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2008年04月30日(水)   ooh, this uncertainty

底がないから。踏み込まれるとどこまでもずぶずぶと沈み込むから。否定するにも肯定するにもどんな理由もどんな根拠も見つけられないから。

真夜中に突然何も決められない自分に気づく。

誰かが全部決めてくれればいい。明日着る服も、明日食べるものも、明日行くところも、何もかも全部決めてくれればいい。

存在の、耐えられない、重さ。


2008年04月29日(火)   heading for KYOTO

京都。

黄金色に輝く鼈のスープだとか舌にのせたら溶けていくような名前も分からない料理だとか甘い甘いミルクコーヒーだとかをまだ肉体的な感覚として思い出す。

汗ばむほどの日差し。

大通りは悠然と静か。

日傘越しに見る新緑が、遠い昔を連れてくる。

どこからか蝉の声が。疎水沿いの坂道に迷い込む。ひとけのない大学のグラウンドからは陽炎が立ち、遠くで山が鳴る。白いヒールの足、汗ばんだ手、ダヴィドフの匂い、あの夏の眩暈が、蘇る。

この街をひとりで歩きたくない。


2008年04月28日(月)   do you like the world around you ?

くだらない酒を飲んだ。たしかに今日は朝から機嫌が悪かったけれど。

四十目前の男がぶざまに酒に飲まれていき、普段の温厚な仮面をどこかの段階で落としてしまい、ついにはしみったれた自尊心を剥き出しにして、「俺はすごいすごいんだ」とわめきだす姿を前にして、それでなくても弱っている胃がまた痙攣を起こした。

そのうちあんなふうになるんだろうか、という漠然とした恐怖感もあり。

生きているのがいやになる。


2008年04月27日(日)   trush

額の裏側の空洞に意味をなさない言葉が次々とわいて出てはまるで蛞蝓のようにずるずるずるずる、白い糸を引きながらもつれあいからみあい、結局気持ちの悪いものになりはてて、廃棄されていく。新しい言葉を見つけなければ。


2008年04月26日(土)   menschliches, allzumenschliches

私自身はどうかと言えばまったくもう、恥ずかしいくらいに物質的な幸福を追い求めることのみに汲々としている。きれいなイタリアの靴が大好きで手触りのいい生地の服が大好きでいいにおいのする化粧品が大好きで、朝晩カップヌードルを啜ってもかまわないけどそのへんだけはどうしても譲れない。一人暮らしをしはじめて、以前の生活水準を保つことがどれほど困難かを痛感していて、それでも切りつめられるところは極限まで切りつめて、借金だけはしないように、それこそ、もう、目の色を変えて、必死にやりくりしている姿は非常に浅ましく滑稽だけれど、でもねえ、シモーヌ、これは逆に私の強みなんだと思ってるよ、この救いようのない俗っぽさのおかげで、日常感覚を保っていられるんだと思ってる。私には貴女のような知性もなければ信念もない、待ち望む神もない、でも、だからこそ、もしかすると、貴女には決して見えなかったものが見えるかもしれないと、おそるおそる思ったりするんだ。


2008年04月25日(金)   i don't want to be your friend

さてそうして霊的貪欲ということについて突然考えてみたりする。

1)物質的な幸福を霊的な幸福のためにあきらめる、というのは貪欲である。物質的な幸福なんて相対的なものだが、霊的に満たされることは絶対的なことであるから。より大きな幸福のために小さな幸福をあきらめることはいたって一般的であり、誰にでもできる。我慢した分だけ、最後にはご褒美が待っている、というわけ。

2)物質的な幸福を理解し、霊的な幸福への条件であると感じるにも関わらず、物質的な幸福をあきらめる、というのは正しい。彼/彼女は最終的に何も得るところがない。ほんとうに、すべてをあきらめている。

以上のことは当然ながらヴェイユに依拠しているわけだが、本当のところ何故そんなにあきらめるのか、という根本的なところを理解していない。手に入らないものを欲しがらないのはプライドのゆえか。あきらめたはずのものに実は押しつぶされているという矛盾。


2008年04月24日(木)   meet the real me !

