読書記録

2019年08月22日(木) むらさきのスカートの女 / 今村 夏子

 
 近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない私は、彼女と「ともだち」になるため私の職場で彼女が働きだすよう観察し続ける。

その執拗さは、ストーカーでもないのだが、あたかも生態観察みたいで何気に
気味が悪いのだけど、何処か滑稽でもありました。

「わたし」は常に存在を消してるのだけど、心の奥では誰かに気付いてもらいたい想いもあるのではだろうか。。。

それにしても・・・最後・・・むらさきのスカートの女は何処へいってしまったのか。。。

なにか・・・不思議な物語です。













2019年08月15日(木) 語りかける花 / 志村 ふくみ


 染織家で人間国宝の著者が自然が織りなす言葉を豊かな感受性で綴ったエッセイ集。

京都嵯峨野に住み、草木の精を糸に染め、自然のたたずまいを織に写し、この世のものとも思えない作品を生み出している。

静かに時には強く語りかける花の声をきき、その色をいただく、敬虔で清雅な生き方、美しい色に生命をかける情熱と強靱な心意気。

とにかく文章が美しくて各章を読んだ後、そっと目をつぶれば情景が浮かんでくる気がする。


これは手元に置いて日々の生活に疲れたとき、どこでもページを開けば癒されるように思った。



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2019年08月03日(土) 菜食主義者 / ハン・ガン (韓 江)

ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある夜に見た夢を境に肉食を拒否し、菜食主義者となって日に日にやせ細っていく。

最初の章は夫が語る「菜食主義者」
次章の「蒙古斑」はヨンヘの姉の夫(芸術科 ?)が語る。
最終章はヨンヘの姉が 自分の気持ちに気づいていく「木の花火」。
連作小説集。

最終章で精神科病院へ面会に行く姉の心理がものの見事に表現されている。
狂っていく妹は自分の姿でもあるということに気づく。

さほど時間が経たないうちにふと気づいたのは、彼女が切に休ませたかったのは、彼ではなく彼女自身だったかもしれないということだった。十八歳で家を出てから、誰の力も借りずにたったひとりでソウルの生活を切り開いた自分の後姿を、疲れた彼の姿に照らし合わせていただけではなかっただろうか。

彼女の夫は妻の妹に蒙古斑が残っていると聞いて、ヨンヘの身体に花をペインティングして、自分の身体にも木のツルや葉っぱを描き、そしてセックスの様子をカメラに収めたのだ。
木になりたかったヨンヘはその時だけは自分を取り戻していたのではないだろうか。

人の深層に潜んでいる狂気のようなものがうまく表現されたとても面白い小説だった。
ソウルでも日本でも、みんな生きていくことにつかれているのだろうな、きっと。。。





2019年08月01日(木) あちらにいる鬼 / 井上 荒野

 小説なので登場人物の名前は違う。

長内みはるは瀬戸内晴美(瀬戸内寂聴・文中では長内寂光)
白木篤郎は井上光晴
白木の妻は笙子
みはると、白木の妻の二人が、交互にその時を語るような形式で進んでいく。
それぞれの白木篤郎への想い、みはるの笙子への想い、笙子のみはるへの想いなどが、その時々のいろいろなエピソードを通して語られていく。

実際、著者は瀬戸内寂聴さんにじかに会って話を聞き、父や寂聴さんが書いたもの、語ったと思われる多くの作品をよんでん、そして母をも思い出しながら文章を紡いでいった。

ご両親は亡くなられているが、寂聴さんはまだご存命で書きにくかったのではないかと思う。
でも寂聴さんは自分がモデルの作品を読み、傑作だと感動されたそうだ。
おこがましいが私も素晴らしい作品だと思う。
お母様と愛人であった寂聴さんとのそれぞれの想いや葛藤がすばらしい言葉になって表現されている。

それにしても白木篤郎という人は、妻からも愛人である寂聴さんからも深く愛されて何ともうらやましい御仁だ。
ある意味、白木と縁を切るために出家するのだが、そして明日が剃髪という夜に、白木に髪を洗ってもらうシーンなんて生々しい。
そして私がいちばん知りたいのは、白木の妻笙子の本当の気持ち。
いろんなウソを吐かれ、それでもみはるにとどまらず複数の女の匂いがついた夫をそれでも心底愛していたのか。

父とみはるの不倫が始まったのは荒野が5歳の時。
それがこうして小説になるのだから面白い。







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fuu [MAIL]