a short piece

2004年10月25日(月) wind ghost【菊丸→塚不二】

静かだにゃー。
シャープをくるっくるっと親指の上で回しながらぼんやりと窓の外をみていた。
ただ今、学内模試中。ちなみに科目は日本史。
開始30分とたたずに終わってしまった俺はすることもなくて、だらだらと足を揺らしていた。
残り30分という、くそ長い時間をどうやって暇つぶせっちゅーんじゃ。
寝ようかなーとか思ってみたものの、教室中にやたらと響く音が耳について逆にイライラしてくる。
カリカリカリカリカリカリ……ってこれは全員が書いてるからこんなにうるさいのか、やたらと筆圧高いヤツがいるのか?どっちだよ?
自分が答案に向かっている教科なら、ちーっとも気にならないのに。
体育部のサガか、元々の性格か。何もしないでじっとしていろ!と言われると却って身体がうずうずしてくる。動きたい。動きたい。動きたいー!
どうにもじっと黙って座ってなんていられなくて身体全身頭の中まで関節伸ばしてみます!な感じで、座ったままで足だ腕だ肩だとぐにぐにとストレッチする。
ああなーこんだけ時間があいたんなら、もう制服なんて脱ぎ捨ててさ。さっさとウェアに着替えてグラウンドを走り回りたい。
窓から空を覗けば、頂点真っ青に澄み切った空にぴかぴかの太陽。外に飛び出せば、きっと空気だって胸いっぱいに「最高!」をくれそうな感じ。
それって最高の空気じゃない?
時計を見る。あと25分…。
あう。
伏せた答案の上につっ伏して天を見る。
誰もいない校庭。眺める景色、動くのは低く緩やかに流れる雲だけ。
風が弱いみたいだ。
やたらと白さが際立つ筋ばった夏の雲がだらりだり〜と並木のうえを歩いてる。
なんだか手塚の前髪みたいな、足の重たい雲だなぁ。
不意と思っちゃったら、頭ん中は急激にぐーっとそっち方向にカーブしていく。
なんでかな。
1つ向こう、斜め前の席。
不二はまだ真剣な顔でシャープをカリカリいわせてる。
机に顎をのせたまま、ぼへーとその横顔を掠めみる。
なんてゆーかさ。前から思ってたんだけどさ。そりゃ直接なんて聞いたことなんてないけどさ。
いったい手塚の何処かいいのかね?
あんまり深くは考えたことなかったんだけどな。なにがよくて手塚なんだか。
きっと不二なんて俺が2人のことに気がついてるって、半分薄々気が付いてる。
でも知らないふりしてる。おっとなー。
でもね、相手があれだもん。わかるじゃん、どうしたってさ。俺、そんなに鈍くないもん。
頭いいんだけど、どこかぽーんと抜けてる不二はきっと手塚には「隠せ」とはいってないんだろう。あけすけなんだよ。手塚って。
どんなにさ、部長顔してクールな顔してたってさ。ふとコートから降りた時とかラケットを置いた時とかに反射神経みたいに不二を探してる。
目線に出てんだよね。超!気にしてますってさ。
ラケットもってりゃ、テニスに夢中になるから平気なんだけど…どうしても不二と一緒にいることが多い俺は必然的に視線感じちゃうわけさ。
最初は「なにみてんだよ」と思ったけど…。そのうち『いやまさかな』と思って…
そして、がつん!ときたのが去年のバレンタイン。
みちまったもん。
随分遅くなってからの部室。
ホントにね、覗き見はよくないよね。心臓によくないもんをみちゃったもんさ。
誰が想像するよ?手塚がキスしてるとこなんて。
あの顔で!あの口で!
ラケットとか教科書とかペンしか持ったのみたことない手塚の手が不二の頬を慣れた仕草で包み込んだりしてさ。
大きな、あの掌に隠れた不二のつんとした横顔。
チョコいっぱい詰め込みまくりの紙袋を腕いっぱいに抱えた無抵抗の、その顔が少しでも強張ってりゃ救いもあったってもんだけど…。
はあ。
困ったことに望んだそれとは違った顔してた。それで分かっちゃった。
あ、そう。そうなのね?いつのまにアナタ、そんなことに!?
みたいな。
俺はさ、そういうのよくまだ判らないけどさ。でも偏見なんてないんだよ?
そういう意味じゃあ、我が菊丸家はフランクなんだ。おっきな兄ちゃんが前にバイク乗りの友達に告られた時に「どうしても友達としか思えんー!」とかいって真剣に悩んでいたのを知ってる。『え、にいちゃん問題はソコなの?』って小学生だった俺は思ったんだけど…まあ、確かに悪いことじゃないよね?好きになるっとてことはさ。誰でもさ。どんな立場でもさ、真剣に好きになるならいいことだよ。
だけどさ、ふじぃ。なんで手塚なのさ?
自分の兄貴が男に告られたと知った時より100倍ショックだった。
なんでだよぅ。
ほんとに心中複雑なんです。なんて例えりゃいいかわかんない。
不二ぃ。早くいじめないで教えてくれよ。
なんで、あいつなのかさー。
いつまでも知らないふりの俺を手塚との隙間に挟んで、イヤな時のカクレミノにしないでよ。
そんなオジャマな存在になんてなりたくないんだから。あの眼で睨まれるのはプレイをミスったときだけでじゅうぶんにゃー。
着やせする不二の背中を横目に挟みながら、ぬくぬくの木漏れ日に丸め込まれる。
崩れた頬で机の上を暖めながら、やっと訪れる睡魔にジャンプ。
白い雲がわふわふと低く転がるのを目の奥で眺めながら。
そのまま…

白くて大きな雲がつらなって地平線を流れていく。
おおきな恐竜が、あのティラノサウルスみたいな顔をした雲がぱっくりと口をあけて、西に沈みそうな太陽をぱっくん飲み込もうとしてる。
ああ、たべちゃだめだって手塚…。
やめなってーもうー。
オレンジ雲の切れ目で、見慣れた不二の瞳がおかしそうな色でこっちをみてた。
誘ってんのか、逃げてんのか。
やーだね。確信犯だにゃーもうー。
悪いユメばっかり形にして、雲が流れてくよ。

空の向こうで、チャイムが鳴る。

夢か?これ。
夢?
夢っていって…

誰もいない校庭。
動くのは低く緩やかに流れる雲だけ。









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