ハッピーステップ
泥沼生活から、這い上がった軌跡(日記のはじめのほう)を書いた後
最近では、日常の感じた事をつらつらと、不定期に更新中ですm(_ _ )m

2003年10月30日(木) 第54章 消え去った想い(part3)

私が、笑って、あきらちゃんの言葉に受け答えしたのを見て、
あきらちゃんは安心したのか、私の肩に手を添えて、
「ほんとだよ。会いたかった。」そう言った。


どういうつもりでそう言ったのか、本当のところはわからない。

どうせ、私と別れて、自由になるお金も少なく、一緒にいる女の人も
いなかったので、一人でいることが寂しくなって、手っ取り早く、
私に会いにきたというのが、大方の理由だろう。
そうでなければ、自分のイライラしているときに、
私に自分の欠点をつかれて、
うっとおしく思い、勢いで別れを切り出したものの、それを後悔していたか。
私は、そのように判断した。




私は、適当に話をはぐらかして、
「高瀬さんは、元気でやっているの?」と聞いた。

アルバイトをしながらでも、夢を持ち、あきらちゃんの会社で、
一生懸命働いていた高瀬さんの事は、気がかりであった。


「あぁ。辞めてもらったよ。あいつがやるような仕事はないし、経費削減。」
あきらちゃんは、いとも簡単にサラリと答えた。

私は、言葉が出なかった。

自分で会社に誘っておいて、そんな無責任な言葉があるだろうか。
怒りに震えた。私だけならまだしも、高瀬さんまで。。。。

私が、怒りに震えている事にも気付かずに、
「今日は、泊まりに行くぞ」と、あきらちゃんは、私の肩を抱こうとする。
自分が、こうして会いに来れば、
私が、手放しで喜ぶとでも思っているのだろうか。



「やめて、そんな風に、ベタベタすれば、
私がどうにでもなると思っているんでしょ?」
様子のおかしい私にあきらちゃんの手が止まる。

「あきらちゃん、私に会社に来なくてもいいって、言った時の自分の言葉
覚えてる?おまえなんかより、奥さんや、みかちゃんへの方が、
よっぽど迷惑かけてるって、言ったよね。
じゃあ、なんで、私にまた会いに来たのよ。
自分で、迷惑かけたぶん、なにか改善する努力したの?
私がかけた迷惑なら、私は、どうにでもして、償うよ。
あきらちゃんが人にかけた迷惑まで、自分でなにもしないで、
私に擦り付けないでよ。」
あきらちゃんは、黙って、下を向いていた。



かろうじて、その情のようなもので、
せき止められていた言葉が、
口をついて出てきた。





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2003年10月29日(水) 第54章 消え去った想い(part2)

「ちょっと、いいかな。」
そう言って、あきらちゃんが、マンションの階段へ足を運んだ。
「だめだよ。今、人が来てるから。」
「男か?」
私は、黙って、笑みを浮かべた。


「じゃあ、どこか店に行こうか。」
あきらちゃんが言った。


私は、あきらちゃんの車に乗り、話をするために、バーに入った。
心では、家に残してきた津川さんの心情が気がかりであった。

あんなに会いたかったあきらちゃんのはずなのに、
私のあきらちゃんに対する気持ちは、
ただの、情のようなものに変化していることに
この日、初めて気が付いた。



「お金。。。ごめん。。。振り込んでなかったから。」
「あぁ。」

あきらちゃんとのおなかの子供をなくしてしまったことは、言わずにいた。
言わないでおこう。
そう思った。

なぜなら、私に返済のお金を振り込みもせず、まだ、自分を満たす為だけに、
贅沢三昧をしている生活が伺えたからである。



「ほんとに、心配してたんだ。ずっと、会いたかった。」
その言葉は、私の中で、空回りしている。


私も、ほんとうは、会いたかった。。。
以前なら、こんなあきらちゃんを見ても、迷いなく、
そう言っていたであろう。


あきらちゃんと別れて、苦労を積み重ねた私は、あきらちゃんの人間性を
色恋のハンディを与えず、冷静に読み取れるようになっていた。
それでも、長い間、この人の事を見てきたのだ、
他の人には感じない情のようなものが、あったことは否めない。


私は、笑って、「ほんとに心配してたの?」そう言った。


このときまでは、津川さんのことは、言わないでおこうそう思っていた。





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2003年10月28日(火) 第54章 消え去った想い(part1)

会って、話をしてみよう。 

私は、これまで、あきらちゃんへの想いをはっきりできないまま
津川さんの優しさに、甘え続けていた。

あきらちゃんと話をして、はっきりと、
自分の気持ちに区切りをつけたかった。

上を見上げるあきらちゃんを見た瞬間に、
私のはっきりした気持ちの答えが現れたのだ。



私は、あきらちゃんより、津川さんと一緒にいたいと
感じている自分にやっと気が付いた。。



慌てて、部屋に入る私。

津川さんが言った。「前の彼氏だったんだね?」
私は、黙ってうなずいて、津川さんに抱きついた。

「ちょっと、話をしてきたいの。。。
でも、絶対に大丈夫だから。。。大丈夫だからね。」
津川さんに抱きしめられながら
何度も何度も繰り返し言った。
彼は、黙ってうなずいて、私に熱く唇を重ねた。



「俺と、一緒には、外に出て行けないから、先に行っておいで。
ちょっとしてから、鍵をしめて、帰るよ。鍵は、
ポストに入れておくから。。。」



津川さんは、あきらちゃんに会うことを承諾してくれた。
私は、また、その大きな包容力に感謝した。

もし、逆の立場なら、私は、不安で不安で、しかたない思いをしただろう。
自分の好きな人が、前の恋人と会うなんて。。。。。

津川さんも、きっと、そんな思いがあったに違いない。
それでも、許してくれた。。。。

絶対に、この人を裏切るような事は、しないでおこう。。。。
固く心に決めて、あきらちゃんのいる下の通りに下りて行った。




あきらちゃんが、満面の笑みで私に話しかける。
「元気だったか?」
私は、表情を変えずに言った。
「うん。」

正直、また、あの人懐っこい笑顔に、心が引き込まれそうだった。
大げさな言い方をすれば、長い間、
二人で歴史を刻んだ情のようなものだった。

決して、前のように恋人として、接してはいけない。

私は、さっきまでの津川さんのぬくもりを抱きながら、
しっかりと前を見据えた。




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2003年10月27日(月) 第53章 迷いの中の至福(続き)

いつでも、なにがあっても、津川さんに助けられた。  




ある日、私は、日ごろのお礼のつもりで、津川さんのために
手料理でもてなそうと考えた。 

はじめて食べてもらう私の料理である。
おいしいと、言ってもらいたい。
津川さんの好きだろうと思われる食材を買い込んで、
たくさんの手料理を作り、津川さんを家に招待した。



彼は、どれもこれも、「すごくおいしいよ。」そう言って、
たくさん食べてくれた。
一品一品、噛み締めながら、
そして、楽しい会話を交わしながらの和やかな食事風景。
あきらちゃんと一緒にいるときには、決してみられなかった光景である。
私は、幸せだった。

食後も、楽しく、二人で至福の時を過ごしていた。



のんびりと、二人で楽しくすごしていたその時、
家のチャイムがなった。

一瞬、途切れる会話。。。

予感がした。。。。
あきらちゃんだ!
なぜか、そうだと思った。


私がなかなか立ち上がらないので、津川さんが、
「見てくれば?」と言っている。

津川さんも、何かを感じ取ったのかもわからない。
その間にも、ドアをノックする音や、チャイムは、何度もなった。


恐る恐る、ドアに近づき、のぞき穴に目を近づけた。

・・・・が、そこには、もう誰もいなかった。


「ベランダから、見てみれば?」と、津川さんが言う。
私は、その通りにした。



通りに面したベランダに出て、下を見下ろした。。。
私は、唖然とした。



そこには、外灯にうっすらと照らされた、
あきらちゃんが、こちらを見上げ、立っていた。





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2003年10月26日(日) 第53章 迷いの中の至福

津川さんと一緒にいると、私は、大きな安心感を得られる。

しかし、それが、恋かどうかは、まだわからなかった。
あきらちゃんの事が、心からなくなってしまったわけではない。


心の中ではいつも、その複雑な気持ちが、私を迷わせた。



それからは、お店がお休みの時は、毎日のように、津川さんと会った。

あえない日でも、津川さんは、毎日のように、私の家のドアに、
お寿司や、ビールなどを置いておいてくれていた。



「りかとは、まだまだ行きたいところがたくさんあるよ。」
「りかみたいな人には、出会うのは、1000人に一人の割合だ。」
津川さんは、私との出会いを大切に思っていることをいつも私に言った。
私も、津川さんに会うと、大きなやさしさに包まれて、
幸せな気持ちになれた。

