ハッピーステップ
泥沼生活から、這い上がった軌跡(日記のはじめのほう)を書いた後
最近では、日常の感じた事をつらつらと、不定期に更新中ですm(_ _ )m

2003年08月30日(土) 第25章 好転の兆し

復讐の日々が始まってから、ほぼ一年の月日が流れた。


高瀬さんに心を許してからほんの少しだけ、
私の頑なな心は、開き始めていた。

食事も普通に取れるようになり、どうにか、体重も44kgまで戻った。
(そこからは、なぜか、いくら食べても太れなかったが・・・)
精神的にも、落ち着きを取り戻し始めたのだろう。

そうなると、周りの状況も不思議と見えてくるものである。



気が付くと、この苦しかった日々の成果が、次々と一気に現れ始めていた。

以前、駆けずり回った得意先は、こちらから出向かなくとも、
私との商談の為に向こうから、アポイントを取ってくる。
本来デザイナーである私は、忙しければ、
商談は、営業の人に任せられるのだが、数多くの得意先のバイヤーたちは、
私との商談を希望した。私のスケジュールが合わない場合、お客様である側の
彼らの方が、わざわざスケジュールを変更して、各地から訪問してくださった。

そして、「うちの会社の企画会議にも是非出席してください。」と、
声をかけてくださるバイヤーまで、現れはじめた。

そして、以前、心無い人の言葉を信じ、表面だけの対応しかしてくれなかった
私の部下たちは、毎晩遅くまで仕事をこなしていた私を見て、自ら率先して、
私の仕事の手助けをしてくれた。

そればかりではなく、
社内で、「あの人は、とてもいい人です。あの噂は、りかさんを妬んだ人たちのでっち上げとしか思えません」と、ずっと、言い続けてくれていたのだとわかった。


こうなると、チームワークもよくなって、仕事の流れも益々スムーズになり、
うなぎのぼりに数字に表れていった。



私の心からは、もはや、会社の人たちへの復讐心は消えていた。



そんなことより、自分の企画した服をバイヤーが、
次々契約してくれる事の喜びを感じ、
心から仕事が、楽しくて仕方なくなっていた。




ある日私は、大切な得意先へ出向く為、社長と二人で、日帰りの出張をした。

その帰り、よく頑張っている褒美にと言って、
社長に豪華な食事に連れて行ってもらった。

そこで、仕事の話をしばらくした後、あらたまって社長は私にこう言った。

「いままで、よく頑張ったね。あの環境の中で、並々ならぬ努力だったと思う。辛かっただろう。このくそオヤジは何を言ってるんだ、と思っていただろうね。悪かった。。許してもらえるかな」

そう言うと、私に向かって、深々と頭を下げたのだ。


驚いた私は、社長に正直な気持ちを伝えた。

「いえ、あれは、私にも悪いところが多々ありました。考えが子供だったんです。私が、これまで頑張ってこれたのは、くやしい、みかえしてやりたい、
そんな気持ちがあったからです。
それがなければ、ここまでのことはできなかったと思います。
だけど、いまは、頑張ってきてよかったと思っています。
いつの間にか、仕事が楽しくなっていました。」


次の日の朝礼で、社長はいつもの挨拶の後、こう付け加えた。

「毎週貼りだしてしる、売り上げ報告を見れば確認できるとおもうが
いま、一人の売り上げでこの会社の利益の三分の二を上げている人物がいる。
一人でここまでやったのは、この人が始めてだし、これからこんな記録を残せる人間が果たしているかどうか。
人の失敗を利用して、自分の地位を上げていく人間がいる中で、
その期間、コツコツ努力を積み重ねてこれだけの立派な成果をあげた人間が、
本物の勝利をつかんだのだと僕は思います。」

少し嫌味を含んだこの言葉に、社内の人間は、誰の事を言っているか、一目瞭然であった。



それから、数ヵ月後、例の「心無い人」は、自ら退職していった。

私に降りかかっていた疑いの目が、徐々に彼女に向けられていたので、
会社にいづらくなっていたのだろう。


この時点での私にとっては、もうどうでも良いことであったが。。。。



こうして、辛く長い日々を経て、社内の私の信用は、
以前の数倍にもなって、戻ってきた。




精神的にはかなり楽になるはずであるが、
私は、まだ、苦しんでいた。

それは、あきらちゃんに対する未練である。

いまだに、彼に対しての想いを持ち続けていた。
未練というよりは、むしろ、プライドを傷つけられたことによる一種のトラウマのようなものだったのかもしれない。


一緒に仕事をしているあきらちゃんと、みかちゃんの仲は、まだ続いているようであった。

かろうじて、平静を装えたものの、それをみているのは、とても辛かった。




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2003年08月29日(金) 第24章 精神の病

朝から晩まで仕事で駆けずり回り、
夜中はたびたび長い道のりを徒歩で帰る生活。

そして、社内では、問いかけられても一切、仕事の話以外には、答えようとはしなかった。

私のプライベートにとやかくつけ込んで、私の全てを奪ったものたちに、
たとえ、日常の会話であったとしても、今更、プライベートの過ごし方を明かすなんてこと絶対にするものか!


   精神の壊れた私は頑なだった。


ある朝、着替えを済ませた私は、自分の姿を鏡に映して気が付いた。

そこには、足のラインがほっそりとして、
ウエストはスッキリとしてミニスカートをカッコ良く着こなしている自分がいた。

「きれいになってるかも。」



復讐の始まりから私は、不規則な生活ながらも、自分の外面を磨く努力は、
決して怠りはしなかった。
毎朝のように1時間かけて湯船に浸かり、抜かりない服装を心がけ、
丁寧にお化粧をして、自分をぴかぴかに磨き上げて、
始発で出勤した。。。。

あきらちゃんを見返してやるために。。。

それがある朝、気が付くと、無意識にしろ体型もかなり磨きがかかっていたのである。



過酷な環境で、長い間過ごしていた私の精神は、自分で気が付かないうちに、
かなり壊れてしまっていたようだ。


「もっともっと痩せたい」


私は、そのハードな生活のなかで、極端に食事制限を始めた。

朝食抜き、昼は、カフェオレもしくは、トマトジュースのみ。
夜は、海草やこんにゃくなどの超低カロリー食
どんどん異常な行為はエスカレートしていった。


もともと、身長160c 体重47kg、それほど太っているというわけでは
なかった私であったが、その極端な生活と食事制限のため、
体重は、どんどん落ちていき、とうとう38kgにまで落ち込んでしまった。

そう、拒食症である。

月のものもきちんとあったし、病院へも行かなかったが
それは、まぎれもなく拒食症であったと思う。

それほどまでガリガリになっていても、
固形物が、自分のお腹のなかに入ることを極端に恐れた。
恐ろしい病気である。


そのガリガリの身体をひきずって、異常なまでに仕事に身を投じる私。
はたの者達が、気付かないわけはなかった。




一番初めに、私にやさしい声をかけたのは、
はじめから一緒に組んで仕事をしていた高瀬さんであった。




その日も私は、いつもの様に夜遅くまで仕事をしていた。

ほかのみんなは、もう帰ってしまったのだろう。

今日も一人で残業。
そう思っていると、ふっと、部屋に高瀬さんが入ってきた。

「まだ帰らないの?俺ももう終わって帰るけど?一人になっちゃうよ?」
「はい、まだやります。高瀬さん、帰ってくれてもいいですよ。」
「いつも遅くまで頑張るね。」そう言って、部屋から出て行った。

帰ったんだなと思ってしばらくすると、
高瀬さんが、コンビ二の袋を抱えて戻ってきた。

「腹へってない?これ食おうよ」
そういって、温かい肉まんを差し出した。

肉まんを受け取った私は、復讐の日がはじまって以来、
社内で初めての微笑を高瀬さんに向けた。

高瀬さんの温かい言葉、そしてふわふわの温かい肉まんは、
私の頑なな心を少しだけ溶かし、気を緩ませた。


気が付くと、私の目から、涙が溢れていた。

「私、絶対にずるいことなんてやってません。中村さんとのことは、
いいことだとは思わないし、私に悪いところはたくさんあったと思うけど、
みんなが思ってるようなこと、絶対にしていません。くやしかったから・・・」

