもしれない…。 

 聞きたいけれど怖くて聞けない自分がいました。

 彼の横顔を覗いてみました。

 彼は私との時間を楽しんでいるのでしょうか。

 彼の表情から気持ちを読み取ろうとしたけれど、それは無理でした。



 映画も終わる時間が近づいた頃、思い切って彼に聞いてみました。


 「今夜、女の人に会うんですか?」


 「ええ〜!?」


 彼が素っ頓狂な声を上げました。


 「今夜、女の人に会うの?」


 初めはためらわれた言葉も今度ははっきりと口にすることが出来ました。




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 「あはは、そうだったんですね。」


 「そうだよ。店のオーナーの仲間で忘年会するんだよ。」


 彼はそう言うと携帯電話を開いて、

 仲間の一人からのメールを見せてくれました。

 そこにはその日の忘年会の場所や時間が書かれていました。


 「最後までちゃんとよく読んで。」


 半ば呆れつつ彼が言いました。

 
 「この人と沖縄に行くんですか?」


 「いや、これは今夜の幹事。

  沖縄行くのは今夜来るもう一人の奴。」


 「あはは、そういうことね。な〜んだ。」

 
 我ながら馬鹿みたいだと思いました。

 私は自分が好きな人はとてもモテる人だと勘違いしやすいようです。

 
 「この店、今日初めて行くんだけど、

  いいお店だったら今度連れて行くよ。

  おでんと串焼きの店なんだ。」


 「ほんとですか。

  おでんと串焼き、いいですね〜。」


 ちゃんと聞いておいて良かったと思いました。

 聞かずに家に帰っていれば、

 ずっと心の中のモヤモヤが消えなかったに違いありません。



 そんな話をしているうちに、

 映画のスクリーンは最後のシーンを映し出していました。

 そして、映画のエンディングロールが終わるか終わらないうちに、

 巻いていたバスタオルは彼の手で剥がされ、

 敏感な部分をもう一度愛撫されて、

 眠っていた私の身体は再び目覚めさせられたのでした。



2008年12月29日(月) 一足早い誕生日


 その日は朝から雪が降っていました。

 お昼休みに会う約束をしていたので用意をしていると、

 彼から電話がありました。


  「雪がひどくなってきたから、近くまで車で行くよ。

   外歩くの寒いだろ。

   そっちに着いたら電話するから、それから出ておいで。」



 彼の車に乗り込むと、彼はすぐに言いました。


  「さて、デパート行こうか?」

 
  「えっ?」


  「プレゼント買うから。」


  「私が選ぶんですか?」


  「俺は女の人の物なんて分からないし…。^^」


 誕生日のお祝いをしてくれるという話は聞いていたけれど、

 私がプレゼントを選ぶということを想定していなかったので、

 すぐには何も思いつきませんでした。



 年末のお昼時ということで、

 デパートの駐車場はどこも混んでいました。

 お互い仕事のお昼休みを抜けて出て来ているので、

 あまりゆっくりしている時間はありません。

 信号が赤に変わった時、彼が思いついたように私に聞きました。


 「何が欲しい?」


 「お財布かな。」


 「今持ってる財布、ちょっと見せて。」


 彼は私の黒のバーバリーのお財布を手に取りました。

 
 「これ、いいじゃない。」


 「うん、これも気に入ってるんですけど、

  バッグとお揃いのブランドのものが欲しいと思ってたから。」



 彼は何も言わずに車を走らせました。

 そして、ファッションビルの近くに車を止めると、


 「ちょっと、ここで待ってて。

  携帯に電話したらすぐに出るんだよ。」


 と言い残して車を出て行きました。



 しばらくすると、携帯電話に彼から着信がありました。


 「色は何がいい?」


 笑いながら彼が聞きました。

 近くで店員さんらしき人の声が聞こえます。


 「今どこにいるんですか?」


 彼は既に私が欲しいと告げたブランドのお店にいました。

 彼はお店の場所を知っていて、すぐ近くに車を止めたのでした。


 「今から色を言うから、その中から選んで。」


 彼は5色のカラーセレクションを私に言いました。


 「やっぱり見てみないと選べないです。^^;;」


 「わがままなお嬢さんだなぁ。^^

  じゃあ、代わるからちょっと待ってて。」


 彼はそう言うと、私の返事を待たずにすぐに電話を切りました。

 間もなくして、彼は車に戻って来ました。


 「そこのビルの入り口を入るとすぐだから、行って選んでおいで。

  支払いは済ませてあるから。」


 いつものことだけれど、彼の手際の良さに驚きました。



 綺麗にラッピングされたプレゼントを持って車に戻りました。


 「ありがとうございます。」


 運転席の彼を見て言いました。

 彼が黙っていたので、言葉を続けました。


 「こんなに高価なもの頂いてしまって、ごめんなさい。」




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 車のウインドウから外を見ると、

 降りしきっていた雪はもう止んでいました。

 クリスマス色に飾られた華やかな街を見ながら、

 彼とこの季節を過ごせることがとても幸せだと思いました。



2008年12月25日(木) 射手座の二人


 彼の誕生日から2週間もしないうちに

 今度は私の誕生日になりました。

 私達は同じ射手座なのです。



 誕生日の前々日の夜、

 私達はホテルで抱き合った後に食事に行きました。

 彼は大好きな赤ワインを飲んで上機嫌ながらも、

 眠い眠いを連発していました。

 
 「疲れたんじゃないですか〜?」


 「俺は疲れてない。眠いだけ。」

 
 こういう時の彼は何故かちょっとムキになっています。


 「そっか。私は疲れました。(笑)」


 「あのね〜。何か他に言うことないの?」


 どうやら彼はSexの後には「疲れた。」ではなく、

 「気持ち良かった。」と言って欲しいようです。

 でも、場所が場所ですからね。^^;


