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ムシトリ日記
加藤夏来
→ご意見・ご指摘等は

2005年10月31日(月)
メモ

○メモ

アルスラーン戦記新刊「魔軍襲来」感想


「できたぞ。読め!」(作者巻頭言)


六年間先の見えない日々を待ち続けたファンと同様、作者も多少興奮している模様。しかし、いくらなんでも七年かけて前の刊、六年かけて次の刊というサイクルはみんな腹に据えかねているらしく、きっちり買っているにも関わらず作者を「田中」呼ばわりする人の多いこと多いこと。それにしても全編通して一番印象的なセリフが作者の巻頭言ってどうよ?

内容自体がどうこうというより、出たこと自体が奇跡的過ぎて中立の感想が出せない。
何故か、北海道東部への列車旅行のどん詰まり点、知床半島の先で、船の甲板から見た北方領土を思い出した。無理のある日程と二時間に一本しかない電車のせいで同行者全員疲れきり、私ともう一人(女)だけが船のへさきに陣取っていたのだが、どちらからともなく大笑いしながら殴り合いしたものだ。

「あのクソみたいな時刻表にもめげず、ついにここまで来たぞ!!」

という理屈抜きの喜びがそこにあった。規模は小さいものの、丹野氏の表紙の新書を見つけたときの感情はそれと同種のものだったと思う。さすがにここまで待たされると、南へ向かうアルスラーンの孤影を追っていった十六翼将みたいなファンしか仲間にはいない。
読めとさ、みんな。読もうぜ。そして一斉に田中の背中をどやしつけてやろう。

「読んだぞ。書け!」



2005年10月28日(金)
帰りました

帰ってきたんですが、溜まっていないはずの疲れが詰まっていてだるだるです。
ぺったり。(床に倒れ伏している)


(こん)


ん? バトン……。


<萌えバトン・太郎飴さんより>

■1.萌え属性を正直に告白せよ(妹属性とか眼鏡属性とか)

……。
一輝と瞬とかマロンとキャロットとかシャギアとオルバとか鎌鼬の十郎とか……。
アリオーンとアルテナとかロイドとライナスとかマルチェロとククールとかよ……。

我ながらトラウマか何かか。というくらい、しつこくしつこく兄弟です。(十郎だけは三兄弟の末っ子) あと、可愛くて美しいものが好きなので、古風な百合ものも普通に好きです。(きれい×2=すごくきれい) 緋村剣心単体萌えとか、おカマさん好きもここに入るな。


■2.萌え衣裳を答えよ(メイドとか背広とか)

仮面。


■3.萌え小道具を答えよ(包帯とか首輪とか眼鏡とか)

道具。……刃物? 陽物?(悩)

そういや昔、高校生の頃ですが、制服のスカートのポケットに『便利だから』という理由で、いつでも折りたたみナイフを入れている友達がいました。誰も真似しようとしませんでしたが、ひそかにそれを羨ましく思っていた記憶があります。武器を持つことで自分が強くなった、という無意識の優越感に浸りたかったんだと思います。持ってる方が危ないのにねえ。


■4.萌え仕草を答えよ(受けでも攻めでもときめく仕草)

攻めがやたらに育ちのいい、丁寧なしぐさをしていると、思わず『押し倒されろ!』と思います。ん? 攻め……?


■5.萌え場所を答えよ

場所はともかく、真っ昼間。
セクシーな意味での萌え場所はないので、珍しかったり不思議だったりするともれなく目が吸い寄せられます。


■6.萌えゼリフを答えよ

せっかくなので増やしてみました。
萌え台詞というより名セリフ。

*「あなたにとって、命は平等……だった。でも、もう分かっただろう? 誰にも平等なのは、死だけだ」(MONSTER)
*「……げる」(ベルセルク)
*「ごめんよ。きみは悪くなんかない。でも……ごめん」(寄生獣)
*「行きましょう。指輪の重荷を背負うことはできなくとも、あなたを背負うことはできる!」(映画版指輪物語 王の帰還)
*「りっぱですって? 私は立派なんかじゃないわ。ユリアン、私はね、本当は民主主義なんかどうだっていいの。全宇宙が原子に還元したって構わない。あの人が、私の傍で、半分眠りながら本を読んでいてくれたら……」(銀河英雄伝説(8))
*「当たり前だ!!!!!!!!!!!」(ONE PIECE)
*「先ほどのお礼をと思い、追って参りました。よく惨劇の場を「血の雨が降る」と表しますけど……あなたは本当に……血の雨を降らすのですね……」(るろうに剣心)