後は、言葉にならなかった。


高瀬さんは、静かに言った。

「俺はわかってるよ。誰がどんな性格のやつかなんて、気付いてないふりしてるけど、わかる人はわかってるよ。だから、もう過去の事は忘れて、普通にしていたらいいよ。
そこまで、自分をつぶす事ないよ。
社長だって、随分昔に言ってたよ。
あの手紙のことは、漁夫の利で、自分の格をあげようとした人間の仕業だって。」

「だけど・・・」

高瀬さんの優しい言葉が胸にしみて涙がこみあげ、言葉にならなかった。


「俺はね、万が一、仮にあの怪文書の犯人が、りかちゃんであったとしても、
りかちゃんの事は、人間として信用してるし、好きなんだ。」


もちろん、その「好き」というのは、恋愛感情のそれとは別の意味である。


この日、高瀬さんと話した事で、私の頑なな心は、徐々にとけていくことになる。


拒食の症状も、ひどくなる前に回復していった。



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2003年08月28日(木) 第23章 復讐の幕開け

事実を捻じ曲げて私を孤立させた「心無い人」
それを信じて私に冷たい対応しかしない会社の人たち
怪文書を送った犯人
全ての行動を監視し仕事を思うように進めさせてくれない会社の社長

そして、最後の夜、私を抱いておきながら
私の前で平然とみかちゃんとの仲をみせつけるあきらちゃん



私は、全ての人を恨んだ。私の中で生まれたのは、復讐心であった。




このまま会社にいるのは辛いだろう。
しかし、ここで辞めてしまっては、
あの「心無い人」の思う壺
怪文書の犯人の思う壺、
そして、私がいなくなった会社で、あきらちゃんは、
みかちゃんと思う存分楽しく過ごすことになるのだ・・・


絶対、許せない。。。。。




私は、辛さから逃れるために会社を辞めることより、
ここで、誰にも何も言わせない業績と地位を手に入れ、
あきらちゃんに私を捨てたことを後悔させるほど美しくなり、
私をおとしいれた全ての人達に正当な方法で最高の復讐を試みる事を選んだ。




その日から、私はその大きな大きな抑圧の中で、孤独との戦いの日々を始めた。

その復讐の為だけに生きた。



毎日のように、朝は、始発で会社に出かけ、全ての掃除を一人で済ませ、
それからは、一心不乱に仕事をはじめた。

足が棒になるまで、駆けずり回り、資料集めやプレゼンのための得意先まわり、夜は、誰にも負けない企画書をつくるために、
終電ぎりぎりまでがんばった。

時には、一人ぼっちの会社で、涙を流しながら徹夜をして仕事をこなした。

あの頃の睡眠時間は、平均すると、毎日三時間程度だったと思う。
眠ろうとしても、眠れないこともあったし。。。。。



しかし、会社では、絶望的に信用を失っている私、
すぐに目に見えて事態が好転するわけもなく、
その復讐が達成されるには、絶大な時間を要した。




絶対、やり遂げて、私を苦しめた全ての人を私の前でひれ伏せさせてやる。




とは言うものの、私の精神状態は、ぼろぼろであった。

あきらちゃんとの最後の夜を会社で過ごしてから、ほぼ半年が過ぎていた。
あいかわらず、みかちゃんとはお楽しみのようである。



夜中の終電は、顔を赤らめた声の大きな酒臭いサラリーマン。
デートを終えて、幸せそうにじゃれあうカップルたち
少し早い忘年会を終えて、楽しそうに笑い合うどこかの会社の人たち。

そんな車両の中で、たった一人、ハードな仕事を終えて家路につく毎日、
みんな楽しそうだな。なぜ私だけがこんな風に?

世の中の私と同じ年頃の女の子たちはきっと楽しくきらきらと生きているのだろう。

そう思うと、私の目からは、涙が溢れた。
たくさんの楽しげな人たちの中で。。。。。

涙は、ぬぐってもぬぐっても、後から後から溢れた。

誤魔化しきれなくなって、電車を降りて、15kmはあろう道のりを
私はたびたび歩いて帰った。

真っ暗な夜中の道は、私の目からつたう涙を誤魔化してくれる。

夜中の道を女がたった一人で歩く危険など、感じる気持ちの隙間もなかった。


自分で命を絶つ勇気がなく、誰か後ろから、私を刺してはくれないだろうか
それほどの、ことさえ思っていたのだから・・・・・・





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2003年08月27日(水) 第22章 未練と抑圧と最後 (part 2)

「全部、自分で蒔いた種じゃないか。あの手紙の犯人はお前だろ!?」彼が言った。

私は、わけがわからなかった。
(私が犯人?) 

彼の言葉はまだ先へと続いた。

私は、この後の話の中で、周りの人の態度がなぜあのように変化してしまったのかを読み取ることができた。そして、全ての謎が解けた。



その内容を私の知った範囲で簡単にまとめると、以下の通りである。

《ある日、山上さんが彼のところに、私に届いた怪文書の事を告げに来た。

「僕自身が二人の関係がどうこう言うつもりはない。本人同士の問題だ。
しかし、こんな手紙が、彼女にたびたび届くというのは、
中傷にしてもあまりにもひど過ぎないか?りかちゃんがかわいそうだよ」

彼は、驚いたが、さらに驚くことに、
その次の日、彼のところにも、その怪文書が届いた(内容はわからないが)

彼は、彼なりに考える時間を持った。

ところが、ある日、山上さんが、何かの拍子で、
この会社のオツボネともよばれる福山さんにポロリと怪文書の事を洩らしてしまう。

福山さんも、根本的に悪い人ではないのだが、
社内のことは、この人を通して何でも社長に筒抜けになってしまうという難点があった。

元々私たちの関係を知っていた社長は、
福山さんに女子社員の行動を監視するようにつげた。

勿論、怪文書の犯人をつきとめるために・・・

福山さんが、何らかの方法で探っていたのだが、どういうわけか、
怪文書のことが、大方の社員に知れわたる。

社内では、私たちの関係が確信となるも、怪文書の犯人は誰なのか?
という騒動の方が大きくなる。

そこで、この物語の初期の頃に登場した「心無い人」が、
「この手紙の犯人は、りかちゃんです。
りかちゃんが、中村さんの気持ちがみかちゃんに向かないように仕組んだ自作自演の犯人です。」と言った。

どのような言い方で、どのようにみんながこの言葉を信じたのかは、いまだに私にはわからないが、とにかく、みんなは、この「心無い人」の言うことを信じることになる。

そうなると、私は、最低最悪の人間に仕立て上げられる。》


私を心配して、親身になって相談にのってくれた山上さんも、馬鹿をみたと、さぞかし腹立たしい思いをしたことだろう。




私は彼に低い声でつぶやいた。
「今まで私を見ていなかったんだね。そんな事を簡単に信じてしまったんだ。。。。。」
言い訳する気にさえなれなかった。

もう、好きなように思えばいい。



もう、終電の時間も過ぎていた。

会社に財布を置いて来ていた彼は、「お前、お金あるのか?」といった。
「今日、帰りに銀行行くつもりだったからない」
「じゃあ、会社の鍵もってるから、会社で寝よう」

私たちは会社に戻った。

会社の応接室のソファーで横になった。
私は、悲しみで眠れないでいた。

気が付くと、向こう側のソファーで横になっていた彼が、私の横に無理やり
横になった。

そして私を抱いた。


こんな日になぜ私を抱けるのだ!?


