ハッピーステップ
泥沼生活から、這い上がった軌跡(日記のはじめのほう)を書いた後
最近では、日常の感じた事をつらつらと、不定期に更新中ですm(_ _ )m

2003年09月30日(火) 第42章 重圧への恐怖

驚きのあまり、次の言葉が見当たらない。


とにかく、頭の中を
どうして一緒に住めるの?奥さんは?子供は?
一体、どういう意味だろう?
ただ、疑問ばかりが駆け巡る。




驚く事に、一ヶ月会わない間に、彼は、離婚の話を進めていたのだ。



その時点で、まだ、書類上の手続きは終わっていなかったが、
とにかく、離婚することは、決まっているようであった。




思えば、彼と、初めて出会ってから、7年間。
私たちは、会っていないときも、気持ちの上で、なんらかのかかわりを
ずっと持ち続けていた。

偶然、再会できたときは、運命さえ感じた。
それは、彼にしても、同じ気持ちであったようだ。

再会してからは、彼の私への接し方が、以前とは随分違って、
もっと、気持ちの上で深いものになっていた。


再び、私と会う様になってから、まだ日が浅い頃から、
離婚を考え始めていたらしい。

それに加え、私が、大きなお金をあきらちゃんに貸したこと。
そして、これからの、不安を思い切ってぶつけてしまったこと。
それらが引き金となり、彼の決断を固いものにしたようであった。



意外にも、私は手放しに喜んだわけではなかった。



もし仮に、子供が成人していたり、もしくはそれに近い歳なら、
多少の後ろめたさはあったとしても、手放しで喜んだであろう。
彼には、まだ小学生の幼い子供が二人もいる。
それに、その幼い子供を抱えて、これから先、生活していかなければならない奥さん。
それを考えると、私には、その犠牲を抱え込む強さはなかった。

そして、そんな家庭を手放して、自分の意思を貫くあきらちゃんに対しても、
正直、いいようには思わなかった。

自分のしていることを考えれば、かなり矛盾しすぎているが、
いざとなると、私は、その離婚話に重圧を感じた。


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良心からくる思い、と言ってしまえれば、まだ格好はつくのだろうが、
そうではなく、その大きな事態の根本に、自分があるという事実が、怖かったのだ。



2003年09月29日(月) 第41章 謎の空白(続き)

その旅行が、あまりにも楽しく、幸せであったため、
その年、もう一度だけ、安上がりの旅行を計画し、
夏を楽しんだ。。。


旅行がおわると、8月も終わり、秋が近づいてくる。。。。
そうしたら、本格的に住むところを探そう。私は、そう考えていた。




ところが、

いつもなら、週に、最低でも1,2回は、あきらちゃんから連絡があった。

しかし、旅行から帰ってかれこれ二週間たっても、連絡はなかった。


始めは、お盆休み明けで、仕事がバタバタしているのだろうと、
気長に待っていた私であったが、日が経つにつれ、あまりの連絡のなさに
不安が募った。

なにかあったのだろうか。

それとも、私の事が嫌いになったのか?
でも、最後に会った二度目の旅行の時も、喧嘩したわけでもなかったし、
むしろ、あきらちゃんの方が、名残惜しそうにして、帰っていったくらいだった。



三週間たった。それでも連絡はなかった。



私の方からは、敢えて連絡をしなかった。
お金も貸しているんだから、いつか連絡はあるはずだ。
なかったら、私が馬鹿だったとあきらめるしかないのだろう。。。。。


連絡がなくなってから、ほぼ一ヶ月が過ぎた頃だった。

あきらちゃんから、電話があった。


第一声は、「怒ってる?ごめん」だった。
「ちょっと、いろいろあってね。今日、会えないかな。話があるんだ。」


私は、半分あきらめかけていたあきらちゃんからの電話に
喜び勇んで、出かけて行った。




会って、お店に入り、開口一番に彼が口にしたのは、
「りか、一緒に住まないか?」だった





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2003年09月28日(日) 第41章 謎の空白

旅行の日がやってきた。
私たちは、前日の晩から落ち合い、一緒に朝、出発した。



まだ、世間のお盆休みには早かったが、海辺は人でいっぱいであった。



浜辺で、ビールを飲んだり、二人だけで、バーベキューをたのしんだり、
海のなかで、はしゃいだりして、開放感を満喫した。

夜は、海辺の旅館らしく、さまざまな魚介類がたくさん食卓に並べられた。

部屋食だったため、あきらちゃんにご飯をよそった。

夫婦ようなその行為が、私をうれしくさせた。

食事が終わってからも、次の日どこに行くか話し合ったり、
地元の夏祭りに手を繋いで行ったり・・・・。

疲れて、私が寝入ってしまうと、夜中に鼻をつまんで起こされた。

全面窓の障子をあけたあきらちゃんが言った。

「みてみて!すごいよ!」
あきらちゃんの言う方向をみると、数え切れないくらいのイカ釣り漁船が、
黄色いランプをつけて、海に点々としている。


きれいだった。そして、幸せだった、楽しかった。



どんな時よりも、愛されているのだということを
一番、実感することができた時分だった。




楽しい旅行は、瞬く間に過ぎた。
その旅行は、私の増幅していた不安を少し軽減させた。




私たちは、楽しい会話を楽しみながら、車で帰路へ・・・。

車から見る風景が、田舎町から、ネオンの広がる場所へと移り変わっていく。

あんなに楽しかったのに、もうすぐまた、それぞれ別の家へ帰っていくのだ。



夜のテールランプは何故、切ない気持ちを倍増させるのだろうか。



私は、運転するあきらちゃんの膝に、そっと手を置いた。

あきらちゃんは、黙って、私の手を強く握り締めた。













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2003年09月27日(土) 第40章 不信と不安(続き)

次の日、何回かに分けて、その大きな金額を
あきらちゃんの口座に振り込んだ。

私の定期預金、郵便貯金、全てを解約して・・・・・。



その週末、再びあきらちゃんと会った。

いつものように楽しんでいたが、心のどこかで、不安が影をちらつかせた。


お金を貸したことをきっかけに、私は、不安を募らせた。
こんなふうに、私はいつまであきらちゃんと一緒にいることが
できるのだろうか。
いつか別れなければいけない。その日は、いつなのだろうか。
そうなったら、私は、どうなってしまうのだろうか。。。。



その日、とうとう私は、あきらちゃんにその不安をぶつけた。


ホテルに入った私たちは、ソファーに座り、くつろいでいた。
だが、私の中では、あきらちゃんに対する不信やら、将来への不安やら、
その他 諸々が渦巻いていた。


どんな話だったかは忘れたが、話の流れで、
あきらちゃんがこんなことを言った。

「もしも、海で、自分の両親と りかが、溺れていて、どちらか一人しか
助けられないとしたら、俺は、りかを助けるよ。」
諸々が渦巻いていた私は、その両親という言葉に、敏感に反応した。

「私が、あきちゃちゃんと過ごすためには、こうやって、ホテルに泊まるか、
旅行に行くしかない。
その日が終わったら、別々の家に帰って別々の生活が待ってる。
かといって、家へ招待することもできない。
お互いの両親には、絶対に合えないんだよね。
今は、まだこれでもいいけど、もっと年をとったら、どうなるんだろ。
私って、あきらちゃんの何?何なの?これから、どうなるの?
いつもいつも私は、こんな不安を抱えて
あきらちゃんと会い続けないといけないの?
あきらちゃんには、私と別れても、奥さんも子供もいて、
帰る場所があるけど、
私は、一人ぼっちになっちゃうの?
年をとればとるほど不安になるよ。」


自分の発する言葉に、自分の中の言い知れない不安も増幅して、
どうしようもない感情で、泣き崩れた。


その夜、私たちは、身体を重ね合わなかった。

私が、一晩中泣いていたからである。
その間、あきらちゃんは、ずっと黙って、私の肩を抱いていた。



そして、最後に、
「わかったよ。わかったから。。。。」
そうつぶやいた。



その、「わかった」と言う、言葉の意味を理解することになるのは、
もう少し先の話である。






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2003年09月26日(金) 第40章 不信と不安

お昼から夕方まで、私は、ブラブラとウインドゥショッピングをしたり、
カフェで、ボーっと考え事をしたりして、時間を潰した。



いつもより少し早く、あきらちゃんから電話があり、
私たちは、再び落ち合った。



お店に入り話を切り出した。
「もう一度聞くけど、あきらちゃんは、何故私にお金の話を切り出したの?
私が言いやすいってのは、私ならお金をすぐに貸してくれるからって意味?
都合がよかっただけ?」

「違うよ。俺も、大分と迷ったんだ。けど、会社を立ち上げる時に、
迷惑をかけれるところには、かけつくした。他の人にはもう頼める状況じゃなかったしあと、一番信用できるのは、りかしかいなかったんだ。」



私は、この時点で、覚悟を決めていたのだ。
あきらちゃんの真意を確かめるために、お金を貸そうと。。。

お願いだから、私を裏切らないでほしい。。。
そんな願いを込めて答えた。

「明日、銀行に行って来るよ。」
「有難う。ごめん・・・」


その話が済んだ後は、できるだけ、その不安を忘れる為に
あえて楽しく装う自分がいた。



そして、その夜も一緒に過ごした。
しかし、内心は、やはり不安が募っていた。




「再来週あたり、休みが取れそうだから、旅行に行こうか。
いい旅館とれたんだ。
海が全面に見える壁一面ガラスのある部屋らしいよ。
天皇陛下も、別の部屋に泊まった事がある旅館なんだってさ。」
あきらちゃんが言った。

「へ〜楽しみだね」

そう答えたものの、この会話で私の不信感は、少し大きくなった。


お金がないからどうしようもないと、私にお金を借りようとしている割に、
旅行でいい旅館を予約して、それを楽しみにしている。
少し矛盾がありはしないだろうか?