「ずっと、ずっと、やさしくするよ。」津川さんは言った。

私は、津川さんへの自分の気持ちがわからないまま、
その、大きな安心感を得る為に、津川さんにいつも会った。



津川さんは、私に、ほしいものは何でも買い与えてくれた。

私が、会話の中で、あんなのがあったらいいな〜等と言うと、
それを覚えていて、次に会ったときには、必ず、その現物を私に手渡す。

私が、買ってこなくてもいい、そんな意味で言ってるんじゃないと言っても、
「夜に飲んでいた頃の代金の事を思えば、安いもんだよ。
今は、りかのためにお金を使えるのだから。
りかに喜んでもらえるのなら、そのほうがいいんだ。」
そう言って、プレゼントを買い続けた。

私が、早くお昼に働けるように、毎月、何万ものお金を私に手渡した。
私が、いらないというと、知らない間に、私の鞄にそのお金をこっそり
入れてくれていたりした。


そして、何か、私に困った事があれば、すぐに飛んできて
簡単に解決してくれる。。。



そのおかげで、私は、みるみる生活が楽になり、本来の仕事に戻るために
夜の仕事を辞めて、職探しを始めた。



そうやって、津川さんと出会ってからというもの、
私は、経済的にも、精神的にも、落ち着いた生活を送る事が
できるようになっていた。





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2003年10月25日(土) 第52章 混乱の中の始まり(part2)

とにかく、その夜、津川さんと待ち合わせをして、津川さんの車に乗った。



「いや〜、待っている間、ときめいてしまったよ。」
そう言って、津川さんは、笑った。 
私も、照れて、笑った。




「好きなものを食べていいよ。」

お店に入ると、私たちは、落ち着いて、ゆっくり、話をした。


話が、進むにつれ、お店の中では、見れなかった津川さんの新しい内面を
たくさん確認する事ができた。

私は、徐々に津川さんに心を許していった。

ぽつぽつと、自分の事を話しているうちに、
これまであった、いろいろなこと、
夜のお店で働くようになった経緯を 
あきらちゃんと出会った何年も前の話から、全てを打ち明けた。


きっと、どこかで、誰かに全部吐き出してしまいたい。
そんな風に思っていたのだと思う。

津川さんは、優しく、最後まで黙って聞いてくれた。

そして、津川さんは、自分が会社を立ち上げてから、今こうなるまでの、
たくさんの苦労と、努力の話を私に話した。
それは、私への励ましの意味も含めての言葉であった。

その話の中で、私は、津川さんが、結婚して、二人の子供を持ち、
そして、会社をしっかりしたものにするため、仕事に没頭する余り、
その時期に離婚をしてしまっていたことを知った。


津川さんは、意外に、情に深く、やさしく、
そして、とても大きな人であった。

男らしく、人を大きく包むやさしさを感じた。
津川さんと話をしていると、何か、大きな大きな安心感を得る事ができた。



それからも、他愛のない楽しい話は、長い間続いた。



お店を出て、車に戻ると、津川さんが、
「まだ時間いいの?」と私に聞いた。
「いいですよ」
私は、もう少し、その安心感に包まれていたいと思った。

「じゃあ、普段は、行った事ないんだけど、カラオケでも行こうか。」
カラオケボックスで、歌ったり、話をしたり。。。。

楽しい時間は過ぎた。





ふと、会話が途切れた




彼の手が、私の手を握った。
そして、彼の唇が、私の唇に重なった。



ドキドキしていた。





その後、ホテルへ行って、私たちは、初めて身体を重ねた。
彼は、そこでも、私を大きなやさしさと安心感で包み込んだ。
彼に抱かれていると、私は、とても安らかな気持ちになった。

彼が、私に言った。
「りかちゃんは、やっぱり、思った通りの人だった。話ができてよかった。」
私は、黙っていた。
「こうなったことを後悔している?」彼が聞いた。
私は、返答に困った。
所詮、私たちは、お店で働く人とそのお客さん、彼は、どういうつもりで
私を抱いたのであろうか。。。

考えて、一点をみつめていると、彼が、私の肩を抱き寄せて言った。
「まだ、はじまったばかりでわからないか。。。」

これからはじまるんだ。彼は、軽い気持ちで私を抱いたわけではなかった。
うれしかった。
これから、この人は、私と始めるつもりなんだ。。。。。

私は、ずっと、おとなしく、彼に肩を抱かれていた。
うれしい反面、頭の中では、いろいろな思いで、混乱していた。



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2003年10月24日(金) 第52章 混乱の中の始まり(part1)

その頃から、あきらちゃんは、返済のお金を振り込まなくなった。

それでも、あきらちゃんに、それを請求する事はなかったし、
半ば、その大きな額が、自分の手元に戻ってくる事をあきらめはじめていた。

それでも、お金の事は、いいから、あきらちゃんに、
会いたいという気持ちがあった。


毎月、少しづつではあるが、私自身の借金の返済は、順調に減りつつあった。
しかし、まだまだ夏には、ボーナス払いの大きな金額がある。
簡単には、生活が楽にはならなかった。
借金がなくなったら、夜に働くのをやめて、本来の仕事に戻りたい。
そう考えていた。




ある日、私は、お店の仕事を終え、家への道を歩いていた。

携帯電話をバックから取り出した。
お店に入っている間に、あきらちゃんから、連絡がないかと、
帰り道に、携帯を確認することは、日課のようになっていた。

携帯は、不在着信を示していた。

あっ!あきらちゃんかも!
私は、はやる心で、発信元の確認をした。。。


津川さんの名前が、そこにあった・・・・・


私は、また驚いた。
やっぱり、何かが近づいている。


次の日、津川さんに、メールで返信をした。
「昨日は、お店に出ている日だったので、
電話に気が付きませんでした。
すみません。」

その返事は、「月水金だけだと思っていたよ。火曜日もお店だったんだね。」

次の木曜日、私は、お店が休みのため、ブラブラと気分転換に出かけていた。

夕方になって、また津川さんから、電話があった。
「もう、飯食べた?」
「いいえ、まだです。」
「今日、一緒に行かない?」
私は、承諾した。


津川さんから、はじめてメールが来た日から、
私は、自分の変化に気が付いていた。

寂しさや、虚無感が、かなり軽減していることに。。。。。


しかし、それが、何故なのかは、わからなかった。
あきらちゃんのことをまだ、想っている私は、確かにあった。


津川さんのことを私は、想い始めているのだろうか?





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2003年10月23日(木) 第51章 近づきつつある『何か』の正体(part4)

「ほんとに?」 
「はい、こないだ携帯が、おかしくなって、変えたところなんです。」
「俺も、こないだ変えたところなんだ。
前は、だいぶ古いの使ってたから。。。」

私は、自分の携帯を出して、
「ほら、同じでしょ?」そう言った。

「あっ、ほんとだ。りかちゃん、じゃあ、この伝言の消し方わかるかな。
変えたばっかりで、まだ、使い方がわからなくって。。。
もういらない伝言なんだけど。」
私は、津川さんの携帯を手にとって、録音されている伝言を消してあげた。

「ついでに、りかちゃんの番号も登録しておいて」
津川さんが、サラリと言った。

あまりにもサラリとした言葉だったので、私は、耳を疑った。

「え?私の番号をこれに登録するんですか?」
「うん」

なぜか私は、迷うことなく、津川さんの携帯に自分の番号を登録した。
それまで、決して、だれにも教えた事のなかった番号を
何の迷いもなく。。。。。


自分でも、不思議で仕方がなかった。

そして、津川さん自身も、こんな風に、番号を聞くようなタイプでは、
決して決してなかった。。。。。


嫌な気持ちは、しなかった。



しかし、あきらちゃんの事を私はまだ忘れたわけでもない。

この気持ちは何なのだろう。。。
『何か』の正体が、近づき始めているのかもしれない。。。。。

その後も、普段となんら変わりなく、津川さんは、崩れるでもなく、
楽しい会話で、サラリと帰って行った。




次の日、ふと気が付くと、私の携帯に、メールが入っていた。
「昨日は楽しかったです。また今度・・・・・。」

昨日?誰?一瞬わからなかった。
津川さんだ! 思いがけない事であった。




「誰かと思ったら、津川さんですね。驚きました。
その後、新しい携帯の使い方は覚えましたか?」
返事を返した。




何かが始まる。。。。そんな予感がした。






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2003年10月22日(水) 第51章 近づきつつある『何か』の正体(part3)