二つを除いて全部マンガより。小説だとセリフよりも地の文のが印象的なことが多い。


■7.バトンを回す5人

個人的に聞いてみたいのでりるるさんへ(笑) mixiとかで既に答えてたらごめんなさい。
あと合金食堂のスズキさん、突然ですがいかがですか?
うまむーさんも、もしバトンもうええわ! という心境になってなかったら、どうぞ。



2005年10月24日(月)
時間切れ

週末色々更新しようと思っていたのですが、間に合わず今週は外出となります……週末までネット落ちしますので、対応は色々遅れます。ご容赦ください。


帰ったらすべきことのメモ

・ラリエット完結
・『幕間』の開始
・東京編エピソード
・オフライン告知
・わーー!! うまむーさん! メールは単に返事が遅いだけですー!
 →行司は見た! 愛欲と禁断の土俵際 〜兄弟横綱宿命の優勝決定戦〜
・ククールが鳥かごに入っている



2005年10月23日(日)
うちの役者話、その4(るりいろえんぴつさん訪問編)

途中まで書いて満足してしまったので、けりをつけるのが遅れました……。この間からやってる遊びに行く役者もの、るりいろえんぴつさん訪問編。







バレッタで髪の毛をざっとまとめた後で、くるくる下まで三つ編みにしていく。その作業の間、クラリスはとても楽しそうだった。ドレッサーに置いたバスケットから、甘い香りが漂ってくる。空気までが機嫌よく浮き足立って、窓から差し込んでくる陽気な日差しとおしゃべりを交わしているようだった。
「クラリス、出かけるのか?」
リビングからデーゲームの中継の音と一緒に、兄の声が飛んでくる。
「うん、るりいろえんぴつさんとこ」
遅くならないうちに戻れよ、と、気の乗っていない言葉が聞こえた。安心しているからだ。るりいろえんぴつさんの現場だけは、止められたことも質されたこともない。兄はそういう扱いをした挙句に時々我に返って、大慌てで「あんまりご迷惑をかけちゃいけない」などと言うのだった。
ブルーのパーカーを羽織り、モリキツキャップをきちっとかぶると、クラリスはバスケット片手に素晴らしい速さで玄関を飛び出していった。本人同様後も振り返らない、「行ってきます」だけをその場に残して。






〜 遊びに行ったこと 〜


まばらに樹木の生えている芝生の斜面を見下ろす道路に、一台のバンが止まっている。横っ腹にピンクの色鉛筆が、虹色の文字で『るりいろえんぴつ』とロゴを描き出しているマークがある。斜面の終わるあたりに、とてつもなく大きな赤白チェックのピクニックシートが広げてあり、半面を撮影機材が占めている。残りスペースの真ん中に、ヴィクトリア王朝風のえんじ色のドレスを着た、たぶん体長100cmくらいの白いペルシャ猫が正座している。
手近な木の陰にマルチェロとククールが、スタッフとともに立っていて、何か話し合っている。クラリスがバスケットを持って、バンの隣あたりに立つ。


クラリス(K):おーい! りーるーるーさーんっ!

全員振り返る。特に猫が振り返る。

猫:(かなり激しい招き猫)
K:(斜面を駆け下りて、ピクニックシートの傍らに立つ) こんにちはー! おやつ持ってきたよ! 撮影どう?
猫:詰まってるけど、休みってことに今決めちゃった。みんなー! おやつだって!

苦笑交じりの返答が上がって、役者含めピクニックシートに移動したり茶を沸かしに行ったり。

K:(バスケットからかぼちゃのシフォンケーキを取り出しながら)ごめんね、撮影の邪魔するつもりじゃなかったんだけど。
猫:いいの。うち楽しくないとやってられないから。撮影よりも、おやつの方が大事。
るりいろえんぴつのマルチェロ(RM):こんにちは、クラリス。そちらの調子はどう?
K:今練習してるとこ。(ケーキを渡しながら)そろそろ次の現場に入ると思う。みんなはどう?
るりいろえんぴつのククール(RK):うちは決まった流れがあるってわけじゃないから。それでもリズムはなんとなく出てる、そろそろグラビアが上がるかな?
K:(ケーキをくわえて、猫を振り返る)
猫:(猫笑い)大丈夫、ちゃんとマルチェロ出るからね。
K:え。あ、あはは(緩んだ頬を押さえたりしてる)
RK:クラリス、うちの兄貴好きだよね。
K:うるさいのもう。(すごく嬉しそうに突き飛ばす。外見が物凄く似てるので、ほとんど鏡漫才)
RM:(スタッフから受け取った紅茶を一口飲んで、何か思い出したように顔をしかめ)そう言えば、忘れてた。この間落ち葉で共同の現場を張らせてもらったとき、最後きちんとお礼を言うひまがなくて気にかかってたんだ。クラリス、お兄さんのところに今度伺わせてもらってもいいかな。
K:え? いえそんな、大丈夫ですよ。兄は気にしてませんから。『男のわたしでさえ惚れ惚れするような色男がいてくれて、ちょっと動揺した』って言ってました。
RM:(カップの陰に隠れて赤面し、視線を逸らす)


