日常のかけら
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◇居場所がなかったんだからな◇

せっかくの八戒の美味しい料理なのに、味がしない。
悟浄が色々遊んでくれるのに、少しも楽しくない。
つまらない。

昨日帰ったら、三蔵と笙玄の雰囲気が変だった。
三蔵は苦虫を噛みつぶした顔で、めちゃくちゃ不機嫌で、笙玄はニコニコ笑ってるのに纏ってる雰囲気は怖かった。
だから、何かあったのはわかるんだけど、何があったのかは訊けなくて、俺は居場所が無くて、少しも眠くなかったけど、早々と寝台に潜り込んだ。
起きたらいつものようになってるって、信じてたのに…。

朝になっても、昨日のまんまだった。

居たたまれなくて、外に行って帰ってきたら、三蔵が庭掃除をしていた。
眉間にたくさんの皺を寄せて、近寄れない空気を撒き散らしてた。

八戒と悟浄が来て、少しは元に戻るかと思ったのに、変わらなくて、俺は耐えられなくなって八戒と悟浄の家に来た。

来たのに…
楽しいことして三蔵達のこと忘れるはずだったのに…三蔵が気になって、笙玄が気になって…泣きそうだ。

「悟空…帰りますか?」
「……やだ…」

八戒が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「我慢すんな」
「…してない」

悟浄がくしゃって頭を撫でて、宥めてくれる。

「悟空…」
「帰んないかんな」

これ以上何か言われたら、泣きそうだ。
そう思った時、気配を感じた。

三蔵だ。
三蔵が来た。

迷ってるような、困ったような気配がするけれど、あれほど悪かった機嫌は直ってるみたいだった。
真っ直ぐにここへ向かってる。
迎えに来てくれたのかな?
違うのかな?
でも、三蔵がここへ来る、そのことだけで俺はさっきまでの泣きそうな気分が少し晴れた気がした。

顔を上げれば、八戒と悟浄の心配そうな顔が見えた。
その顔にふわりと笑って見せれば、ちょっとびっくりした顔をして、頷いてくれた。
でも…

「ちゃんと謝ってもらいましょうね」

そう言って、笑った八戒の顔がちょっと、怖かった。

(悟空)

2007年11月19日(月)


◇申し訳ないです…◇

大人げないことをしてしまいました。
本当に反省しないといけませんね。
でも、今回は本当に三蔵様の行状に振り回されましたから…。

寺院の会議は後ほど、議事録を頂ければ支障はありませんし、会議で決裁される懸案も、最終的には三蔵様の了承が必要になるものが殆どですので、会議をサボられても、すっぽかされても何とでもなるのです。
だからといって、出席されないことを認めているわけではありませんからね。

が、皇帝陛下は会議のようにそうは行きません。
この桃源郷を治める国主様ですので、そうそう歓談の機会をお断りする訳にもいきません。
どんな理由を付けてお断りしても、やはり続けてとなると、良い気持ちはしないものです。
それをわかっていながら、お会いになる直前で合わないと仰られたのです。
急なお呼び出しが斜陽殿からあったのが二回、病気だと偽ったのが一回、三仏神様のご下命で留守だと、居留守を使ったのが二回…本当に青くなりました。
急いで言い訳を考える身にもなって下さいませ。
そのたびに延々と小言を聴かされ、嫌みをねちねち言われれば、我慢の限界も超えようというものです。

何せ、皇帝陛下は三蔵様に会われるのを楽しみにしてお出でなのですから。

でも、まあ…三蔵様が皇帝陛下にお会いになるのを嫌がっておいでなのは知っていましたが、その理由が皇帝陛下の三蔵様に対するセクハラだとは気付きもしませんでした。
同席させて頂いておりますが、皇帝陛下は三蔵様の手を取られてお話をされる程度だったので、まさか、肩を抱かれたり、抱きしめようとなさるなんて…。

いくら三蔵様がお好きだとは言え、ヤリ過ぎです。
今回コトで理由がようくわかりましたので、次回からはその様なことがないようにしたいと思います。

ですから…悟空に居たたまれない想いをさせてしまったことが本当に申し訳なくて。
戻ってきた悟空がちゃんと許してくれるでしょうか?
帰ってきたら一番に謝らないといけませんね。
ええ、本当に大人げないことをしました。

(笙玄)

2007年11月17日(土)


◇ちゃんと理由はあるんだよ…◇

別に何の根拠もなく逃げ出した訳じゃねえんだよ。
大体、あのオヤジ…皇帝陛下の奴は、何かってぇと、人のことを触りやがる。
初めて逢った時は何もなかった。
そう…最初のうちは何もなかった。
が、その内、近くに来るように言われて行ったのが運付きだったんだよ。
肩に軽く触れられぐらいなら我慢できた。
譲歩して手を握るのも我慢してきた。
相手はどう言っても国の最高権力者だ。
逆らって鬱陶しいコトになっても困るから我慢してきたんだ。