もしも、バンさんと休みの日に、食事に行ったとしても、
100パーセント、私にそれ以外のことは、求めないであろう。
バンさんは、そう言う人なのである。

生粋にただ、食事をして、話をして、そして、
帰って来るだけであろうことは、想像がついた。
それでも、私は、行かなかった。

お店での仕事とプライベートをきっちりと、分けておきたかったからだ。


「じゃあ、携帯の番号だけでも聞いたらだめだろうか。。無理だよね。」
また、自信のなさそうな声で、バンさんが言う。

「う〜〜〜〜〜ん。」
私は、はっきり断わる言葉をまた言い切れない。

他のお客さんへなら、「だめですよ。」と、笑ってハッキリと言えるのに、
バンさんは、こう見えて、繊細で傷つきやすく、そして、
とても人が良い人だとわかっているので、断わりたいのだけれど、
傷つけたくもないのだ。


「やっぱり、だめか。。。」
バンさんが、落胆しているのがわかる。




「あら〜いらっしゃい。バンさん。」ママが、出勤してきた。
「なんだ〜ママ、せっかくりかちゃんと二人きりで、楽しんでたのに。」
いつもの、冗談を言っているバンさんに戻った。

助かった。私たちの会話は、そこで、中断された。



それから数日後、津川さんがお店にやってきた。

その日は、お店はお客さんがいっぱいで、とても賑わっていた。
ママは、私にカウンターを任せて、ボックス席のお客さんと話していた。
カウンターには、二人連れのお客さんが、数組座っていた。

私は、話しながら、津川さんのボトルを用意した。
いつものように、「ビール飲みなよ。」と、言ってくれた。

「じゃあ、頂きます。」 お客さんからお酒を頂いている間は、
そのお客さんと会話をするのが、鉄則である。
私は、しばらくの間、津川さんと、あれこれ楽しく話をしていた。



津川さんが、ポケットから、携帯を出した。
「あっ!それ、私とおんなじ携帯ですよ〜」私が言った。
その携帯は、私と同じ機種であった。「偶然ですねぇ」






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2003年10月21日(火) 第51章 近づきつつある『何か』の正体(part2)

やっぱり、彼女がいるんだな。
私は、なぜか、ほんの少しだけ、心の中で落胆した。

私、なんで、がっかりしたんだろう?
自分で感じたことが、不思議でしかたなかった。
自分で津川さんの彼女の想像までしていたのだ。

津川さんに恋をしていたわけではない。
まだまだ、私の心には、べったりと、
あきらちゃんへの想いが張り付いていた。

その証拠に、お店でお客さんが歌う切ない歌に、自分の想いを重ね合わせて、
よく、心で、苦しく切ない思いに胸を締め付けられていたのだから。。




「でも、お休みだったら、彼女を連れて、行くんじゃないの?」
ママが、続けた。
「そんな事でも、あったらいいけどなあ・・・・」
ゆっくり津川さんが返事をした。

あれ?彼女いないのかな?私はまた、津川さんの言葉を探る。
そこまでの、強い気持ちではないが、津川さんの言葉に
こんなに反応してしまうのは、何故なのだろう。



はじめに感じた『何か』の正体が、そこにあったのかもしれない。



そのうち、別のお客さんがバタバタと入ってきて、
私は、その場所から離れた。




やはり、その頃も家に帰ると、悲しみにくれる毎日は続いていた。

ゴールデンウィークは、お店が休みであった。
また、実家に帰って、のんびり過ごそう。
実家へ帰ると、温かい食事や、家族と過ごす安心感がある。
それらを求めて、私は、長い休みを実家で過ごした。


ゴールデンウィークが明けて、また孤独な家とお店とを
往復する生活が始まった。


お店は、夜の7時からはじまるが、開店準備は、
お店で働く女の子達の仕事である。

ママは、その1〜2時間後に、やってくる、

その日、開店準備を済ませて、間もない時間に、バンさんがやってきた。
お店には、まだ早番である私ひとりだけだった。

しばらくは他愛もない会話をしていたが、
バンさんが、また、遠慮がちに私に言う。
「りかちゃん、こんど、お店が休みの日に、食事でも行こうよ。」

人の良いバンさんに、私は、はっきりと断わりきることができないのである。
「ありがとうございます。そうですねぇ。そんな時間があれば、いきたいのだけれど。」
やんわりと、断わったつもりであった。





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2003年10月20日(月) 第51章 近づきつつある『何か』の正体(part1)

私は、お店に津川さんが来るたびに、その『何か』の正体をさがし求めた。

間の良いことに、それから、津川さんは、これまでよりも、
お店に、頻繁に顔を出すようになった。


津川さんは、お店の女の子の名前をあまり覚えていない。
他のお客さんのように、そういうことには、全く興味がなさそうであった。

それでも、いつしか、私の名前だけは、呼んでくれるようになっていた。
私が、ウイスキーが、あまり好きでないことを知って、
いつも、お店に来ると必ず「りかちゃん、ビール飲んでいいよ。」と、
声をかけてくれるようになった。




四月ももう後少しで終わりというある日、
また、津川さんがお店に顔を出した。

まだ、時間が早い事もあって、お客さんは、津川さん一人であった。


カウンターの中には、ママと私だけであった。

「おつかれさまです。今日は、早かったんですね〜。」私が言った。
「うん、仕事の山場を終えたところで、今は、おちついてる時期だからね。
何の仕事でもそうだけど、忙しいときは、
色々バタバタとしたことが重なるよ、おかしなもんだなぁ」


津川さんは、ある会社の経営者であった。

推定年齢から考えると、もう、当然結婚もしているだろう。
間違っても、お店の女の子にちょっかいを出したりするタイプではないし、
紳士的に綺麗なお酒の飲み方をする人であったが、
話もうまいし、嫌味無く、さりげないやさしさを持ち合わせた人で、
彼女がいるような雰囲気がしていた。

私は、頭の中で、津川さんは、結婚していて、
きっと彼女なんかもいるだろうな
津川さんのような人を 魅了する人は、とても魅力的な女性なのだろう
きっと、津川さんも、その人を大切にしているのだろうなぁ。
などと、勝手な想像をしていた。


私が、水割りをつくっていると、ママが、津川さんに話しかける。
「ゴールデンウィークは、彼女と旅行でも?」
「あ〜、ゴールデンウィークは、休めるかどうかわからないからねぇ」
津川さんが言う



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2003年10月19日(日) 第50章 転機(続き)

もう一人、カウンターに入っていた、私より古くからお店に来ている女の子が、
「あ〜!津川さん、お久しぶりですね〜。どうしてたんですか?」
と、親しげに、接客を始めた。

私をチラっと見て、その津川さんと呼ばれた男性は、
すぐに、もう一人の女の子の問いかけに答え始めた。
「ずっと、仕事が、忙しくてねぇ。。。やっと落ち着いたから」


私は、その正体不明の衝撃を不思議に思いながらも、
気のせいかなぁ?そう思って、すぐに、他の人の接客に入った。




その日から、津川さんをお店でちょくちょく見かけるようになった。

私が、お店に入って、割と間が無い内に、長期の休暇を取ったり、
それと入れ違いに、津川さんが忙しくなって、
飲みに出られない状況だったりして、
今まで、顔を合わすことがなかったのだが、
本来は、週に1回くらいの割合でお店に顔を出すお客さんであったらしい。


津川さんは、いつも、上手にカラオケで歌を楽しみ、
他愛もない楽しい会話を交わしながら、サラッと飲んで、
あっさりと帰っていく。

他のお客さんにみられる男のいやらしさなど、
微塵も持ち合わせない人であった。

そんなところが、他のお店の女の子たちにも、好感をもたれていた。


私も、それからは、何度も津川さんと会話をかわした。

津川さんは、バンさんともこのお店で顔見知りだったらしく、
二人が、かち合ったときは、カウンター越しに、
二人の楽しい会話の掛け合いに笑いは絶えなかった。



確かに、私は、はじめにこの人を見たとき、『何か』を感じた。

お店のお客さんの中で、一番信頼できる、
バンさんにも、決して感じたことのない
『何か』であった。


その正体が、何なのか、いつも気になっていた。

その思いは、恋した時に感じるソレとは、全く違うものであった。


あきらちゃんのことは、常に、心の中で、渦巻いていたし。。。。
それならば、一体、その『何か』は、何であったのだろうか。。。。



その『何か』の正体は、回を重ねるごとに、
次第にあきらかになっていった。





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2003年10月18日(土) 第50章 転機

そのことが、あってからも、バンさんは変わらずお店にやってきて、
いつものように、変わらず、冗談を言って、みんなを笑わせていた。

今までどおり、頻繁に顔を出した。
勿論、私に対しても、執拗に誘ってくる事もなかった。
私も、バンさんに対して、今までと変わらず接した。

それでも、ママや、他の女の子たちもわかるほど、
それからも私を大切に扱ってくれた。

ママは、私にその気がないのをわかっていたし、それ以上のことはないとも
わかっていて、「バンさんは、りかちゃんの大ファンだからね〜」と言って、
よく、バンさんを冗談交じりにからかった。