虫捕りのマルチェロはこの態度が原因で、めずらしく妖しい意味で動揺させられたのだが、誰もそれを知らない。


RK:(ひょいと紅茶を飲み干して)さ、太陽の角度が変わらないうちに、もうひと仕事しよう。
RM:(不安げに)え……もうか?
猫:ククール、よく見よう。マルチェロはまだ食べ終わってないよ。(自分は角砂糖をカジってる)
RK:遅いよ! なに、まだ半分以上紅茶残ってんの?
RM:いやしかし、わたしは熱いものが苦手で……。
K:もうちょっとなんだから、急がなくていいじゃない。
RK:クラリスは甘いんだよ。うちの兄貴はクラリスのにいさんと違って、引っ張っていかないと動きゃしないんだからな。
RM:……お荷物みたいに言わなくても。
RK:(眉根を寄せて兄を見る)
RM:(目を逸らす)
K:あと五分やそこいら、気にしなくていいですよ。(しびれを切らしたようにマルチェロの隣に座って)ね、ケーキどうでした? 本に載ってたレシピをアレンジしたんですよ。
RM:あ。うん、おいし……
RK:そういう女ってわりとムカつくと思わねえ!? (兄を挟んで反対側に、肩に手をかけて食ってかかる)
K:(ものすごく嬉しそうにマルチェロの腕を抱っこして) ムカつく女だもーん。それがどうした。ケーキ焼けないからひがんでるだろ。
RK:うるっさい! 手! こら手! 離れろって言ってるんだよこの……(クラリスをはがそうとして手を出したてる)
K:や。やー。(モリキツキャップで防衛してる)そっち側、まだ空いてるからいいじゃないの。手振り回すのをやめたら? マルチェロさん困ってるよ?(口を尖らせる)
RK:(むっと兄を見上げる)
RM:(この騒動の間、ずっとされるがままでいたので、ちょっと髪がほつれてくたびれてる)あの、ふ、ふたりとも、そんな、喧嘩とかせず仲良く……。
K×2:しなくていい。
RM:……。


思い直したククールと、幸せそうなクラリスに両方から肩に擦り寄られ、動くに動けず情けない顔で座っているマルチェロ。猫が満足げな顔でカップを抱え(猫には大きい人間サイズ)、尻尾が左右に揺れている。


K:(目を閉じて)ね、マルチェロさん。
M:ん?(顔がそっちに向く)
K:どうしてスタジオを作らないの? セットの方が楽だし融通がきくのに。
RK:そういう話はりるるさんに聞くんじゃないのー。
猫:(笑)いや、いいよ。マルチェロ、答えてあげて。
RM:(苦笑しつつ)そうだなあ。まあまずそれができるっていうのがあるな。うちはまだまだ小さいし、必要な道具も多くはないし。
K:虫捕りが同じことやったら大名行列になっちゃうね。
RM:(笑って、座り直し、両側のスペースを揃える。動いた分、二人がさらに寄る)それはそれでいいんだ。大きなことをやりたければ、しっかりした枠組みがいる。ただ、義理を立てなければいけないものも増えるけど。
RK:クラリスのにいさん、共演者にもスポンサーにも頭の下げ通しー。
K:内容のためなんだってば!


両方の髪を、器用にも同時に撫でてなだめるマルチェロ。まんまと大人しくなる二人。


RM:それぞれ、やってることは違うよ。ただうちは思いついたとき、思いついた場所でひょっとやるのが持ち味だ。晴れも降りもする。やり直しはきかないし。
猫:チャンスは一回。それがいいのよ。他の道なんてないってことが、嫌でも分かるでしょ?
K:(びっくりしたように目をぱちぱちさせる)
RK:(顔で指す)レトロだろ? 機材。わざとやってるんだよ。CG修正とかあり得ないし。
RM:まあ、そういう博打打ちがさり気なく多いというわけもあるんだけど。
K:(マルチェロと猫を見比べて、にっこりする)見えないよね。
猫:(猫ウィンク)そう見せたくなんかないからね。


