ことばとこたまてばこ
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2005年08月31日(水) 音の落とし子

おぼろにかすむ音をまんじりとせずに両目でしかと見つめ重ねばいかんのだ。

うわさをしている敵の銃口はまんまるくわたしを見すえながら。

白き黒き赤茶けし壁に剥き出しの虚空が見えてそれは豆腐の純白。

こはく色の宝石で現世を透かし見たらば、ほうら、ご覧よ!ご覧よ!なんと美しい「う」なのでしょう!

けたたましく屁を乱れ咲かせても誰も気づく者ぞ無し、かと思えば悪臭に振り向かれた、殴られた、やれうれし。


2005年08月30日(火) 無意識な魂からの音楽

まるで世界が歪んで見えるほどに悲痛な出来事があった。

わたしは車を走らせながら嗚咽している。

世界が見えない。

ハンドルを握る手は極上の悪寒に絶え間なく痙攣している。

世界がどこにもなかった。

どんなに息を吸い込もうとしても吐き出そうとしても、吸えない、出ない。

車ごと溶けてゆく世界に呑み込まれてく。

ノー、ノー、ノー! いやいやいやいやいや! いやだいやだいやだ!

泥の世界に包まれてまばたきもウィンクも出来ない。

ハンドルに抱きつくようにして滂沱、うわあわあわあわあわあああああ。

ブッ ブップァッパァッ パッパッパブッブバッブー プァップッブー!

涙に濡れる頬でクラクションのホーンを盛大に鳴らしてる。

世界は泣き声を掻き消すクラクションを運ぶ

どこまで?どこまでも!



ブーー ブップルブブブッッブ 
ブッブ ブップァッパァッパー!
BUBBUBBUBBUBBUBBUBBUBUBUBULTU 
ブルップルップ 


ブァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!


2005年08月29日(月) 狂わないで 神さん

おちぶれた神さんは誰もが嫌がる死者の憎悪を一身に受けるデスクワークしてる。
タールにも似た悪臭を放つ魂はまじ汚らわしいわってゴム手袋でつまむ。ジャスミンの薫風漂わせる魂はまじ清らかだわあって舌なめずりしてつまむ。うわあ、うわあ、うわあ、やりきれねーよ。やりきれねーわ。息がつまってる。ふんくくん。


金曜日の夜は花の夜。後輩の女神様を傍らに、うははっ。えらいこと気持ちよいわ。神のみぞ汁という美味なる吟醸酒を摂取し続けて泥酔。


目覚めたらば 一体どうやって落ちてきたのか人間界。

富士山のふもとから優に上半身のぞかせてうろたえた神さん。
「罰せられる、罰せられる。極楽のような快楽の責め苦を受けてまう」
極楽のような快楽の責め苦とは、まあ一応神さんがいたところは極楽であって、煉獄のように血で血を洗うような野蛮な拷問が無い代わり、上にも下にもおかぬ至上でサイコーな苦痛の一切ない持てなしを一生涯、受けて、受けて、受け続けると、自らの肉体に痛みがなくなる。例え神々とはいえども数ヶ月快楽を貪ると自らの肉体を傷つけたくなるという衝動を覚える例がある。しかしいくら傷つけようとしても瞬時にどこからか天使が軽やかに虹色の粉を振りかけて治療してしまうので無くなってしまい、その果ては狂気しか残らない。
神さんは焦りにぶるぶる震えて爪を噛みながら足踏みをした。
すると天に雷鳴が轟き、地は未曾有の大地震。巨大津波。

おおよそ14万3858人が死に絶えた。

神さん、瞬時の出来事に眼を見張りながらも
「あはは、わたしってすごい」
と思って調子づいて立ち上がる。そびえ立つその御身は3776メートルの富士山がただの小山にしか見えないほどであった。そしてやおらに青森県付近を枕にしつつ寝っ転がった。背中がチクチクするわん、とくねくね寝返りをうつたびに地上では阿鼻叫喚。

おおよそ1億8746万3887人が死に絶え、息も絶え絶え。

「うふっ。あはっ。あははははは。ぴゃははははは」
何が可笑しいのかというと神さんはもはや自暴自棄となっていたのであった。つまりは狂ったのだった。ばふふんと吐き出す笑い声は数万人をつんぼにし、二日酔いと偏食につぐ不健康な生活と口内炎がもたらす口臭は広範囲に広がり、沖縄にいる犬も白目を剥いて反吐をまきちらし尻尾を突っ張らせるほどだった。