それが、最近、度を超してきた。

大体、後宮に女を山程抱えてる男が何で、俺に懸想する?
普通はしねぇだろうが。
それが、手を握るなんて可愛いモンじゃねえ。
肩を抱き寄せるわ、握った俺の手に頬ずりするわ、この間なんか抱きしめようとしやがった。
思わず俺は身体をかわして事なきを得たが、あの後、暫く悪寒が止まらなかった。
人が逆らえないのを良いことに、好き勝手、セクハラするなんざ冗談じゃねぇ。

だーかーら、俺はすっぽかした。
ああ、貞操の危機なんぞご免被りたいんだよ。
それに、多分…いや、きっとそんなコトになった瞬間、俺は皇帝陛下の頭を撃ち抜いてる。
きっと、絶対、撃ち抜いてる。
そんなことに成らないための、危険回避だというのに…。

でも、まあ…笙玄に説明をしなかったのはまずかったし、悟空を巻き込んだのは、もっとまずかった。
後で、クソ河童の所へ迎えに行った時に、八戒に何を言われるか…。

返す返すもあのクソオヤジの所為だ。
ええい、腹の立つ!

(三蔵)

2007年11月15日(木)


◇いい加減にしたら?◇

「なあ…なぁんで三蔵サマってば、庭掃除してるわけ?」

久しぶりに訪ねた寺院で世にも珍しい光景を目にした俺は、三蔵がいる庭の端で座っている悟空に問いかけた。

「………知らない」
「何で?」
「遊んで帰ってきたらああなってた…」
「あらら…」

どこかふてくされた感じの返事に悟空を見下ろせば、怒った風な様子が見えた。

「お前の所為?」

問えば、

「知らねえって…」

と、返事が返って、

「でも、笙玄がめちゃ怖いから…たぶん……」
「多分?」

促せば、

「三蔵が悪いことしたんだ」

と、怒った返事が返った。
と言うことは、三蔵はあの温厚な笙玄を怒らせ、尚かつ罰を言い渡されるような真似をしたということだ。
だから、世にも稀な情景が目の前で展開されていると言うわけだ。

「あの笙玄を怒らせる程の悪いコトって?」

好奇心のままに問えば、

「さあ…わかんねえよっ!」

怒鳴るような返事を返してきた。
その剣幕に悟空を見やれば、泣きそうな顔が俺を睨んでいた。

「悟空?!」

名前を呼べば、あっという間にくしゃりと顔が歪んで、俺に抱きついてきた。

「お、おい…」

くわえていた煙草の灰が悟空に落ちないように、手で持てば、腰の辺りに抱きついた悟空のくぐもった声が聞こえた。

「もう…やだ…」
「何が?」
「三蔵の機嫌も悪いし、笙玄は怖いし、俺、居場所がない」
「はいはい」

悟空の背中を宥めるように叩けば、

「今日は悟浄ん家に行くからっ!」

顔を上げてそう言うなり、駆け出して行った。
その背中を見送って、三蔵を見れば、追いかけろと紫暗が睨んでいた。
悟空にあんな顔させるなら、さっさと謝って仲直りすればいいモノを…。
八戒が知ったら怒ること請け合いだぜ。
俺は了解と頷く代わりに、肩を竦めて見せ、悟空の後を追った。

(悟浄)

2007年11月13日(火)


◇怒ってます?◇

「えっと…笙玄さん、何してるんでしょう?三蔵は」

と、問えば、

「ご覧の通り、庭掃除です」

と、穏やかな返事が返ってきました。
でもね、笙玄さん、どうしてあの三蔵が庭掃除なんでしょう?
竹箒を持って、それは不服そうに、でも、仕方なさそうに掃除をしている姿は何だか哀愁を感じるのですが…。

「三蔵が何かしたんですか?」

と、また問えば、

「会議を三つほどと、面会を五件程すっぽかされまして、皇帝陛下から」たくさん苦情を頂戴致したぐらいのことです」

と、お茶が差し出されました。
会議をサボるのは日常茶飯事みたいなところがありますが、面会という名の皇帝陛下との歓談を五回もすっぽかせばそりゃ陛下もご立腹なさるというものでしょうね。
その後始末と言い訳を笙玄さんがしたと…。

「お疲れ様です」

と、言えば、

「毎度のことですから」

と、にこやかな笑顔が返ってきました。
悟空が言っていた意味がようやくわかりました。
僕も気を付けたいと思います。
で、三蔵の庭掃除は罰ですか?
それともお仕置きでしょうか?
ね、笙玄さん?

(八戒)

2007年11月11日(日)