あきらちゃんは、毎月、数万円づつは、返済のお金を振り込んでくれていた。
私は、それを確認する事もなかったし、当てにすることもなかった。

ただ、早くあきらちゃんが、立ち直ってほしいと、心から祈っていたし、
私自身も、普通の生活を早く送れるようになれるように、
毎日、必死で生活した。


相変わらず、お店が終わって、一人家に帰ると、気分は沈んでいたし、
お店にいるときにも、心の中は、虚無感でいっぱいだった。

しかしそれは、以前のようなあきらちゃんへの未練からくるものとは、
また別のものだった。

あきらちゃんへの想いは、確かにまだあったし、
新しい恋も、もうしたくはなかった。

けれど、そんなことより、やはり、お腹の子供をなくしたこと、
一人、この心細い生活を続けなければいけないこと。
そんなことへの悲しさや不安の方が、大きく心を占めていた。

私は、もしかしたら、一生、この悲しみや不安、
心細さを抱えて生きていかなければならないのだろうか?
そんな風にも感じていた。

その泥沼のような思いや、生活から、なかなか抜け出す事ができないでいた。




私の転機は、そんな、泥沼の生活の中で、ある日突然やってきた。




ソノ日、私は、いつもの様に、お店のカウンターに立っていた。

お店のドアが開き、一人のお客さんが入ってきて、カウンター席に座る。

はじめてみる人であった。

「いらっしゃいませ」そう言って、顔を上げた。

「あっ!」私は、心の中で『何か』を感じた。

知っている人に似ていたわけでも、好みのタイプであったわけでもない。

その『何か』の正体が、なんなのかは、わからなかった。



とにかく、『何か』を感じたのだ。






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2003年10月17日(金) 第49章 信頼できるお客さん(part3)

ごく、信用できるお客さんの内の一人が、
私が、このお店で働くようになって、
初めて来られたお客さんであったバンさんだった。

わたしは、しばしば、このバンさんと、お店が終わってから、食事に行った。
勿論、ママの公認の元で。。。。


バンさんは、決して、私に変な色気を出すこともなかった。

お店では、面白い冗談ばかり言っている、饒舌な人であったが、
根は、真面目で実直で、正直で こんな言い方は失礼なのかもわからないが
とてもかわいい人であった。

食事の後は、必ず、夜道が危ないと言って、
家の近くまで送ってくれるのだが、
私に気を使って、私の家がわからないように、近くの安全な場所までしか、
一緒には来ない。
私もバンさんに対しては、かなりの信用があった。



ある日、お店のお客さんは、バンさん一人であった。
ママと私とバンさんで、話をしていたところ、
ママが、「今日は、お店も暇みたいだし、
バンさん、どこかに飲みに連れて行ってよ。」と、冗談めかして言った。

「お店終わるんだったら、いいよ。行こうか」バンさんは、言った。

「じゃあ、私、お店片付けておくから、りかちゃん、先にバンさんと
行っててくれる?」ママが私に促した。




私は、後で来るであろうママを待ちながら、バンさんと二人、
別のお店で飲んでいた。

待てども暮らせども、ママは、なかなか来なかった。

ママに電話をすると、「りかちゃんごめん、片付けてる間に、他のお客さんが
来ちゃったのよ。今日は、そのまま帰っていいから、バンさんと二人で飲んでて。」
そう言った。

しばらくは、話をしたり、カラオケをしたりして、
バンさんと楽しんでいたが、
「ママが、来れないのなら、すぐに帰ろうか。
りかちゃんも早くかえりたいだろう。」
そう言って、バンさんが、気を利かせてくれた。

しかし、そのお店の人が、「もういっぱいづつくらい、飲んで帰ってよ。」
そう言って、私たちを引き止めた。

「じゃあ、もういっぱいだけ・・」そう言って、私たちは、会話を続けた。



バンさんは、ポツリポツリと話を始めた。
バンさんは、バツいちだった。
離婚後、私と同じ名前の「りか」という女性との
楽しかった思い出を話してくれた。

お互いに、まだ、気持ちは残っていたのだが、歳がすごく離れていたので、
相手の親の反対にあい、誠実なバンさんは、自分がいては、この子は、
幸せになれないだろうと、自分のほうから、別れを切り出したらしい。

それから、何年もの月日がたって、その人への想いは、次第に
いい思い出へと変化したが、今は、一人で歳をとっていく事が、とても、
寂しいと思っているそうだ。

そして、私に、少し照れながら、こう言った。

「付き合ってほしいとは、言わない。けど、時々、ご飯を食べたり、一緒に
時を過ごす仲間になってもらえたらいいなぁと、思っていたんだけど、
無理だろうね。。。」

バンさんは、とても人間的にいい人である。
しかし、私にとっては、
とても信頼できる、お店のお客さんとしか、考えられなかった。

自信のなさげな、やさしい瞳で、下を向いて、
一点を見つめているバンさんに、
ハッキリと、断わる勇気がなかった。

「私なんかより、バンさんなら、もっといい人が沢山いますよ。」
それが私の答だった。



その日も、バンさんは、いつものように私を 家がわからない場所まで、
送ってくれた。





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2003年10月16日(木) 第49章 信頼できるお客さん(part2)

お店での仕事には、すっかり慣れていた。

お客さんが、タバコを持てば、すぐに火を付けにいくことも、
グラスのお酒が少なくなれば、すぐにボトルのお酒を注ぐ事も。
条件反射のように、自然にそれらのことに手が動くように、
身体に身についていた。。


カウンターメインのお店の為、ほとんどカウンターで過ごしたが、
それでも、数人で来られるお客さんの為に、ボックス席も少しあった。
そのボックス席で、お客さんの横に座り、
にこやかに会話を交わしながら、お酒を注ぐことにも慣れた。




いくら客筋の良い店だと言っても、みんなお酒を飲んでいる。
いろいろな人がいた。
おとなしく、カラオケや会話を楽しむだけの人もいれば、
食事に誘う人、携帯番号を聞いてくる人、愛人にならないかと、
誘ってくる人。。。
苦手な人も、少なくはなかった。
やんわりとした断わり方も、身に付いていた。

私は、それらに応じる事は、決してなかった。
携帯の番号さえ、冷たいと言われながらも
頑なに、誰にも教える事はなかった。



反面、為になる会話も、たくさんできたと思う。

父と同じ年くらいのおじさんの、昔のせつない恋愛話や、
大学教授の、雑学的な話。
会社の上司や経営者としての、仕事の悩みや考え。

通常なら、決してこの人達とは、できないであろう会話を
いろいろな人たちが、毎日、このちっぽけな私を相手に話す。
私は、それらの会話が嫌いではなかった。
そして、胸にしみる話もたくさんあった。

みんな、その場では、カラオケをしたり、馬鹿な事を言って、笑っているが、
こんなに社会的に成功したと思われる人たちでも
人それぞれ、色々な悲しみや、苦労を密かに抱えて、
生活を送っているのだと、
心で、考えさせられる事も、しばしばあった。



たまに、お店が終わってから、常連のお客さんたちと、食事に行ったり、
飲みに行ったりする機会も何度かあった。

私を目当てで来てくれているお客さんの為に、ママが、指示するのだが、
二人では、危険だと思われるお客さんの時は、
ママや、他の女の子も一緒に来てくれて、
数少ないが、ごく、信用できるお客さんの場合は、私だけで行く事もあった。


ママの指示がない限り、誘われても、絶対に行くことはなかったし、
私自身も、それに応じる気には、決してならなかった。





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2003年10月15日(水) 第49章 信頼できるお客さん(part1)

身体の事を気遣いながら、少しづつ、普通の生活に戻していった。

その後、数回、経過を診るために病院へかよったが、順調に回復した。


ただ、精神的には、まだまだ脆く、一人になると、必ずと言っていいほど
不安や、悲しみに襲われ、家に帰って一人で泣いてしまう事は、日課のようになっていた。



今度の、休みの日は、久しぶりに実家に帰ってみよう。。。。。


私は、久しぶりに実家に帰った。
両親の仕事が休みの日でもあったため、結婚した妹が、小さな子供を連れて、
遊びに来ていた。まだまだ話すのもやっとな幼い子供。。。


もしも、私の赤ちゃんが、おなかの中で生きていたら、
今頃、どうなっていたのかな。
あきらちゃんに話したら、産んでも良いといってくれたであろうか。。。


私は、その妹の子供に、周りからあきれられるほど、かなりな愛情を注ぐ。
子供は、そう言う所には敏感だから、私の愛情を感じ取って、
お姉ちゃん、お姉ちゃんと、私に、誰よりもなついている。