「ぴっちぱっちちゃっぷ らんららんらーららん」
まるで幼子のするように日本海をかき混ぜる。狂乱の津波に韓国、中国、朝鮮も水浸し。

「るんるるん らんららん うふふ あはは あーっはっはっはっはっは」
急に立ち上がるといとも可愛らしげに首をかしげたりしながらリズミカルに軽やかにスキップをして太平洋を渡る。

晴れた日に神さんは蒼い海と蒼い空の下で気味の悪い笑顔。


2005年08月28日(日) さげすむ声の色というんは まるであの漆黒のようだね

中指おったてっぱなしで
世界に憎悪を隠しもせずに
己への嫌悪感すら隠しもせずに
一途にひたむきに懸命に
永い間呪詛のうめき声を
じゅるじゅるじゅるじゅるじゅる
唾液の泡をしたたらせてね

世界はまじで美しいなあ
黒地に鮮血の赤がまじで
大気に漲る陰鬱な黒雲が
世界をまじ美しくしてる
酸性雨と同時に水子の降りし現世の闇
じゃんぱじゃんぱじゃんぱじゃんぱ

どーうるるる どぅーるるるる

三途の川 蜘蛛の糸 れんごく 火あぶりぶりぶり つみいし
うふふふ わかってるさ おめえにこれはまったくのごほうびなんだから

地獄の責め苦に そんな歓喜のよだれたらすおめえは
極楽浄土にい続けたせいか 痛いことも 痛いと判らぬほどの
まるきり馬鹿になってしまった おつむは虚構だけがつまってるね

あはははははははははははははは

罪深き極楽浄土よ

くははははははははははははははははははははははは

罪深く罪深く罪の尽き果てない 極楽浄土!

ぎゃはははだはは むははははははは ひゃぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっぱ


まだ きづいてない!


そこは極楽浄土なんぞでは ないのに!

まだ きづいてない!


ぱっぱぱぱぱぱぱぱぱあぱぱぱぱぱぱ ぶぱぱぱ 


2005年08月27日(土) 堅くてあっついわ

男女の垣根が遣わす陰影に
世界は心持ち心地良くまどろみながら


未だ見果てぬ女の業

未来永劫 小豆はかじりとられません


2005年08月26日(金) 我が浮き世に何をする

あいつ賭博でうらぶれて
なにをし手持ちぶさたで   
どうし立っていられずに
ことご得もせずに
これほ友もいずに
すべ手堅く無難に
どんな担わずに
どこまどろわねばならぬの


2005年08月25日(木) 新宿

陽光を背にうなだれながら嗚咽するあの男
眼鏡のふちが欠けて割れているあの男
極貧の欠乏によりてフケも尽きたるあの男

それぞれが同時に 黒い乳バンドを片手にしてた




夜明けの晩に 無礼者 無礼者う 無礼者めらああああ 老婆が疾走
ぱんとした尻 くんくんとつきだして 乳房と 陰嚢がぶんぶんしてる
くたびれ びれた ビルの隙間 路地裏の壁の落書き



ほほほほほほほほほ
ワンコインですべて覗かれたよ まるはだかだよ


2005年08月24日(水) 精神を聾せんばかりに聞こえるあの泣き声

井戸の中から幼子の泣き声が聞こえてくる
聞こえぬはずの我に聞こえてくるこの泣き声
ああ、どうか、お静まりになっておくれ


たまらないのだ たまらないのだ たまらないのだ たまらないのだ


まるで           











白い 


2005年08月23日(火) 懇願

ちりぢりとなる おれの情感
それでも いつのひか いつのひか

ふそんにも この 地球のように
滅亡をどこかに潜めながらも 純粋な



に成り得るのだろうか


2005年08月22日(月) 嬉しがり憂えり

みとりの葉かがやかせる いっぽんのうぶごえ





わあああ わ わあ わああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああ







あんまりにも いのちだからこわくて たまらなくなって
つい 身をこわばらせ 強く 目を閉じてしまった


2005年08月21日(日) 障害者は戦場へ行った

「障害者だろうと、健常者だろうと、皆、生きているのです!人間なのです!」
拳を振るわせてぶるぶるしながら眼に薄く涙を浮かべるパフォーマンスを基にどこまでもヒューマニズムで過剰な優しさを隠れ蓑にしながら、あなたがたは障害者を第一線の盾にせんと愛国者の足りぬ第三次世界大戦の戦場へ駆り立てた。ノーマライゼーション・ウォー勃発。


2005年08月20日(土) 狂うほどに 踊るほどに 愛するほどに

この無情なる社会にすっかり圧縮された君の心ぼくが解凍してあーげよう!

