しつこく片づけています。 東京の人が言うと、ひつこく片づけています。 小物も手を焼くのですが、大物も大変です。 大物と言うのはこの場合、100缶以上発掘された昭和時代のサラダ油ではなく(これはこれで手を焼きますが)、ひな人形を始めとする大御所の方々。 特に高級と言う訳ではないのですが、なにぶんにも中途半端な時代物。7段飾りです。今の流行りの親王飾りでそれぞれ高級、ではなくお道具も紙や薄木でどっちゃり系。面倒くさいのでここ何年も出していなかったという大物です。 ──とりあえずもう広げる場所がないので、お二人だけ残して、あとは人形供養に出させていただくことにしました。お二人なら、たぶん、なんとかどうにかなります。……なるといいな。 この人形供養がなかなか巡り合えず、今日まで至ったのですが、ようやく近所の葬儀会館で開催となりました。らっきー。
で。 無料でこういう催し物をするというのは大概、相手にも利のあることで、この場合は明らかに「互助会勧誘」です。飛び込み営業がしがたい職種なので、大事な機会です。 段ボール一抱えの人形とぬいぐるみを持った私は入り口で早速アンケート部隊に捕まりました。 人形は会場中央の祭壇に集められています。さすがに「すてるのはどうよ」的なものが集まるので壮観なんですが、なかでもひときわ目を引いた、人の身長よりも大きな白蛇のぬいぐるみ。あれはあれで大変そうです。その入手のドラマを想像するだけでなにやら楽しい気持ちになって、アンケートにも応じることにしました。 「お葬式の流れを知ってますか?」 ………はあ。まあ、だいたい。 「いくらくらいかかるか知ってますか?」 ………はあ。まあ、だいたい。 「自分の葬式について考えたことはありますか?」 ………はあ。まあ。もう戒名も持ってます。人生爆笑信女。気に入ってます。 どんな答えをしたらいいんだ、と悩みつつ「だいたいわかる」に○を付け続ける私。 社長さんに気がついていただければ、挨拶の一つもして逃げられるのですが敵は勧誘人海戦術にでているのでなかなかたどり着けません。アンケートとお人形を渡し、帰ろうとするも帰らせてくれません。そりゃ、ここからが相手の本題です。 「こうした催しはひさしぶりなんですよ! この会館を改装した時以来です」 ……知ってます。その時も来ましたから。あの時は『ラッキーブレスレットを作ろう!』という題目で数珠作らせてくれましたね。タイトルに騙されてかなり驚きました。そういう無理やりは大好きです。 「あら!? 何かのご縁ですわねー」 勧誘のおばさまは、紙コップになみなみとお茶を出してくださり、せっせと話し続けられます。何かの縁も何も、一昨日その奥で話している社長に本堂に飾るように仏花もらったばかりですがな。商売仲間を縁でくくるのも間違いではありませんが、いささか強引です。 「ここは、是非! 互助会に!」 ……いや、私、申し訳ないのですが私に勧誘しても時間の無駄なので放っておいてください。お茶も粗品もお菓子も要りませんから。地味にお断りしてもしても、食い下がります。プロです。 「なぜ!? キリスト教なの!? 宗派が違うの!?」 不本意ながら、そろそろ寺の関係者だと言わないといかんなぁ、でも寺のものが自分ちで供養しないとものぐさがばれるなぁ、と途方に暮れていると、まるで卒業のシーンのように、社員の方が走ってきて叫んだのです。手には、先ほどのアンケート。そこにはくっきりと、私の住所としてお寺の住所が記されています。 「その人は、なぅ寺の妹さん!!」 引きました。明らかに勧誘の方は引きました。叫び声に社長も気がつきました。 「ああ! いつもお世話に!」 私も含めて、その場にいた全員が身の置き所がありません。奥の方で互助会の申し込みにまでこぎ着けた人もこっちを見ています。そりゃこんなところでいつもお世話にってなかなかない挨拶です。嫌な沈黙が支配しています。 「い……いやぁね……ほほほ。私、そんなこと知らないものだから。あ、あら! こんにちは!」 ものすごい早さで後ずさりしたかと思ったら、次に会場に来た人に全力でターゲット変更です。総員で。ピラニアだってもう少し遠慮する勢いでした。たぶん、彼は彼の知らない理由で熱烈に勧誘されることでしょう。ごめんなさい。 そして会場の隅にぽつんと残された私は、粗品のティッシュを抱え、こそこそと逃げるように帰ったのでした。 ……人形供養もたいへんです。 そして道のりはまだまだ続きます。
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