もしかしたら、あの時の赤ちゃんへの想いをその妹の子供に
注いでしまうのかもしれない。




久しぶりに、家族に囲まれ、暖かい食事をとった。
何ヶ月ぶりかに、心からホッとした。
落ち着いた。。。

しかし、私も、あれだけの事を言い切って、家を出たのだ。
生活するのもやっとなんて、
口が裂けても言えなかった。
ましてや、流産までして、夜働いていることなど。。。

その夜は、実家に泊まって、次の日、父が、家まで車で送ってくれた。



「コーヒーでも飲んでいく?」
私の言葉に父は、「少し、生活ぶりでも見てみるか。」
そんな冗談を言って笑った。

しばらく離れて暮らしたせいか、いつの間にか、
父とすごく素直に会話をしている自分に気が付いた。


帰りがけに、父が、私に言った。
「なにか、困った事があったら、いつでも相談しに帰ってきなさい。
どんな時でも、家族なんだから。。。。
いつでも家族は、りかの味方なんだから。。。」

暖かい言葉だった。涙が出そうだったが、こんなところで、涙を流せば、
心配をかけてしまう。。。。
ぐっとこらえて言った。「ありがとう。大丈夫だってば」


やはり、親である。
黙っていたけど、何かを感じ取っていたのかもわからない。。。





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2003年10月14日(火) 第48章 最大の悲しみ(part3)

とにかく、あきらちゃんと別れたばかりで、妊娠の確認を告げられた事。
なによりも、その赤ちゃんが、おなかの中で、
死んでしまっているかもわからないこと。

私の心は、奈落の底に突き落とされた。



お店には、まだ体調がすぐれないという理由で、長期の休みをもらった。



一週間の間、私の心は、あきらちゃんにこの事を伝えるべきかどうか、
悩んだ。
孤独で不安だった。
何をするにも、お腹の中の赤ちゃんが気になった。。。
とにかく、一週間待ってから、次の行動に移そう。
一人ぼっちの部屋で、常に泣きながら過ごした。




一週間後、私は、ぼんやりした思考のまま、再び病院を訪れた。


診断の結果は、やはり、「稽留流産」だった。。。。

あきらちゃんと別れてから、妊娠が発覚したからなのか、
お腹の赤ちゃんが、死んでしまっていたからなのか、
こんな大事態が起こっても誰にも相談できない孤独感からなのか。。。
私の目からは、次々と涙がたくさんあふれ出た。。
おそらく、その全部の思いが
一気に私の中で、ごちゃごちゃになって、
涙として溢れ出てしまったのだろう。

「何も気が付かずに、生活してたから赤ちゃんが。。。。」
そう言って、後は、涙で、言葉にならなかった。。。。


色々な事情をしらない先生は、また優しくかばうように、私に語りかける。

「稽留流産っていうのは、ほとんど染色体の問題だから、
あなたのせいではないのよ。
また、数ヶ月もすれば、赤ちゃんのできる身体に戻るんだからね。」
そう言って、やさしく背中をなでてくれた。



できるだけ早く、子宮の中を綺麗にする手術をしたほうが良いといわれて、
その三日後に、たった一人で、手術を受けた。


術後の診察で、検査の結果も良好で、次の生理が来るまでは、
用心が必要だけど、あと、一週間もすれば、
普通に生活しても良いとの事だった。


「異常があれば、すぐに来てくださいね。」先生が、優しく言った。


悲しみにくれていたが、そうも言っていられない。



病院の手術代、診察代は、ただでさえお金に困っていた私には、
かなりの額であった。

大きな心の傷と悲しみを抱えながら、
その一週間後、私はお店に復帰した。





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2003年10月13日(月) 第48章 最大の悲しみ(part2)

しかし、家に帰ると、孤独だった。


この生活の事は、誰にも話せなかった。
親には勿論、友人達にも、話せなかった。

そして、お店では、もう昼間働きに行けなくなってしまったことを言い出せずにいた。


私が、生活の中で笑うのは、唯一、そのお店でのお客さんに向ける為だけの笑顔であった。

本気で、心から、幸せをかみしめて笑うことなど、全く無かった。




ある日私は、いつものように、閉店間際のお店で、
たった一人、残っているお客さんを相手に、接客していた。

また少し体調が悪い。

私は、ここ最近の体調の悪さを ストレス性のものだと思っていた。
やけに、その日は、時間がたつのが遅く感じる。。

無理にお客さんに笑顔を向けていたが、のぼせたような、
くらくらするような感覚がどんどん私に襲いかかる。


瞬間、目の前が暗くなって、赤や黄色のチカチカしたものが、迫ってきた。

気が付くと、私はへなへなと、床に座り込んでいて、ママが
「どうしたの?りかちゃん!だいじょうぶ?」と、私に声をかけている。

「ちょっと、体調が悪くて。。。」
薄暗いお店の中でもわかるほど、私の顔は、血の気を失っていた。




ママが、帰りのタクシーを回り道して、家の近くまで送ってくれた。
「気をつけてね」



家に帰って、着替えもそこそこに、横になった。
気分が悪くて眠れない。。。

ふと、気が付いた。
精神的にも肉体的にも、ここのところ、バタバタとしていて、
全く無頓着だったが、そういえば、もう長い間、
生理が止まっている。



四日後、私は、まよわず産婦人科を選んで、
診察を受けるために病院へ足を運んだ。





尿検査を受けた後、診察台で診察を受ける。。。

超音波検査で、女医さんがカーテン越しに、看護婦さんと、なにか小声で話している。

私の心臓の鼓動は、最高潮に達していた。
どくどくいう、脈の音を自分でも感じる。

心では、「神様、助けてください。何事もありませんように」
と願い続けていた。。。



その願いも空しく、

次に先生から告げられた言葉は、
「妊娠は、確認できたのですが、稽留流産の可能性があります。
赤ちゃんの、心拍が確認できなくてね。。。」



頭が真っ白で、言葉を失った私に、先生は、やさしく言う。
「まだ、小さくて見えてないだけってこともあるので、一週間後にもう一度
診てみましょうね。」



どうやって、家にたどり着いたのか、覚えていない。。。





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2003年10月12日(日) 第48章 最大の悲しみ(part1)

しゃがみこんだ私を見て、あきらちゃんは、驚いて、
私を抱き上げ、車に乗せた。

そのまま、家まで運んでもらい、不器用な手つきで、台所に立ち、
おかゆを作ってくれた。


そして、私の身体を気遣って、幾分やさしく私に言った。
「お金は、月々すこしづつ返していくよ。。。。」




ひと晩、私に付き添ってくれたあきらちゃんは、次の日の朝、
一緒に暮らした部屋を後にした。

コタツの上に、鍵を置いて、残りの着替えをみんな持って出て行った。


「もう、帰って来ない?」弱々しく私が訪ねる。
「三年は、戻れないと思う。」    「三年たったら?」
「三年たって、俺が、ちゃんと出来てたら、戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。」


三年たっても、戻ってこないだろう。。。私には、わかる。
長い間、あきらちゃんへの想いをずっとずっと背負って生きていたのだから。
あきらちゃんの考えていることくらい、ちゃんとわかる。




こうして、私とあきらちゃんの、甘い関係は、終わりを告げた。
少なくとも、今、現在の私の中では、そう考えている。
この時で、終わったのだと。




次の日から、私は、夜だけ働きに出かけた。

これまでのように、服飾のデザイナーとしての職を見つけて
昼間に働きたいとも思っていたが、現実問題として、お金の事をまず片付けてから。。。
そう思っていた。

いや、そうではないのかもしれない。。。

今、冷静にあの時を思い出してみると、
正直なところ、夜に働く事で、私は、あきらちゃんと別れた事を
悲しんでいる自分を 少しでも誤魔化したいと考えていたと思う。

夜の、酒場で働く事は、それをかなえるのに格好の場所であった。



お店では、私が、ごく自然な発想で、お客さんと会話を交わすので、
その、接客ずれしていない、素人的なところが受けたのか、
みんなに「りかちゃんが入っている日は、毎日来るよ」
と可愛がってもらえた。

ママも、「りかちゃんは、ここで、一番人気なんだから。頑張ってね。」
お店の片付けの時にいつも言っていた。有難い事だった。




私も、お店で働いている間は、あきらちゃんとの事を 少しでも
紛らわす事ができたし、会社の役職者達が、お店で交わす会話は、
同じ会社なら絶対に話さないであろうプライベートな人間模様や人生観ばかりで、
こんな人たちでも、こんな事で悩むのか。。
などと、新鮮な気持ちで、会話を楽しめた。





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2003年10月11日(土) 第47章 冷たい別れ(続き)

要訳すると、
私が、いるから、仕事ができない。
俺が、仕事できないのは、お前のせいだ。
そういった意味の言葉の羅列であった。


私の心は、かなしみに包まれた。


あんなに、一生懸命頑張っていたのに。。。。
私にも、確かに、至らない部分はあったと思う。
だけど、我慢に我慢を重ねて、必死でここまできたのに。。。
あきらちゃんが、飲み歩いているのも、会社のお金に手をだしたことも、
全て、私のせいだと言うのだ。。。。
また、自分のミジメさに涙が溢れる。
いったい、私は、この人の事で、これまで、
どれだけの涙を流しただろう。。?