なんつって、台風の目の中でくるくる跳びはねながらステップ

くるくるくる し過ぎ 遠心力に脳みそ ふるふる 震えて 視界はプルプル

何をしてんなー あったらばかみたいー なんつってー たはははは

冒険手帳を右手に! 鬼ころしのとっくりを左手に! ウァウ ウァウ ウァウァウァウァウァウァウァ 三三七拍子 ヨーソロー! ヤァヤァヤァ 魑魅魍魎 皆様方ようこそおいでなさられました  ほらご覧なさい あすこに灯る光こそわたしの蒼い巨大な眼ですよ


目もとうに過ぎ去り 疾風怒濤の荒々しい風雨の下で一心に乱れ踊り
君の圧縮の心 どうにかならんかよと胸に潜めながら テンテンテケレツノパ ンパッ 尻を震わせる


2005年08月19日(金) 太古より受け継がれてはこれからの音

1分間に心臓は75回動いている

それでもおめえは停滞?

5分で375回 10分で鼓動は750回
今日という1日で108000回 血脈運ぶドキャドキャキャ



そのまなこはただ盲いるがために存在するのではないのに
その皺だってただ痩せさばらえてきただけの証拠ではないのに
おめえ忘れてるナ すっかり忘れてしまっているんだナ




その心臓は疑いもなくおめえ自身が動かせているのだぞ!


忘れてるナ! すっかり忘れてしまっているんだナ!


2005年08月18日(木) どこまでも 深く 恥じ入り

「ああ、いい夜だ」
と、口に出して言ったことがないことに思い当たった。


わたしはうふうふしながら色々と様々と表現を交えて色々なこと感じているつもりであった

だが、こんな単純でシンプルなことを一度も言ってきていなかった、

別段知らなかったといってもダメってこたあ、ちっともないのだけれども
ふとした拍子に気づいた物事があんまりにもシンプルで単純な物事ほど


なんだかショックだな
なんだかそれはとってもいけないな



2005年08月17日(水) ぶほぉおおんおんおんおん・・・とそれはドップラー効果をかもして

久方ぶりに補聴器をつけて、己の屁の爆音に肝を冷やした。


2005年08月16日(火) 遺書ならぬ遺手話

夫がいなくなってがらんとした書斎に立ち入るときは悲しくも心躍るのだ。それは暗い青空のようで、または明るい泣き顔のようで、相反するはずのもの同士がどうしてか共存している感覚。

ああ、蝉の声がひびく。この頃、ちょっと熱すぎるくらいだわ。
じっと立つだけでもふき出る汗で全身がぬらぬらする。
昼間でも薄暗かった。電灯をつけると「あ」から「ん」までの指文字が描かれたポスターがまず眼に止まる。


夫は耳が聞こえなかった。
死者にむち打つようで思いをはせるのもはばかられるのだけれど、夫はきちんとした教育を受けてきていなかったようで論理や理屈といった(それは「愛」や「空間」といった実体のないもの)抽象的な事柄を頭の中で組み立てるのが不得意だった。
声を使った会話はいつも「おごはん」や「おふろ」といった単語だけで(表情と口調はきつく刺々しくとも、どの単語にも必ず「お」をつけて丁寧語になっていた)、あとは手話だった。
わたしはボランティアで手話サークルに一度だけ参加したことがあり、その一回で夫はわたしを眼につけていたようで幾度となくアタックをしかけていた。そのときの夫はわたしよりひとまわり年上だというのにずっと独身だった。

初めての出逢いで印象に残っているのは、頭をひとなでするとき抜け落ちないように至極丁寧にちょろちょろとなでつけていたことだ。「だったら さわらないほうがいいよう」とたどたどしい手話で言うわたしに「ちかくにきれいな人がいるんだから おされしなければならないのだよ」と表情をぐるぐる変えながら素早い手話で答えたのだった。あれには笑った。