しかし、そんな不信をかかえながらも、あきらちゃんとの始めての旅行は
私をうれしい気持ちにさせたのは、否定できない。



その日は、そんな不信を表に出さないように過ごした。






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2003年09月25日(木) 第39章 疑念(part2)

次の朝になり、私たちは、ホテルを出た。

その時、職の無い私は、そのまま家に帰るが、
あきらちゃんは仕事の為、私たちは駅で別れるはずであった。

「ちょっと、コーヒーでも飲もうか。。。」
あきらちゃんが言った。

「え?仕事は?」
「ちょっと遅れていくよ」


会社を経営しているとは言っても、まだみかちゃんと二人。
その辺の時間の融通は利くのだろう。


何かあるな。と感じた私は、深くは聞かず、「いいよ」と答えた。


しばらく黙っていたあきらちゃんが、話し始めた。



「会社初めて、まだ一年も経っていないから、いろいろ大変な事があってね。」
内容はこうであった。

一年も経っていない有限会社を相手に簡単にホイホイ信用して取り引きなど
してくれる仕入先などない。
支払いは、現金、もしくは、取り引きの為に担保を必要とした。
担保と言っても、マンションを売り払って、
公団住宅に住んでいたあきらちゃんには、家を担保にすることもできず、
そこより少し郊外に住んでいるご両親の家を担保にしていたらしい。
ところが、経営状態が、当初の憶測通りにいかず、
さまざまな支払いを2ヶ月程度、遅らせてもらっているらしかった。
その他、もろもろの理由で、資金繰りに困っている様子であった。
その支払期限が、2、3日後に近づいているらしいのだ。




「ようは、お金の事なのね?」

「そうだよ。」申し訳なさそうに彼が言う。

「いくらなの?」

「大きな額だよ」


それは、数百万単位の大きな額であった。



「どうして、私にその話を?」少し力なく言った。

「りかしか、こんな話できる人がいなかったんだ。」




親しい仲であればあるほど、お金の貸し借りは厳禁である。
私なら、絶対に大切な人にお金を借りようなどと思わないであろう。
ましてや、女の私に・・・・。

あきらちゃんの真意がわからなくなる。

やはり私は、いつまでも「都合のいい女」止まりなのかもしれない。。。。。




「ちょっと、考えさせて。仕事がおわってから、今日、もう一度
会ってもらえるかな。」私は力なく言った。

「わかった。ごめん」




少し、考える時間がほしかった。

貸すとは言っても、私にとっては、
将来の不安を少しでも軽減するための 大切な蓄えである。
そのほとんどの額を貸すことになるのだ。

その将来の不安というのも、
あきらちゃんと過ごす時間を大切にしていることの代償のようなものなのだ。

そのお金がなくなってしまう。
私がお金を貸したからと言って、
会社がその後、うまくいくという保証もない。

はじめたばっかりで、苦しいのはわかるが、そのくらい考えて、
会社を起こし、運営できなかったのだろうか?


それよりなにより、あきらちゃんより6つも年下の女に、しかも、
自分が今付き合っている彼女に、お金など借りようと思う真意がわからない。



初めて、あきらちゃんの人間性への不信をほんの少しだけ、感じた。



しかし、私の気持ちは、あきらちゃんへと、走り始めている。
そのあきらちゃんが、困っている。
お金の事を誰にも言えなかったんだろう。
昨日の夜だって、あんなに私に切り出そうか
迷っているふうだったではないか、
それに、私もその会社で、秋には、働く事になるのだ。
自分たちの会社を起こして出資したと思って、一生懸命頑張れば、
なんとかなるかもしれない。





私は、覚悟を決めた。





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2003年09月24日(水) 第39章 疑念(part1)

状況がよくなるにつれ、私の中では、求めるものも大きくなっていった。

次第に、彼が帰宅後、どのように過ごしているのかが気になり始めた。


しかし、ここでも決して彼の離婚を望んでいたわけではない。

だた、一番初めにあきらちゃんと出会った頃からすると、
私も決して若いとは言えない年齢になっていた。

同年代の友達のほとんどは、結婚して、幼い子供を連れている。
将来の事に対しての、漠然とした不安があった。




旅行に行くと言っても、夏に海に行って真っ黒に日焼けして
おまけに外泊して帰って来るあきらちゃんを迎える奥さんは、
何の疑いもなく「お帰り」と出迎えるであろうか?
かなりの疑問が残る・・・・・。


不安や疑問はあったものの、私は、あきらちゃんから誘われると、
いつも喜び勇んで出かけていった。

しかし、私からは、決して誘う事はなかった。
意図的に・・・・・。

それが、ほんの少しの罪悪感からくる行動だったのかもしれない。




ある日、いつものように、あきらちゃんから誘いの電話があり、
私たちは、会った。

しかし、その日のあきらちゃんは、なんだかいつもと感じが違うことに
気が付いた。
すこし、元気がないかと思えば、急に、饒舌になって笑ってみたり、
食事して、バーで飲んで、二件もまわってるのに、またここに入ろうよと
初めて入るお店で飲んでみたり。。。。
なにか、不自然極まりなかった。

「何かあったの?」
「え?」
「今日、なんかおかしいよ。」
「わかるか?!」
「わかる。いつもと違うよ・・・。」
「なんにも・・・・・ないよ・・・」
どうも、なにかあるようなのだが、
それを私に言えないでいるような様子である。



気になりながらも、その日もいつものように、二人で一晩過ごした。





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2003年09月23日(火) 第38章 夢見心地

その何日か後に、あきらちゃんに会った。



私は、親と喧嘩した事、家を出ようと思っていることなどを相談した。




「どこに住もうかな〜。あんまり、変なところは、嫌だしな。
静かで、便利なところないかなぁ。」


親との揉め事で家を出るというのに、どこかウキウキしていた。
親にしてみれば、喧嘩の上での言葉だったのかもしれない。
けれど、私の決心に揺るぎはなかった。



あきらちゃんも、私が家を出ることで、
自由に私の住まいに出入りできるのだから、好都合だったのかもしれない。

「なんか、おもしろくなってきたな。」そんな風に言った。

この時点では、あきらちゃんも、この恋にブレーキが
効かなくなっていたと思う。

私自身も、愛されているという実感が十分にあった。
ただ、何かしらの不安は、常につきまとったが。。。。。



その夜ホテルで、彼は、車から取り出してきた地図を広げて言った。
「りか、この辺りに住んだら?」
彼の指差す場所を見ると、そこは、緑の広がる閑静な住宅地、
交通の便も非常に良いところである。

「そんなとこ家賃が高いよ!」
「探せばなんとかなるよ。ここなら、
俺の家から、電車だと大回りになるけど、車だと5分、自転車だったら十数分だよ。
そうなったら、いつでもちょこっと
遊びにいけるし、もしも、りかが、俺の会社に来たら、毎日送り迎えできるしさ。」


二人は浮き足立っていた。
いつまでも、その日を思い浮かべて夢を語り合った。



「明日、朝からこの辺りを見に行ってみよう」



次の日、私たちは、車でその付近をぐるぐるまわった。

静かで、緑も多くいいところである。
近くには、大きな公園が広がっていた。
上品な奥様方が、犬の散歩をしている。
止まっている車はすべて高級車。
雰囲気ある住宅地。
但し、果たして私などが住めるような家賃のマンションが
あるのだろうか?