もう、あの頃の彼の肌の感触を 私には感じることが出来なかった。


私の服を剥いで擦り寄る彼の気配を感じながら、無感情に抱かれた。
これが、私たち最後の夜であった。いや、最後であるようにみえた。という方が正しい。



私の中で、プツンと何かが弾けた。
そして、何かが生まれた。




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2003年08月26日(火) 第22章 未練と抑圧と最後 (part 1)

腑抜けになった私は、毎日仕事らしい仕事もせず、ただ、その抑圧の日々を
淡々と過ごした。
いつやめることを切り出そうかな。そんなことを思いながら。

大口の仕事も残してはいたが、そんなこともう私には関係ない。
こんな会社、どうにでもなればいいのだ。



そんなある日、私は、淡々とした一日を終え、
帰宅しようと駅へと向かう途中、
偶然、外出先から、帰社する彼と出くわした。


考えるより前に、私は、彼に近づいて口を開いていた。

「あきらちゃん、もう会わないの?会わないのだったら、今日、一回だけでいいから話がしたい。どうしても、話がしたい。」


彼は、しばらく考えて言った。
「わかった。ここで待ってて。一回、会社に戻らないといけないから。」


彼が、この日を最後にしようとしていることは、察することができた。

前なら、こういう場面では、もっと、会社からずっと離れたお店で待ち合わせをして、そのままデートしていた。
ここで待てという事は、ここでけりをつけたいという事だ。


しばらくして、彼が戻ってきた。


会社から、少し離れたところにあるお店で、私たちは話した。



「あきらちゃん、私があきらちゃんと会ってる時でも、
私が何も悩んでいないと思ってた?」

彼は、黙っていた。

私は、まず、怪文書の事を告白し始めた。

まだ全部話し終わらないうちに、彼が口を挟んだ。
「あぁ、それなら俺にも来たよ」「えっ?」私は耳を疑った。
「うそ。何て書いてあったの?」
彼は、何も言わなかった。


しばらく沈黙が続いた後、私から沈黙をやぶった。
「もう、会えないんでしょ?」
「今までみたいには会えないね。」冷たく彼が答えた。
「みかちゃんがいるから?私がうっとおしくなった?」
もうどうにでもなれという気持ちだった。
彼は、私の精一杯の皮肉にこう答えた。
すこしイライラしているようにも見える。

「いいか、みかちゃんは、俺のこと好きだし、俺も、みかちゃんが好きだよ。」


なんてことをこんな場面で口にするのだ。

私は絶望感でいっぱいになりながら、彼に泣きながら言った。
「みかちゃんは、幸せだよ。あきらちゃんと仕事もできて、
いつもあきらちゃんに守られて。
私は、あんな手紙が来て、みんなからも無視されて。
なんで私だけ、こんな思いしなくちゃならないのよ。」
醜い女としての私の最後となる言葉であった。




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2003年08月25日(月) 第21章 ルール違反の代償

山上さんと、会社の玄関で落ちあって、食事に向かった。

もぞもぞと話しにくそうにしている私に山上さんは、
「俺の得意先の人がさ、この前、りかちゃんの企画書をみて、
『この子は、できる子だな』って言ってたよ。
俺も、そうですって答えておいたんだ」

そういって、笑って、場を和ませてくれた。

私は、「でも、今の私は二つのブランドを抱えるような器ではないのだとおもっています。
山上さんも知らないいろいろな問題があって・・・。」
「問題?難しく考えなくていいよ。最近元気がないなとは思ってたけど。」

山上さんは、彼との事にも全く気付いていない様子であった。

「何でも、言ってみろよ。俺でよかったら、相談にのるよ。
会社を辞めたいなんて。。。。なにかあったの?」
「山上さんに相談する前にお願いがあります。このことは、絶対に誰にも言わないと
約束してください。」
「約束するよ」


私は、山上さんに全てを打ち明けた。
彼との事も、怪文書の事も。
これがそもそもの間違いであった。

彼との事を他の人に自分の口から告白するということは、
もっともルール違反な行為である。既婚者と付きあう最低限のルール。
私は、それを犯してしまった。


「その手紙は、犯罪行為だよ!!なんだってそんなこと、
一人で黙っていたんだ!」


山上さんは、けして悪い人ではない。
ただ、怪文書の事に関しては、人間として許せなかっただけなのだろう。


後日、この告白が、大変な窮地へと私を追い込む事になる。


「おれはさ、りかちゃんが、みかちゃんのことで、悩むのもわかるし
実際、みかちゃんが、中村さんのこと好きだっていうのは、
この俺でもわかるしな。
けど、考えてみてごらんよ。中村さんは、結婚してるんだ。
早く中村さんと別れて、他の人を探すのがりかちゃんの為だよ。
みかちゃんのことで悩んでるくらいなら、別れることをすすめるよ。」



それから、一ヶ月が過ぎた頃だったろうか、
あきらかに、私に接する会社の人たちの様子が、変化したのは。。。。。





その日は、突然やってきた。



朝、会社に出勤した私は、次々ロッカー室へ入ってくる同僚に
いつものように「おはよう」と声をかけた。
「・・・・・」


そのほとんどの人たちは、みな聞こえないふりである。

挨拶したとしても、「おはよう」とそっけなく言った後、他の同僚たちと
楽しそうに会話している。


いったいどういうことであろうか。
彼との関係が、みなに知れ渡っていたにしても、ここまでの無視はおかしい。
つい一ヶ月ほど前に相談に乗ってくれたはずの山上さんでさえその態度である。


それだけではなかった。


休憩室でも、私が、そこに入ると、今まで楽しそうに話していた人たちが
ぱ〜っと散って行くではないか・・・。
女性だけならまだしも、男性までこの態度であるというのは、
よっぽどの事であろう。


私の知らないところで、何かが起ったに違いない。
私は、見えない抑圧にただうろたえるだけしかできなかった。



それから、一週間その抑圧に耐えながら、私は出勤した。

彼からの連絡もそれ以来なかった。

私は、もう彼を追わなかった。
会社を辞めよう。もうここにはいれない。



彼から、連絡はこなくなったが、まだ決定的な言葉を交わしたわけではなかった。
私は、いつか来るかもしれない彼からの連絡を心のどこかで待っていた。
しかし、今回ばかりは、うまくいかないことは、充分察しがついた。

彼をあきらめる前に、自分の口から、こうなってしまった経緯、怪文書のこと
周りからの抑圧。そんなものを全て彼に吐き出したかった。


そう、未練以外のなにものでもなかっただろう。
私の心の奥の本心は、彼に、そのことを告げて、自分を哀れんでほしかったのだと思う。
かわいそうに・・・そう言って、またやさしく抱きしめてもらいたかったのだと思う。


しかし、抑圧の日々が続くようになってから、彼は、電話さえよこさなくなってしまった。


私の見えないところで、何かがあったことは、あきらかだ。


しかも、その日以来、また、みかちゃんとの疑惑ある行動が目に見えて
私を苦しめた。

彼と、みかちゃんは、やっぱり何かあるのだろう。

私は、そう解釈した。彼への思いを持て余しながら。。。。



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2003年08月23日(土) 第20章 再び怪文書

私たちは、あの日以来、また、密会を続けるようになった。


私も、必要にかられて、徐々に、仕事に身が入るようになってはいたが、
依然、みかちゃんと彼への疑いは、消えてはいなかった。


もしかしたら、あの怪文書の犯人は、みかちゃんではないのか?
という疑惑の気持ちも生まれていた。


本来なら、既婚者の彼に、不安や嫉妬を抱く対象は、彼の奥さんであり、家庭であろう。
私の場合は、それ以前の問題であった。

まだ、奥さんや家庭への嫉妬なら、
どこかの時点で仕方のないこととあきらめも付き、
それほどにまで、醜い女へと変貌しなかったであろう。



第三者の目から見れば、どっちにしろ、結果はうまくいかないのだから、
みかちゃんへの疑念にそこまで執着する必要はないのでは?というのが
大方の意見であると思う。

しかし、私の彼への想いは、もう抜け出せないぬかるみへはまり込んでしまっていた。



ある日朝礼が済んで、自分の机についたところ、また愕然とした。

来たのである。例の怪文書が。。。。机の上に置かれていた。

ここのところご無沙汰であったが、とうとうまた来てしまった。
中をみなくとも、私にとっては、それとわかる見慣れた封筒である。


即座に私は、朝のバタバタした、企画室から席を立ち、
だれもいない休憩室へと降りていった。
怪文書の内容を見るために。。。



お前たちの事を誰も知らないと思っているのか?
なかむらさんがみているのはお前だけではない、
みかちゃんにそろそろバトンタッチするほうが、身のためではないか?