エンジン音。バンの脇に、グレーの国産車が停止する。助手席からジュリオが降りてきて、こっちに向かって手を振っている。


ジュリオ(J):おーい! クラリス!
K:(シートの上に立ち上がって)なあに。わざわざ迎えに来てくれたの? まだちょっとしか遊んでないよ。
J:そうだけど、何でか制作が呼び戻せだって。ミーティングやっから、乗って。
K:ぶーぶー。(と口で言いながら、モリキツキャップを拾う) ごめんね、皆さん。中途半端なとこだけど、そういうことらしいんで……。
猫:ううん、頑張ってね(笑) もう撮影に入っちゃうの。
K:(首を振っている)ひたすら、組みでトレーニング。私の鍛え方が足りないからだって言われた……(↓)
猫:(肉球撫で)トレーニングかー……大変そうだな。


バスケットを掴み直して、斜面を駆け上がっていくクラリスの先で、運転席から虫捕りのマルチェロが出てくる。恐縮したように、スタッフに向かってぺこりと頭を下げる。


RK:りるるさん、もっかいさっきのとこから始めるよ。
猫:……(車のところで何か話し合ってる虫捕りの連中を眺めながら)やっぱ、さっきの指示、やめ。場所変えよう。
RM:ええ?
猫:むつかしく考え込むのは性に合わない。気分を変えたほうが早い。


諦めたようにスタッフが機材をピクニックシートの上に置いていくと、猫が機材ごとシートを畳みはじめる。パタパタ畳んでいくにつれて、どんどんシートのかさが小さくなっていく。最終的に赤白チェックのハンカチになったところで、片付けおしまい。


J:???(両手で目を擦っている)
虫捕りのマルチェロ(M):(傍を通り過ぎていくスタッフや猫に向かって)お疲れ様です。また今度ご一緒させてください。
RK:(バンに乗り込みながら)こちらこそ機会があればまた。クラリス、べそかいてねーで頑張れよ。
K:誰が、いつ!?


最後にるりいろえんぴつのマルチェロが忘れ物をチェックしながら歩いてきて、笑顔で会釈していく。

J:お疲れーっす。……現場? 次。どこなんすか?
RM:(肩をすくめる)さあ?
J:さあって。じゃ、どこ行くのかとかは……


るりいろえんぴつのマルチェロが明るい顔になると、バンの進行方向を指差す。


RM:あっち。
J:?


さっと車に乗り込む、るりいろえんぴつのマルチェロ。程なく車がスタートして、虫捕りの面々だけが残される。


J:(自分のところのマルチェロを振り返る)あっちって……どっち?
M:(肩をすくめながら)つまり、どこまでも行くんだろうな。


頭をかきながら考え込んでいるジュリオを、やがて先に運転席に乗り込んだマルチェロが呼び寄せる――― 



2005年10月22日(土)
ナイトメア

毎日新聞のウェブ版に連載されているエッセイで、ちょっと前から何となく読み続けているシリーズがあります。


「女という名の病」:小倉千加子


これは同紙「こころ」欄に入っている心理学者の方の著作で、ひとりの女性の心理をずっと丁寧に追い続けているものです。これが何というか……読んでいただければお分かりかと思いますが、すごく、微妙です。


とりあえず、この題材となっている女性、ナイトメアさんですか、この人に対する作者の視線は明らかに新聞という場に代表される「報道」のものではないし、ルポルタージュとも違う、論文となるともっと的外れです。では何かというと文芸、それも私小説とか純文学とかの、真の意味での文学に近いものではないでしょうか。


でその結果どうなってるかというと……すんげえ浮世離れっぷりです。突っ込む人がいないか、全員突込みを諦めた後だとしか思えません。


例えば第一回から引用します。


「だから講義には出られないのだが、気にかけてくれる教授はいるという。それでも、その教授と話すと必ず論争になって、「君の考えは間違っている」と教授は怒りだすという。論争の中身を聞くと、教授は、教授の知らない知識をナイトメアが知っていることで怒りを感じているらしいことが、なんとなく分かった。優秀すぎる弟子は、煙たいものである。」


確かにそういう心理も働いてるかもしれません。しかしこの教授が怒りだした本当の理由はそっちじゃないでしょう。このナイトメアさん、だいぶまずいことになっている精神状態の方で、人との食事の最中に「いきなり頭を下げて、眠ってしま」ったり、一緒に芝居を見に行くと細かい違いが気になって、隣にいる人が台詞を聞き取れないほど喋りだしてしまったりする御仁です。そういう学生を気にかけてくれて、ちゃんと相手をつとめている。これはかなり教育者としての自覚のある、真面目な教授ではないでしょうか。もっとはっきり言うと、いわゆる一般的な意味での「いい人」なんであろうと思われます。


