ことばとこたまてばこ
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2005年07月31日(日) ある翁の桃な詩による死

おうい おうい おうい 缶切りもってきておくれや
おうい ここで待っているぞ おういおうい
おなごの腿も 桃太郎も モモを食したいよう
ってほらほら あんなにさけんでる
おうい おうい おうおうい
おーうい おえい おえ おえっおええええっ
おぇっぷ おっぷ おうい おうい
霧のかかった部屋でキリを持ちながらキリキリとおすましよ
缶切り はやくもってきておくれや


翁はしこたま酔いながらもモモの缶詰を開けようと
ちゃぶ台に散らばった発泡酒の空き缶を両手に持つ箸でけたたましく鳴らし、
台所で洗い物をしている息子の背に向かってはやしたてる。

ようやく息子が持ってきた缶切りで縁に穴を刻むと、
甘い桃の汁の匂いが鼻腔をクスクスくすぐった。
辛抱がならず卑しい様で汁を全て飲み干した。
べにゃべにゃする手で桃の身をつまんで囓る。



うめえなあ。くわんらくわんらと大声で笑う。
まったくじんじんする甘さだなあ。じんじんする。
ほんとうに頭がじんじん。




息子の手は洗剤の泡にまみれてた。


2005年07月30日(土) 電車は動きます たんたんと

列車が動き出す

タン タタタン

勢い増して

タタダダダ

窓の外に見える風景は列車の速度に流されて
どれもが無数なる一筋の線状と化している



その風景に、心淋しくも心躍らされて



それはおそらく線の風景が一期一会の神髄を単純化さしめているからなのだろう

窓の内より覗き見える、おもろいナと思った対象があったかと思えば次の瞬間あんなにも遠い。

しかし列車は進む

その見果てぬ先の向こうに更なるおもろいものがあるのかもしれないと思えば目の外しどころは一向に判らず。



おれの眼が潰れるまで非常にも優しくも列車は動く


2005年07月28日(木) 手の味

いまわたしはわたしの掌をなめた

いちど にど さんど なんども

いまわたしは掌を吸った

つよく ふかく

いまわたし指を口にふくんだ

人刺 中 薬 子 親




いまわたしは掌の匂いをかいだ

だえきの乾いた匂いそのもの




きづけ!
わたしに限界などないことを!


2005年07月27日(水) そびえる城のふもと

荒野で掘り起こした人参をポリポリかじっていると、空から人が降ってきた。

落ちた彼は地面を盛大に響かせて、脳みそをはみ出しながら「あひあひ」と泣きうめいている。

おれは背中を丸めながらにやにやして 兎のように無垢で 無知な瞳を向けて。

その時はるか彼方の西武池袋線では画家志望のおんなが四角い眼鏡をかけた堅物で通っている男性に胸をもまれていた。

「あひあひ」
荒野には砂埃にまみれている人参しかなかった。



どうしてもあの城は 遠い。


2005年07月26日(火) おれって携帯の傀儡者

携帯電話が光ったのだから

にやっ と笑って手にとれば

ただ中の基盤の腐敗が著しいが由の接触不具合とかで
なんとなーく きまぐれに ピャピャッと光っただけだった


むるっ と鹿爪らしい顔をして
にやっ と笑って携帯に飛びついてしまった我を恥じるのであった


2005年07月25日(月) ただひとりのおとこ

激しいライトに照らされて
私は身をぎゅん縮めると
鼻毛を出した中年男性が
酒の匂い漂わせながら

にたにた にやにや

下衆な笑みをたたえて
苔に満ちた岩石のような手で
私のうっすらとした喉仏を
親指でなでさする

とうに服は剥がされていた

ごま塩のような細粒の髭をたくわえた
口の奥底は赤黒くて臭気がして
押し潰されそうなほどの情欲が
ひしひしひしと空間に充満する

とうに肢体の自由は奪われていた

どこがどうとは上手く言えないけれど
妙な力のはいった中年男性の手が
私の臀部を握りしめて圧迫する

「痔気味だね、おめえさんは」
私の脱腸している肛門を触るや同時に
そう言って更に目を細めては口もすぼめた
その目は歓喜、好奇、隠しもせず。

激しいライト いつまでも私を照らす


2005年07月24日(日)