大方の内容は、上記のような感じだった。



一体、誰なんだろうか、みかちゃんかな?
でも、この怪文書で、一番に疑われる人物といえばみかちゃんではないか、
そんな馬鹿な事、みかちゃんはしないのではないだろうか?

なぜ、こんなことになってしまうんだろう。

もっと、普通に、生活や仕事がしたい。。。
彼と出会わなければ、こんなに色んな事で苦しい事はなかったのに・・
普通に生活を送りたい。


どうしようもなく涙が溢れた。
あまりの苦しさに、私は嗚咽をあげて泣いた。



そこへたまたま通りかかった人物がいた。
他ブランド担当の山上さんと言う男性であった。



「どうしたの?!」
彼は、びっくりした様子で、私を覗き込んだ。

誰かに話したかった。もう一人では抱えきれない。
ルール違反とはわかりながら、私は山上さんに全てを相談しようと心に決めた。




「今ここでは話せません。でも、もう苦しい。会社を辞めようかと思ってしまう。」
「え〜っ!」
山上さんは言った。
「今日、時間ある?ちょっと話きかせてくれないか?」


私と山上さんは、仕事が終わってから、食事をしながら、話をする約束をした。




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2003年08月22日(金) 第19章 久しぶりの感触

その日の夜、仕事が終わってから、私は約束の店で待っていた。

15分遅れて彼がやってきた。

「ごめんごめん、これでも走って来たんだ。」
以前と変わらぬやさしい声。

私は、これまで会わなかった一ヶ月間が嘘のような彼の態度を
不思議に思いながら彼の顔をじっと見た。

優しい顔である。



「どうして、いままで会ってくれなかったの?」私はこわごわ聞いた。
「お前が、弱くなってたから。」
「色々、ありすぎて、一人ぼっちな気分だったから、弱くもなってしまうよ」
「お前も俺も二人が弱ってる時に会ってどうなる。」
「じゃあどうして今日は会ってくれたの?」
「会いたかったから。それに、お前ももう大丈夫だから」


(大丈夫?誰が?私は、全然大丈夫なんかじゃないよ!
大口の仕事が決まったって、ちっともうれしくない。
変な手紙だって、時々くるんだから!!
そんな時、ほんとは助けてもらいたいよ!)
私は心の中で、思い切り叫んだ。


会わなかった時を埋めるように私たちは、色々話し合った。


「お前は、俺のこと好きか?」唐突に彼が聞いた。

「うん、好き。。。。あきらちゃんは?」
「好きだよ。」

なぜこんなことを彼が聞いたのだろうか。

今なら、わかる。
既婚者の彼と、私が、会い続けるためには、社内で、おおっぴらになってはならない。
行動を自重しなければならないんだよ。と、言いたかったのだろう。


しかし、その頃の私は、幼い考え方しか持ち合わせていなかった。

それに、あの怪文書に、動揺していることもあって、正しい判断力にも欠けていたし。

今思えば、あまりにも自分で自分を悲劇のヒロインにしたてあげ過ぎていた部分があった。




その夜、私は、彼に抱かれた。



久しぶりに間近で見る彼、
無駄な贅肉のない身体、程よく付いた筋肉、広くてがっしりした肩、スジの通った指。


久しぶりに合ったせいか、彼は、私を激しく抱いた。
二人は、息が詰まるほどキスをした。
お互いの気持ちを確かめ合うように何度も何度も。




そして二人は、身を寄せ合って眠った。

なにもかも、以前と変わらぬ彼のすべてに包まれて私は眠った。



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2003年08月21日(木) 第18章 意外な展開

その日以来私は、彼に、自分から接近することをやめた。


会わなくなってもう一ヶ月も過ぎていた。


相変わらず、彼は、はっきりしないままで、
それでも、みかちゃんとは、仲がよさそうで・・・・
それならそれで、はやく言ってほしい。
こんな中途半端なままで、そんな姿、みせないでよ・・・・。

私は、みかちゃんと彼のことが、ただの思い過ごしなのかどうかもはっきりせず、
宙ぶらりんのまま、毎日毎日苦しんだ。

私の心は、失望感でいっぱいだった。



醜い女の醜い部分は、日に日に成長を続け私を支配していった。



みかちゃんと彼が、残業しているときは、私も残業をした。
まるで彼が、みかちゃんを誘わないかどうかを見届けるように・・・・。

辛いのがわかってるのだから、よせばいいのに、
どうしてもこの目で、確かめてみたかった。


会社の女の子たちの間では、もう彼と私の噂で持切りだったことだろう。
女というのは、噂好きな生き物である。私は、女に生まれた事をうらんだ。



ただ、唯一ラッキーだったのは、そうやって、残業しているうちに、
たまっていた仕事が、片付いていった。


それを見届けたい気持ちとは裏腹に、彼とみかちゃんをみているのに耐え切れず、
考えないようにその時間だけは、仕事に没頭した。
そんなつもりはなかったが、新しい得意先との商談にこぎつけることができた。
そして、大口の取り引きが決まった。

しかも、これからも継続して取り引きを
続けたいので、もう一つ、新規でブランドを立ち上げてほしいということだった。
会社にとっては、すごくプラスになる得意先であった。
まさに棚からぼたもち。ひょうたんから駒。思いがけない幸運だった。


わたしは、一気に二つのブランドのチーフとなってしまった。
わたしの部下は増え続け、仕事は益々忙しさを増した。


通常なら、願ってもない成功と幸せだが、ちっともうれしさを感じなかった。


仕事に全くと言っていいほど意欲がなかったのだから。。。



ある日、いつものように、たった一人で休憩室でタバコを吸っていると、彼が入ってきた。
わたしがそこにいるのを知っていて入ってきたのである。

「忙しそうだな」と微笑んだ。

なんで、急に、わたしに微笑むのだ?
やっぱりみかちゃんとは、なんでもないのか?
それとも、タバコを吸いに来たら思いもかけず私がいたので、
いたしかたなく、平静を装っているのだろうか???

ハテナマークでいっぱいの私に、彼はおかまいなしに、世間話を始める。
かつて仲良く楽しく密会していた時のように。。。。。


咄嗟に私は、思い切って口をきった。

「会いたい。あきらちゃんとゆっくり話がしたいよ。前みたいにもっといっぱい会いたい。」


彼は、一拍おいて
「そうだなぁ。そろそろいいかな」

意外な言葉に私は驚いた。
どうせまた、断わられると思っていたからだ。


「じゃあ、今日、仕事が終わりそうになったら、時間と場所を言うよ」
そう言って彼は、その場所を後にした。



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2003年08月19日(火) 第17章 冷たい態度

会社には、休憩室があった。

企画室は、禁煙のため、喫煙する人は、商談室か、休憩室と決まっていたのだが、
商談室のテーブルが、お客さんで埋まっている時は、
男性も女性も休憩室にタバコを吸いにいく。

休憩室の奥に女子ロッカーがあるため、ロッカー室にいく場合、必ず休憩室を
通らなければならない構造になっていた。



ある日、私は、朝出勤してから、朝礼が始まるまでの間、その休憩室で
タバコを吸っていると、みかちゃんが、大きな紙袋を持って出勤してきた。

みかちゃんは、近頃急激に、魅力を増してきていた。
もともとぽっちゃり型だったみかちゃんは、見事ダイエットに成功して、
輪郭もすっきりして、くりくりした瞳は、きらきらと輝きを増していた。

かつて私がそうであったように、服装も、カジュアルなものから、セクシーなものに変わった。


ロッカー室へ行くみかちゃんが視界に入った私は、
その紙袋に、「女の勘」を感じた。

彼に違いない!

