日常のかけら
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◇可愛いですよ◇

本当に思った以上によく似合います。
ねえ、そう思いませんか、捲簾。
え、いつこんなモノを作ったかって?
僕が作るわけないじゃないですか。
これはね、金蝉の女官たちに作ってもらったんですよ。
みんなそれは嬉しそうに作ってくれたんです。
悟空はホント、金蝉の邸(やしき)のものみんなに愛されてます。
あんなに可愛いんですから当然ですけど。
さ、おしゃべりはこれくらいにして、悟空、金蝉に新しい洋服を見せに行きましょうね。

(天 蓬)

2006年01月28日(土)


◇サルのくせに◇

また、三蔵に邪険にされたらしい猿が宿の玄関先にうずくまってやがる。
何を言われたのか知らねえけど、大事ならもっと可愛がって優しくしてやれってぇの。
でないと、ほら、隙をついてかっさらわれても知らねえぞ。

見ろ、誘えば嬉しそうについてきちまう。
簡単に食い物で懐柔できちまうんだぜ。
でも、話すことはあのクソ坊主のことばかりなのが、ムカつくんだけどよ。
それでもその顔が嬉しそうだと、不思議と俺も浮かれた気分になっちまう。

ほら、振り返って笑うその笑顔に落ちちまう。

───ちっ、サルのくせに…

(悟 浄)

2006年01月22日(日)


◇雪の日◇

この冬は本当に雪がこれでもかと、降る。
お陰でサルが元気のないことこの上ない。
部屋の隅にうずくまってばかりいやがる。

覇気のない姿。

雪に怯えたように、あの白さに竦んでいる。
俺が雨に嫌な記憶を呼び覚まされるのとは訳が違う。
サルは魂の底から雪に怯えている。
岩牢で過ごした数え切れない厳冬は、その厳しさとその白さでサルの存在をこの世から消してしまおうとするかのようだったらしい。
サルがよく「聲が聴こえる」という大地や自然からの聲が、雪に限って聴こえないらしい。
それも原因のひとつなのだろう。
初めて岩牢から出て見た雪に頬を紅潮させ、好奇心に染まっていた姿が遙か遠い。
時を重ねる事に囚われてゆくサルの心をどうすればこの手にとどめることができるのだろうか。

傍に居てくれと、俺を見上げる瞳が訴える。
俺が傍に居ることでお前の囚われた心が少しでもこの手に戻るのなら厭うことは出来ない。
それでサルの気持ちが落ち着くのなら、たまには、傍に居てやるか。
それでお前に笑顔が戻るなら、俺はいつだって傍にいてやるよ。

(三 蔵)

2006年01月15日(日)