30年前の私といえば、椿三十郎の「もうすぐ四十郎だがな」という名シーンにちっとも笑えないどころが過剰な憔悴感に太鼓の鼓動を持ったように子宮がドンドコドドンとうずかせていた。

出逢いがなかったわけではないのだけれども、なんとかなるわいさー、なんてだらだらしていた眼を見開いてみた時にはもはや遅かったのだ。 あの人なら、ま、大丈夫でしょ、などとたかをくくっていた相手も気づけば最愛人を見つけてた。も、誰でもいいわ、と思っていた矢先、夫がプロポーズしてきたのだ。
「おれとお結婚!」なんて。ほんとそれだけ。しかも場末の極貧居酒屋でくっさーい合成酒をこぼしつつ手ばしるように。
でもわたしは結局そのつかみどころのないくにゃくにゃした彼を憎からず思っていたし、うずく子宮に抗うのも限界だった。41歳だった。



でも結婚してからがとても大変だった。
言葉が通じないのだった。わたしは手話を覚えだしてから夫と結婚するまでの手話歴といったら3年程度のもので日常会話は声を使っていたのだが、夫は生まれつきのろう者で会話のすべてを手話で賄っていた。深いところまで意志を疎通できたことは、あまりない。いえ、ほとんどない。

それに手話を言うとき、わたしは手の動きばかりに全神経が行ってしまい表情を加えるということができなかったのだ。夫はそれが不満だったらしく、「言ってること わからん!おのっぺり つまんねー お顔! お手話 お勉強しろよ!」と怒声をしばしば放った。時々うまく物事を言い表せなかったときなどはむやみやたらに顔をしかめ、まゆをひそめ、わたしを殴った。


でもそれも夫婦生活が3年を越えるころには、互いの癖や距離感がつかめたので少しは収まった。

さらに8年を越えたころ、夫が階段から転げ落ちて脳内挫傷で急死したのだった。その場で一緒にいた人の話では首を曲げて後方の友人へと向けて手話に夢中になるあまり、階段の位置をとらえ損なったようなのだった。

じつのところあまり驚きはしなかった。手話にくいいる夫の真剣な顔を思い出すとあり得ない話ではなかったからだ。



そして四十九日も過ぎたいま、夫の死後はじめて書斎に足を踏み入れた。死因に対してこそ驚きはなかったけれど、10年といった歳月の喪失感は予想以上に大きく、しょぼしょぼとした雑用をつぶさにこなすだけの日々だったが、もう、そろそろ、かな、と思い立ったのだった。

机の上の道具や本、紙・・・それらのほとんどがろう運動に関連するものだった。
夫はろう運動にはまったく眼がなかった。こんな言い方はおかしいかな。でも趣味らしい趣味もない夫になにか夢中になれるものがあったというだけでわたしはひとりこっそり安堵していた。

整理を始めて数時間もたったろうか。一枚のVHSを見つけた。それは本棚に無造作に入れられていた。
それまでにあったテープにはきちんとラベルが貼られて内容物も書かれていたのに、これはなにもなかった。気まぐれに興味を持ったわたしは休憩がてらお茶でも飲もうと思い、そのテープをデッキのある居間へと持っていった。

暑いときこそ熱い飲み物ね、とわたしはやかんのお湯をぐらぐらに煮え立たせた。
慎重にほうじ茶の注がれた湯飲みをちゃぶ台に置き、テープをセットする。


最初は暗い画面のままだった。数分過ぎてもなにも映像は出てこない。
ただの失敗したテープだったのかな、と思って腰を上げはじめたころ急に映像が始まった。


『なーんだ!これか! フタだよ!カメラにフタしてたらなにも映るわけねえだろう ぼけえ』
夫の顔だった。映像の中の夫は亡くなる直前の服を着ていた。それは確かだった?わからない。わたしの覚え違いかもしれない。でも、瞬間あのときの服だと思った。
『うあっ うえっ』なにかかしこまって言おうとする直前にする癖のせきばらいだった。
『あれ、覚えてる?』そうだ。いつも唐突にしゃべるんだ。相手のことなんておかまいなしに。
『楽しかったナー 結婚しようって言ったよな おまえ恥ずかしそうだったな なあ』
『おまえがさ いいよ! 言ったとき おれ うれしかったんだよ ほんとほんとほんとほんとほんとほんと』
『ほら 見てみい』映像の中の夫がバーコードのようにぴちりと手で押さえたすだれ頭をカメラに向ける。
『はげだよー おれってー はげだよー おれってー』夫の冗談には特徴がある。同じ事を二度三度繰り返すのだ。
『はげー おれ はげー』それが笑いにつながるに効果的かどうかはまた別問題だけれど。
『はげ はげ んくく』時にはしつこい。
『はーげ』でも妙にそれがどんどん面白くなってくることがある。
『はげっ!』わたしはちょっと泣きそうだ。そのしつこさが懐かしい。