「いい人」は普通、真面目に人の話を聞きます。そういう真っ直ぐな状態の人に、さっぱりコミュニケーションの基礎がなってない人が正面から議論をふっかけたらどうなるでしょうか。衝突しない方がおかしいんではないでしょうか。


要はこの微妙さ加減……いや、ま、検索した限り真剣に読んでる人のほうが多いようですし、仮にも新聞連載コラムなんだからそう、積極的におかしいということもないんですが……は、この小倉先生の、何とも言いがたい世界観から来る部分が大きいのです。もやつき加減も非常ーーーーに微妙なので、ただ黙って読むだけに留めていたんですが、最新の部分などを読みますと……。


「 それは、「専業主婦」であるには多分余りに優秀な頭脳の持ち主である母親が、生きられなかった人生を生き直し、なおかつ「専業主婦」であることを否定しない人生である。」


……。
………何もわざわざ特定職種の人に喧嘩売らんでも


幸いと言いますかなんと言いますか、最初に申し上げたようにこのコラムは文学っぽいです。より正確には、内省的で自己完結していらっしゃいます。だからある意味、無害ではあります……別にもやもやしても、見なかったことにすればいいだけなんで……。


あのでも、さっきから一生懸命考えているんですが、このコラム、何を目的にしてるんでしょうね。それが一番の謎です。読み物としてある意味面白かったことは、認めますが。




拍手レス
りるるさん>わざわざありがとうございました〜〜(TT) ひっそりと川に小石を投げながら一人で一万ヒットを祝っておりました。誰もついてこなさそうな道を一人で爆走して参りますので、これからも応援よろしくお願いします!



2005年10月11日(火)
参考:年齢制限についてのメモ

シチューの準備のため流しを全部掃除してタマネギを切って、鍋の中で炒めた時点でシチュー用の肉が腐っていることに気づいたA.です。今日の夕飯は麦飯です。こんばんわ。


前説とは何の関係もありませんが、ふと思い出したことがあるのでちょっと説明しておきます。『虫と鳥と骨』の、年齢制限に関するガイドラインについて。


今のところその配慮を要するブツが無いので18歳未満は云々の記述はありませんが、こないだのオフ本を通販に出すときちょっと考えました。一応18禁を目指し、わざと18禁的シーンを入れた作品ですので、何も断らず置いておくのはちょっと、いやかなり気が引けます。


ただしその注意書きを作ろうとしてはたと気づきました。何をもって18歳未満には不適当と見なせばいいのか。古い話をいたしますが、『悪魔』をマルクク祭様に差し上げたとき、びっくりしたのはこれがエロマークをつけられなかったことでした。自分としてはかなりセクシャルなシーンのつもりだったので、人と自分の感性の違いに興味深い思いをしたのです。


ごたくは置いておきまして、色々考察した結果、年齢制限とは以下のように定義される、という結論に達しました。




A群
1)アナルセックス・ヴァギナセックス・オーラルセックス
2)性器の直接描写を含む裸体表現

B群
1)BDSM(束縛・被虐・嗜虐行為)
2)反社会行為・犯罪行為
3)過度の暴力・グロテスクなシーンを含む

以上に挙げた項目に該当する表現のうち、描写が詳細かつ具体的であり、読者に不快感を与える、あるいは青少年に対し悪影響を及ぼすと考えられる作品について、扱いを区別し、18歳未満の閲覧者の当該作品情報に対するアクセス*あるいはこれを他人から譲渡される行為を制限する。

*発行された同人誌を購入すること、プリントアウトしたものを見ること、朗読されたものを聴取することを含む。





最後の方になるともう、普通思いつかんようなことまで書いてありますが、できるだけ包括的に表現しようとしたところ、こうなりました。なお、A群に属する項目よりもB群に属する項目の方がより心理的な抵抗感が強い傾向があり、該当する項目の数が複数にわたると、合わせ技ということでさらにランクが高くなると分析しております。


さらにもう一つ結論から申し上げますと、これらは結局ガイドラインとして表示はしないことにしました。「誰も見んだろ」というもっともな意見があったためです。言葉が難しいのはさて置き、実際見るなっつったって違反するような人は見るに決まってるんだから、厳密に定義しても無意味ですし、『ちゃんと警告したやん!』という逃げ道のためには、”変なものがありますよ”と一言で充分です。