 「誕生日いつだっけ?」


 「あさってですよ。」


 「お祝いして欲しい?」


 「それは、して頂けるなら。^^」


 「誕生日がそんなにめでたい歳でもないだろうが。(笑)」

 
 「あっ、ひどい。(笑)」


 「明日は空いてるの?」


 「う〜ん、多分空けられると思います。」


 「じゃあ、あまり時間は無いけど明日会おう。」




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 少なくとも会っている時、

 彼は女性をイライラさせるようなことは一切しない人です。



 この日もまるで特別な日のように

 沢山美味しいお料理とワインをご馳走して頂いたので、

 それ以上お祝いして頂くのは贅沢のような気がしました。

 でも、彼が二日も続けて私に会いたいと思ってくれていること、

 この時期多忙な彼が私のために

 出来るだけ時間を作ってくれるということが

 私にとっては何よりのプレゼントでした。



2008年12月21日(日) 彼の誕生日


 11月末に彼の誕生日がありました。

 いつも色々ご馳走して頂いている御礼の意味もこめて、

 私は彼にプレゼントを用意していました。



 プレゼントを渡す予定だったその日、

 彼は朝から事務所で仕事をしていました。

 彼にとってかなり忙しい時期で、

 私は彼からの連絡を待っていました。

 お昼過ぎから会う約束をしていたのだけれど、

 12時半頃になって、

 どうしても仕事を抜け出せないと彼からメールがありました。



 私は彼の携帯に時間が空いたら電話を下さいとメッセージを残しました。

 間もなくして彼から電話がありました。


 「今、部下を会議に送って一人になったところだよ。」


 「渡したいものがあるんですけど、少しだけでも時間が取れませんか?」


 「もしかして…誕生日の?」


 「はい、そうなんです。^^」


 「可愛いね〜。^^」


 仕事モードだった彼の声が急に柔らかくなりました。


 「Tさんの顔を思い浮かべながら選んだんですよ〜。^^」


 「俺だって会いたくないわけじゃないんだよ。

  でも、あまり時間が無いし6時には事務所に戻らなきゃいけない。

  それでもいい?」



 結局、電話の後、彼に会えることになりました。

 短い時間だったけれど、彼の車でラブホへ。

 お部屋でプレゼントのマフラーとカードを渡しました。




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 それから、プレゼントの包みを開けると

 マフラーを首に当てて見せました。


 「思ったとおり、Tさんによく似合う。^^」


 「今度着けて来るよ。^^

  ありがとう。」


 彼は私を抱き寄せると優しいキスをしました。



 それから、私は羽織ったばかりのバスローブを脱がされ、

 束の間、上司の顔から愛しい恋人の顔に戻った彼に愛されました。



 帰り際、

 ベッドサイドに座り、今度のデートについてお喋りしていました。

 彼は急に私を膝の上に乗せると、後ろから抱きしめて言いました。


 「今日はありがとう。^^」


 喜んでくれている彼を見て、私も幸せな気分になりました。



2008年12月20日(土) 窓の外の雪を眺めながら


 日記の方がリアルな時間より遅れているので、

 年末までには追いつくように急ぎ足で綴っていきます。^^



 仕事の後に彼と待ち合わせ。

 会うなり、何が食べたい?と聞かれました。

 車の中で彼とあれこれ相談。

 デートで何を食べるか決めることはとっても楽しいことです。



 食事の時間にはまだ少し早いということで

 いつものラブホへ向かいました。

 二人別々にシャワーを浴びてベッドの中に入ると、

 彼が携帯から、二人で選んだお店に電話を入れてくれました。

 彼が連れて行ってくれるようなお店はどこも、

 週末は予約無しではとても入れないからです。

 
 「8時でいい?」


 彼が隣にいる私に尋ねます。

 
 「うん。」


 一応答えたけれど、時間のことはいつも用意周到な彼にお任せです。

 彼が私にこういう質問をするのは、




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 彼と抱き会った後、

 しばらく彼の腕の中で眠ってしまいました。

 
 「もう少しこうしていたいなぁ。」


 「それじゃ、もっと予約の時間を遅くしておけば良かっただろうに。」


 「う〜ん、でもお腹空いた!」


 「用意して来なさい。^^」


 「は〜い♪」



 その日彼が予約してくれたお店は、

 彼が二度目のデートの時に連れて行ってくれた、

 和食がとっても美味しい大好きなお店です。

 この日は私のリクエストを聞いてもらってテーブル席に案内されました。



 その席は奥まったところにあって、

 隣のテーブルの接待風のビジネスマンの二人が帰ってしまうと、

 私達だけの個室のような感じになりました。

 いつも明るく陽気な彼ですが、お酒が入ると更に饒舌になります。

 美味しいワインとお料理を頂きながら楽しくお喋りしていると、

 あっという間に時間が過ぎていきます。

 彼の冗談がおかしくて私が声を上げて笑っていたら、


 「どうしてそんな風に笑うの?