そう、みかちゃんが彼と密会してるんではないかと直感で考えたのだ。


まさか、考えすぎだよ。

悪い予感を振り払って、朝礼のため、企画室に戻った。



その日から、みかちゃんは週に一度くらい、その大きな紙袋を持って出勤してきた。

現に、その日の彼の服装は、前日と同じであることが多かった。



そういえば、彼とはもう三週間もの間、密会していない・・・・・。



仕事中、彼とみかちゃんの行動を視界の端で追う私。
なんとか思い過ごしであってほしい。。。。。
ただの思い過ごしであるという確信がほしかった。一刻も早く、彼に会って確かめたい。
会う約束をとりつけなければ。。。。


彼が、一人になるチャンスをみはからって、彼に近づき、
「今日は?」と聞いた。
「今日は、仕事が忙しい」彼の答えは、いつもこうだった。


しかし、どうしても、会って話したかった。

良い結果にしても悪い結果にしても、
この中途半端な気持ちでもやもやした生活から、おさらばしたかった。
はっきりした答えを直接彼の口から、聞きたかった。


ある日、私は、商談のため、得意先に出かけた彼の帰社時間が、8時となっているのを確認して、その時間を見計らい、駅で待ち伏せをした。

長い時間待って、やっと彼の姿が見えた。


「なんで会ってくれないの?私は、どうなるの?もう苦しい・・・。」
彼を問い詰めた。

いつもやさしかった彼が、私に対してはじめてイライラした口調で言った。


「俺にも考える時間をくれよ!」


そう言って彼は、立ち去った。

私の目から涙が溢れた。



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2003年08月18日(月) 第16章 part2 醜い女

尋常な行動をとれなくなり、理性を失った私は、
嫉妬心を抑えきれなくなっていた。


社内で仕事中、みかちゃんと彼が二人で、打ち合わせをしていても、
彼の事が気が気でならなかった。
パーテーションで区切られた一角から、楽しそうな笑い声が聞こえるだけで、
私の心は深く沈んだ。


ちょうど、私たちの仕事は、最盛期であった。
新しい企画を打ち立てて、どんどんバイヤーにプレゼンして行く時期、
必然的に、彼と同じブランドのみかちゃんは、彼と行動を共にする事が多くなった。

勿論私も、プレゼン用の企画をどんどん提案しなくてはいけない立場だったが、
そんな気分にはなれなかった。

嫉妬心だけは、私の心で日増しに巨大化していった。

私は、次第に「都合のいい女」では、いられなくなっていった。
それどころか、社内でも、嫉妬心をあらわにした。

言葉にこそしなかったが、彼が、みかちゃんと楽しそうに話しているだけで、
不機嫌になり、わざと、バタンと音をたてて戸を閉め、その部屋から出て行ったり、
彼が、出張の時は、その出張先から彼が、社内に連絡を入れてくる時間を見計らって、
まるで、電話番のように、電話をとりまくった。


こうなると、私たちの関係が、社内でも単なる噂話が、
確信となってしまうのは、明らかである。

もう、周りの目を意識しなければならないという理性さえ、失っていた
自分の中の何かが壊れていた。

ついに私は、ただの醜い女へと化した。



業績は、一気に目に見えて、落ち始めた。

発覚してからというもの、その業績のおかげで、
社長を黙らせる事ができていたが、
こうなると社長も黙ってはいなかった。

チーフミーティングで、私は社長にこっぴどく攻撃された。


当たり前のことである。チーフとしての役割をこれっぽっちも果たせなくなっているのだから。


唯一の幸せであった彼との密会も、前のように頻繁ではなくなっていた。
彼からの誘いは、極端に減った。業績の低下、理性を失った私。

常識で考えれば当たり前のことだが、その頃の私に、それを理解する余裕がなかった。


私を蹴落としたい「心無い人」にとっては、好都合だったであろう。
私は、その「心無い人」の格好の餌食となった。


しかし、これも、全て自分の責任である。
私は、このことに気付けないでいた。




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2003年08月17日(日) 第16章 part1 唯一の幸せ

会社に入って一年半、私の仕事は、社内で常に優秀な業績をあげていた。

嫉妬や猜疑心に苛まれる様になってからも、業績として
堕落が表面化するには、時間がかかった。


しかし、その業績にもこの頃から、暗雲が立ち込めはじめた。
ロッカーに入れられた怪文書は、さらに私を堕落へと追いやった。


唯一の幸せは、彼であったが、それも、社長に発覚したことで、
社内で、日常的な会話を交わすことさえ控えざるをえなかった。

社長に発覚して以来、彼は、私を誘う時、家に電話してくるようになった。
私は、彼に会いたい一心で、毎日の様に、早目に帰宅して、
かかってくるかこないかわからない彼からの電話を待った。
当然、こんな状態で、仕事がうまく進むわけがない。


その頃の私にとって、仕事なんて、どうでもよかった。



苦しい。どうか神様、彼までも奪わないでください。
たった一つの幸せしか、私には残されていません。
それだけは、どうか、奪わないでください。。。。


    追い込まれていた。。。。。
私には気持ちの余裕が、みじんも残されていなかった。
彼に対しても、その行動は、あきらかに変化した。


それまで、彼にいい子に思われようと、
嫉妬を悟られないようにニコニコ明るく振舞っていた。
家庭のある彼に、重荷に感じられないよう
決して、彼に対して、自分から何かを要求する事もなかった。
自分を極力おさえて、彼に疎まれないように行動する事を常としていた。
客観的にみると、要するに「都合のいい女」ってやつだ。
そんなことは、自分でも、認識していたし、あえて、そんな風に振舞った。
それでも、大好きな彼に会えるのであれば、それでよかった。
「都合のいい女」を演じる事で、私は幸せなのだから。。。。


彼と会っている時以外は、最悪の日々。。。

彼にもっともっと会いたい。


私は、もはや、理性を失い、尋常な行動をとれなくなっていた。




かつて、仕事に全力を注いだ私が、
今や彼を繋ぎとめる事だけに全力を注いだ。


しかも、最悪の方法で。。。。。




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2003年08月16日(土) 第15章 ロッカー室

その頃からだったろうか、私は、一つの不思議を感じていた。


仕事中いつも、荷物を入れている私のロッカーが、
気をつけてきちんと閉めていても、戻ると、半開きに
なっていることが、頻繁にあった。

「ドアの止め具が、弱くなってるのかな?」
それほど、重大にも思わず日々を過ごしていた。




ある日、ロッカーを開けて、目を疑った。


彼と会った次の日、私の着替えが入っていた鞄は、
あきらかに、誰かに探られた様子で、ぱっかりと開かれ、中の物がはみ出していた。


誰かがロッカーをのぞいている!!!!


木槌であたまを殴られたように、私はショックを受けた。


それだけでは、なかった。
それから私は、ロッカーに物を置く事を極力避けた。
しかし、何かの拍子にロッカーを開けた時、ぽつんと一通の封筒が置かれていた。


なにかな?
私は手にとって、封を開けた。

そして、こないだよりも強いショックを受けた。
驚愕と怒りと恐怖で、身体が震えた。


そこには、新聞紙の活字を切り抜いて貼り合わせた文章があった。


{ な・か・む・ら・さ・ん・は・お・ま・え・の・こ・と・が・
  き・ら・い・に・な・る・だ・ろ・う・な・か・む・ら・さ・ん・が・
 す・き・な・の・は・み・か・ち・や・ん・な・ん・だ・か・ら }
      (中村さんは、お前の事が嫌いになるだろう。
        中村さんが好きなのは、みかちゃんなんだから。)



それから、私を中傷する活字の手紙は、何度も何度も届いた。

しかし、彼には言わなかった。
そんなことがあるのだったら、無理に会うのをよそう
そう言われるのが、こわかったのだ。


いったい誰が、何の為にこんなことを!