「どう?いい所だと思わない?」彼が言った。
「いい所だけどやっぱり、家賃高そうだね。」


だけど、私は、ここに是非住んでみたいと思った。
こんなに大きな公園が近くにあるし、それよりなにより、あきらちゃんと
いつでもすぐに会うことが可能になるのだ。
夢は膨らんだ。


その後、私たちは、お昼ご飯を食べ、
ボーリング場に行ったり、ドライブしたり、一日を楽しんだ。


夜になり、彼が家の近くまで送ってくれた。
その車の中で、彼が言った。

「りか、もう少し暑くなったら、二人で海に行かないか?旅行に行こうよ。」
「いいの?!うれしい!」



今までの付き合いの中で、何度も外泊は繰り返していたが、
旅行なんてはじめてである。

私は、住むところを探して夢を膨らませていることといい、旅行といい、
本当に夢見心地であった。



今回は、こんな幸せが、ずっとずっと続くような気分になっていた。
7月の初めの頃であった。





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2003年09月22日(月) 第37章 気付かない疑念(part2)

夢のように楽しい気分で帰宅しても、
親のお小言を聞くと、いっぺんに気分が台無しである。

しかし、私は、その頃、そんなことは無視して、
たびたび、無断で外泊を繰り返した。



とうとう、親の堪忍袋の緒が切れた。



ある日、帰宅すると、親が、いつものようにお小言を始める。
うっとおしく思った私は、返事もそこそこに自分の部屋に入り、
バタンと、戸を閉めた。



その日の親は、いつものようにそれで終わりではなかった。

私の部屋まで入ってきて母親が、なにか、弾丸のようにお小言を言っている。

楽しい気分を台無しにされた私は、
「もう子供じゃないんだから、自由にさせてよ!」と、叫んだ。

「親と一緒に暮らしてるんだから、親のいう事聞くのが当たり前でしょう。
自由にしたいんなら、家を出て行きなさい」母親が言った。

「家を出て行けばいいんでしょ!!出て行くわよ!」私は言った。

そうしているうちに、それを聞いていた父親が、入ってきて、冷静に言った。
「親からすれば、いくつになっても、子供は子供なんだよ。
お前たちも大きくなって、大人になったけど、一緒に住んでいる限りは、
家にいないときは、どうしたのかなと、心配になったりするんだ。
無断で外泊したりしたら、なにかあったのかなと、きがきでない。
親が問いかけても、一つ二つ返事を返して、自分の部屋に、入ったりしていては、会話もできないじゃないか。」

私は、黙っていた。


父親の冷静な言葉に、
私の心も幾分冷静に自分の行動を振り返る事ができた。



あきらちゃんをどうどうと、親に紹介できない。。。
そのことを親に話す事もできない私は、
ここ数ヶ月、部屋に閉じこもっては、幸せの余韻にふける事が多かった。



しかし、私だってもう、いい年齢なんだから、自由に恋を楽しませてほしい
「お前が、さっき言ったように、
一度、家を出て自分で生活してみることもいいかもしれない。
そうすれば、たまに実家に帰ったときには、会話も素直にできるようになるだろうし、親のありがたみもわかるかもしれないしな。」


私にとっては、意外な言葉だった。
父親が、私が家を出ることを肯定するような言葉を自ら言うなんて。。。。


「わかった。じゃあ、どこか探して、家を出るよ。」私は、そう言った。


その後、部屋で一人考えていた。

もう、私の心は、固く決心がついていた。

家を出よう。本気だった。


親の心配など、かえりみず、
家を出たら自由になれる。そんな事ばかりが、頭をよぎった。

そして、ふと考えた。
あきらちゃんは、私とかなりの回数、外泊を繰り返している。
家で、奥さんは、どんな風に思っているのだろうか。
無関心なのか、それとも、あきらちゃんがうまくやっているのか。
家で奥さんとは、どんな会話を交わしているのだろうか。
夜は、どんな風に寝ているのだろうか。。。。。
しかも、過去に一度は、他に好きな子ができたと、
離婚を切り出しているのだ。

私なら、もし、自分の旦那さんが、同じ状況であれば、大変つらいだろう。


今まで、自由奔放にあきらちゃんに会い続けていた私は、そのような事を
気に留めたことは少なかった。


私が、あきらちゃんと付き合っていても、いつも不安になったのは、
あきらちゃんには、奥さんがいて、それでいて、平気で(平気かどうかはわからないけど)私との外泊を楽しみ続けているという人間性に
疑問を感じていたからなのかもしれない。

それは、好きだ、一緒にいたいと言う感情と矛盾しているが、
自分で、気付かない部分で、あきらちゃんの人間性への疑問を押し殺して
見ないようにしていたのかもしれない。



勿論、その頃の私には、そのことに気付く余地もなかったが。。。。。





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2003年09月21日(日) 第37章 気付かない疑念(part1)

それから数ヶ月の時が流れた。
季節は、6月半ば。



その時の会社は、一年ごとの契約で、今回の契約満了は、5月。
ここで、二年働いたが、今回は、契約を打ち切ることにした。

会社の体制がかわり、その体制の中では私は働く気にならなかったからだ。
ここでは、多くの年棒で契約してもらっていし、
その頃、親元で暮らしていた為、半年くらい何もしなくても、
まだ、蓄えがある程度残っているくらいの貯金はできていた。




あきらちゃんとの関係は、楽しく幸せに過ぎていた。

以前と違って、一緒の会社ではなかったことと、
彼自身が、家庭に縛られているタイプではなかったことで、
私たちは、自由にのびのびと過ごした。

彼の友達にも、私を彼女として紹介してもらったり、
デートの帰りは、たびたび車で家まで送ってもらったり、
休みの日にも、彼が会いたいと思えば、
家の近くまで迎えに来てもらったりした。

彼が家に帰っていないであろう時間帯だけは、
携帯にも、平気で電話をすることができた。


ただ、以前からもそうであったのだが、たびたびの外泊に、
私の方の親のお小言は、避けられなかったが。。。。


会社を辞めてから私は、しばらくゆっくりしようと考えていた。


そんな時、ある日、あきらちゃんが言った。
「秋になったら、俺の会社で、一緒に働かないか?
そうなったら、高瀬君も呼ぶつもりなんだ。」

懐かしい名前が出てきた。以前の会社を辞めてから、
高瀬さんとは、1,2回会ったきりだった。

うれしかった。

大好きなあきらちゃんや、親友として接してくれた高瀬さんと
また一緒に働けると思うと、意欲も湧いた。



あまい考えだったのかもしれない。。。。。。





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2003年09月20日(土) 第36章 前進(part3)

その日も、ホテルに泊まった。

彼と抱き合っている時、彼がふいに
「好き」そう言った。

今まで抱き合っている時に言葉を口にする人ではなかった。

これは、本心なのだろうか。
それとも身体を合わせているときに出た言葉なのだろうか。


離婚なんて望んでいない、ただ、こうやって私と会っていること、
抱き合う事 それが、好きだという気持ちが前提であってほしかったのだ。




次の日は、仕事は休みであった。
二人で、すこし早いお昼ご飯を食べた。
街をブラブラと二人で歩いた。
映画も観に行った。
まるで、ごく普通に付き合っている彼氏と彼女のように・・・・


この人の事をまたどんどん好きになっていってしまう・・・・。
気持ちのブレーキが効かない。



夕方になって、駅へ向かっていると、あきらちゃんが言った。
「もう少し歩きたいな」
「じゃあ、一駅歩こうよ」私が答えた。

二人とも、なぜか無口になっていた。

ずっと一緒にいたのに、もうすぐ離れ離れ。

ふいに、あきらちゃんが私の手をギュッと握ってきた。
そのままで、歩いた。
春の肌寒い風が吹いているが、気持ちは暖かだった。


もうすぐ駅だという時にあきらちゃんが口を開いた。

「りかの事好きじゃなかったら、もう一度こんな風に会ったりはしないよ。」
突然のこの言葉に、私は、あきらちゃんの顔を見た。

「俺って、意外と照れ屋なんだ。」彼はそう言って笑っていた。



駅について、逆方向の私たちは、ここでお別れ。



私の背中にやさしく手を添えて、彼が言った。
「また、電話するからね」
「うん」



あきらちゃんが、私への想いをはじめて打ち明けてくれた。
帰り道、まるで、生まれてはじめてのデートを終えた時のように
私の心は、ふわふわドキドキしていた。





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2003年09月19日(金) 第36章 前進(part2)

その日の仕事が終わり、私は、会社を出た。

歩きながら、いろいろ考えが巡る。

あきらちゃんは、もう電話してこないかもしれない。
今日、私が山上さんと会ってきていたって、彼は、へっちゃらなのだろう。
これでいいんだ、あきらちゃんと再会して、
まだ私の心は、どうしようもないところまできてしまったわけではない。
今なら、このままあきらめも付く。

そんな風に言い聞かせていた。




すると、電話が鳴った。

あきらちゃんである。



彼も、昨日の会話の件があったからか、幾分遠慮気味な話し方である。

「りか?もう仕事終わった?」
「うん、終わったけど」
内心うれしいくせに、わざとそっけなく答える自分がいた。

「会おうか」とあきらちゃんは、言う。

「もう、会わないって言ったじゃないの」私は、うれしさに負けて、
笑いながら言ってしまった。


その返事に安心したのか、あきらちゃんは、
「じゃあ、またあのビルの下で待ってて、すぐに行くよ」
かまわずに言った。



昨日は、あんな勢いで、あきらちゃんを攻めたのに、
もうこんなにウキウキした自分がいた。

でも、あきらちゃんが、私の事をどう思っているのかというのは、
気にならなくなったわけではない。

でも、今は、会いたいのだ。



その日、あきらちゃんと会っても、お互いに、昨日の事などなかったように
過ごしていた。

「山上さんに、今日のお昼会ってきたよ。」
「そう。山上君とどんな話したの?」
「山上さんに、彼氏いるの?とか、今度は、夜に飲みに行こうって誘われた」

私は、少し、あきらちゃんに、やきもちをやかせてみたかった。

あきらちゃんは、山上さんの言葉にフフっと笑っただけであった。
りかが、俺より山上君を選ぶわけがない。とでも言いたげな自信ありげな表情にも見える。
(あきらちゃんの事を私は、彼氏と言えるの?ただ会っているだけなの?)
そんな思いが、よぎる。



それから私は、すこしだけ、無口になった。






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2003年09月18日(木) 第36章 前進(part1)