「あきらちゃんのいうことは、そうかもしれない。
だけど、私、精一杯やってたよ。
一生懸命、あきらちゃんがやりやすくできるために、
努力したつもりだったのに。
そんな言い方ないよ。。。。
一緒に暮らそうって言ったのは、あきらちゃんじゃない。」


涙をこらえながら、ゆっくり言葉を選んで、あきらちゃんに返した。

「お前なんかより、前の嫁さんとか、みかちゃんの方が、
よっぽど迷惑かけたよ!!」

驚く事に、あきらちゃんは、そんな言葉で、私に冷たく怒鳴りつけた。



かなしくて、情けなくて、仕方なかった。

確かに、前の奥さんに対しての言葉はわかる。
でも、あきらちゃんが他の人にかけた、
迷惑のことなんて、こんな場面で言われる筋合い私にはないよ。
奥さんへの事だって、あきらちゃん自身の選択でもあったわけじゃない!
喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
何も言わず、ただ黙って泣いた。



「お前は、明日から、会社に来なくていいよ。俺には、お前を使う力がない。
それから、もう一緒に居られない。別れよう。。。。」


あきらちゃんは、冷たく言い放つと、席を立った。
私も力なくそれに続いた。



あの時期私は、頻繁に、体調を悪くしていた。

お店を出たとたん、激しい吐き気に見舞われて、
その場に、しゃがみこんでしまった。

立ち上がれないほど、胸がむかむかする。。

頭の中では、さっきのあきらちゃんの冷たい言葉が、
いつまでも、渦巻いていた。





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2003年10月10日(金) 第47章 冷たい別れ

はじめてお酒の席で働く事になり、まだ、お客さんの入っていないお店で、
私は、緊張しながら、細かな準備の仕方を教えてもらった。



はじめてのお客さんは、そこの店の古くからの常連さんであった。

坂東さんという、気さくなおじさん?である。
みんなからは、「バンさん」と呼ばれていて、親しみをもたれている。
見た目どおり、やさしくて、おもしろおかしくはじめてそこで働く私の緊張を
うまく、解きほぐしてくれた。




スナックとは言っても、少し高級感のあるスナックで、来るお客さんは、
みんな、大企業のお偉方や、会社の経営者。
どちらかといえば、高収入の人たちばかり。

そんな人たちが、仕事から帰って、ちょっと近くで飲みたいなとか、
会社の人たちと、飲んで帰ってきて、まだ飲み足りないから、近くで
もうちょっと、飲もうか。。。とか思って、やってくる店だった。


はじめてそう言うところで、働くには、比較的、働きやすいところであった。



夜の7時から、閉店まで、そこで働いて、朝から、会社へ行く。
そんな生活を始めて、一週間ほどたった頃だった。




会社では、なにくわぬ顔をしていたが、あきらちゃんと私の会話はなかった。
勿論、あのお店で働くようになったことは、あきらちゃんには、言わなかった。

ある日、仕事が終わってから、あきらちゃんが、
「今日、話する時間あるか?」と言った。
「わかった。」



その日、お店の仕事が休みだった私は、うなずいて、
あきらちゃんから言われた場所で、待っていた。




その会社の近くの、カジュアルバーに入って、話をした。

あきらちゃんが、口を開いた。

「もう、一緒には、いれない。このまま一緒にいても、
今のままでは、俺は仕事ができないよ。俺には、お前の事を幸せにする自信がない。」


はじめは、遠慮がちにそんな言葉ではじまったのだが、言葉が進むにつれ、
いつしか、その言葉は、残酷に私をののしるような言葉に変わっていった。




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2003年10月09日(木) 第46章 新たなるスタート(続き)

「はじめは、うまく行くと思ったんだよ!
それじゃあ家を出るよ!」

私に怒鳴りつけて
そのまま、彼は、たくさんの着替えを持って、家を出て行った。


普通なら、その場で泣き崩れただろう。

その頃の私には、そんな悠長な事をしている猶予はなかった。



とにかく、生活できないことで、キャッシングした支払い。
日々の生活を送る為の、生活費。そして、夏にはくるボーナス払いの支払い。
バイトを探さなければ。。。




さすがに、その日は、一睡もできなかった。涙も流れた。。。

しかし、朝になると、私はすぐに、求人情報誌を買いに、
コンビ二へと急いだ。

月々の家賃や食費、光熱費、それらを払いながら、
借金の支払いをするためには、水商売しかないと考えた。
とにかく、借金をなくしたかった。



とは言っても、そのたぐいの仕事は、初めての私。
カウンターで働ける、スナックのようなところなら、大丈夫かもしれない。
そう思って、できるだけ、通いやすいように、家の近くを選んで探した。



その点では、運が良かった。
ちょうど、家から歩いて10分足らずの場所のスナックを見つけた。

このあたりなら、客筋もよさそうである。


即座に、そこに電話をした。

家も近い事もあったのか、その日のお昼すぎに面接に来れるか?と聞かれた。
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ、3時くらいに来てね。」と、ママらしき人が言った。


面接に行くと、2,3質問を受けて、少しだけ雑談をした。
会社の事情と、生活費を補う為に働くことを話した。

ママは、気さくな人で、即決で、
「気に入りました。是非働いてほしい。」と言ってもらえた。
週に、4日間そこで働くことになった。

「ここのお客さんは客筋がいいから、はじめてでもきっと大丈夫よ。」
「じゃあ、お願いします。」

家に帰ると、ほっとして、昨晩の寝不足の為に、
コタツでうとうとしてしまった。




電話の音で、目が覚めた。
さっき、面接に行ったお店のママだった。
「よかったら、今日から来ない?」
なんと、朝、情報誌を買いに行って、即、面接に行き、
その日から、そのお店で働く事になった。




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2003年10月08日(水) 第46章 新たなるスタート

あきらちゃんは、次第にすさんでいった。

彼は、訳もなく、時々不機嫌になる。
それは何も、私だけにではなかった。
会社でも、高瀬さんに対して、訳も言わず、怒った態度をしてみたり、
みかちゃんに対しても、細かな事で、突然、怒り出したり。




一月に入って、生活費は一切入れてはくれない。
そのお金で、よく飲み歩いていた。

それだけならまだしも、会社で、管理していたお金にも手をつけて、
自分の遊びのために使っている様子が伺えた。


このままでは、会社を軌道に乗せるどころの話ではない。


飲みに行ったりするのが、悪いとは言っていない。
しかし、こんな生活状態で、
会社のお金にまで手をつけて飲み歩く神経。
そして、自分だけが辛い思いをしているような態度。




その日、私の体調は、最悪だった。
立っているのもやっと。
その体調のせいか、気分は沈みっぱなし。
不安定な想いが頭をかけめぐる。



あきらちゃんが、また飲んで、夜中に帰ってきた。



私は、いままで我慢して溜めていたものを一気に吐き出した。


「こんな状態で、よく飲み歩けるね!
家に帰ってきても、塞ぎ込んでばかりで、
会社でも、あんな態度で。。
いつも、私は、あきらちゃんの機嫌を伺いながら生活しないといけないの?!
高瀬さんだって、アルバイトしながら、会社に行ってるんだよ!
それでよく会社おこせたね!
それでも男?!
なさけないよ!
自分ばっかりが、しんどい思いしてると思ったら、大間違いだよ!
みんな一生懸命がんばっているのに。。
あきらちゃんは、自分で何もしてないじゃない!
会社をやりくりするお金がないって、自分で何か努力したの?
悩んでるだけなら、誰だってできるよ。
人に頼る前に、自分で、夜中まででも働いてでもやり抜きなさいよ!
一人で暮らしたほうが、よっぽどよかったよ。」


最後の一言は、つい、口をついて出てしまった。
言うべき言葉ではなかったと思う。
私が選んだ道でもあるのだから。。。。。




あきらちゃんは、それでもまだ、あのフッと人を小ばかにした様な
笑いを浮かべただけだった。



あの時期、彼も、うまく行かないことを悩んで、
自暴自棄になっていたのかもしれない。





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2003年10月07日(火) 第45章 あの頃の日記(part2)