それともう一つ、文字での作品は、慣例的に元々規制がゆるいんです。


コミケや印刷所でも、図版に対してはきっちりチェックが入りますが、小説本はぱらっとめくってはいOK、なんだそうです。なので実は上の定義は、海外ファンフィクションのRating(何歳まではOKという格付けのこと。向こうはこれがすごく厳密に表示してある)を参考にまとめました。


諸々事情のため、以後も上の定義は個人的な判断基準として使うだけですが、雑談として一回分のネタにする分にはそれなりだな、と思ったのでメモしておきます。ちなみに『王子と黒い鳥(上)』はA群およびB群1・2項抵触作品と判断しています。



2005年10月09日(日)
やりすぎたような気が

原生動物がいるわけです。こう、何だか細胞っぽいものが単独でふらついていて、中に栄養とか何とかが入っているわけです。時々同じ種類の原生動物と中身を取り替えると、何でか元気になると聞いたことがあります。……似てるよな、うん。と思う次第です。他所の機構の中に忍び込んで増える点では、ウイルスに似てなくもない。

まあ何だかんだ言っても、普段ネットを離れれば兄弟妄想を語る相手なんておらんわけです(ふう) いっそ遊びにいけたらなあとぼんやり想像したりもしてるわけです。凪まゆこさんちはポップで派手なディスプレイのこじんまりしたお店。はつもさんちはそれはそれは立派なブティック。ベリンカさんちは家屋がない大草原。みたいなイメージで。(ごめんなさい名指しした方々)

寂しい奴だな自分。しかしこのどこまでも広がっていく妄想ワールドが、イコール作品でもあるわけです。異世界を見てみたいなと思う。別に現世に無礼をはたらこうと思ってるわけではありません。ただ、どうしても、好きなものはやっぱり好きでしょうがないですね。パン屋さんといくら仲が良くても、やっぱり昨日も明日もご飯を炊きたいようなものだと思います。




拍手レス

うまむーさん>
ああやっぱりお家の英ちゃんが一番ですわ〜…(やに下がってます) あんなものでよければいくらでも進呈しますので、どうぞ遊んでやってください。ただ次に彼を見たら、ジュリオ多分二階から飛び降りて逃げると思いますが。九十九が一番。九十九が一番。九十九が(呪文)



2005年10月08日(土)
うちの役者話、その3(Dragon's Deepさん訪問編)

ここまでとえらく雰囲気が違いますが、先方と共通点を見つけようとした結果です。ノー説明でどうぞ。「どこをどうするとこうなるねん」とは、聞かないでください……。







− 撮 影 所 −



黒いセルロイド板にペンキで白く『龍淵』と書かれた札が、留め金片方外れて斜めにぶら下がっていた。板張りの廊下にしっくいの壁、こちらへ近づくにつれて濃くなってきたワックスの匂いの中で、少女は傾いている字の方向に合わせて首をかしげる。背の高い兄は隣で辛抱強く呼び鈴を押していて、途中で腹をくくったらしく腰に手を当てた。
「お留守なの? 帰っちゃう?」
「いや、そういう理由で諦めていると、永遠に入れないから。こっちへおいで、クラリス」
手招きに応じて歩み寄ると、軽く体を引き寄せるようにされ、肩に手を置かれた。何気ない手つきから、兄ががらにもなく多少緊張しているらしきことが伝わってくる。妹にかけていないほうの手を引き戸にかけると、マルチェロはひとつ息をつき、一気に扉を開け放った。
闇があった。
床でも壁でもなかった。上も下も分からない真の闇が、内側には広がっていた。戸口から投げかけられた光で、かすかに赤紫の緞帳のようなものが左右に垂れ下がっているのが分かる。しかし、それがどこから下がっているのかも、定かではない。
恐る恐る足の先で床を探ろうとしているクラリスを、マルチェロはそっと背後から抱き寄せ、腕を回した。そうこうしているうちに、ほの白い蛍のような光が長く尾を引いて、ひとつ、またひとつと近寄ってくる。来客の様子を伺っているようにそれらが空を漂っているのを見渡すと、マルチェロはクラリスをしっかり抱いたまま呼びかけた。
「太郎飴さんにお取次ぎ願いますよ。虫捕りのマルチェロとクラリスが見学に参りましたので」
光はゆるやかに逃げ散った。
彼らが遠ざかっていくにつれ、夜明け前の数十分のようにゆっくりと室内の明度が増していく。何も無い部屋だった。いや、よく見れば何も無いわけではない。鏡のように磨きこまれた、硬い質感の床の上には、大きさも様々な白い箱が、無数に置いてある。すさまじい数が並び、積み上げられ、奥に行けばうず高く重なって、部屋自体が積み木でできあがったかのような印象があった。
なんとなく胸元の、兄の暖かい腕につかまりながら、クラリスは物珍しげに周囲を見渡した。人どころか、生きたものは虫一匹見当たらない。