  少女みたいな笑い方するよね。」


 と彼が言いました。


 「好きですか?^^」


 「好き。^^」


 「じゃあ、ここでキスして。」


 「それは、駄目!!!」



 それとなく窓の外を眺めると、雪が舞っていました。

 昼間の暖かさが嘘のようです。


 「こんな風に雪が降りて来るのを見るのって好き。」


 彼が言いました。


 「私も…。」


 その時、目の前にいる彼の表情も好きだと心の中で思いました。



 気がつかないうちにワインを沢山飲んでいたのか、

 お店を出る時には少しだけフラフラしていました。

 彼と付き合うようになって以前よりはワインに強くなった私。

 それでも彼のペースに合わせて飲むと後で大変なことになります。



 ビルのエレベーターに乗ると、彼が私の手を握りました。

 エレベーターの中は私達二人きりでした。

 私達はキスをしました。

 雪が溶けるほどの熱いキスでした。



2008年12月19日(金) 心境の変化


 彼が怒ったのはあの時一度だけだったけれど、

 あれから私は気持ちが吹っ切れて、

 以前より前向きに彼と付き合えるようになりました。

 あの人と違うのは彼はとても正直だということ。

 あの人は口では優しいことを言いながら

 行動が言葉を裏切っていたことが何度もありました。

 彼は口も悪いし、私をおちょくることもしょっちゅうだけれど、

 私と一緒にいる時、

 彼のどの動作1つとっても包容力があり温かいのでした。

 そして彼はあの人と全く違っていたから

 次第に二人を比べることはなくなり、

 私の心の中にはあの人ではなく彼が住むようになりました。



 彼とは映画の趣味も似通っていたので、

 抱き合った後に一緒に映画を観ることもよくありました。

 彼から借りたままになっていたキューバのジャズの映画を

 ホテルの大きなスクリーンで彼の腕の中で観ました。

 彼は仕事でキューバに数年住んでいたことがあって、

 映画を観ながらその当時の話を色々聞かせてくれました。




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 彼と激しく抱き合った後に、

 彼に優しく触れたり、触れられたりしながら、

 ゆったりとお喋りをするのはSexそのものよりも素敵なことでした。



 彼とのお付き合いに本気になるのはやめようと

 ずっと自分に言い聞かせていたけれど、

 そんなことはどうでもいいように思えてきました。

 彼と私の想いは今のところ同じ。

 一緒に食事したり、映画を観たり、お喋りする時間がとても楽しいし、

 会えばいつでもお互いが抱き合いたいと望む関係。

 これ以上何を望むことがあるでしょう。

 あの人の気持ちが掴めなくて常にビクビクしていた半年前の私。

 あの人の言葉からしか愛情を推し量ることが出来なかったあの頃。

 今の彼は私を欲張りにも欲求不満にもさせない人。

 あの時期に彼に出会えたことは私にとって幸運でした。



2008年12月16日(火) 冷たい関係


 彼は自分のことを冷たい人間だと言います。

 彼は小学校に入る前に病気で母親を亡くしました。

 それからまもなくして、彼の父親は新しい母親を迎え、

 二人の間には弟が生まれました。

 彼が常に周囲の人にさりげなく気を使うことが出来るのは、

 そうすれば新しい家族に嫌われないという

 子供ながらの防衛本能から自然に身に付いたものなのでしょう。

 どちらかと言えば神経質に見えて、人に敬遠されがちなあの人に比べ、

 彼は本人の意識とは別に、親しみやすい人柄に見られるのでした。