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12月13日
今日は、あきらちゃんの好きな、すき焼きにした。
ケーキもワインも用意した。
お誕生日おめでとう。。。
でも、あきらちゃんのことを疑ってしまっている。
あのライターは何?
まだ、生活ははじまって一ヶ月たったばかりなのに。。。
そんな人ではありませんように。。。
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12月14日
昨日、あんまり楽しくできなかったことを反省した。
私は、駄目なやつだ。
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12月15日
お腹が痛い。
何も食べる気になれない。
晴れ晴れとした気分になれていない。
あきらちゃんの前では、元気を装うから、
私の正直な気持ちを吐き出す場所がない。
誰かに思い切り甘えたい気分。
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12月16日
あきらちゃんが帰ってきて、二人で鍋を食べた。
比較的気持ちは落ち着いている。
会社帰ってから、アルバイトでもしてみようかと考えている事を言った。
「だめだ。」ってあきらちゃんは言ってた。
私がお金を出しているから、
その事を考えてそう言ったんだと思う。
こっそり、バイト先を探そう。
高瀬さんだって、アルバイトしながらやってるんだから。。。
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12月20日
元気になろうとしても、会社ではかなしくなる。
あきらちゃんに、馬鹿にされてるのでは?とさえ思ってしまう。
いつも傷ついてしまう。
帰り、雨が降って、濡れて帰った。
ミジメ。
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12月25日
やっぱり、あきらちゃんは、他にも誰かいるのかも?
まだわからないけど。
しばらく、様子を見てみよう。
もし、そうなら私はとてもみじめ。
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12月26日
今年もあと一週間。
今更だけどがんばろう。
心を正しくしっかりしなくちゃ。
できる限り、人を思いやる気持ちを持ち続けよう
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2001年1月1日
貯金ゼロから始める21世紀か。
久しぶりに実家に帰ってきた。
色々な事をゆっくり考える時間ができた。
私が今の生活を覚悟した意味とか。
他にも。
本当に一生懸命できる状態なのかを冷静に考えた。
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1月2日
初夢は、よく覚えていない。
お正月の食べ物をたくさんもらってきた。
とりあえず食事はしのげそう。
親には、こんな生活状態であることを絶対に言えない。
どんな状況でも、やさしくがんばりたい。
神様、どうか助けてください。
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1月5日
とうとう、生活できずに、生まれてはじめて、キャッシング。。
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1月6日
マキちゃんから電話。長電話だったけど、楽しかった。
あきらちゃんに対して、昨日のことで、まだ尾をひいている。
心に余裕がない。
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1月7日
雪が降った。
ちょうど出かけていたから、手がちぎれそうに冷たくなった。
早く春がこないかなあ。
元の自分をとりもどさなければ。
初心にかえろう。
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1月8日
あきらちゃんは、日々様子が違う。
やさしかったり不機嫌だったり。。。。
ちょっと、振り回されて疲れる。
前の様に楽しく話せない事が、気になっていたけど
今までの事より、これから楽しく過ごすことだけを考えよう。
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1月9日
今月、4万の赤字。
アルバイト、ほんとにしなくては。
あきらちゃんには話せない。
がんばろう。
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1月10日
とても気分が悪い。。
一日中寝込んでしまった。。。。。
そう言えば、生理が来ない。
それと関係あるのだろうか。。。
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日記は、ここで途切れている。

毎日、頭の中は、お金とあきらちゃんの態度を
気にする言葉ばかり。だんだん追い込まれていった。
彼も、そうだったと思う。



2003年10月06日(月) 第45章 あの頃の日記(part1)

あきらちゃんと一緒に暮らし始めた頃は、
ずっとその生活が続くのだと錯覚していた。。。


一緒に生活して、わずか一ヶ月程度で、その夢や希望はグラグラと、
音をたててくずれていく。。。
辛くて不安だった。

でも、二人でスタートしてしまったのだ。
乗り切らないと。。。。

昔、あの会社で辛くて悲しい日々を乗り越えた事を考えると、
何事もやってやれないことはない。
毎日、そんな風に心の中で自分を励ました。





その頃の家計簿に書かれた私の日記には、
如実に気持ちの変化が綴られている。

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12月6日
今日は、いっぱいお金を使ってしまった。
でも必要なものだから仕方ない。そのかわり、お米とジャガイモを頂いた。
みんなが幸せになりますように。。。会社がうまくいきますように。。。。
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12月8日
豚肉のしょうが焼き 味噌汁 ポテトサラダ
友達から、飲みに行こうと誘われた。今、そんな余裕なない。
ぱ〜っと、遊びに行きたいけど、我慢我慢。
この生活を選んだのだから、精一杯頑張ろう。いつかきっとうまくいくはず。
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12月9日
今日は、一週間分の買い物をしたつもり。来週はだいぶん楽になるだろう。
あきらちゃんは、今日、帰ってこない。餃子を作り置きして、
洗濯と掃除を徹底的にして、一人を紛らわせた。
この生活で、一人は、心細い。
どうしてこんなに一人が怖くなってしまったんだろう。。。
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12月11日
一駅先まで歩いて、あきらちゃんの誕生日プレゼントを買った。
心がウキウキしていないから、足取りが重い。がんばって元気になろう。
---------------------------------------------------------------------
12月12日
明日は、あきらちゃんの誕生日、ご馳走を作って楽しく過ごそう。
少しでも、あきらちゃんの気分を楽しいものにしてあげたいな。



2003年10月05日(日) 第44章 新たに生まれた疑念(part3)

その年の彼の誕生日。疑念がもう一つ増えた。



貧しくても、なんとかやりくりして、ささやかながら、
プレゼントと、いつもより豪華な食事、ケーキを用意して、
帰ってきたあきらちゃんを出迎えた。

これで、少しでも日頃の精神的な疲れが癒されればいい。。。。



その準備に驚いたあきらちゃんは、いつもよりご機嫌で、
私たちは、その日、楽しく幸せに過ごした。



ところが、ケーキも食べ終わり、
ゆっくり会話を楽しんでいた私の目に
奇妙なものが飛び込んだ。


彼が、タバコに火をつけた。

彼の手に握られたライターが、テーブルの上に置かれる。

何気なく、そのライターに目を移した。

そこには、私が行った事のないラブホテルの名前が書いてあった。。。。



(私と再会するまでに誰かと行ったのかもしれない。でも?
それとも私と行ったけど、私が忘れてるだけなのかな。そう?)



仕事をもっと活き活き頑張りたいのに、その機会がない。
毎日毎日、お金の事を心配して生活しなくてはいけない。

そして、たった今、また一つの疑念をあきらちゃんに感じている。


もう、私は限界だった。
なんとか気力だけで、持ちこたえている脆い状態。




さっきまで、楽しく過ごしていたのに、もう、心には、暗雲が立ち込めた。
頬に涙が伝う感触を感じた。



さっきまで、笑っていたのに、突然なみだを流した私に、一瞬彼は驚いた。


しかし、彼の対応は、冷たいものだった。


何、泣いてるんだ!と、あざ笑うように「フッ」と鼻で笑って、
プイッと、横を向いてしまった。



以前なら、「どうしたの?」そう言って、
やさしく問いかけてくれただろう。





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2003年10月04日(土) 第44章 新たに生まれた疑念(part2)

ところが、そんな薄っぺらな幸せは、長くは続かなかった。



会社では、仕事が閑散期なこともあったのか、
私と高瀬さんは、いつまでたっても、雑用的な仕事しかない。

早く、本来の仕事をして、バリバリ頑張りたい。
頑張って、会社を軌道にのせたい。


次第に、私の中で、焦りが生じた。
私の仕事への情熱がうずき始めていた。

それは、高瀬さんにしても、同じ気持ちだったに違いない。
彼は、収入の足りない分を補う為に他にも、
パチンコ屋さんでアルバイトをしていた。

いい大人がアルバイトをしてまでも、あきらちゃんの会社にとどまった。

軌道にのりさえすれば、また、張り切って仕事ができる。
会社が軌道にのるまでの辛抱と、ずっと、我慢をしていたに違いない。
私もそうだった。



勿論、あきらちゃん自身も、焦っていた。
そして、自信をなくしていた。



次第に、彼が、家でイライラすることが頻繁になっていた。
それでも、まだ時々は、やさしい日もあったが・・・・。

私は、彼に対して、普通に振舞うよう、努力した。
彼が私に対して、お金を借りている事で、引け目を感じないよう、
常に、彼を励まし、気を配った。
お金の話もできる限り避けた。