拝啓

お便りありがとう。驚きました。間違った宇宙で目覚めてしまったのかと思いました。貴方とはもはやエコノミカル・ニッチとでも呼びたいような経済的な住み分けによって完全に隔てられているのだから、私が今何をしているかなんて貴方にはまるで関係のない話でしょうに。ああ、そう、貴方が東京本社に転勤になったことはHさんから聞きました、彼、宇宙人っぷりを遺憾なく発揮して、いまでも時折返信のしようがないメールをよこします。困ります。

当時貴方が私の無言の脅迫に気づいていたとは意外でした。では貴方は狡猾に逃げ出したわけですね。貴方はたった一言で、「薄汚れていく」私を救えたはずです。貴方がママゴトと蔑むような仕事のひとつやふたつ、やめさせてしまえば良かったではないですか。どうせ貴方の収入の半分にも満たないような額しか稼ぐことのできないママゴトを、続けさせたのは結局貴方のエゴでしょう。人の仕事を蔑む前に、己の責任能力の欠如を嘆いたら如何かしら?

まあそんな貴方も無事父親になれて良かったですね。慶應には幼稚舎から入れるんですか(笑)? さぞ熱心な教育パパになることでしょう、せいぜい「インベストメント」なさってください。私の腹が弛むのはまだまだ先になりそうです。いつでも触りにきてくださいな、私は今でも、ママゴトじみた仕事にかまけてえらそうにしていますから。貴方にそんな勇気があれば、の話だけれど。

n.


2008年04月23日(水)   hello me,

前略

お元気ですか。今どこで何をしているのでしょうか、相変わらずキミが意固地に「仕事」と呼びたがったママゴトを続けながら、声を嗄らし指を痛めているのでしょうか、それともいい人でも見つけましたか?

僕はキミがあの通用門から出てくるところを見るのがいやでした。何度か迎えにいきましたね。劣悪なエアコンディショナーにさらされたキミの肌は脂が浮き、ファンデーションもところどころ剥げかけて、酷使した目はどろりと黒ずみ、僕の車の助手席に溜息とともに坐りこんだキミを直視することはそのまんま、自分への無言の脅迫を受け取るように感じられて、ミラー越しにその疲れた横顔を見やるのがやっとでした。

何の創造性もない作業のような「仕事」に、薄汚れていくキミを見ていることがつらかったのです。そんなことで自分をすり減らしていくことに平気でいられるキミの神経が僕には理解できませんでした。キミほどの人が何故、と僕は焦っていました。なのにキミは、けっこう楽しそうに、安い時給でこきつかわれて、忙しいから会えないだの、休みの日くらいゆっくりしたいだのと、生意気なことを言いはじめました。

まさか今でも、ママゴトじみた「仕事」とやらにかまけてえらそうにしているんじゃあないでしょうね。

さて先日僕は父親になりました。彼女に似てふっくらとした可愛い女の子です。出産を終えた彼女の腹を撫でていてふと、キミの固く締まった腹の手触りを思い出しました。それで今、キミが何をしているのかと、訊ねてみたくなったわけです。

返信お待ちしています。それもまた例の、思いきりスノッブな返信をね。

N


2008年04月22日(火)   that man should labour...

痙攣は鈍痛に変わって腹の底に沈みこみ、再度の暴発に備えてじっと待機しているかのよう。じくじくと痛む胃に手をのせて一日ベッドの上で本を読んでいた。こんな日が実は大好きで、もしもこんなふうに猶予された日をあと何日かでも続けられるのなら血くらい吐いてもかまわないのに、と、思ったりするあたりがダメ人間なんですよ、と職場の可愛い年下女子の声が聞こえてきそうだから自粛。

「人間は労役しなければならず、悲しまねばならず、そして習わねばならず、忘れねばならず、そして帰ってゆかなければならぬ」(ブレイク)

今のところ忘れねばならず、の地点にいる。


2008年04月21日(月)   i got a bowling ball in my stomach

ひくひくと痙攣する胃を抱えて一晩過ごす。時々こんなふうに、胃のなかに溜めこんだものが暴発する。ここしばらく、インプット過剰。


2008年04月20日(日)   春よ春に春は春の、

菊桃の恥じらいと、八重山吹の可憐さと、花水木の清純と。空の青みも濃さを増し、春爛漫。ずいぶんとぶりっ子な街並みに、黒いショールも黒いブーツも肩身が狭く、まだ少しだけひんやりとする風に吹かれて、追われるように家路についた。


2008年04月19日(土)   supermassive blackhole

今日もあれほどたくさん読んだのに、頭の中はこんなにからっぽ。目の前のページは真っ白。消費して、享受して、そして消失。


2008年04月18日(金)   sleepyhead, don't open your eyes !