 彼がこんな話をしたことがありました。

 誰かを特別に一番愛するという基準が自分にはないと。

 もし自分の親しい女性が数人海で溺れていたとしたら、

 何としてでも誰かを一番先に助けるという意識がないと言うのです。

 それはある意味、自分を一番に愛してくれる女性に対して

 冷たい人間なのだと彼は言いました。

 子供にとって絶対的愛情の象徴である母親を

 幼くして失ってしまったからなのかもしれません。

 彼は自分の客観的で冷たい部分が嫌いだとも話していました。



 あの頃は週に2回のペースで彼と会っていました。

 でも彼との関係が深くなっていくという感覚は全くありませんでした。

 彼はいつも笑顔で優しいけれど、

 それは彼が身に付けたマナーのようなもので、

 愛とは隔離したもののように思えるのでした。



 ホテルで抱き合った後に、

 お寿司屋さんへ連れて行ってくれたことがありました。

 彼のボトルがキープされていたことから、

 彼が何度も足を運んだことのあるお店だということが分かりました。

 私達がカウンターに座った時の板前さんの表情からも

 かつて彼がよく連れて来ていた女性がいたことが読み取れました。

 彼にとって自分が特別な存在でないということは自覚していたけれど、

 それは周囲の目から見ても明らかなように思えました。



 マンションで一人になってから、急に寂しい気持ちに駆られました。

 翌日彼は他の女性とゴルフに出かけることになっていました。




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 その時は特に気に留めてもいなかったのに、

 彼と別れてから急に気になりだしたのかもしれません。



 翌日の午前中、私は彼にメールをしました。


  今日も会えますか?


 メールの彼女との約束が本当にゴルフだけだったら、

 ゴルフが終わり次第、彼に会えると思ったからです。



 彼のメールの返事はOKでした。

 私達は3時に街中で会うことにしました。

 待ち合わせ場所の近くまで来たら彼から連絡をすると言ってくれました。



 3時近くになっても彼からの連絡はありませんでした。

 私は色々なことを想像しました。

 そして、彼にメールしました。

 
  今日はもう時間が遅くなってしまったので、

  会うのはやめにしませんか?


 それから間もなくして、彼から電話がありました。

 彼はまだ、私のメールを読んでいませんでした。


 「メール送ったんですけど、読んでないですか?」


 「いや、運転してたから読んでない。」


 「今日は時間があまりなくなっちゃったから、

  会うのやめませんかっていうメールだったんです。」


 「そうだね。そうしよう。また今度時間がある時にゆっくり会おう。」



 電話を切った後、変な胸騒ぎを覚えました。

 あの後、彼はまた彼女と合流して会っているのかもしれないとか、

 二人でその後ホテルに行ったのだろうか…とか。



 だとしたら、彼ともう電話は繋がらないはず…。

 そう思ってまた彼に電話をしました。

 私の予想が外れて、彼はすぐ電話に出ました。

 
 「ごめんなさい、また電話しちゃって。」


 「どうしたの?」


 「私、もう会わない。」


 「会わないって?」


 「今日だけじゃなくて、もう会いません。」


 「それってどういうこと?

  今俺、めちゃくちゃムカついてるんだけど?」


 「割り切った関係なんて私には無理だし…。」


 「今日も会いたいってメールくれたのはそっちでしょ?