次の日、朝から仕事に行っても、昨日の会話が頭に浮かぶ。

今朝ホテルから出ても、あきらちゃんは、昨日の話しなどなかったかのように
いつもと変わりなかった。。

私は、いつもより、無口になっていた。



お昼が近づいて、山上さんとランチをとる約束をしていたことを思い出した。

山上さんから、電話があって、会社のビルの下まで迎えにきた。

私は、意識的に淡々とした普通のテンションを心がけた。



山上さんがやってきた。

「久しぶりだな〜」
「ほんとですね、まさか、こんな近くの会社だとは思いませんでした。」

会社近くのイタリアンレストランに入った。

私は、山上さんが昔の話を切り出さないように、饒舌になっていた。
しかし、それも限界、話題が続かなくなってしまった。

山上さんが言う
「また、今度は夜、飲みに行ったりしようよ。会社も近いしさ」
「そうですね」この場は、短い返事で取り繕った。

「今、彼氏とかいるの?」山上さんが私に聞いた。

「ん〜。いる。。かなぁ・・・。」

嘘をつききれずに、こんな返事になってしまった。


「そっか〜」山上さんは、しばらく言葉をなくした。



そんな会話を交わしているうちに時間が過ぎた。

「また電話するよ」山上さんはそういいながら、自分の会社へ帰って行った





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2003年09月17日(水) 第35章 無意味な答え

しばらく黙った後、あきらちゃんが答えた。


「りかは、山上君とか、俺との関係をうだうだ考えることは、おかしいよ。
俺より、いい男は、他にいっぱいいるよ。もっと、他に目を向けないと。」


私は、期待どおりでない、あきらちゃんの答えに、落胆して言った。
「じゃあ、どうして私に会うのよ。」
「会いたいからだよ。」
「わけわからない。そんな、気持ちのない会い方なら、もう会いたくないよ。」


あきらちゃんは、少し言葉を選びながら、説明した。

「俺は結婚してるんだ。このままずっと、続けれるわけないじゃないか。
昔、ホントはね、一度離婚を考えた事があったんだ。
俺の奥さんに、他に好きな子ができたって、正直に言った。
泣いていたけどね。そのとき、精神的にホントにしんどかったよ。
もう、俺、そう言うことでごたごたするのに、疲れたんだ。」
私は、あきらちゃんが、昔、離婚を切り出したことがあるということについては かなり、驚いていたが、話を先に進めた。

「今は、そんなこと言ってないよ!
離婚してくれなんて言ってるんじゃないよ。
気持ちのことを言ってるんじゃない。
会って楽しいから会ってるだけだったら、他の人でもいいじゃない!
他の人にしてよ!
そんな意味のない会い方するために、私を選ばないでよ!」


私は、ただ、あきらちゃんが、好きだから会ってるんだよ。
そう言ってくれればそれでよかったのだ。
ただ、私の事が好きだと言う言葉が聞きたかっただけであった。

思いがけない方向に話が進んでしまった。


それでも、私は、続けた。
「疲れた?笑わせないでよ!あの会社に居る時、
私がどれほど苦しい思いしたと思ってるのよ!
あんたなんかより、私のほうがよっぽど辛かったよ!
もう私に電話しないで!」

そう言うと、あの辛かった日々を思い出して、涙が溢れた。

あきらちゃんは、言った。
「それでも、会いたいと思えば、俺は電話すると思う。」
怒りにも似た感情がこみ上げた。


「もう、私と会わないで」
そう言って、一人、席を立って店を出た。



駅への道をただ、呆然と歩いていると、いつの間にか、あきらちゃんが
追いかけてきていた。

私の腕をつかんで、「どこに行くの?」そう言った。

「帰るに決まっているでしょ!」
私は、かまわずに、駅の入り口へと向かった。

「帰るなよ」
あきらちゃんは、私の腕を引っ張った。


「どうしろって言うのよ!」
私は、そう言って、なぜか、あきらちゃんの方に振り返り、
涙を流しながら、あきらちゃんの胸の中でうずくまった。

涙が止まらなかった。

泣きながら、「あきらちゃんは、ずるすぎるよ。私はどうしたらいいのよ。
なんでまた現れたのよ」独り言のようにつぶやいた。

あきらちゃんは、優しく私の背中をなでていた。

勢いで、そう言う行動をとったが、我にかえると、そこは、人通りの多い、
駅近くの道の端っこである。

でも、涙が止まらない。

「ごめんね、私がこんな事してたら、あきらちゃん、かっこ悪いよね」
あきらちゃんの胸にうずくまりながら、言った。

「いいよ、大丈夫」
やさしくそう言って、いつまでも私をなでた。




私は、一体、これから先、どうなるのだろうか。。。。。




その夜も、やはり、あきらちゃんと一晩過ごした。





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2003年09月16日(火) 第34章 不安な気持ち(part2)

それから、二、三日後、山上さんから携帯に電話がかかってきた。


「もしもし、久しぶり。
中村さんに、りかちゃんの携帯番号きいて、電話したんだ。」

「ほんとに。久しぶりです。」

笑って対応したものの、内心、先日のあきらちゃんとの会話を思い出していた。

あきらちゃんの気持ちは、私に対して、
どういうものなのだろう。

会いたくないって言った事、耳に入っていなかったのだろうか。

考えすぎなのかもしれないけど、
私の事なんて、ほんとはなんとも思っていないのかもしれない。




「会社近いみたいだしさ、明日でも夜、飲みに行かない?」
山上さんの言葉は、続いていた。

「明日は、ちょっと、予定があるので。」
「じゃあ、お昼ご飯一緒にどう?」断わる事ができない勢いだった。
「お昼なら・・・」



電話を切った後も私は、あきらちゃんの気持ちが気になり、
落ち着かなかった。


あきらちゃんに会って、私の気持ちをあきらちゃんに告白してみよう。
あきらちゃんは、なんと言うだろう。

そう思いながらも、あきらちゃんも、私と同じ気持ちであると、
本音の部分では考えていた。
あきらちゃんから、私への気持ちをはっきりと確認しておきたかった。




仕事が終わってから、あきらちゃんに、電話をした。

「今日、会いたいのだけれど・・・。」
「うん、いいよ。じゃあ、7時にいつものとこでね」

いつもと変わらず、やさしい声であった。




私たちはいつものお店で会った。


「今日、山上さんから電話かかってきたよ。」
「そう。今日、山上くんから電話かかってきて、
りかちゃんの番号教えてくれって。山上君、なんて言ってた?」
「明日、お昼一緒に食べようって。」
「あいつは、マメなやつだなあ。」そう言って、笑っている。

「あきらちゃん、私、この前、会いたくないって言ったのに。山上さんに。何で電話番号教えたの?」
「ごめん、教えちゃあだめだったんだね。
何回も、何回も教えてくれって、電話かかってきたからさあ。」



よく考えたら、教えるのが普通である。山上さんと付き合っていたことは、
あきらちゃんは知らないのだから。。。。



でも、このまま、ずるずるあきらちゃんと会うのなら、
彼が、どういうつもりで、私と会うのかをきっちりと、
確認しておきたかった。
もう、不安な気持ちになりたくなかった。



「あきらちゃんはさぁ、私と、また会うようになったけど、
それは、なんで?」
「会いたいから」
「何故、会いたいの?」
「・・・・・?」
彼は、私が何故そんなことを聞くのか、わからないという表情で、私を見た。



私は、思い切って続けた。
「最後まで、何も言わずに聞いてね。
私ね、実は、あの会社を辞める前に、
山上さんと付き合っていたことがあったの。
だから、山上さんと、今になって会いたくなかった。
山上さんが、どうして私に会いたいか、その意味がわかっていたから。
私は、そう言う感情をもう山上さんには持てないから。
私が、こうして、またあきらちゃんと
会っているのは、あきらちゃんのことをやっぱり好きだったからだよ。
でも、あきらちゃんは、どうして私と会ってるの?」





その言葉に対しての彼の返事は、その時の私にとって、意外なものであった。







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2003年09月15日(月) 第34章 不安な気持ち(part1)

次の日から、なにをやっても、うきうきとしている自分がいた。

あきらちゃんと会った事で、昨日までのモノクロの世界に
さまざまな色がついた感覚であった。



しかし、再会して、たった一回だけあきらちゃんと会っただけ。
あきらちゃんにとってはただの懐かしい気持ちからくる行動だったのかもしれない。
ほんの少しの不安もあった。




その週のうちに、再び彼から電話があった。

「いま、仕事中? 今日、会おうか」
「うん」
私は、うれしさで、その時間までが待ち遠しくて仕方なかった。



仕事が終わってから、私たちは、落ち合いお店への道を歩いた。


こうやって、また電話がかかってくるということは、
あきらちゃんはこれからずっと私と会うつもりなのだろうか?

そんなことを考えていると、 三叉路を車が横切りそうになっていた。

ふいに、あきらちゃんが私の手をとり、ぎゅっと握って、小走りした。

そのあとも、ずっと手を繋いだままである。


あきらちゃんは、もう付き合っているつもりで、私と会っているんだろうか?