眠い。天真爛漫に眠い。正々堂々と眠い。

眠れない眠れないと大騒ぎしていたころの自分っていったい何だったんだろうか。あのころはどうしても眠れなかった、何日徹夜をしても、何錠睡眠薬を飲んでも、眠気の欠片すら見つけ出せない夜が続いたのに、迷惑千万なほど眠い。

「エズミ、本当の眠気を覚える人間はだね、いいか、元のような、あらゆる機−あらゆるキ−ノ−ウがだ、無傷のままの人間に戻る可能性を必ず持っているからね。」(サリンジャー)

いつか無傷のままのキ−ノ−ウ、昨日、が戻ってくることを夢見て眠りそして眠りすぎて、今日も遅刻した。


2008年04月17日(木)   can't stop what's coming

増補新版の『アヴァン・ポップ』を図書館で借りたのでぱらぱらと読んでいて、ふむふむ、へぇ、面白そうだね、あれもそれも、読んでみなくちゃね、と電源つけっぱなしのPC画面で次々に検索をしていたら、いつの間にやらウォッチリストがいっぱいいっぱいになっていた。

ありとあらゆる情報は、発信された時点ですでに広告である。朝起きてから夜眠るまで、我々は2万を超える広告にさらされているそうだ。

キャシー・アッカーのインタビューより。

「私、気づいたのよ、自分は受け身の人間なんだって。果てしなく受け身。だから私の中から湧き起こる創造行為、もの造りの質というのは(中略)、原理としては反応であって、積極的な行為ではないの。書いている時、目の前にあるのは空白のページじゃないのね、そういうことはまずありえない。空白のページが見えることはあっても、そんな時は何もできない。手紙すら書けない。」

模倣と剽窃と組み換えから成り立つ途方もなくサディスティックな文字列(それらは消費せよ享受せよと迫ってくる)に攻め込まれる身体。

「あらゆる芸術作品はサディストの表現か?」(ロール)

書くことは誰かの欲望を攻撃することなのだ。或いは自らが広告となって迫りくる広告に復讐する行為。


2008年04月16日(水)   she's been everybody else's girl

期待されることによって開かれる地平というものがあり、その地平に身をさらすことでなんとか外形を保っているような生き物であることも知っている。期待することはとうにやめてしまったから、他者の期待にすがるしかないのだ。あなたの期待が私を動かすだろう。けれど私があなたを動かすことは、おそらくない。

「またもわたしの生はわたしの掌中にない」(ロール)


2008年04月15日(火)   she walks over me

何かが間違っているのは分かってるけど何が間違ってるのか分からない、と言ったら単純明快に全部間違っている、と言われた。夏子おそるべし。ああ夏子、私はキミにひざまずく。キミの白い肌と黒い髪、私が持ちえぬ、揺らがなさ。


2008年04月14日(月)   softer, softest

見るものすべてがズキズキと疼くように痛む、だって? そんなの感傷、ちょっと天気が悪くってちょっと身体が弱ってて、ちょっと眠っていなかった、それだけのこと、だけどこの歌好きなんだ、昔からすごく好きなんだ、your milk is so sour, の意味なんか知らなかった頃から好きなんだ、たぶんずっと好きだろうね、だってこんな歌が似合うような自分になりたかったんだもん、今じゃすっかり似合いすぎて、本当に吃驚する、こんな歌を口ずさみながら生きていくように、運命づけられてたんじゃないか、って。


2008年04月13日(日)   in the whale's belly

朝はシーツから無理矢理に、べりべりと身体を引き剥がさなければならない。くだらないこと極まりない一日がまぬけな口をぱっくり開いて待っているから、準備ができたらそのままぽーんと飛び込んで、8時間後にぺっと吐き出されるまでは、ぺちゃりくちゃりとあることないこと機嫌よく喋ってみせたり、受話器に向かってぺこぺこ頭を下げてみせたりね。鯨の腹から出たヨナは、果たして無傷だったのか否か、とにかくこうして毎日どこかが損なわれていき、告げるべき言葉が欠けていく。


2008年04月12日(土)   i feel so useless down here

薬効が抜けずぐったりと一日を過ごす。休みます、と電話をしたとき分かりました、と言ってくれたのが誰だったのかさえ思いだせない。自分で自分の顔をつぶすことと自分で自分の腕が変形するまで切り刻むこととの間にさほどの違いがあるとは思えないけど、とあなたは言ったのだ、軽い揶揄のつもりで、或るいは気安さの、親密さの表れとして。だったらさぞ立派な革命戦士になれますね、と、言ってみたい気もしたが革命じたいが見当たらなかった。そうですね、と答えてうふふと笑って適当に聞き流しておけば良かったのに、あいにくイロニーの精神が不在だったせいで丸一日寝込んだ。