その日から、嫉妬という醜い感情に加えて、
恐怖という感情までが芽生えてしまった。




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2003年08月15日(金) 第14章 沈黙

自然に、私の足は、会社へ向かっていた。


まさか、社長が休日出勤していたなんて・・・・


私は、会社の向かいのビルの階段を駆け上がり、
その窓から、じっと、会社の玄関を観察し続けた。

彼が、玄関から出てくるのを期待して・・・


ところが、一向に出てくる気配はなかった。


もしかしたら家に電話があるかもしれない。
そう思い直して、家路を急いだ。

何も知らない周りの目から見ると、かなり奇妙にうつっていただろう。
それくらい、周りの目も気にならないほど、悲壮な顔つきでそわそわしていた。


もう、5時を過ぎていた。家に着くと、妹がいた。
私は、ぷつんと、緊張の糸が切れ、わぁっと妹に泣きついた。
「どうしたの?!」
妹は、私の話の一部始終を黙って聞いた。


得意先の人をよそおって、妹に会社に電話をかけてもらった。
「わかった、いいよ」



「○○会社です。お世話になっております。中村さんは、いらっしゃいますか?」
そう言葉をかわして、次に妹は、そっと私に、受話器を渡した。


電話に出たのは、彼だった。
私からの電話を待って、一人で会社に残っていたのだ。


「私、大変な事をしてしまったの!!!」
私は、今日起こった全てを泣きながら彼に話した。

「なんだ、そんなことか、おれはお前が事故でも起こしたのかと
思って、びっくりしたよ。これから会って話をするか?」

彼は、落ち着いていた。
「そんなの全然へっちゃらだよ」とでも言いたげだった。


私は、安心して、彼に会いにでかけた。 
しかし、郊外デートを楽しむ心の余裕はなかった。
結局、いつものように飲んで、ホテルへ・・・・・


次の週初め、緊張して会社へ行ったが、不気味なほど社長に変化はなかった。



あくまでも、この日だけは・・・・・。



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2003年08月14日(木) 第13章 発覚

次の日の朝、彼は、商談の為、一旦会社へ向かった。

私は、彼の商談が終わるまでの間、時間つぶしの為
一人で街をブラブラと歩いた。


暦の上ではもう春だったが、一番寒い時期。2月の半ばだった。


彼と、おしゃれな郊外でデートするつもりだった私は、
いつもより少しオシャレして、春の装い。
冷たい風が、薄着の身体を冷やした。


その頃は、まだ、今ほど携帯電話を誰もが持っている時代ではなかった。
ぼつぼつ普及しはじめた頃で、持っている人が4:持っていない人が6 
くらいの割合でしかなかっただろう。私たちは、後者の方だった。



商談は、相手のあることだし何時に終わるかはっきりとは
約束できなかった。


「いいか、商談は、1時には終わっていると思うんだ。
1時になったら、会社に電話して来い。そして、時間と場所を決めよう。」
「わかった、でも、もし他の誰かも休日出勤してたらどうする?」
「絶対、俺が電話鳴ったらすぐに受話器を取るようにするから」
「うん、じゃあ一時にね」


昨日の、打ち合わせ通り私は、1時を待って公衆電話を探した。


トゥルルルル〜受話器から電話の呼び出し音が、ワンコール終わらない内に
「もしもし」とだけ、声が聞こえた。

すごい!ホントにすぐ取った〜

私は、ウキウキした声で、「あきらちゃん♪」と言った。


「どちら様ですか?」事務的な声が聞こえた。


顔から血の気がサッとひいた。
咄嗟に受話器を置いた。



その声は、紛れもなく社長だった。



「どうしよう・・・・」手が震えた。

きっと私の声と気付いたはずだ。


あの時期に携帯でも持っていれば、その非常事態は免れたのであろう。


私は、まだ肌寒い街で寄り添って休日を楽しむカップルたちを尻目に
ただ愕然として、どうしていいかわからず街を彷徨った。


もう一度会社に電話する勇気はなかった。



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2003年08月13日(水) 第12章 堕落

彼と、会って、会話を交わすと、悪い空想や嫉妬は、いっぺんに吹き飛んだ。


しかし、社内で仕事中は、やはり、嫉妬や疑いの気持ちが、私を苦しめた。



既婚者の彼が、意図も簡単に私を誘ったことがきっかけで、
私たちの関係は、はじまったのだ。

また、同じ事が、別の人と起こらないとも限らない。

彼の言葉を信じる事さえできなくなっていた。
嫉妬ほど醜い感情は、ないのかもしれない。


そんな私の考えに、薄々気付いてか、ある日彼が、私に言った。
「今度の土曜日、朝からどこかに行こうよ」
「ホントに?!いいの」
「うん、おしゃれなところに泊まろう」

そのころに人気だったある郊外のお洒落スポットへ行こうと彼が提案した。
「約束ね、絶対ね!」「うん、約束だ」
いっぺんに気持ちが晴れた。

そして、それまでの一週間は、その約束のおかげで、
その醜い感情に支配される事もなく、平穏に過ごせた。


ところが、約束の前日 仕事が終わってから、彼は、私に言った。
「ごめん・・・明日、午前中商談が入ったんだ。」
「え〜〜〜!!」


この頃、私は、彼と会うことだけに、全力投球していた。
それ以外のことは、はっきり言って、どうでもよくなっていた。
あの、醜い嫉妬に苛まれるようになってからというもの、
以前のような無邪気で、明るく純粋、仕事熱心な私は、
見る影もなくなっていた。
情けなくて、弱くて、みだらな私へと堕落していた。

それは、まるで、ズルズルと蟻地獄へ落ちていく蟻のようであった。


繰り返すが、嫉妬ほど醜い感情はないのかもしれない。


私を変貌させたのは、彼を放したくない、他の人に触れさせたくない。
そんな感情だったからだ。


「そのかわり、今夜もずっと一緒にいよう。明日、商談が終わってからでも
行けるよ。次の日も休みなんだから。」

私は、その言葉にしぶしぶ納得して、
その夜も、いつものように、彼の肌の感触を思い切り堪能した。



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2003年08月12日(火) 第11章 嫉妬

しかし、私は、みかちゃんの事が、ずっと気になっていた。
心無い人たちのことは、ごまかせても、自分の心だけは、ごまかせなかった。


実際問題として、みかちゃんが、中村さんの事を好きなのは、
傍目で見ていても、あきらかだった。

しかも、みかちゃんは、中村さんと、仕事中はずっと一緒なのだ。


心無い人の言葉にはじめは、「そんな揺さぶりに引っかかるもんか!」と
高をくくっていた私だったが、日がたつにつれ、
ゆっくりと、次第に、私の心は、不安と嫉妬に占領されていった。


仕事が、手に付かなくなる、社内での中村さんが、気になってしかたない。



はたから見ると、ありえないことまで、一人で悪いように空想して、
今の幸せを味わえなくなっていった。


ある意味、心無い人の戦略に引っかかったとも言えるだろう。



仕事の業績も、徐々に落ちていった。
これまでの信頼と、頑張りの評判で、かろうじてそのポジションを守れている。
そんな状態だった。



中村さんとはじめて身体を重ねてから、ほぼ一年が過ぎようとしている時期だった。

お互いの呼び方も月日が、なれなれしくさせた。
中村さんから、あきらちゃんへ・・・りかちゃんから、おまえへ・・・


このまま悩み続けるなら、いっそ思い切って本人に、聞いてみよう。


二人で朝を迎えた休日、ランチを食べた後、思い切って聞いてみた。

「みかちゃんのこと、どう思ってる?変なうわさをだいぶ前に聞いて、
ホントは、ずっと気になってたの。」
「誰かが、何か言ってた?」 
「うん」私が頷いたのを見て彼はフッと笑った。


彼は、言い訳に長々と時間をかけない人であった。

「みかちゃんは、オレの事すきだよ
けど、なにもないよ。 俺の方にも みかちゃんに特別な感情があったなら、とっくにやってる。そんなチャンスは、今まで、いくらでもあったはずなんだから」そんな言葉で、彼は否定した。