二度目のデートは、ずっとそんな疑問の中で過ぎていった。



その日のお酒の席で、あきらちゃんは、ドキッとするような事を言った。

「あっそうそう。そういえば昨日、偶然に山上君に出会ったよ。
俺とりかの会社の近くで、働いているらしいんだ。偶然だよな。」


あきらちゃんは、私と山上さんがかつて、付き合っていたことは知らない。


「りかちゃんも、この近くの会社で働いているんだよ。
って、言っておいたんだ。
りかちゃんと会いたいなあ。会社近くだったらいつでも飲みに行ったりできるしって、言ってたよ。」



山上さんも、近くの会社にいたなんて。


正直な話、もう会いたくはなかった。

過去に抱いていた山上さんへの恋愛感情は、今すっかり、失われている。



「ほんとに。懐かしいねぇ。
でも、なんか、私はあんまり会いたくないな。なんとなく」
私は、何気ない言葉でやんわりと、
山上さんの言葉に対して拒否の気持ちを示した。




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2003年09月14日(日) 第33章 再びの出発(続き)

お店を出た。


以前なら、このままホテルへ行っていた。

内心、どうなるのだろう。
このまま「じゃあね」そう言うのだろうか。
そうなったら、もう会えないのだろうか?

そんな思いが頭を巡っていた。



当然のようなしぐさで、あきらちゃんは、私の肩を抱いた。

やはり、私たちは、その夜、身体を重ねた。

まるで、昔からずっと合い続けているように、自然ななりゆきであった。


懐かしい肌の感覚、それでも、気のせいか以前より随分やさしいものに感じた。

彼の顔が、私の胸の上に覆いかぶさっている。

私は、そっと、彼の頭に触れた。

昔と変わらず、やわらかくて気持ちいい髪の毛。

私の上にいる彼の肌が、やはり昔のように私の肌に吸い付く。

アノ肌の感触。。。。。何もかもが、懐かしい。


たった一つ違うことと言えば、彼が、以前より随分とやさしくいたわるように
私に触れていることであろう。





私は、あきらちゃんに触れながら、頭ではいろいろなことを思い巡らせた。

横には、彼の気持ちよさげな寝顔がある。


もう引き戻ることなど、皆無である。
この人でなければ、だめなのだ。



なぜか、その寝顔を見ながら、
私を通り過ぎて行った数々の男性が思い出される。

辛い呪縛を解けなくて、数々の過ちを繰り返した日々のことを思った。

いろいろな人に、抱かれた。
しかし、私をここまで幸せな気持ちに導く人はいなかった。

誰に抱かれていても、この人の事をいつも想っていたのだから。。。。


おそらく、好きで付き合ったはずの、山上さんと居る時でさえ、
私は、自分でも気付かずにあきらちゃんを想っていたのかもしれない。



あきらちゃんなら、既婚者だろうが何だろうが、かまわなかった。
私は、この人を何年も待ち続けていたのだ。

そして、今、この私の横で、すやすや眠っているのは、
私を何年間も苦しめた張本人、あきらちゃんなのだ。


もう、行くところまで行くしかない。


思いもかけない形で、私の奥底に仕舞われたあきらちゃんへの想いは、
再び、引き戻せない世界へと、旅立ち始めた。





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2003年09月13日(土) 第33章 再びの出発

「元気か?」


あきらちゃんは、やさしく微笑んで、私を見ている。



思いもかけない突然の再会に、私は、ただ微笑むだけで、精一杯だった。



「このビルの上で、今、自分で会社をはじめたよ」
「うん、知ってるよ、さっき偶然、みかちゃんと会って少し話した。」
「俺、今から、得意先に行かないといけないんだけど、
今度、また電話するよ。電話番号教えてくれる?」
私は、番号を教えて、その日は帰った。




帰り道、私の足取りは軽かった。

あきらちゃんを忘れようと、会社を辞めて、こんな形で再会するなんて、
夢にも思わなかった。

みかちゃんから聞かされた話、あきらちゃんとの再会。
なにもかもが、夢を見ているようであった。


しかし、この時点で、またあきらちゃんとの仲が復活するなどと、
考えていたわけではなかった。





数日後、電話があった。
「今日、空いてたら会えないかな」
「うん、いいよ。じゃあ仕事終わってからね」



私たちは、その日、約束をした。
約束の場所までの道のり、胸が高鳴った。

何年ぶりかで、あきらちゃんとこうして約束をして会うのだ。
また二人の仲が、復活するとは思っていなかったが、
多少の期待もあったのだと思う。


待ち合わせの場所にあきらちゃんがやってくる。
照れたような、焦ったような、そんな笑顔でこちらに近づいてくる。
懐かしい愛おしさに襲われる。


「元気だったか?」


あきらちゃんは、優しくそういった。

私の気持ちは、何年も前にタイムスリップする。
お店まで歩いている時も、すぐ横にあきらちゃんが居る事が、
まだ信じられずに、何度も何度も話しながら、横を見た。

ふっと、手が触れる。

あきらちゃんとまた、こうして歩いている事が、うれしかった。
何年も、願い続けた風景が、すぐそばにあるのだ。



私たちは、お店に入り、会社を離れてからの日々をお互いに話した。


彼は、彼なりにいろいろな辛さを乗り越えてきたのかもしれない。
幾分、肩の力がいい意味で抜けたというか、角の取れた印象があった。

そして、私も気付かない間にあの時よりは、成長していた。
以前のように、おままごと的な可愛い事ばかりを言う子供じみた私は、
そこには居なかった。


昔よりも、本音の会話を楽しめるようになっていた。
心が打ち解けた気持ちだった。



いつまでもいつまでも、二人で話した。楽しかった。

。。。。蘇る。。。。






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2003年09月12日(金) 第32章 蘇る想い(続き)

なんと、あきらちゃんは、いつも、私の思い出を語り、
みかちゃんは、数年付き合ったものの、
どうしても、私への想いを拭い去る事ができずにいる
あきらちゃんを見ていて、いたたまれなくなり、
自分から別れを切り出したそうだ。


そして、それから数ヵ月後、いともあっさりと、今現在大好きな彼と出会い、
毎日のように、仕事場に送り迎えをしてもらっているらしかった。



あきらちゃんは、自分の安易な行動で、みかちゃんと付き合ったため、
自分から、別れを切り出せずにいたようで、
みかちゃんが、別れたいと言った時、
「いままで、申し訳なかった。りか以外の女とは、もう付き合えない」と、
はっきり言われたという事だった。。




私は、偶然出くわしたみかちゃんに、突然こんなに色々な話を聞かされて、
なにがなんだか、頭の中は、真っ白な状態だった。

動揺はしていたが、どうにか平静を保った。


せっかく胸の奥底に仕舞い込んだあきらちゃんへの想いを
また、よみがえらせてしまったかもしれない。複雑な想い・・・。




二人は店を出て駅への道を歩きながら話した。


その店から、駅への道のりにあるビルの一室に、
あきらちゃんの経営する会社はあるらしかった。


今日は、仕事で遅くなった彼を待つ為に、会社の近くで、
うろうろとしていたところ私が、声をかけたということだ。

みかちゃんは、幸せそうに、きらきらした目で、私に、彼の話をした。
携帯の裏には、二人でキスしているプリクラを貼り付けて、私にのろける始末である。


これから、会社の近くへ、今の彼が迎えに来るので、そこへ戻るというのだ。




その時だった。みかちゃんが、ふいに立ち止まった。
「あっ!」



「彼がいたの?」

「ううん、違う・・・・。
あっちに彼の車が止まっているから私、行ってくるね。また電話するねっ」
そう言うとみかちゃんは、視線を向こうにやって、
誰かにニヤリと笑いかけて、私の背中を押すと立ち去って行った。



私は、みかちゃんが笑った視線の方へ顔を向けた。。



そこには、あの懐かしい顔があった。



驚いたような、まぶしそうな目で、やさしくこちらを見て、
近づいてくるのは、紛れも無く、
あきらちゃんであった。



二月の冷たい風が、私の頬をくすぐった。





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2003年09月11日(木) 第32章 蘇る想い

みかちゃんの話によるとこうだった。


話は、何年も前にさかのぼる。



ちょうど、あきらちゃんとみかちゃんのことを私が疑っている頃の話だった。



みかちゃんは、確かにあきらちゃんの事が好きだったらしい。
しかし、やはり、私たちが、付き合っていることが、
会社の女の子の間で噂されていたようである。

みかちゃんは、私が、あきらちゃんと出会う数年まえから、
あの会社であきらちゃんと仕事をしていて、
ずっとずっとあきらちゃんに片思いしていた。

そんなときに、そんな噂を聞き、かなりのショックを受けた。


そこで、仕事をしていて、ずっと一緒にいるのを利用して、
私に見せつけようと内心は、思ってしまっていたと言うのが
本心だったらしい。

ちょうど、その頃、あの「心無い人」の中傷などもあり、
みかちゃんにしてみれば、もってこいのチャンスだと思ったらしいのだ。

そして、たびたび、仕事の相談を理由に、
あきらちゃんを飲みに誘っていたらしいのだが、
あきらちゃんは、その頃、みかちゃんのことを
仕事仲間としてしか、相手にしなかったそうだ