おれたちは愛がそこにあるということを知っていたはずだった

いつだったろうか
愛が霧のように細かく薄くなったのは

いつだったろうか
あんまりにもしたたるほどの愛が枯れたのは

いつだったろう
じっと堪えて目をこらしてようやく愛を見ることができたのは

いつだったろう
愛の情感にどこまでも過敏となってしまったのは


愛のショットガンは 心臓に無数の穴をぶちぬくぞ
治癒再生の余地もないほどに

おれたちは愛を知っていた
おれたちは愛を知っていた
おれたちは愛を知っていた



おれたちは愛を


2005年07月23日(土) 等しくある定理

情は灼熱と同類


2005年07月22日(金) 泣きわめけよう ボーイ!

くしゅくしゅするまぶたをきつくとじて

ぐわあ ぐわあ ぐわあ 満月の夜でもないのにわめく狼男

びゅんびゅんふきでるなみだをおとすにかまけて

ぷっくら腫れたまぶたをぐりぐりこすって

ぐわあ ぐわあ ぐわあ 三日月の夜に狼男は熱海に向かって疾走


おめえの顔 おめえの身体 おめえの胸 おめえの唇 おめえの体温 おめえの粘膜!
あらゆるおめえは おれの遺伝子に 刻まれてるぜ!


2005年07月21日(木) ぐるる

あの人の奏でる言葉の余韻はおれの心を発情させる


2005年07月20日(水) 気炎万丈

まったく強力な月光が 暗けし海面を雪白へと彩りおえた真夜中

鯨が海原をかき分け進んでいた
瞬時
その光景を目撃した生物すべてが一生涯忘れえぬ見事に雄々しい潮吹きを上げる
上昇の潮水はしゃれこうべをどれほど上向きにしようとも、視界に収まりきらぬほど遠方へ散らばった


その潮水は光を背に輝き煌めき大伽藍のごとく黄金色の眩さと化して
おれは 水を一身へ浴びる

すいこみ、のみこむ
すると
ピェンピェンピェン
耳朶を奮わせる甲高く細い震動が
身体の奥底より
沸き出でて

沸き出でて


全身が ピェンピェンピェン 鼓動を開始する



とうに鯨は海底へ潜った
深い海底へ
とても深い


2005年07月19日(火) びしょびしょ

笑っているんだね
笑っているんだね

・・・・・・・と
思ってしまうほど

泣いているんだね
泣いているんだね


2005年07月18日(月) 狐の喚起

早く気づけ それがしの爪先は凍えているぞ
早く知れ  それがしの目玉は往生しているぞ
早く判ろう それがしの精神は中肉中背と化しているぞ

きれぎれの悲鳴はどこぞより 流れてくるか
彼岸ではない 此岸ですらない 地獄極楽すら超越して
満目の海にそれはあっったよ
ざんざんざんぶらぶん 海から漂ってくる
なんでも知っている豊穣の水が詰まってる 海

とくとくとくとくとくとく とくとくとくとく
低いくぐもった悲鳴 小さくなってゆく
縮小 縮小 縮小 縮小
縮小の果ては 沈黙に満ちた満目荒涼


貫く石像の鼓動 どっどど どっどど どっどど
石は沈黙に支配されていない



狐が とーん 
とーん  とーーーーーーーーーーん
軽やかに跳びはねてやってきた やってきた
切れ長の眼は全貌を見回して

 くるん 
 くるくるん

一度、二度、尻尾を振りまわしちゃって


2005年07月17日(日) さぼてんてんてんてんつくてけれっつのぱ!