夫の表情は、良くも悪くも他人どころが妻のわたしにすらこびへつらうことなく自分の表情そのままを見せてくる。それは、こうして理屈をくつくつ述べているわたしには一生涯出来ないことなんだ。

『おまえと 結婚』
結婚という手話は、男を示す親指と、女を示す小指をくっつけあわせるだけのとても単純なもの。
『おれ 嬉しかった』
嬉しかったという手話は、両手を胸の上部で振りまわすだけのやっぱりとても単純なもの。
『結婚 嬉しかった』
単純な、単純な、単純な!
『ばかだからおれ』
一瞬、どうしよう、とおもった。わたしは実はあなたをばかみたいと思っていたことがあるのだから。
『・・・・』
手話にも沈黙がある。あたりまえのことなのに!
『わっかんねえーや』
これだ!いつも夫がする表情!おどけているのにとても寂しい顔!言い表せる言葉が見つからないあと、いつもこの顔をする。
『お前 元気! おれも元気!これから。ずっと。ずっと!』
どうしよう。どうしよう。どうしよう。何度も何度も何度も、どうしよう、と思った。
夫はとても幸せだったようだ。ひきかえわたしは、なに。
ばかみたい、とこっそり蔑んでた?
こっそり、が余計悪い。
どうしよう。どうしよう。
『いっしょに・・・』
ぐるぐる変化する表情を一寸強ばらせた、かと思うやいなや映像は途切れた。


残された者はあまりにも無力だ。先にめしいった者へ何も言えなさすぎる。







月は満ちている。


2005年08月15日(月) 月の下僕の犬の最期の遠吠え

積年の放浪の末、髄までくたびれた風貌の野良犬が
汚辱にまみれてこわばった喉を奮わせながら遠吠え


あんまりにも黄色いあの月へと 叫ばずにいられなかったよ


うううる ううる るるううう うーるるるう
うるるうる ううううる うる うぷるる


遠吠えは空間を あてどもなくまろびつつ 虚無に吸われつつ
やがては小さく 細く ぴらぴらに まったいらな声



ううううううううううううううううううる うううううる
うるうう うーうう 
うぁーうう うーうううるうる うるううるるるるるるるる
るるるるるるるっるるるるるるっるぁーう


鼻先をくんくんと高く上向きにして
いつまでも いつまで 吠えつづけ
極限の乾きにカラカラの喉は張り裂けた

血が喉をつるつると流れる

犬は血で喉を潤しながら




まだ 吠えてる


うーーーーーーーううる


もうチョット


2005年08月14日(日) サヨナラサヨナラ さようなら

ハムスターが永遠なる闇に向けて眼を閉じたその夜
見物台の赤茶けて錆びた手すりをつかむ

月と金星 見やっておくれ どうか見やっておくれ
各方をも越えし彼岸の地へゆかんとする彼のために!

あいつはなにもしゃべらない
傷ついた眼からも涙は流れる 傷ついた指先からも言葉は沁み出でる
あいつはなにもしゃべらない
極上の冷気にあいつの御身は こわばったのだ
あいつは言葉をもたずに
くるくると ちゅうちゅうと ぱちゃぱちゃと
凍りつき傷ついた体を INUは舐める ぺにゃぺにゃ