そして、みかちゃんがあの時持っていた
着替えらしい大きな紙袋のからくりは、
あきらちゃんと飲みに行って、タクシーで帰りなさいと言われるたびに、
会社から数駅離れたところにある、友達の家に泊めてもらっていたということだった。

そうこうする内に、怪文書なんかの騒動で、会社がごたごたして、
私を疑ったあきらちゃんは、自暴自棄に陥り、
その一ヶ月くらい後に、みかちゃんとあきらちゃんは、
とうとう深い仲になってしまったようであった。




なんという事だ。。。私が、初めに疑って、苦しんでいた頃には、
一切、あきらちゃんとみかちゃんに深い関係はなかったのだった。




会社が、倒産して、数ヵ月後、
あきらちゃんは、自分で、会社を始めたらしい。

以前の会社で、ずっと一緒に仕事をしていたみかちゃんを
仕事のパートナーとして・・・・・。

そして、まだ始めたばかりなので、二人で今は、頑張っているらしかった。



その後の言葉にも私は、驚きを隠せなかった。






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2003年09月10日(水) 第31章 別れのち意外な展開(続き)

それから、私は、ゆっくりと次の仕事先を探しながら、心を休めた。


半年ほどゆっくりしてから、ある会社に転職が決まった。

年契約で、おどろくほどの年棒で採用してもらった。
残業は一切無し、年棒は、同じ年の同じ職種の仲間達と比べると、
かなり良かった。

しかし私は、この環境に、なにか物足りなさを感じていた。
会社は、かなり年上の人たちばかり。
前のように活き活きとした生気が、この会社には感じられなかった。

まいにち、真面目に仕事をこなしたが、淡々とした毎日を送った。




そんな生活を一年半ほど過ごしたある日、
会社帰りにブラブラと歩いていると、懐かしい顔があった。

それは、みかちゃんであった。


私は、大声で、呼び止めた。「みかちゃん!!!」
「あ〜っ!どうしてるの?」

内心どこかで、あきらちゃんとはまだ続いているのかな?
そんな考えが浮かんだが、
もともと、私は、みかちゃんに対して、どうこう思っていることは無かった。
みかちゃん自身は性格は、とても良い人間であったし。
何のわだかまりもなく声をかけることができた。


「半年前に、会社は倒産しちゃったの。」


一瞬耳を疑った。




「時間あったら今からお茶でも行かない?」
誘われるままに、みかちゃんと喫茶店にいった。


そこで、会社が潰れた経緯やら、それからどう過ごしているかなどを聞いた。
会社は、私が辞めてから一年ほどで倒産したらしい。

社長が、りかちゃんの力は大きかったと言っていたこと。
私が、やめてから、伝説のように私のことをみんながいつも話題にしていたことなどを話してくれた。
会社が倒産してしまったのは寂しかったが、
正直、うれしい気持ちも大きかった。

私がやってきたことは、無駄ではなかったのだと。



その後に、みかちゃんは唐突に私に言った。


「りかちゃんに一つだけ謝りたいことがあるの」

細かい事はわからないが、どうせ、あきらちゃんの事だろうと思った。


「何?」とは聞いたが、今になってその話をほじくり返さないでほしい。
それが、本心だった。

謝られても、あの時間が戻るわけもないし
これっぽっちだって、みかちゃんが悪いとも思っていないし。
そのことで謝られると、惨めになるだけではないか。


せっかく、こころの奥のほうで、あきらちゃんとの思い出は
小さく小さく固まりかけた時なのに。



しかし、この後の話は、私にとって驚きの連続であった






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2003年09月09日(火) 第31章 別れのち意外な展開

それは、私の退社の日の前日であった
明日は、いよいよ送別会である


その日、私は、はじめて自分の方から、山上さんを誘った。

そう、別れを切り出す為に・・



山上さんは、うれしそうに私の誘いに応じた
そのうれしそうな顔に私の胸は、痛んだ


待ち合わせの場所に来た山上さんは、
「りかちゃんの方から、誘ってくれるなんてうれしいよ。
会社、明日で終わりだね。そうなったらもう会社の人間でもないんだから、
敬語で話すのはやめてね」そう言って笑った。

私は、その場を取り繕う為に微笑んだ。

食事のためにお店に入っても、山上さんのうれしそうな顔を見ていると、
なかなか話を切り出せなかった。
今日、ホテルに誘われる前に言わないと。。



「山上さん、私、明日で会社終わりだけど、
山上さんと会うのも明日を最後にしたいと思っているんです」

「どうして?俺のこと嫌いになった?」

「そんなんじゃないけど、山上さんはとても優しいし一緒にいて私は幸せでした  だけど・・・やっぱり、理由は聞かないでください」

「中村さんのことかな。」

「・・・」私は黙った。

「なんとなくわかっていたような気がするよ。こうなるんじゃないかなって。」

「それだけじゃないんです。山上さんがもしも、結婚していなかったら、
ずっと一緒にいたかもしれない。私が、会社を辞めようと思ったのは、
ここでの過去をすべて思い出せない環境に行きたかったからです。
もしも、これから、新しく恋を始めることになるとしたら、少なくても、
みんなに隠さなくてはいけないってことで、苦しい思いをしたくないって考えていました。
こんなことになってしまったけど。
それでも、山上さんの事は、ほんとに好きになって、
これまで会ってたことだけは、わかってください。
色々考えてこのままあっているのは良くないと思って」



お店を出て別れる時、山上さんは、誰もいない道で私を力強く抱きしめた。

私も、山上さんの胸に顔をうずめて、思い切り泣いた。



そう、私は決して山上さんの事を嫌いになって
別れを切り出したわけではなかった。


少なくとも、その時点では私も離れたくは無かった。
それは、本心である。




次の日、みんなにありがたい言葉をかけていただいて、
私はこの会社を巣立った。

仕事にしても、人間の内面にしても、ほんとに色々な事を学んで
退社すると言うより、「巣立つ」という感覚であった。




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2003年09月08日(月) 第30章 つかの間の至福(続き)

山上さんと会うようになってから、
山上さんは、いつもいつも、私にはやさしかった。


しかし、私は、うれしい反面、過去にあきらちゃんとのことが原因で、
辛い出来事があったことを踏まえた、用心のようなものがあった。

言葉でなかなか説明できないが、おおまかに言うと、

このままずるずると付き合いを続けることはよくない。
どこかで、ストップをかけなければいけない。そんな思いやら、

今は、確かに山上さんの事が好きではあるけれども、
かつて、あきらちゃんに恋をしていたときの気持ちのほうが、
大きかったななどと、
心の片隅では、いつも、あきらちゃんが生きていたというか。。。

よく、別れた相手を恨んでいるうちは、
まだその相手に未練があるという事だ。
といわれるが、まさしくそれだったのかもしれない。

自分では、よくわからない。

とにかく、どこかでセーブする自分が常につきまとった。



そんな私に山上さんはよく、
「りかちゃんは、俺のことどう思ってるの?」とか、
「りかちゃん、俺に敬語使うのは、そろそろやめてくれないかな」とか
悲しそうに言っていた。


山上さんとの仲が深いものになってからの方が、
なかなか本心をあらわすことがなかった。




退社まで、あと一週間という頃、一人でまた、休憩室にいた時だった。

ふいに、あきらちゃんが入ってきて、私に一つの包みを手渡した。

数年前のあの日以来、こんな風にあきらちゃんと向き合ったのは、
久しぶりの事だった。

「これ、せんべつに・・・気に入るかわからないけど」
そう言うと、その場から立ち去った。

中の包みを開けると、昔、私がほしがっていた時計だった。


覚えてくれていたんだ。
私は、言いようの無い喜びを感じた。
懐かしいような、胸がキュンとなるような。
私の中で、あきらちゃんは、確実に生きていたようだった。

かと言って、あきらちゃんにまた、アタックしようなどと、思っていたわけでもない。




山上さんに対して、気持ちがなくなったわけではなかった。

山上さんは、既婚者である。
そして、私の中には、奥底に仕舞い込んでいたあきらちゃんへの思いが
まだ、生きている事に気付いてしまったのだ。


これ以上続けていては、新しいスタートを切ることは絶対に不可能である



会社を辞めることを機に、山上さんとの関係も終わらせたほうがいいだろう。



私の決心は固まった。




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2003年09月07日(日) 第30章 つかの間の至福

山上さんとホテルに入り、私たちは、さっきのお店での会話の続きを
しばらく楽しんだ。


過去の償いのつもりか、山上さんは、とてもやさしい。


少しすると、「風呂入って寝ようか。先にシャワー浴びてきたら?」
山上さんが私に言った。

そして、「見えないようにこっちに居るよ」と言葉をかけて、
テレビに見入った。


私は、その通りにした。


髪の毛を洗っていると、ドアの向こうのほうから山上さんの声が聞こえた。


「一緒に入っていいかな」


私は、断わるでも、受け入れるでもない返事を返した。
「お湯熱いですよ。」


勿論、心づもりはあった。


少しすると、裸になった山上さんが入ってきた。
私は、振り向かずに頭を流した。


不意に、山上さんが、私の背中から手を回し、手のひらで胸を覆った。

もう、私に、後ずさりする気持ちは無かった。

私もくるりと振り向くと、山上さんの背中に手をまわして、
唇を重ね合った。


こうなったことへの、後悔もない。
私自身も、こうなることを望んだのだ。


お風呂から上がると、二人は、なにもまとわず、ベッドで抱き合った。
何もかもが、あきらちゃんとは違った。
山上さんは、私の耳元で
「どきどきするよ。」といいながら、そっとやさしく、首に舌を這わせた。
そして、いたわるような手つきで、時間をかけて、
やさしくやさしく私の全てに触れた。


