日常のかけら
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◇一緒なの?◇

また、今日も雨。
昨日は霙が降った。
その前は…霰。
霰の前は雪がずっと降っていた。

白くて何の音もしない雪。
綺麗な緑も赤い椿の花も木の色もみんな白く染めて、色のない世界にしてしまう。
世界にお前独りだと言われているみたいだった。

その恐い雪を消すように霰が降って、霙が降って…

雪が溶けたら恐くなくなったけど、代わりに三蔵が恐くなった。
何もない所を睨んでたり、じっと外を見てたり。
纏う空気が恐い。

ねえ、何で恐いの?
何が痛いの?
俺と一緒?
ねえ、三蔵……

(悟空)


2008年01月29日(火)


◇鏡開き◇

今日は寺院の中がざわざわして、たくさんの人の気配がする。
すっげえ気になって、表へ向かうと本堂の前庭が凄いことになってた。
白いエプロンをつけた女の人や坊主達がでっかい包丁で大きな餅を切ってる。
その切った餅を違う人間が小さく切って、それをまた違う人間が小さく切ってた。
何をしてるのか全然わからなくて、回廊の隅からその様子をずっと見てた。
丸い大きな餅が角材みたいな棒になって、それがまた細い棒になって、薄くなって、最後には笙玄が焼いてくれる餅の大きさになった。
山のように積まれていく餅にただただ、びっくりするばかりだった。

夜、仕事が終わって戻ってきた三蔵に言ったら、

「ああ…鏡開きか」

って、嫌そうに言った。

「かがみ…びらき?何、それ?」

オウム返しに言って、訊いたら、

「正月に飾っていた鏡餅を供えから下げて食うことだよ」

と、教えてくれた。

「あれ…あんなにたくさん食べるのか?誰が?三蔵が?坊主達が?俺が?」
「あほう、あれは檀家信者に振る舞うんだよ」

俺の言葉に三蔵がぺちんと頭を叩いた。

「俺も食べに行ってもいいのか?」
「駄目だ。寺の行事だからお前はここで留守番」
「そんなぁ…」

勢い込んで訊いたのに駄目だしされて、俺はむくれた。

「ま、笙玄がぜんざいか汁粉か…雑煮か、何か作るだろうからそれでがまんしとけ」
「…うん、わかった」

ぽんぽんと頭を叩かれて、宥められたのに、渋々俺は頷いた。

(悟空)

2008年01月10日(木)


◇法要のあと◇

「うわぁ…煤だらけじゃん」

新年最初の護摩炊き法要が終わって帰ってきた三蔵は頭の先から法衣の裾まで薄汚れていた。

「うるせぇ」

ふるふると頭を振ればふわりと灰色の煙が上がる。

「いや、マジすげえって」

ぽかんとした顔で見つめていれば、

「ああ、今年は去年が不景気で良くなかったしわ寄せか何だか知らねえが、やたら護摩木が多かったからな」

そう言って、袈裟を外せば、袈裟の形に法衣の色が違った。

「色が違う…」

指差せば、それを見下ろした途端、盛大に三蔵の顔が顰められ、あっという間に法衣を脱ぎ捨てた。
そして、白衣のまま湯殿に足音も荒く行ってしまった。
俺は、三蔵が脱いで床に落ちた瞬間、法衣からもわっと上がった煙のような煤に見とれていた。

(悟空)

2008年01月03日(木)