  そうしたら急に今日は会うのよそうってメールが来て…。

  しまいにはもう会わないって、どう考えてもおかしいでしょ。」


 「ごめんなさい…。

  ゴルフで一緒だった彼女はどうしたんですか?」


 「もう降ろしたよ。送ってった。」


 「本当ですか…。」


 「そういうの、俺面倒くさいんだよ。

  何にも無いって言ったって、

  信じてくれなきゃ説明のしようが無いし。」


 「やっぱり、今日会いませんか?」


 「今日はやめよう。こんな気分で会ったっていいこと無いし。」


 「そうですね。私も自分で考えてみます。」



 電話を切った後、冷静になって考えてみました。

 1つ分かったことは、彼は最初から何も嘘をついていないということ。

 彼は私に愛を誓ったことなど一度も無くて、

 お互いに楽しめればそれでいいと私も納得しているはずだったのに…。

 私が彼と付き合い始めたのは、あの人を忘れるため。

 それならば、

 あの人との関係は徐々にただの友達関係に移行しつつあり、

 目的は達成されようとしています。



 気持ちが落ち着くにつれて、

 自分が一人で抱いていた彼への不信感が馬鹿らしくなってきました。

 恋愛なんて面倒だ、きっと彼も同じ気持ちなんだろう…と

 心の中で呟きました。



2008年12月15日(月) 抱かれない日


 その日、私は仕事の研修のための打ち合わせがありました。

 彼はオフィスで待っていてくれているものと思い、

 私は途中で電話やメールで連絡をしませんでした。

 ところが、彼は既にオフィスを出て立体駐車場に車を止めて、

 私を待っていました。

 待ち切れずに彼が送信したメールを受け取った時、

 前日に私が打ち合わせが終わると告げていた時間よりも

 1時間が経過していました。

 彼を1時間も車の中で待たせてしまったのです。



 私が駐車場に着いた時、彼は明らかに不機嫌でした。

 とりあえず助手席に乗り込んで、彼に何度も謝りました。

 それでも彼はご機嫌ななめだったので、彼の頬にそっとキスをしました。

 彼はその日のディナーのために

 素敵なイタリアンのレストランを予約してくれていたのです。

 彼にはもう1つ謝らなければいけないことがありました。




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 彼のご機嫌がますます悪くなる前に、

 私達は気分を変えて美味しいものを食べることにしました。



 車を駐車場に置いて、彼はタクシーを拾いました。

 後部座席に二人で座りました。

 彼は運転手さんに行き先を告げると、

 私の左手をギュッと握り締めました。



 そのレストランはオープンしたばかりで、

 シックな店内には沢山のお花が飾られていました。

 そのお店で働いてる30代の女性は

 以前私達が初めてデートしたお店で働いていた人でした。

 私達はカウンターの端っこに座りました。

 1時間も待たされた挙句、その夜は私を抱けないと知らされて、

 彼はちょっぴり意地悪モードでした。

 あまり意地悪を言われると悲しくなってくるけれど、

 それだけ求められていると思えば、女としては本望なのかもしれません。
 

 「今日はやけに毒舌ですね〜。

  何かあったんですか?^^」


 いつになく口の悪い彼に、お店の女性が半ばからかうように尋ねました。


 「私が1時間も待たせちゃったんですよ。」


 彼の代わりに私が答えました。


 「車の中で1時間なら大したことないじゃないですか。

  美味しいものを食べて、機嫌を直して頂きましょうね。^^」



 彼は私に軽い毒舌を吐きながらも、

 いつものように私の好みを考慮しつつ、

 色々なメニューをオーダーしてくれました。



 ワインが進むと、私も饒舌になり、

 いつの間にか彼の毒舌に応戦していました。


 「もう1組のカップルいつの間にかいなくなっちゃいましたね。」 


 「まだ、気がつかないの?

  食事は切り上げて行くべき所へ行ったんでしょ?当然…。」


 「あ…そっか。」


 「俺達は無理だけどね。」


 「すみませ〜ん。」


 「許さない。」


 「怒ってますか?」


 「だから、怒ってるっつーの。」


 大人気ない彼にちょっと苦笑。^^;



 お店を出る頃にはもう12時を回っていました。

 私にも彼に抱かれたいという気持ちはあったけれど、

 それは無理なので、せめてキスがしたいと思いました。

 その気持ちが彼に通じたのかもしれません。

 彼が私をタクシーに乗せ、しばらくすると、

 彼から携帯電話に着信がありました。

 マンションに着いてから彼にかけ直しました。


 「今どこにいるの?」


 「あの後、バーに来て飲んでる。」


 「別れた後に電話なんて珍しいですね。どうしたんですか?」


 「別れ際、俺に襲われたそうな顔してたから。(笑)」


 「実は襲われたかったです。^^」

 
 「今からこっちに引き戻す?」


 「いえ、それは無理ですよ〜。(笑)