機関車のごとき がさつに動力な勢いにひっぱられながら亡骸は
優しくもない 冷たくもない だたそこに立つ観覧車に見下ろされている


2005年08月13日(土) 影を彩るは光

過剰な沈黙もやがては静謐とならんことを祈り、月夜の晩に君の背中をながめてる。


2005年08月12日(金) いいことが

そのいいことはとてもなめらかに起こりました。


2005年08月11日(木) 個人的な体験

ほんとにどうしてかこればっかりは言葉に直しようがないのだけれども
湯上がり裸体の我が乳首を頭垂れつつぼんやり眺めてるとやたらにみだらなかんじがぼろぼろっ。


なんでかなー
わっかんねぇなー


2005年08月10日(水) 音ずきんちゃん、気をつけて

るんたらったらった るんたらったらった
おかあさんの言いつけで わたしはおもむきますよ
さばのみそ煮とかつおぶし4ふくろ はいった手さげかばんをもって
練馬区東大泉の都営アパートにひとりくらしてる おばあさんのおうちへと
るんたらったらった るんたらったらった あかい あかいスカート ひるがえしながら

これからでんしゃにのります あれれ どのきっぷだったかな
あれかな? これかな?
あれれれ えきのかんじもよめないわ
まえ、おかあさんといっしょに行ったときは・・・

音ずきんちゃんのちっちゃなあたま ぐるぐるぐる
あんまりかんがえちゃったものだから 体もぐるぐるまわり くねくねしちゃってる

そーうだ!

ぴゃんと とびはねた音ずきんちゃん。

これだ これだ これだ!

るんたらったらった よろこびながらちっちゃな手でこぜにをつかみせのびをしながらけんめいにひとつずつ入れてく
とつぜん おんなのこみたいにながいかみをしたおとこのひとが 音ずきんちゃんをみおろす
「ーーーーーーー。 ーーーーー。 ーーー?」
なにかをゆってるみたいだけど わからないわ
こまったこまった音ずきんちゃん ピカチュウのおさいふをきゅっとにぎりしめる

なんだか鼻がかゆくてあついきぶん うぇひううう みょうな息がもれてしまいます
でもちらっとみてみたら おとこのひともなんだかこまってるみたいです
あっ こまったときといったら おかあさんがこれをくれだんだ

音ずきんちゃん ぽっけからおりたたんだ紙をとりだしておとこのひとにわたした
それをよんだおとこのひとは ほっとしたようなかおでまたなにかいいはじめた
「−−−−−−、おおいずーー ーだーーー円」
こんどはちょっとよみとれたわ おおいずみ そうそう そこにいきたいの!

音ずきんちゃん にっこりわらってなんどもうなづく
おとこのひとも にっこりわらってたかくて背のとどかなかったキップのぼたんをおしてくれた


ーつづくー


2005年08月09日(火) 空と海と山に等しく

愛が示す事柄は無数にあれども、愛はなにも言わない


2005年08月08日(月) 妙な地獄

驚愕の驚嘆の阿鼻叫喚を共感する今日出会った郷友。


2005年08月07日(日) そうだな、もう夏なんだよナ。

「我が愛しの駄犬さん、お散歩ですよー」

玄関を開けて近場の公園へ赴こうとしたところ、急に我が愛しの駄犬さんがたちどまった。
「お散歩ですよう」
呼びかけてつなぎ紐をくんくんひっぱるが何故だか頑固に動こうとせず。
その視線はおれを通りこしたうしろにある何かの方向へそそがれている。
疑問に思ってその視線をたぐりながらうしろを振り向くと、そこには一本の木があり、セミがとまっていた。
合点。おそらくジャージャージャーとでも鳴いているんだろう。
はは、こいつ不思議そうに眼をまるく見開きながら首をかしげてる。

そうだな、もう夏なんだよナ。


2005年08月06日(土) 記憶の死骸は甦って

ぼくたちはなんだかいろいろと忘れてしまっているね

はじめて開いたこの眼がとらえた風景はなんだったのだろう
言葉の意味を知らなかったぼくたちの見ていた世界はなんだったのだろう
姿が見えぬ怪物の影に恐怖していたあの時はどうしてあんなに怯えていたのだろう
身体中をあのあたたかい身体中につつまれるとどうしてあんなに幸福だったのだろう



これをお食べと祖母からもらった桃をなでさすりつつ
「ほんとうになんだかいろいろと消えてしまっている」
と、とめどなく思いながら


2005年08月05日(金) 未熟者さん

差別なんてどうにもいっけませんよう、
世界は・・・・愛なんだ
なんつって悟りを開ききり脳髄とろとろないい人ぶっていた。だのに!