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2003年08月11日(月) 第10章 心ない人

数ヶ月、そんな日々の繰り返しだった。


まさに、快楽の日々。

お恥かしい話ながら、だただた、その快楽を楽しみに生活していた
と言っても過言ではないだろう。


いつ誘われてもいいように、会社のロッカーには、
いつも着替えを常備するようになっていた。


その快楽を中心に私たちの関係は、続いた。
まだ若かったこともあって、先のことなど、全く気にならなかった。


会社の同僚は、私たちの関係に薄々気付き始めていた。
ただ、確信はなかったのだと思う。



私は、仕事では、認められていた。
そんな生活の中でも、仕事だけは、全力をそそいだ。
 

私を蹴落としたい心無い人がいた。 


私のスキャンダルを利用して、なんとか蹴落としてやりたい。

そんな風に思っていたのかもしれない。
そのためには、確信がほしかったのだろう。



ある日、その心無い人は、私を試すように言った。
「みかちゃんって、中村さんのことずっと好きだったらしいよ〜」
そう言って、私の顔を覗き込んだ。


みかちゃんと言うのは、彼の所属するブランドで、
彼と組んで仕事をしている女の子だった。


私は心を見透かされないよう、社内の噂話に驚くただの同僚を演じた。
「え〜!そうなの!!中村さん結婚してるのに〜〜!!」



そうそう簡単に尻尾をつかまれてたまるものか。



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2003年08月10日(日) 第9章 愛欲の日々

その年、仕事始めの次の日は、土曜日で仕事が休みであった。


私たちは、お昼ごろまで、ホテルでだらだらとした後、
街に出た。明るい日差しが、まぶしかった。


昼間だというのに、ランチでも、多くのアルコールを口にした。

とにかく、浮き足立っていた。
少しブラブラ歩き回ると
昼間でも、かまわずに、ホテルで再び身体を重ねた。

そして、お腹が空くと、ホテルを出て、またアルコールを飲み、
夜もまた、身体を重ねる為に、ホテルに行く。



今、思うと、始まりの頃は、彼に恋したというより、
彼の身体に恋をしていたのかもしれない。
セックスがうまいとか、下手とか、そんな判断基準ではなく。
彼の肌の感触が好きだった。ただ、それだけだった。


身体を合わせると、吸い付くように私たちの肌は、ぴったりと密着した。
無駄な贅肉のない彼の身体が、私の肌に密着すると、
温かくて気持ちいい肌の感触が、私の肌に伝わる。
完全に私は、その快楽に溺れていた。



彼と、ホテルの前を歩くだけで、彼と身体をあわせているひと時が頭に浮かび
自分の足と足の間に、生暖かい感覚を覚えた。
まさに、繁殖期をむかえた、けもののように私たちは、愛欲におぼれていた。


  それから、次の日の日曜日も、同じような事を繰り返した。


  二日間の外泊であった。



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2003年08月09日(土) 第8章 仕事始め

身体を重ねてから、人を好きになるなんてことは、
それまでの私には、考えられない事であった。


しかし、私は、そうなっていた。

そう、あきらかに中村さんに恋をしていた。


お正月休みの間、彼の事を考えない時はなかった。
それは、彼も同じであったらしい。

休みの間、彼から、何度も電話があった。決して会えないのに。
そう、彼は、既婚者だったから・・・・・。



仕事始めは、彼にやっと会えるので、待ち遠しかった。
いつもなら、短く感じる休暇が、この年は、とても長く感じた。
ただ、一つ、あのつまらない中傷のことは、気になっていたが。。。。




仕事始めは、お昼までで、終わった。

彼が、私にメモを渡しに来た。

 
pm1:00  ○○ビル前


手渡されたメモには、こう書かれていた。




ウキウキした気持ちで、私は、○○ビルまで足を運んだ。

そして、彼とランチをとった。

まだ明るい街を彼と歩きまわっていると、時間は、すぐに過ぎ去る。
あっという間に、暗くなってきた。


そして、彼と飲んだ。

そこで、例の中傷のことを相談した。

みんな、ただの妬みだと、解釈している。気にせず頑張れ。と彼は、言った。
私は、彼の存在を心強くおもった。

仕事を理解してくれるパートナーのいる幸せを感じていた。



店を出ると、二人は、また、会わなかった日々を埋める為に、
当然のようにホテルへと足を運んだ


また、激しく抱き合った。
やはり、彼とは、肌が合う。
例え言葉ではなく、実際、本当に彼の肌の感触が好きだった。



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2003年08月08日(金) 第7章 中傷

その朝は、仕事納めだった。

私は、できるだけ昨日と同じ服だと悟られないように、
服の合わせ方を変えて、出勤した。



昨日の自分とは違う感じ、なんとなく、地に足が着かない
それでも、なんとか、いつもと変わりない調子で、大掃除にとりかかった。



「今日のりかちゃんは、なんか色っぽいね」
なんて、同僚の言葉に、ドキッとしながら、
「え〜っ。そお?」と、平静を装った



そんな時間が過ぎたあと、私は、ロッカー室に行った。


こそこそっと、女の子同士の話し声がするが、私が入った途端、その声は、
ピタッと止んだ。

妙な居心地の悪さがあった。

そそくさと、用事を済ませて、その居心地の悪い場所を後にした・・・・



・・・・・今のは何だったんだろう。
まさか昨日の事が、ばれてるんじゃないでしょうね。



そんなはずは、絶対無かった。あの約束は、誰にも気づかれていないはずだ。

では、何だったんだ?


胸騒ぎを感じながら、社長の挨拶を上の空で聞いていた。




私は、ある心ある人を通して、その居心地の悪さの正体を知った。
それは、昨日の出来事が、ばれていた訳ではなかった。



異例の昇格で、一ブランドを任された私、
忘年会で多くの営業マンに絶賛された私
そんな私をよく思わない人たちの、心無い嫌がらせや中傷であった。



「あの人は、男の人に褒められる為に、人気稼ぎのためだけに、男に媚売って
自分の格を上げようとしてるのよ。」
そんなことを言われていたらしい。


私は、憤慨すると同時に、深く心にとげが刺さった。


一生懸命嫌な事も我慢してがんばったのに、なぜ伝わらないのだろう
ただ、純粋にこの会社に慣れようと努力しただけなのに。。。。。。


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2003年08月07日(木) 第6章 肌と肌

部屋に入っても、驚く事に私は、
泊まるだけで、朝まで何もしないんじゃないかな・・・・
お互い少し酔って、寄り添っただけなんだ
そんな気持ちでいた。


部屋でも、少し話しながら飲んだ。



彼が、先にシャワーを浴びた。

出てきてベットで横になりながらテレビをつけた。

続いて私もシャワーを浴びた。


出て来ると、彼は、ベットで目を瞑って横になっていた。


あぁ、やっぱりなにもしないんだ。


安心感で私は、大きなダブルベットに横たわる彼の横に、そ〜っと入った。



私の頭が、ふわふわの枕に付くか付かないかの時、
眠っているはずの彼の腕が、私の頭の下に置かれた。



あっ!
一瞬、胸がドキンと波打った。
彼の身体が、私の上に覆いかぶさったと同時に
生あたたかい彼の舌が、私の口の中へ入ってきた。


私は、不思議と抵抗しなかった。
次第に剥がれていくバスローブ、あらわになった肌を彼の手が這う


まだ、胸は、どくんどくんと波打っていたが、正常な意識が遠のき
私は、自分の腕を彼の背中に 思いっきりまわした。




なんて、吸い付くような気持ちいい肌なんだろう。
肌が合うって、こういうことなのかな。
私は、この時、それまで付き合ってきた人の誰よりも、
この感触をこの人に感じた。




この日、二人は、はじめて朝を一緒に迎えた。
そして、また身体を重ねて、その快楽におぼれた。



これが、二人の始まりの日であった。



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2003年08月06日(水) 第5章 思いがけない出来事