次の日から、私は、退社までの数ヶ月を 優しい気持ちですごした。

あきらちゃんとみかちゃんが、約束をしているような場面に出くわしても
今までのように、あまり気にとめることも無かったし
むしろ、もう私は、幸せなんだから。。。。
こんな風に思っていた。

山上さんも、いつまでも優しかった。




残りの数ヶ月は、矢のように過ぎた。




ところが、会社を辞める日が近づくにつれ、私の中で、
新たに、迷いが生じ始めていた。



それは、山上さんが既婚者でなければ、そんな迷いはなかったかもしれない。



そして、もう一つの理由が大きかったのだと思う。。





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2003年09月06日(土) 第29章 新しい恋のはじまり

忘年会も終わり、新年が始まった。

私がこの会社にいるのも、あと三ヶ月である。


新年の仕事が始まってから、数日後、山上さんと休憩室で一緒になった。

会話が弾み、楽しく笑っていたところ、ふいに、山上さんが言った。

「会社やめるまでに一回、飲みにいこうよ。」
「いいですよ〜」
「じゃあ、来週にしよう」
私たちは、軽い調子でのみに行く予定をたてた。



次の週、山上さんと私は、食事をかねて飲みに行った。

二人で、話は楽しく盛り上がって、大笑いしながらの楽しいお酒であった。

「今日は、すっごい楽しかったです。」私が言うと、山上さんは、
「俺も、すごいよかった。昔のことだけど、りかちゃんを辛い目に合わせたのは、俺のせいかもしれないって、ずっと、罪悪感があったんだ。
ずっとずっと謝りたかった。
ほんとに、ごめん。素直にその言葉を言えなくてさ。
あんなに大騒ぎになってしまったから。
ずっと、嫌われてると思ってたんだ。」と言った。

「いいんですよ、もう昔の事だし、私も悪かったんだから。そんなことより、
今日は、すごく楽しく話せたし、また、行きましょうね〜」
そう言って、私は、笑った。

「じゃあ、また、来週行こう!」

次の週、また山上さんと、約束をした。


山上さんと、昔のしこりを無くすような会話をしたことで、
私のトラウマは、随分と軽いものになったようだった。
山上さんと話していて、ほんとうに楽しかったのだ。



二回目の約束の時も、もう一度、山上さんは、私に謝ったが、
もう山上さんに対して、何のわだかまりもなかった。
それよりも、会話をしていることが楽しくて、時間を忘れた。


お店を出て、大通りの交差点で、信号待ちをしていた。


「俺、今日は、明日朝はやいから、このままビジネスに泊まるつもりなんだ。
りかちゃん、どうする?」


どうするって・・・・。どういう意味だろう?
心の中で、その言葉の意味合いを探った。


なぜだか、私は、山上さんとこのまま一緒にいたいと思ったのだ。

それは、これまで犯してきた過ちの気持ちとは、また別物だった。
山上さんと、一緒にいたいと思ったのだ。



ふいに、山上さんが私の手を握って、
いままで歩いていた道をそれた。


「じゃあ、何もしないから、一緒に泊まろうか」
手を繋いだまま、歩き出した。

「うん」私も黙って、従った。


何もしないわけないではないか。
もう五年前の、無邪気な私ではない。
色々な過ちを繰り返し、私は、すっかり、
そう言う部分でも大人の予測をできるようになっていた。
そう言う意味をすっかりわかりつくしていても、
私は、山上さんとホテルへ行くことを選択した。

はっきりとした自分の意思で。。。。。

私は、いつの間にか、山上さんに恋をしはじめていた。
あきらちゃんと別れて以来の恋に私の心は、ときめいていた。
タイミングのいい始まりだった。



ただ一つの問題を除いては・・・・・・。 



山上さんも既婚者であった。





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2003年09月05日(金) 第28章 決意

会社を辞めるといっても、大きな得意先を何軒もかかえ、
いまや、この会社のデザイナーのトップとしての仕事を任されている。

そうそう簡単に辞めれる立場でないことは十分に承知していた。

もともとは、自分が蒔いた種とは言え、このままこの会社にいると、
私は、当たり前の生活さえできない状態になってしまう。


新しい環境で、私の過去を何も知らない人たちの中で、新しい自分を手に入れたかった。



また今年の忘年会が近づいている。そんな季節だった。



「結婚する事になりましたので、会社を辞めさせてください。」
私は、社長に嘘の理由で、退職を願い出た。

「結婚か、しかたがないね。おめでたい事だしね」そう言って、
かなり長い間考え込んだ後
「わかった。」とだけ言って、社長は席を後にした。



数日後、外出中の高瀬さんから、電話があった。

「ちょっと外で話せないかな〜」
「うん」
「じゃあ、会社の近くの角の喫茶店にいるよ」

私は、会社を出て、その喫茶店へ向かった。

どんな話かは検討がついた。


案の定、私が会社を辞める事をひきとめるための話だった。

結婚するのでと嘘を言ったことは、社長にお見通しだったのかもしれない。
そのことは、高瀬さんには話していなかったようだから。


「りかちゃんの気持ちは、ホントにわかっているから、思っていることを
言ってみて。何でも聞くから。一人で抱え込まないで」

高瀬さんとは、入社当時から、気も合うし、一緒にいてたのしかった。
男女の関係ではなく、ほんとに仲のいい友達のようにして仕事をしてきた。
社内で心から信頼できる友達であった。

実際、ほんとに正直で愉快で、誠実な人である。


私は、高瀬さんに全てを正直に話した。

普通の理由では辞めさせてもらえないと思ったので、
社長には嘘をついて結婚を理由にしたこと。
この会社にいると、いつもトラウマがつきまとい、普通ではいられない事
新しい環境で、新しいスタートをきりたいと思っている事。

数々の男性と過ちを起こしたことについては、さすがに黙っていたが、
そのほかのことは、すべて正直にありのままの気持ちを伝えた。



しばらく黙って聞いていた高瀬さんは
「気持ちは、ホントによくわかるよ。俺も本音で話すとさ、
りかちゃんとは、ずっと仕事を一緒にやってきて、気も合うし、楽しいし、
会社の人間としての立場から言うと、辞めてほしくない、
一緒に仕事をずっとしていたいと思ってるんだ。
だけど、会社を離れた部分でのツレっていう立場から言うと、
りかちゃんが言うように、新しいスタートをきった方がいい。
会社を辞めたほうがいいって言いたい。ここまでやってきたんだから、
誰も何も思わないよ。どっちにするかは、自分の思うように、選べばいいと思う。」


この言葉に少し心は動いたものの、やはり私は、会社を辞める事を選んだ。



こうして、次の春に会社を辞める事になった。

会社に入って、五年の月日が流れていた。



それまでの間も、変わらず、忙しく残りの仕事を進めた。



そして今年もまた、あきらちゃんとの始まりであった忘年会の日がやってきた。


楽しく飲んで話して、そして、大いに笑った。

いつの頃から、こんなに会社の人たちの前で心から笑えるようになっていたのだろう。
このとき、チラッと頭の中でそんな考えがかすった。


忘年会は終わり、二次会で、次のお店へ行こうと、
通りで参加者が集合するのを待っている時だった。


誰かが近づいてきたような気配を感じた。


「あと、三ヶ月なんだね。」


山上さんであった。


「今までよく頑張ってきたね、寂しくなるよ」
この時の山上さんの言葉は、温かい心がこもっていた。

今までの、辛かった日々が走馬灯のように頭に浮かんだ。

山上さんにルール違反な相談をしてしまった夜のことも、
一人で残業した日々も。

山上さんもあの過去の出来事の意味合いを含めて私にその言葉をかけたのだ。


みんなとこうしてまた楽しく話せるようになった。
元のように私もこんなに笑えるようになった。
うれしさで、涙が溢れた。


言葉にならず、山上さんの腕をつかんで、ハンカチで、涙をぬぐった。

それを見て、私の過去を何も知らない 今年会社に入ってきた女の子たちが屈託なくからかった。
「あ〜〜〜山上さん達、あやし〜〜〜〜〜」


私が、辞める事で涙を流していると思っていたのだろう。


「ばれた?やばいな〜〜〜」山上さんは、笑いながら言った。

みんなも笑った。




しかし、この冗談も、あながちだたの冗談ではなくなってしまう事になるのである。





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2003年09月04日(木) 第27章 虚無の日々(part 3)