  また今度ね。^^」


 「そっか。」


 「今夜は私も我慢して悶々としながら寝ることにします。^^」


 「いいねぇ〜。その悶々というのが。(笑)」


 「今日のお詫びに、セクシー画像送りますよ。^^」


 「俺も後でメールするから。」



 帰ってから彼にキャミ姿で胸元ちらりの画像を送りました。

 彼にそんな画像を送ったのは初めてでした。


  エロくて綺麗だよ。

 
 口の悪い彼には珍しい褒め言葉でした。

 抱き合えなかった分、相手への想いを胸に抱きつつ眠りについた私達。

 たまにはSexしない、こういうデートもいいかなと思いました。^^



2008年12月10日(水) 映画館で


 その日は彼とランチをして、ホテルで抱き合って、

 それから映画を観に行きました。

 私は前の晩遅くまで起きていたせいで、かなり疲れていました。



 私達は車でホテルを出た後、そこからさほど遠くない映画館まで行き、

 近くのパーキングで車を降りました。

 映画上映までしばらく時間がありました。

 彼が2人分のチケットを買ってくれた後、

 近日上映のポスターを見ながら映画の話をしていました。

 彼の好きなところは、抱かれる前より後の方がもっと優しいところです。

 その日はベトナムのハートウォーミングなストーリーの映画を観ました。



 映画が上映されるまでは観る気満々だった私ですが、

 ベトナムの空気がそのまま伝わって来るような

 ゆったりとした映像と音声に、

 私はいつのまにか熟睡してしまったようです。

 彼に肩を叩かれ、はっと目が覚めた時には、

 ストーリーの一部が記憶からすっぽり抜け落ちていました。




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 「全く最低な奴だなぁ。(笑)」


 「ごめんなさい!!」


 「みんな、俺達のこと見てたよ。」


 「えっ、どうしてですか!?

  私の寝息大きかったですか?

  もしかして寝言とか言ってないですよね!? ^^;;;」

  
 「教えない。^^

  とりあえず、あの映画館にはもう行けないな〜。」


 「すみません!!!!

  私全く覚えてないんですよ〜。

  目が覚めたらいきなりベッドシーンでした。(笑)」


 「今度からホテルの後に映画というのはやめておこうね。」


 「はい、ちょっと私疲れてたみたいです。^^;;」


 この件に関しては、帰りの車の中で彼に散々意地悪を言われました。

 私のマナーが悪かったのがいけなかったのですが…。

 映画館で寝てしまうって実は結構あるんです。

 これから映画デートの前の日は、

 きちんと睡眠時間を取らなければいけませんね。^^



2008年12月05日(金) 涙と欲望の意味


 前回彼と会った時から心の中にわだかまりがあって、

 彼とのお付き合いをこれからも続けていくかどうか迷っていました。

 彼とは定期的に1週間に1、2回会うようになった代わりに、

 メールの数は極端に少なくなりました。

 この変化は会わない時間はお互いに干渉しないという彼のスタンスを

 はっきりと示すものでした。

 それはつまり、会えない時間にお互い誰か別の人と会っていたとしても

 立ち入る問題ではないということを意味していました。



 この頃、私は彼に一度だけこんな風に話したことがありました。


 「私は恋愛感情の無い相手と抱き合うことは出来ない。

  以前の友達の関係に戻りたい。

  あなたも私に対して恋愛感情はないでしょう?」

 
 私は言葉を選びつつも率直に自分の気持ちを伝えました。


 「恋愛感情とかどうとか、自分の気持ちなんて決められない。

  俺はお互いルールを守って楽しく付き合えればそれでいいと思ってる。

  君のようにこうしなきゃいけないと決めてみたところで、

  世の中どうにもならないことの方が沢山あるでしょう。

  それなら先のことは考えずに、

  今楽しい時間を共有出来ればそれでいいと思うから。

  でも、それはあくまで俺の考え方だから。

  女性でも俺みたいな考え方の人はいると思うけれど、

  もし君がそういう付き合い方は出来ないと言うのなら、

  それは俺がどうこう言う問題じゃない。」


 こう彼に言われた時に、私はただうなずくしかありませんでした。

 彼は彼、私は私なのです。

 ただ嘘を吐いたりせずに、正直に言ってくれたことに感謝しました。




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 その選択をこの時点ではまだ彼に伝えてはいなかったけれど。