「こんばんは。“ダブル”」

兄の言葉に顔を上げると、まったく唐突にそこには人がいた。人? これほど「それ」を表現するのに不適切な単語はなかっただろう。それはおそらく、樹脂あるいは樹脂様の物質で全体を構成された、真っ白な人間型のものだった。人型と言い切ってしまうにはその背は高すぎ、頭部は小さすぎ、顔の造作はシンプルに過ぎる。オレンジ色の透明な何かによって流線型の模様が組み込まれた腕の先には、これだけは見るからに精巧な手があって、今はそれは両方とも二人に向かって差し伸べられている。
「こんばんはマルチェロ。こんばんはクラリス。ようこそ。撮影をご覧になりますか」
抑揚の無い言葉にまじって、かすかなハウリングがクラリスの耳に届いた。
「はい、わたしとクラリスは撮影を見ます。ありがとう、よろしく」
返事はせず、滑るようにくるりと振り返って部屋の奥に消えていこうとする「それ」の様子を、なんとなく伺うようにしながら、クラリスは声をひそめた。
「ねえ、あの人がここの座長さんなの」
「違うちがう。接客係だよ。静かにしておいで、今始まるから」
”ダブル”が音もなく戻ってくるのとほとんど同時に、部屋は動き始めていた。箱が滑っている。同じ大きさの箱同士が寄り集まり、平らな面を構成しはじめている。かすかな、その箱が触れ合う音を別にして、機械の駆動音もなにもなく、おそろしく効率的に見える動きで、それらは全体で白い平たい直方体を形づくっていた。
目を見張っているクラリスの前で、直方体の一部が口をあけた。ジーッというかすかな音とともに、青白い光が箱の中から放たれ、その中から複雑な形状をした、細長いものが浮き上がってくる。薄暗い部屋の中におおむね引き出されてしまうと、それはクロッキー人形とマリオネットを合わせたような、おそらくダブルと同質の素材の人型であることが判明した。マリオネットと決定的に違うことには、この人形は目に見えない手によって直方体の上に下ろされると自立し、右腕を上げて君主の前に伺候する騎士のような姿勢をとったが。
対角線上に、もう一つの人形が引き出されてくる。見えるか見えないかのグリッド線の引かれた舞台の上に、二体の人形役者が立つ光景がそこにあった。

『”黒い絵”―2』

誰のものともつかない声が響くのと同時、一瞬にして人形と箱の舞台が姿を変える。
クラリスは石壁と石の床の、ほとんど光の無い拷問室に直面していた。左手奥の壁近くに両手を上げて鎖に繋がれている人がおり、手前に剣を提げて立っている男がおり、その他にも何人か床や壁にもたれるようにしている人影がある。思わず目を見張り、真剣な考察の末に謎をといた。立体的に投影された画像だ。どういう技術でか、人間の形をしたものの表面に全方向から画像を投射して人間を作り、壁面に形づくられた凹凸の上に石壁の画像を映して、背景を作り上げている。形のある幽霊のようだった。
剣と壁際の二人を除いて、残りの人物は背景画像の中に組み込まれている。そちらに視線を向けながら、剣の男(の画像)は口を動かした。
『時間だ』
その声はあっちからもこっちからも降ってきた。画像投影が部屋中に渡っているのと同様、音響効果も立体的なもので、まるで壁中が声を発しているように見える。ただし、一人の人間が出しているとは到底思えないものだったため、台詞というより背景音楽のように聞こえたが。
剣の男は無言で壁際に歩み寄り、草でも刈るように無造作に剣を振った。それが人の命を絶つ音も、血飛沫が壁を打つ夕立のような音も、同じように部屋中から聞こえてきた。部屋のあまりの暗さに、撮影がかなり進むまで気づかなかったが、途中で剣の男以外の登場人物がどうやら性行為を行っているらしきことに気づいて、クラリスは眉根を寄せた。普段、こういう撮影現場に近づくことを、兄が許してくれたためしはない。
ただし、その疑問もやがては消えた。立体のスクリーン、立体化された映像、そしてその上で展開される、まぼろしのような演劇。おそらく、そんな貴重なものを見る価値は、ちょっとした表現上の問題より上位に置かれると、兄は判断したに違いない。