指先をサボテンの針に押しつける
それは刃物のように鋭くもない針だけれども、
柔らかい皮膚の一点にぐいぐいぐい
指先を放すと そこには一点の赤黒い跡が残る
やがて徐々に皮膚は盛り上がり 圧迫された跡も消え失せる

人体の妙そこに見えて もたもたもた あわあわあわ にたにたにた


2005年07月15日(金) 盲目のおんなと、聾のおとこ

あなたが私を貫いている間中、
蝉の鳴き声が時雨のようにいつまでも降っていたわ、とは彼女の弁。

おれがおめえに包まれている間中、
空はどんどどん赤くなって紅くなって灼熱ってたぜ、とは彼の弁。



沈みゆく烈火の塊を背景に ふたりは何度も何度もむつびあう

その様子を眺める空は にたにた紅く染まって笑ってる
時雨の声を鳴らす蝉 ふたりに獰猛な気配を察するがいなや飛んで逃げ去った


そんなふたりの結末は どうしようもない エクスタシー
そんなふたりの結末は どうしようもない エクスタシー
そんなふたりの結末は どうしようもない エクスタシー


2005年07月14日(木) 豪傑無双の自尊

きいろのなかにいる おんな
あかいろのなかにいる おんな
どどめいろのなかにいる おんな
ちゃいろのなかにいる おんな

いろいろいろいろな色のおんながいます

けれど そんな中で あのおんな


無上の色をしたあのおんな


あのおんな見つけたおれの眼
ほんとうに ほうんとうんに
いいだろう


2005年07月13日(水) それだけのことになにをわざわざと

ねこは



額をてからせて



首筋をかく


2005年07月12日(火) 悔い改めるのはおれだ 絶対に そしておめえもだ 絶対に

ちゃんちゃん まったく大丈夫だよう

おめえの声は きちんときこえてるよう

くそう なんだよう その眼はあよおう

おめえ 

おれが聞こえねえからって その眼は

ねえだろう

くそう なんだよう

くそう じつにくやしいなあ

くそう ほうんとうんに聞こえているんだけどなあ おめえの声

ちっくそう どうしてそんなに

かなしい色で おめえは声を出すんだよう

おめえは聴ける んで おれも聴けるとゆってる

ほらほらほらほらほらほらほらほら

決してまばゆくもない黄色でおめえは なげいてる


そんなにおれは   障害者か?


2005年07月11日(月) 己がへの嫌悪

薄ぼんやりと

キーボード

たたいて


明星の夢の眩さに痺れる体液の脈動をいつまでも知らず。


2005年07月10日(日) 最愛人

そこにいるのは人間だと
とりあえずだれもが教えてはくれた


そこにいるのは仏だと
だれも教えてはくれなかった


「おれ、手を合わせるよ」
ついぞ頭蓋骨に満ちるその一言



だれも知らないおれだけの仏
君への合掌


2005年07月09日(土) ぴゅるぴゅるっ

君は太陽へ口にふくんだ水をふきつけた

まったく冒涜にも!


だがそれは、存外に心地良い光景でもあったよ


2005年07月08日(金) しゅだま

微細なうつむきに 万古の意味を含ませて


細やかな手の流れに つるつる音は流れて


わたしたちの言霊は 顔と手にやどらせて


空間と混じりて放つ我らが手霊 しゅだま


2005年07月07日(木) 発酵

無人の部屋が見える窓がある

いぬは肢体の引きちぎられた人形と戯れながら
その部屋にたたずむ少年を見ている

少年の手には言葉がにぎられていた
いぬ、人形をくわえて走り去った

少年は幾星霜も朽ち果てることのなき部屋に
くるくるとまわりまわりまわり

人工的な白い明かりもその眼を照らせず


やがて少年はにぎっていた言葉を壺の中へ
愛おしく愛おしく豊穣な慈しみの手つきで収める
ほんとうに ほうんとうんに 大事そうに


壺の中

屑?

宝?



それすら頓着もせず 少年は信じないことを無上に信じてる

くわえていた人形 いぬは疾走のうちにどこかへ落としてきた

駆け去るいぬの背後に広がる荒野に家がひとつ 人形がどこかにひとつ 壺がひとつ

少年がひとり


2005年07月06日(水) 午後2時38分にて悪寒は疾走

おれはなにも知らなかったと めざましく自覚して
おれは存外に無知であったと まばゆく知ってしまって

本を読み漁って 積ん読崩して ぴああああ
読めば読むほど無知は遠ざかりもして、迫りもして、
ぬかったね ぬかったなあ ぬかりましたよ
って なんだか あわあわあわてるように