携帯メールを女子高生並みに機関銃連打する、推定90歳の老婆を目の当たりにして


うそだ それはあってはならぬぞ。
老婆といえばストーブに暖まり背を丸めながら「これはなんど?」と携帯電話を
つぶらな眼に疑惑の色を浮かべつつ舐めたりしゃぶったりせねばならぬのだ!


などと周到狼狽して都合の良い思考を思ってしまい、
聖者なはずの我に自身の見えざる差別観念が暴露してしまいうろたえた。


2005年08月04日(木) 世界で最も熱い手話

可愛くそして豊穣な乳房のなだらかにも似て
ああ 眠りたい 眠りたいと「死」にも似た気配
静寂閑雅とした 凍てついた金属の冷たさも想わせる

だけども それでもなお!

それはひとつの終焉の方角をしめしうるが
感情のトーンを一際高く上げてしまう歓喜と共に


おまえの手を わたしの手を

だらしのなくほっぺた紅く染める おまえというおまえの手を
飢えて夢幻に盲いりそうな わたしというわたしの手を


生物の彼岸に架けられた橋のまっただなかで
おまえの手を わたしの手を
そっと しかし つよく ふかく にぎりしめる


煉獄にてどうにか生える草葉も ついにほむらに揺れた


2005年08月03日(水) 切実の祈り

ごめんよ、おれ耳が聞こえねえの。
だから言いたいこと地面に書いてみてくれる?



という要望をすんなり聞き、指でけんめいに言いたいことを書いてくれた子供と出会った。
地面を彩るひらがな。



そんなに聞き分けがよくって、なに、おめえ、将来ぜってえ大変だぞ!
という批判と同時に
とりあえずはオトナのおれなのに信じ難いほどのこの、嬉しさ!



まったく矛盾にも、まったくほどがある
糞がボケ、とうめかざるを得ない今宵。

幼子でとうに人を想えるあの子が大器晩成とならんことを。


2005年08月02日(火) 親として

産まれた我が子を眺めながら
名付けた名前を叫ぶよりも

くふふ、コイツ何色になるかな

今はまだまだ透明な我が子の先の色を想う。


2005年08月01日(月) 音の壁におれは鼻からぶちあたった。鼻血が出た。

おそらくリズムに合わせてうっとりと眼を細めながら身体を動かせるあの子の横顔ってばはちきれんばかりに幸福そう!音楽好きのあの子を少しでも知りたいな!


という業火の如き下心に浮かされたせいでポータブル・オーディオを衝動的に購入。いひひ。これで少しは音楽好きのあの子の脳髄に近づけるかな、なんて。

加減が判らないので強くギュッギュッとイヤホンを耳に押し込む。
CDの選択は非常に迷った。元来音楽の知識に乏しいということと、スマップとかTVで頻繁に流れるようなものだと如何なることか我を保つのが困難なほどのぬらぬらする嫌悪を覚えるため、小説を通して知っている町田康ことINU「メシ喰うな」のCDを選んだ。封を開けてセットする。三角ボタンをうきうきとする歓喜と共にぽちりと押した。

ジャージャージャカ?

はて。いつ始まるのかしらん、と思っていたらばすでに鳴っているようだ。音量を示すと思しき棒が伸び縮みしておる。どうも今は最小音量らしい。はは、これを最大にせねばあかんよ。そこつそこつ。

グーワーグワブワカカカンキャン?

とりあえず音は聞こえた。けどこれって音?
いやいや、パンクとはいえども、これって音?
そもそも歌詞がまったく判らぬ。困ったな。




「その人の心の流れを知りたいのなら、その人の好きな音楽を聞くことですよう」
どこかの本で読んだ。少しでも音楽に恋い焦がれている人の書く文章には文脈の奥にその精神が見え隠れしている、とおれは見ている。
それは本棚を見ればその人が判る、というのと根本はおそらく同じなのだろう。だから、よけい困ったな。思っていたよりもむずかしいな。


音楽好きのあの子を知るにはどうしたらいいのかな。
あの子の心の流れによる響きを知りてえな。知りてえな。
音無し子だからといって甘えてはいけねえな。音楽とはなんぞや。
なんぞや。
なんぞや。
知るように努めねば、ならんぜ。ならんぜよ。ならんのだ。音の夜明けはまだ遠い。
すべてはあの子のためさ〜って暴走せんとする下心に、障害の壁にもろくめげてしまいそうな精神すべてを預けて。


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