 彼とこのような会話があってから数日後、

 彼はゴルフコンペの打ち上げパーティを出席せずに、

 私のために時間を空けてくれました。

 彼は古い洋館をレストランにした素敵な中華料理のお店を

 予約してくれました。

 そこで彼と私はゆっくり食事しながら、沢山の話をしました。

 ただ私が友達に戻ろうと告げた時の会話の内容だけには触れずに。



 食事をしている間にあの人からメールが着信しました。

 短いメールだったので、私はその場ですぐに返信しました。


 「誰から?」


 「あの人からです。」


 「まだメールしてるの?」


 「はい。」


 「彼もまだメールしてくるんだね。」


 「はい。」


 「それはおかしい。(笑)」


 「嫌いになりたいんです。」


 「それは言ってることがおかしいでしょ。」


 「そうですか?早く嫌いになりたいと思ってます。」


 「好きじゃない人を嫌いになりたいなんて言わないでしょう。

  それは今も好きだって言ってることになるよ。」


 彼は納得して、それ以上は何も聞いてきませんでした。



 レストランを出た後、私は彼に抱かれました。

 お互い愛している相手ではないのに、

 求め合う気持ちがこんなにも強いことが不思議でした。

 あの人との愛の方がずっとずっと重かったのに、

 それを体で求めることが恐くなっていた私。

 彼との繋がりの方が軽くて細くて、

 すぐにでも切れてしまいそうなものなのに、

 何も恐れずに求めることが出来るのでした。

 そして何より、私は男の人に強く求められることを望んでいたのです。

 本当ならもう一度あの人に求めて欲しかったのだけれど。



 彼に抱かれながら、涙が零れました。

 涙の意味は欲望と同じ位曖昧でした。



2008年12月04日(木) 恋人とは呼べない


 きっと私達の関係は恋人同士とは呼べないものだと思います。

 私達は初めから別々の人生を生き、

 これからもその二本の道は決して交わらないのです。


 辛いことがあった時はいつでも励まし合い、

 二人の将来について何度か真剣に考えた

 あの人との関係とは全く別のものでしょう。


 私は男女の関係がありながら、関係そのものは希薄という、

 そういうお付き合いを今までしたことがありませんでした。




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 彼は私よりずっと年上で、

 私に対して気を使うことなく何でも率直に物を言う人でした。



 3度目に彼とセックスした日、

 私達はホテルに行く前に食事をしました。

 私は彼と比べて無知なことが多く、時々ひどくからかわれるのですが、

 この日も美味しい中華を頂きながら、彼に色々意地悪を言われました。

 何となくフェアな関係じゃないなと心の奥にわだかまりを残しつつ、

 食事の後、ホテルで彼に抱かれたのでした。



 一定のルールを守りつつお互いの領域を侵さないで、

 会っている時だけ二人の時間を楽しめればいいと言う彼。

 彼との関係を持続させたいなら、彼の考え方を受け入れればいいし、

 止めたいならいつでもそう告げればいい…。

 私達の不確かな関係は、ある意味契約のようにはっきりしたものでした。



2008年12月03日(水) 意外性


 彼に初めて抱かれた日から四日後の日曜日、

 ゴルフから帰って来た彼と待ち合わせしました。

 ゴルフの終わる時間が不確実だったので

 別の日にしませんかと言う私の提案に、

 その日を逃してしまうと数日忙しくて会えそうにないので

 やっぱりその日にしましょうと彼に言われました。

 しばらく会えないといっても1週間とか10日の話。

 あの人との遠距離恋愛に比べたら、

 いつでも会えると言っていいほど贅沢な状況です。



 3時過ぎ頃、彼は街中で私をピックアップしてくれて、

 そのままラブホへ向かいました。

 今まで付き合ってきた人はどんなに付き合いが長くなっても、

 私をホテルに誘う時には必ず一言尋ねてくれたけれど、

 彼は二度目からは何も聞かずにホテルに向かいました。



 ベッドの中でキスをすると、彼が言いました。


 「理沙子さんの舌ってさ…。」


 「ん?」


 「凄く気持ちいい。(笑)」


 「私ね…普通の人より舌が長いの。^^」


 それから、私達はルナがきちんと終わっていなかった前回よりもっと

 長く、激しく抱き合いました。



 セックスが終わった後、




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 普段とベッドの中でのギャップという意味なのかな。

 二人きりになると色っぽくなるとあの人に言われたことはあるけれど。



 ホテルを出てから、

 彼と一番初めにデートをしたワインの美味しいお店に行きました。

 彼は初めての時と同じように、

 ソムリエのお薦めや私の好みを尋ねながら、

 美味しいワインとお料理をオーダーしてくれました。

 釣った魚に餌はやらないという言葉があるけれど、

 私という女は釣った後の方がお金がかかるタイプのようです。^^;;



 お腹が空いていた私達は

 よく食べ、よく飲み、沢山お喋りしました。

 ワインでほろ酔い気分になっていた私は、小声で彼に聞きました。


 「ねぇ、初めて体を重ねる前に

  私はベッドではどんな風なのかなって想像しましたか?^^」


 「したよ。」


 「で、してみたら?」


 「かなり意外だった。(笑)