そんな努力も空しく、彼は徐々に、夜飲み歩いて、帰ってこない日が増えた。

私自身も、仕事への焦り、お金が底をついてくる事への
不安などを募らせていた。

食費や、生活に必要な最小限のものを買うだけで、精一杯
化粧品や洋服など買う余裕はなかった。




あきらちゃんは、あれで、会社がすんなりうまく行かない事で、
焦って、なやんでいるのだろう。
私が頑張って、なんとか、この時期を乗り切らなければ。。。。。。
まだまだこの生活がはじまったばかりなのだから。

そんな思いと、
男の癖に、いつまでもうじうじして。。。おとこなら、もっと仕事に対して、
どんと、かまえたらいいのに。
自信を持ってバリバリ仕事をこなしてほしい。
私が、一生懸命節約しても、よく平気で飲みに行ったりできるわね。

そんな思いが、いつも交互に私の心を占める。




私より、どちらかといえば、あきらちゃんの方が、気持ちの乱れを
顕著に表に出した。





心はお金で買えない。お金より大切なものがある。
そうは言うが、
最低限の生活さえ保障されないほど、お金がなくなったとき、
人の心は、こうまでも変わってしまうのか。。。
そんな風に感じた時期でもあった。





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2003年10月03日(金) 第44章 新たに生まれた疑念(part1)

あきらちゃんが、ただいま〜と言って、帰って来る。

そして、次の朝も、一緒に会社へ行くのだ。



お金は、節約しなくてはいけなかったが、先に会社から帰って、
愛する人のために、掃除したり、ご飯を作る喜びを感じていた。

質素な生活だったが、幸せだった。



「ほんとなら、もっとオシャレな生活をさせてあげたいのになぁ。
会社が軌道にのるまで辛抱してね。」
彼は、ことあるごとに、そう言った。

時々、仕事関係の人と夜中まで飲んで、そのまま帰ってこない日や、
徹夜マージャンとかなんとかで、帰ってこない日もあったが、
まだ、一緒に暮らしだしてから、日も浅かったし、
なんにも思わずに過ごせた。

いつまでもこうして過ごせると、あまい考えばかりが、浮かんでいた。
その時点では、彼も同じ気持ちだった。




一緒に暮らし始めて、ほぼ一ヶ月。
あきらちゃんの会社に入って、かれこれ二ヶ月が過ぎようとしていた。


私の給料はない。

不動産屋に支払ったお金、前払いした二ヶ月分の家賃
それらは、全部私が、なけなしのお金をはたいて、支払っていた。

しかも、生活に必要な電化製品は、すべて、私のカードで、ボーナス払い。

まだ会社をはじめて、一年未満。経営者であるあきらちゃんは、
カードをつくることができないのである。
かと言って、お金もない。




「今は、閑散期だけど、春になったら、今よりずっと収入は増えるからね。
ボーナス払いにしておいてくれたら、そのとき、俺、お金出すから。」
そんな風に言っていた。



頑張ればなんとかなる、頑張って早く楽な生活を送りたい。
私はそう思っていた。





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2003年10月02日(木) 第43章 踏み出した第一歩

その一ヵ月後とうとうあきらちゃんは、正式に離婚した。



あきらちゃんの奥さんは、子供を連れて、奥さんの実家へと移り住んだ。




私は、その翌月に、あきらちゃんの会社に入った。

そして、私たちは、住むところを探し始めた。



以前に見に行った、大きな公園のある住宅地に何度も足を運び、
「やっぱり、この辺りがいいね」と、自分たちが住む地域も、
ほぼ固まっていた。



ところが、いざ不動産屋に行く段階になると、
あきらちゃんが、しり込みし始めた。

「あのあたりは、やっぱり高いから、はじめは、別のところに住んで、
もう少しお金に余裕ができてから、あの辺に住むことにしようか。」
ようは、お金の問題である。



あきらちゃんに大きなお金を貸していたが、
私にはまだ、引越して、もろもろの生活用品を買い揃えるくらいの
貯金は残っていた。

「えー!そんなの、余計にお金がかかるよ。もう決めたことなのに、
今になって、そんなこと言ってたら、なにも進まないよ。
全然、決まらないじゃない。。。その間にどんどん、引越するお金まで、
出ていってしまうよ。」



あきらちゃんの会社で働いているとは言っても、
私のお給料は無いに等しかった。

会社の状態は、あまりよくない。私に借金するくらいなのだから。。。

それに加え、高瀬さんも、一緒に働きだして、
一気に二人も社員がふえたのだから、
会社は、もろもろの出費が増え、今までより、利益も減だろう。


ちょうど、私たちの業界では、閑散期を迎えていたし。。。
あきらちゃん自身もこの頃になると、
少し自信を失いかけている様子であった。

それでも、私は、みんなで力をあわせて、必死で頑張れば、いつか、
その努力が実る日が来るだろう。
三年くらいは、寝る間も惜しんで頑張らないと。。。
そんな覚悟はあった。
それを覚悟の上での、引越だった。




「とにかく、今計画している通りに実行してみようよ。私も頑張るし。
あきらちゃんが、言い出した事じゃない。」
「そうか、そうだな。」自信を失いかけているあきらちゃんの声は
力なく響く。。。。

それでも、どうにか不動産屋に行くまで、こぎつけた。


進まないとなにもはじまらないのだから。。。とにかく、突き進もう。
私にしても、彼にしても、もう、一歩を踏み出してしまっているのだ。
今更、ひき戻ることなんてできない。



不動産屋の営業の人に、半ば、ダメもとで 
住みたい場所(勿論、あの大きな公園の近く)家賃の予算などを話した。

意外にも、このご時世の為、家賃を下げるマンションが多く、
条件にあったマンションが、何件かあった。

全部、見せてもらって、私たちは、一番、大きな公園に近くて、駅からも近い
静かなマンションを選んだ。

不動産屋の営業の人が、とても良い人で、
いろいろと親切に対応してもらった。

無理を言って、即決なら、という条件で、
はじめに提示された家賃より、一万円安く、してもらうことができた。

その日のうちに、契約を済ませた。



当然、引越代節約の為、何度かにわけて、親が仕事に行っている間に、
あきらちゃんの車で、荷物を運んだ。

家を出るときは、母親も寂くなると言った。
父は、なにも言わず、元気で頑張れよ。とだけ言った。

あきらちゃんと一緒に住む事は知らない。。。。
心が痛む。




移り住んだ第一日目、私だけ、一日仕事の休みをもらって、
部屋の片づけをした。


今日からは、あきらちゃんが、「ただいま」と言って、
家に帰って来るのだ。なにをしていても、楽しかった。





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2003年10月01日(水) 第42章 重圧への恐怖(続き)

「やっぱり、だめだよ。離婚しないでほしい。
あきらちゃんと一緒に過ごせる事は、うれしいと思うけど、
その先、あきらちゃんの家族のことをかんがえたら、私には、無理。」


あきらちゃんは、答えた。
「この離婚には、りかは、関係ないよ。俺自身の問題なんだ。
会社を始める時、マンションを売ってから、家では喧嘩も絶えない。
そんな毎日に耐えられなくなったんだ。
家に帰って、一緒に暮らしていても、その意味がなくなったっていうか。。。。。。それは、俺自身のことだから、
それ以上は、説明できないけど。とにかく、よく考えて出した結果だよ。」

「変、そんなのおかしいよ。離婚しないでほしい。
子供もまだ小学生なのに。。。
とにかく、今は、離婚したらだめ。
私がこんなこと言うのも筋違いだけど。
あきらちゃんと会うのやめる。
それで、離婚しないで、家族で暮らしてほしい。
おかしいよ、そんなの。」



不倫に走る女は、男が離婚すると離れていくという人がいる。

それは、結婚している男だからこそ魅力を感じているのだとか、
手に入りにくいものを手に入れることに楽しさを感じているなどと
世間では言われる。

実際は、そのどちらでもないのではないだろうか。

もちろん彼が自分だけの彼になってくれれば、嬉しいにきまっている。
しかし、残された家族の気持ち、
それを踏み台に自分が幸せになることへの罪悪感
それらをこれから先、抱えて生活していかなければならない、重圧感
そんなものが、ただただ、怖いだけなのだと思う。

彼の事が、大切で、どうしようもない「好き」という気持ちで、
会い続けてしまう。その気持ちに嘘偽りはない。




「りかが、俺と会ってくれなくなっても、俺は、離婚すると思うよ。」
彼は、そう言った。

それから、彼は、彼の離婚に至るまでの心情、
家族に対してのこれからの、彼の考えなどを切々と語った。




とうとう私は、彼の話に納得せざるを得ない状況になってしまった。

それは、やっぱり彼の事を好きだというどうしようもない気持ちが
強く、断わりきる勇気を取り去ってしまったのだった。




結局、一緒に暮らすことを受け入れた。






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