私たちは、他愛もない仕事の話で、残業疲れのウップンをはらした。

いっぱいだけのつもりが、ふと気が付くと、
終電の時間を5分ほど過ぎていた。

「あ〜〜〜〜やばい!!!終電出ちゃいましたよ!!!三宅さん!」
「え!!」
店を出た私たちは、タクシーを拾いに大通りへ出た。

しかし、こんな時に限って、タクシーはなかなか来ない。


「ホテルに泊まろうか」三宅さんが言った。


こんな言い方は失礼きわまりないが、三宅さんに対して、私はこれまで、
どきどきしたこともなければ、男性として魅力を感じたことなど、
微塵もなかった。

この時だって、そうである。


夜の闇、そして大通りの車のヘッドライト。
また、過去のトラウマが私を誤った決断に走らせた。



 ホテルで、二人きり。
少し話していたが、私の心は後悔でいっぱいだった。

三宅さんが、突然、私の顔に唇を押し当ててきた。
後悔の念とは裏腹に、私は目を瞑った。

私をソファーに倒し、三宅さんの手は、私のVネックのセーターの
中へするりと滑り込んだ。



「やめてください!」


私は、三宅さんを押しやって、ソファーから離れた。


どうしても、この人に抱かれたくない!
瞬間的に、身体が動いていた。

コートを羽織ると、一人、外へ出てタクシーをさがした。
運良く、タクシーは、すぐに私の目の前で止まった。


一人になった私は、タクシーの運転手さんに気付かれないように、
そっと、あふれる涙をぬぐった。


私は、いったい今まで何をやっていたのだろう。
情けない自分を恥じて、どうしようもない悲しみにおそわれた。



あきらちゃんの近くにいると、私はずっと呪縛から抜け出すことは、
不可能だ。
もう、あきらちゃんが見えないところへ行こう。




数ヵ月後、私は、会社を辞める決心をした。





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2003年09月03日(水) 第27章 虚無の日々(part 2)

彼は、まんまと私の言葉の罠につかまり、私をホテルへ誘った。


その彼とも、また身体を重ねてしまった。


朝おきると、すっかり私の心は現実に戻り、彼に抱かれた事を後悔した。

私の心は、この人にもなびくことはなかった。


           そして虚無感。



この彼も私に言った。
「りかちゃんのこと好きだよ。好きになったな。」

私は、意地悪に聞いた
「昨日しか会ってないのに私のどこが好きなの?」

その人は答えた
「顔かな。」


この男とは、もう二度と会わないでおこう。
そして二度と会うことはなかった。



人恋しくて、適当な男に抱かれる。
そして虚無感を味わう。
虚無感を埋めようとして、また男に抱かれる。
こんなことを数人と繰り返した。


どの男も最後にやることは同じ。
でも誰も私の心の穴は埋める事ができない。



しっかりしなければ。。。


こんなことを繰り返して、よくないことは十分にわかっていた。


しかし。。。。



これからは、きちんと生きよう。そう決心した矢先だった。


ある日、私は、遅くまで残業をしていた。

社内での信用を取り戻してからは、執念で異常に仕事に没頭するようなことは
なくなっていたが、忙しい毎日で、残業する日が多かった。


そして、その日、あきらちゃんは、みかちゃんを誘って早々と帰って行った。

以前は自分がその立場だったのだ、そのくらいお見通しだった。
心の中は、悲しみでいっぱいだったが、何回もそんな場面を経験してきた私。
今や 平常心を装うことは簡単にできるようになっていた。


社内には三宅さんという男性社員と二人きりだった。

三宅さんは、缶コーヒーを私に手渡して、
「まだやるの?」と言った。

「いえ、これコピーしたら終わります。」
「じゃあ、一緒に出ようか」    
「は〜い」
私たちは、会社を出た。

駅への道のり。
「あ〜!疲れた〜」仕事を終えた私は、ほっとして言った。
「こんなときに家に帰って、ビールをく〜っと飲むと気持ちいいですよね〜」
「あそこに赤ちょうちんあるよ。いっぱいだけく〜っと行こうか!」
「あ〜それもいいですね〜」





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2003年09月02日(火) 第27章 虚無の日々(part 1)

仕事は順調であった。
毎日忙しい日々は相変わらず続いていたし、
私も、全力で仕事に取り組んでいた。


しかし、私の心には、ポッカリと穴が開いている。



私は、その穴を埋めようと、過ちを繰り返した。

その始まりが、人恋しさのあまり見知らぬ人と、一晩すごした出来事。


その人が、出張から帰った後も、時々携帯に連絡があった。

「好きになってしまったんだ。また会いたいので、そっちに顧客をつくった。
これからは毎週会いに行くよ。会ってほしい。」そんなことを言っていた。

彼も既婚者であった。

そんな事は、この時の私にはどうでも良い事。


彼とはその後、数回会って、身体を重ねた。

彼はとても優しかったし、私は人恋しかった。


      ただそれだけ。


これがあきらちゃんだったら。。。
彼と会うたびに、心ではそう思っていた。


いつも物憂げな私に気付いたのか、ある日別れ間際にその人が言った。

「いつも会いに来るよ。ずっと一緒にいような。一緒にいて欲しいんだ」
そして、力強く私の手を握った。

一人になって、帰り道、もう彼と会うのはよそう。そう思った。

また切なくなった。


その人に対してではなく、その人があきらちゃんでないことに・・・・。



次に出会ったのは、設計士の独身男性。
友人の勤める某大手建設会社を退職後、独立し自分で事務所を設立しているらしい。

友人に見せられた、会社の慰安旅行の写真に、その人が写っていた。

「このひとかっこいいね」
私の一言で、勝手に友人がお膳立てをしてくれた。

ホテルのカウンターバーで待ち合わせをして、
軽く食前酒を飲んでから食事へ。。。

その後、別のバーでまた飲んだ。

何もかもがスマートで、そつのない行動。

この人ならいいかな。。。。
この時は、そう思った。

間違いのないよう言っておくが、私がそう思ったのは、
(この人なら、あきらちゃんを見返すことができる。
あなたよりも、オシャレでスマートな行動をする彼よ。
そんな風に見返すことができる。)そういう意味でだった。

呪縛から解き放たれていない私は、
つねに、あきらちゃんの事が、頭に付きまとう。



人恋しい私は、飢えた犬が尻尾を振っているように
彼には見えたのかもしれない。


半ば、自分の方から、話を色気話に持って行き、誘われるのを待った。




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2003年09月01日(月) 第26章 トラウマの呪縛

この頃には、私は、仕事も絶好調、社内での人間関係も回復して、
社長の意見でさえも、覆すことのできる実力と実行力を持ち
自分で言うのもおかしいが、これまで綺麗になる努力も怠らなかったせいか、
外面での評価も高くなり、私にアプローチしてくる男の人も数多くいた。
あくまでも、この時期は・・ですが・・・・・
((このようなことを言うとただのうぬぼれた女だが、事実であります。
この後の話に繋がる為書いておく必要がありました。(言い訳)))

新入社員の女の子たちからは、憧れの人ととなり、
通常なら、いう事無しの まさに、順風満帆な生活であった。



しかし、私の心では、いつもいつも一つの傷が燻り続けていた。


やはり、あきらちゃんの事、そして、ずっと孤立した生活を送っていた過去の
トラウマである。



人恋しかった、誰かにいつもそばにいてもらいたかった。




ある日、ヒサビサに学生時代の友人と夜、待ち合わせをした。


夜の街は、私を過去の思い出へ導く、キラキラしたネオンは
かつて、あきらちゃんと楽しく逢っていた頃を思い出させた。
        
          せつない。。。


一人で、待ち合わせ場所で立っていると、二人の男の人が近づいてきた。
無視していたのだが、相手は勝手にベラベラと話し始める。
どうやら、出張でここへやってきたのだが、夜飲むところをさがしているようだ。

どうせなら女の子でもナンパして一緒にのみに行こうという魂胆らしい
そこで、待ち合わせでぼ〜っと突っ立っている私に白羽の矢がたったのだろう。

「友達と待ち合わせなんで。。」無表情に答えて、そっぽ向くと
「じゃあ一緒に待ってるよ。」そう言って、一向に立ち去る気配はない。


そうしているうちに友達がやってきた。


その男性たちは、また誘う。
友達も事態を飲み込めたようで、無視して二人は歩き始めた。

私たちの入る店について来て、半ば無理やりに
隣のテーブルに座って、かまわず話しかけてくる。

とうとう、私たちは、ねをあげて、まあいいか。と、4人で飲んだ。


話してみると、グラフィックデザインの仕事をしているらしい。
その話をきっかけに、私たちは、その場限りの会話を楽しんだ。


その男性のうちの一人は、仕事の書類をファックスしなければいけないとかなにかで早々に、ホテルに戻って行った。

残りの三人で、駅への道を歩いていると、友達に電話が入った。
どうやら、彼が、別の店で飲んでいた事がわかりこれから彼と合流するようだ。


夜の街を ほんの何時間か前まで見ず知らずであったふたりで歩く。

私の心はまた、あのトラウマが顔をのぞかせていた。

隣にいるのがあきらちゃんだったら、どんなに幸せだろうか。。。
またこんなふうにあきらちゃんと歩けたら。。。。



「もうちょっと飲みたいなあ」と、その人は言った。



私は、人恋しい気持ちに負けた。




さっきまで4人で騒いでいた時と違って、その人は、とても優しかった。

この人に、心を奪われたわけではなかったけれど、
その晩私は、通りすがりのこの人と身体を重ねた。



あきらちゃんを思い浮かべながら。。。。




とにかく人恋しかった。




この日から、別の意味で壊れた日々が始まることになる。






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