ぬかったね ぬかったなあ ぬかりましたよ
って なんだか あわあわあわてるように
なんどもなんども 指先の震え なんども打ち寄って


2005年07月05日(火) そこに突風は吹かない

君の去った跡で君の残影がまだおれに手をふってる

おれも手を振りかえすよ そこにいたからね


2005年07月04日(月) 忘れん坊やめがっ☆くははっこやつめがあ〜とだれぞ我が額を突いてくれぬものか

印鑑を探し求めていたはずであるのに
いつしか冷蔵庫を開けてヤクルトを眺めて「はて?」
と首をかしげる瞬間ほど自分を信用ならぬ時はないねんねん


2005年07月03日(日) 手話通訳者

「あなたの病気は治りません」


その医師は息を区切ることもなく、
ためらう様子すらもなく、
ぱららららと一気に述べたてた。

その際、ずっと医師は患者の方を見ず、
私ばかりに向けてぱらららららららら。
どれほど「彼へ目を向けて言ってあげてください」と言っても聞かない。
聞こえるはずのあなたは聞けないの?

そして宣告を告げられた患者は
一言たりとも見逃すまいぞ、といった様相で
視線を崩すことなく私の手を凝視している。
とってもとっても 当然なことだ。

でも。

私は手話「通訳者」で、宣告されるのは私じゃないのに。
お医者様、あなたはどうしてそんなに私の方ばかり
見ていられるの?

彼なのに。

私を間に挟むことで、どんなに重苦しいことでも言えるといった感じね。

彼なのに!



どうしよう
わからない
どうやって言えばいいの。


2005年07月02日(土) 影は何事か囁いている

目が見えなくなって半年…か。
もう疲れたな。
触手話なんて面倒くせえ。
あいつの顔が見たいのにな。
あのこの胸のふくらみ見たいのに。
くそ、これはなんだ。邪魔なんだよ。どけ。
アツッ、花瓶か。いたたった、こりゃ足の裏を深く切ったかな。
んま、どうでもいいわ。
ちゃわわわわ、なんだってあすこでスピードを出しちまったんだろう。
っつーかあのガードレールなんだってあんなに近いんだよ。
今日は眩しいな。こらええ天気なんだろうな。
きゅんっとする空なんだろうな。草の匂いがするぜ。
そうだよ、もうすぐ夏なんだよな。
夏だよ。
夏。
もう疲れたな。
もう疲れたな。
こんな真っ暗な世界、いらねぇな。





看護婦休憩室のドアが開いた。目に包帯を巻き付けた患者は、眉をひそめる看護婦の目前をよぎり、右手を壁にあてたまま空いた左手で何かを探すように上部へ手をじくじく回している。
他の看護婦たちも不審のまなざしを患者へ向けていた。患者が近づくと、気圧されたように看護婦たちは遠ざかった。ぺたりぺたりと歩く足跡ひとつひとつが血にまみれてドアから廊下から延々と続いていた。
その1人が「あの、どうなされましたか」と訪ねた。
返答はない。
やがて患者はポケットから荒縄を取り出した。
「ちょっと、何なされているんですか」やや咎めるように強い口調で年配の看護婦が訪ねるけれども返答はない。やがて患者はコート類を掛けるホックを探り当てた。それは古くから取り付けられた丈夫なものだった。ぎくしゃくしながらも手慣れた動作で荒縄をホックに結びつける。そして一本の輪を作り、自分の首に巻き付けた。
なにかの冗談かと、なにかの不備だと、なにかの不具合だと、なにかのミスだと、それぞれの看護婦はそう思いながらも動けなかった。衆人環視の中でまさかね、といった想いが何よりも勝って。

そして彼は薬瓶を取り出してあっというまに中身すべてを飲み干した。
ずるずると手より滑り落ちる薬瓶に詰まっているものは看護婦たち皆知っていた。
劇薬指定の眠り薬だった。
勿論事態を把握できた看護婦たちの迅速な対応で患者は一命を取り留めた。



「せめて最期くらい自分で選ばせておくれよね。いやしかし休憩室とは判らなかったなあ・・」
眠りから覚めた患者の一言が同様の障害を有する親近者たち脳天の溝ひとつひとつに突き刺さった。


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