  本当に面白い娘だよ。^^」


 「面白いって褒め言葉なんですか〜?^^」


 「そりゃそうだよ。

  面白いの反対はつまんないでしょ。

  つまんない女なんて言われたくないでしょ?」



 彼の好みではない女は「太った女」と「つまらない女」なんだそう。

 前者はある程度気をつけていれば問題なさそうだけれど、

 後者はどうかなと思いました。

 例えば彼が典型的なB型で飽きっぽい性格だとしたら、

 面白い女がつまらない女に変わることだって有りだと思うから。

 実際あの人との付き合いでは、

 長い年月の中で私はつまらない女を通り越して面倒な女にまで

 成り下がっていたと思うのです。


 きっとこういう話はお互い様なのでしょう。

 お互いに努力しなければ、双方にとってワクワクするような面白い関係は

 いつまでもキープ出来ないと思うから。



2008年12月02日(火) 関係の始まり


 あの人にはシティホテルで抱かれることがほとんどだったから、

 彼がラブホの駐車場に車を止め、部屋を選び、

 エレベーターのボタンを押すごく自然な振る舞いを見ながら、
 
 彼はつい最近まで元カノ、あるいは別の女性と

 この手のホテルを利用していたのだと直感しました。

 その直感がずっと私の頭のどこかにあったからか、

 お部屋に入っても私の心は不思議なほど冷静でした。


 「今日は出来ないわ。女の子の日だから。」


 もうほとんど終わっていることは隠して、そう告げると、


 「それはいいから。わかってるよ。」


 と彼は穏やかに言いました。



 彼は借りて来たDVDをポンとテーブルの上に置くと、

 シャワーを浴びにバスルームへ行きました。

 しばらくして白いバスローブを羽織って戻って来ると、

 ソファーに座っている私をギュッと抱きしめて、


 「本当に細いね。」


 と満足そうに言いました。

 彼は太った女が嫌いなのです。



 私がバスルームに入ると、

 大きなバスタブにはお湯が張られていました。

 私はシャワーを浴びた後、

 心地よい温度のお湯の中に身体を沈めました。

 彼との未来よりもあの人のことばかりが思い出されました。

 私は後悔しないのだろうか…そんな一抹の不安が胸をよぎりました。



 バスルームを出ると、彼は既にベッドの中にいました。

 私は小さな覚悟を決めて、彼の隣に滑り込みました。



 私はこの時初めて彼とキスをしました。

 初めてキスをして、初めて素肌に触れられ、初めて繋がりました。




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 私は体中熱くなり、汗にまみれ、

 私の真上にいる彼の顔からも汗が落ちて来ました。

 

 終わった後、白いシーツには薄いピンク色のしみがありました。

 やはり私は出血していたようです。


 「処女だったの?^^」


 彼が笑って言いました。


 「うん、そうなの。そんな風だったでしょ?^^」


 「よく言うよ。

  処女がこっちだとすると、君はその対極にあるこっち側。^^」


 彼は両手でスケールを示して、言いました。


 「処女とはかけ離れてるってこと。いい意味でね。」


 「じゃあ、また私としたい?^^」


 「うん、今しようか?^^」


 「もう今日は無理。疲れました〜。」

 
 「最中のこと、ほとんど覚えてないんじゃない?」


 「そんなこと無いですよ。

  その人との初めての時のことって結構ちゃんと覚えてるんです。」


 「そうか。女っていうのは恐ろしい生き物だね。」


 「でしょ。^^」


 彼と冗談を言い合いながら、

 いつまでもこんな関係だったらいいのにと思いました。

 楽しければそれでいい…そんな軽くて明るい関係。

 多分彼もそれを望んでいるはずでした。



2008年12月01日(月) 予感的中


 彼と雁を見に行ったあの夜、

 私のマンションへ向かう彼の車の後部座席で、

 彼はずっと私の手を握っていました。

 私は彼の手を握り返しながら、

 『今度彼に会う時は彼に抱かれることになるかもしれない…。』

 と思いました。



 次に彼に会ったのは二人の仕事のオフが重なった平日でした。

 ランチタイムに、彼は以前話してくれた美味しいハンバーグのお店に

 連れて行ってくれました。

 食事の後、私達は二つの画廊に立ち寄りました。

 彼が絵を買うためにしばしば訪れる画廊です。

 彼と絵を見るのは美術館の時以来二度目でした。




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 今思えば、それは彼の意図するところだったのでしょう。



 画廊を出た後、私達は彼の車で

 郊外の大きなレンタルビデオのお店へ行きました。

 彼は何か面白い映画があれば借りたいと言っていました。

 彼は私以上に映画が好きで、沢山の映画を観ていました。

 映画のパッケージを一つ一つ眺めながら、

 彼の映画の話を聞くのはとても興味深く、楽しいことでした。

 結局、一本のDVDを選んで、私達は車に戻りました。



 しばらく車を走らせた後、彼が聞きました。


 「このDVD、ホテルで見ようか?」


 予想されていた言葉だったけれど、

 一瞬私は驚いて運転席の彼を見ました。

 
 「どうしたの?そんな顔して…。」

 
 「ん…どうしよう。」


 「どうしようって?」


 「今考えてるところ…。」


 私の言葉に彼は笑って言いました。


 「そういうことは家を出る前に考えて来ることだよ。」


 「そうですね…。」



 その時の私の表情と口調で、

 彼は私の返事がYes.だと確信したのでしょう。

 私の予感は的中して、

 その日初めて私は彼に抱かれたのでした。


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理沙子

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