わたくしの情念廉価で売ります。


2008年04月11日(金)   anxiety disorders

深夜に不安発作がにじりよってくる。こんなことはいったい何年ぶりだろうか。ひとつひとつの呼吸が速く、短く、そうして重く、まるでクロールをするときのように大きく酸素を吸いこんではその倍の二酸化炭素を一気に排出する、そんなことを繰り返しているうちに肺のあたりにかきむしりたいような不快感が凝縮されていき、誰か、誰か、誰か、誰か、という響きが満ちてはイメージの断片をかたっぱしから追い求め、そして結局は、誰も、いない、という拒絶にぶつかり死んでいく。抱きつぶしてもらえたらどれだけ楽になれるだろうか、と早鐘のようになり続ける心臓をつかみ、薬が効き始めるのをじっと待つ。とにかくこんなことは久しぶりのことで、薬はやはり的確に次の朝をつぶし、意識が戻ったのはついさっき、12日の14時を過ぎたころ、結局仕事に行くことはできなかった。


2008年04月10日(木)   human

その内側に巣食う空虚はきっとヒトの形をしている。ネコの形をしているわけではない。簡単なパズルだ。ぴったりと、隙間なく埋めてくれる誰か。


2008年04月09日(水)   it's up to you

ただもっと、もっともっと、自分の感性を信じてやることだ。連立方程式なんか学生のころから解けた試しがなかったのだから、解が無限に存在する世界を選んだ。ここではすべての言葉が解答となり得る。だから言いたいことを言えばいいししたいことをすればいい、書きたいことを書けばいい。あとは採点者の裁量しだいだ。


2008年04月08日(火)   new born

東では嵐になっちゃったんだってね、まったくこれだから蝶の羽ばたきってやつは、なんて同じモチーフを短期間に何度も繰り返すのは好きじゃない、右肩の後ろでそれはまだ濃い臙脂色の気息を保っている。ところで花びらは美しく舞ったんだろうか、それがひどく気がかりだ。

西では比較的うららかな陽気で、昼下がりの公園では猫が4匹長く伸びていて気前良くおなかを触らせてくれる。にゃあにゃあ、とじゃれあいながら見上げた桜には、もう新しい葉がいっせいに芽吹いて、あんなふうに生命を更新していけたらと、思ったのだった。


2008年04月07日(月)   when you're only wet because of the rain

この雨でおそらく桜は散るだろう、そして魔法は解ける。濡れた地面に踏みしだかれた花びらが、悲しく汚れて。明日は風が吹くといい。さらりさらりと静かな風が吹くといい。


2008年04月06日(日)   butterflies and hurricanes

そうして私の右肩には、小さくて可愛い蝶が止まっているから、縋るような眼でじっと見返されたとして、やりきれない声で囁かれたとして、残酷に大胆に突き放すことができるだろう。職場では今日、エアコンディショナーが冷房に切り替わった。窓の外では春が熟れていく。蝶はいつまで羽ばたくか。


2008年04月05日(土)   long snake moan

日の境界線は曖昧になり身体の輪郭が消えていき際限なく溶けだした肉の放つ腐爛の臭気はもはや耐えがたく、綿菓子のような言葉をいくつもいくつも浮かべてはみても、蛇の呻吟を拒むことができない。完全なる敗北という甘美。所詮は女だ。


2008年04月04日(金)   enough inside, is this desire?

見事な朝焼けと爪のように薄い下弦の月に付き添われながら、始発電車に揺られて帰る。

溢れたかったんだろう、たぶん。

盛大に零してしまいたかったんだろう。

それを欲望と呼ぶのかどうかは、知らない。


2008年04月03日(木)   as the winter takes one more cherry tree

10年分の桜の下でとめどなく身体が開いていくことに何の不安も覚えず、それどころかどんな後悔もつきまとうことがないだろうという確信に満ちて、はらはらと花びらのように、堕ちていくときの誇らしさ。


2008年04月02日(水)   怜子

闇の暗さと争うかのように、桜は白く群生し。ワンカップの似合う君は緋毛氈のうえで、旨そうに酒を呑みながら燃えるような愛を語った。それで私はうれしくなってさみしくなって、中島みゆきの古い歌を歌ったのだった。


2008年04月01日(火)   old habits reappear

髪を振り乱してカーペットを掴みのたうちまわっても消せない嫌悪感。ここまで負けてしまっているならどうしようもない、バランスをとるために。簡単なこと。いくつかの錠剤をアルコールで流し込む。ほうら、そしたら書けなかったメールも書けた、「私」の箍がはずれて私ではない誰かが書いた。


nadja. |mailblog