私たちは、バーを出た。


「今日は、ごちそうさまでした。」

そう言おうと声を出しかけた時だった。


先に口を開いたのは、彼の方だった。


「お泊りセット持ってきたか?」



「えぇっ!」

いくら、無邪気で、鈍感な私でも、こんな時間に、このタイミングでこの言葉を聞くと、
その意味の全部を理解する事はできた。



「まさか、あれ、本気だったんですか?!」
「もちろん」



いっぺんに私の頭を色々な思いが駆け巡った。
困惑したような私の肩をぐっと引き寄せて、彼は、歩き出した。




面接の時はじめて彼を見て好印象だった、
会社に入って彼と会話を交わすようになってからも、
その印象は、かわらなかった。

ただそれは、恋愛感情とは、全く違ったものだった。

いや、それは、彼が既婚者であるという事実が、私をセーブさせていたのかもしれない。



アルコールのせいなのか、
それとも、初めて社内以外で彼とたくさん話して、
たくさん彼を知ったせいなのか、
私は、まだ、この現実を完全に飲み込めないまま、彼に従って歩いた。



冬の冷たい風で、冷え切った私は、彼のぬくもりを感じながら、寄り添っていた。
あるホテルを彼は、予約していた。



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2003年08月05日(火) 第4章 約束

次の日の夕方

私は、社内で担当の営業の人と打合せをしていると
彼が、入ってきた。 

三人で雑談が始まった。


「高瀬さんお電話です〜」
営業の人が、そこから席を外した・・・・・




声をひそめて彼が言った。


「今日、○○ホテルのロビーで、7時半に、待っててね」


何で声をひそめる必要があったのか、少しだけ不思議に思いながらも、
あぁ、今は、仕事中だからプライベートなことは、おおっぴらに言えないんだな

繰り返し言うが、その頃の私は、純粋そのものだった。
これぽっちの疑念さえも持ち合わせては、いなかった。



○○ホテルのロビーにて・・・・・
約束の時間を15分過ぎていた。

こんなところで、待ち合わせなんて、大人な気分だわ〜

慣れない場所で、ちょっと、そわそわしながらも、呑気な事を考えながら、
しばらくの間、ソファーにおとなしく座っていた。



20分遅れて彼が、やってきた
「ごめんごめん、仕事がおしちゃって・・・どこに行こうかなぁ」

軽くご飯を食べて、社内の話や、世間話で楽しく会話は弾んだ。


 「barに行って、もうちょっと飲もうか」彼が言った。




そこは、細い階段を下りた地下にある、薄暗いアメリカンバーだった。

程よくアルコールも入り、いい気分で、カウンターに着いた。

楽しい会話が、しばらく続いた。


アルコールが、すすむにつれ、少しづつ隣に座っていた彼が近づいてきているのは、感じていた。


次第に、耳元で、ささやくように彼は、私に話していた。


それでも、私は、酔ってるんだな。くらいにしか思っていなかったのである。
もうすぐ終電の時間だな。心の中で思った。

そろそろ帰らなくちゃ。




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2003年08月04日(月) 第3章 忘年会

忘年会は、鍋だった。

どこの会社でもあるように、「今年の反省と来年への抱負」を
一人づつ発表していく。


そこで、驚く事に、営業の男性達に、次々と絶賛される私・・・・
勿論仕事の内容の事だ。

すごくうれしかったが、ただただ驚いた。


おそらく、転職して、その会社の仕事に慣れようと
夢中で仕事をしていた成果であろう。

とは、言っても、まだ、数ヶ月・・・はじめに思ってたよりやるな
ぐらいのことだったのかもしれない。

しかし、このことが、後々の出来事に何かと引っ掛かってしまうのである。



無事忘年会は、終わり、二次会へ・・・・・
お決まりのカラオケコースだった。



そこへ行く道すじ、私は、例の爽やか青年と一緒になった。
彼の名前は、中村 あきら(勿論 偽名ですが)
色々、話しながら歩いていた。

そのころ恋愛感情なんてものは無かったし、そんなつもりもなかった。
ただ、会社の人という感じの感情しか、持っていなかった。


だいいち彼には、奥さんも子供もいたし・・・・・。



そこの会話で、彼の誕生日が、次の日であることを知った。

「なにか、お祝いしてくれる?」彼が冗談めかして言った。
「いいですよ〜中村さん何がいいですか〜?」

お酒も入っていたこともあって、軽い調子で私は言った
「じゃあ、明日仕事終わったら、飲みに行こうよ」
「え〜〜!中村さん飲む量が多いもん!私、そんなにお金ないですよ〜!」
「行って乾杯するだけ。おごってあげるって。」
「マジですか?それならいいですよ」
そんな感じの会話で、本当に飲みに行く事になった。


彼は、笑いながら「いいか、お泊りセットも持って来いよ」と言った
「何、冗談言ってるんですか〜」心底冗談だと思っていた。
まさか、と思われるかもしれないが、私は、まだ、若かったし、無邪気だった。

それに、彼は、既婚者であった。


そんなことがあるわけがない。本気でそう思っていた。



まだ、こんな大人の世界に、まったくと言っていいほど無知だったのだ。



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2003年08月03日(日) 第2章 幕開け

それから、数ヶ月が過ぎた。私は、その会社に採用され、
人にも仕事にも慣れてきている頃だった。

勿論、例の好青年とも、社内で、日常の会話をかわしたり、
冗談を言い合えるようになっていた。

みんな、気さくで、楽しい仲間だった。(いや、そう見えた)

私の職業は、服飾デザイナー。
転職して早々に、一つのブランドの企画を担当した。


これは、ある意味特別なことであった。

普通は、そんなに早く一つのブランドを任される事は、あまりない。

デザイナーにとっては、劇的な昇格であった。

中には、そんな私に心の奥で、好くは思わない人もいたであろう。



仕事は、師走を向かえ、年末独特のバタバタと忙しい日が続いていた。

そして、忘年会の季節でもあった。

忘年会の日取りも決まり、その日にむけて、みんな仕事をこなしていった。
仕事納めの前々日が、その日だった。


そして、忘年会の当日がきた




前説は、ここでおしまい
その忘年会こそ、この長い長い物語の幕開けになるのである・・・・・。



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2003年08月02日(土) 第1章 出会い

ある年の初秋。
私は、転職の為、ある会社を面接に訪れた。

パーテーションで区切られた、商談室の一角
少し緊張しながら、今か今かと、面接官であるその会社の社長を待っていた。


「どんな人たちが、働いているのだろ」
「仲良くやっていけるだろうか」

まだ、決まりもしていないのに、中で働く自分を頭の中で
ぐるぐると思い巡らせていた。


なんだか、社内は、商談やらなにやらで、あわただしかった。


「まだかかりそうだな・・・・」
そんなことを考えていると、
一人の男性が、私の座っているテーブルの一角に突然飛び込んできた。


この人も面接官?・・・と思うが否や
「あっ!すみません」
そう言って、瞬く間に、私の視界から消え去っていった。


あぁ、商談の場所を間違えただけだったんだ・・・・・


その人は、真っ白なシャツに、薄ベージュのチノパン、自然に流した無造作な髪の毛
爽やかな好青年というイメージだった。


「合格・・・」


私は心の中で、微笑んだ。



全く、面接に来てるくせに、男の値踏みとは、じつに不謹慎きわまりない。
しかし、緊張しながら長い間待たされていたのだ。
退屈しのぎに、これくらいのことは、誰だって思うでしょう?


まさか、こんなかる〜い気持ちが、これから起きる数々の辛い出来事の根源となることなど、その時の私に 知るよしもなかったのである。



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2003年08月01日(金) プロローグ

あの頃は、まだ若かった・・・ 

何も知らず、ただただ無邪気で明るいだけの私だった・・・

その後に起こる数々の苦労も知らずに、のほほんと暮らしていた。

今思い返すと、色々な経験を積んで、私も少しは強くなったのかな・・・
なんて思ってみたり・・・


けど、あれがあったからこそ、幸せに思える自分が今いるんだろう。

もし、神様が、なにもしらなかったあの頃に、時を戻して、
やり直しのチャンスを与えてくださったとしても
私は、同じ道を選ぶだろう。

過ぎ去ってみれば、どれもこれも、いい思い出であり、いい経験だった。
今の自分にプラスになっているのだから・・・・あの時を打ち消す必要もない。



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