拷問室のエピソードの後に古典音楽をいくつか上演すると、撮影は終わった。始まったときと同じようにまったく唐突に照明が切り替わり、今度はごく普通の部屋と同じくらいの明るさに調整される。ずっと胸元に抱いていた兄の腕を外すと、クラリスはダブルの前に立った。
「ありがとうございました。すごく面白かったです。あの、でも、どうして普通の俳優さんを使わないの?」
ダブルの、昆虫のように表情のない楕円形の目がクラリスを指したまま沈黙しているのを見ると、マルチェロは慌てたように言い添えた。
「何故、あなたがたは人間の俳優を―――…採用しないんですか」
今度はよどみのない返事があった。
「我々のスタジオでは精密さを最も重要なものと考えています。映像表現の最も難しい点は、一般にそれが大量の情報を含んでいるという性質であり、即ちその大量の情報を制作者の完全な制御の下に置くのが難しいという側面です。ゆえに再現性が劣り、意図の表現を阻害する要因の多い人間をインターフェースとして用いることを避け、立体スクリーンを表現形態として用います」
しばらくの間をおいて、ダブルの言葉が終わったことに気づくと、クラリスは首を傾げた。
「だそうだけど、分かった?」
「全然わかんない」
「うん……まあいいや。少し話があるから、クラリスはその辺で待っておいで」
振り返ると、さっきの箱はやはり音もなく離れ、もとの無秩序な状態に戻りつつあった。くるくる回転しながら床の上を滑っているのを見ると、意外に可愛い、ような気もする。
「ねえ、触ったりしてもいい?」
兄はぎょっとしたような顔になった。ダブルと顔を見合わせ(実際に動いたのは兄だけだったが)、やや早口に問う。
「部屋の中にあるものに触ってもいいですか」
「壊さない限り、無制限に触ってもいいです。こちら側に制御機構はありませんから」
さっきよりももっと意表をつかれたような顔になっている兄を放っておいて、クラリスは手近な箱の前にしゃがみこんだ。白い樹脂製の箱。それ以外に表現のしようがない形態である。どうしたものか、床面から持ち上げようとしてもびくとも動かなかったが、大きさから言ってもそれほど重厚なものでないことは分かる。少し温かく、見た目通りつるつるして硬い。右左に滑らせてみたり、音を聞こうとしてみたり、一通り遊んでから、彼女はぱっかり上面を開いた。外側からはうかがい知れないが、運動機構と、先ほど見たような人型。それが内容物として予想できる。
全ての予想が裏切られた。
せいぜい一辺五十センチほどにしかならないその箱の中には、一人の裸の女性が入っていた。ウェーブのかかった茶色の髪、長いまつ毛の目をぴったり閉じ、箱の形に合わせて少し四角くなりながら、体を丸めて眠っている。驚くほど滑らかな、柔らかい皮膚がつややかに照明を反射し、血色のいい健康そうなその肌が呼吸に合わせて微妙な伸縮を繰り返していることから、彼女がどうやら安らかに眠っているらしいことが見てとれる。口元に寄せられた膝で、顔が半分隠れていたために詳しい造作は見えなかったが、そこからだけでも分かる顔立ちの美しさに、クラリスはしばし感嘆した。CG処理でもしたみたいだ。
それから考え込んだ。
誰か知らないけど、安らかで健康そうだ。美しくさえある。二三回話しかけてみたが、結局反応は無かった。するとこれは、この状態が正しいんだろう……箱が窮屈そうで、何とも息苦しい気分にはなる。ただ本当に苦しいのかどうかは別の話。
後で聞いてみることにした。
だから箱を閉じた。
閉じた瞬間に、クラリスは中に入っていたもののことを忘れてしまった。
次の箱には、しゅろに似たシダ植物の葉が、下も見えないほど生い茂っていた。しかし、その中から何か小さな生き物がたくさん出てこようとするかのように葉が揺れていたので、何とも言えず嫌な気分になり、蓋を閉じてしまった。次の箱には、山肌から湧く泉のようにボールベアリングの球が無数に湧き上がってきて、しかも湧く端から沈み込んでいっていた。どれも結果は同じだった。クラリスには中身を覚えていることができず、いくら箱を開けても結局開ける前と変わることはない。
自分でもやっとそれに気づき、がっかりして箱の上に座り込んでいると、まだ何か話している兄とダブルの姿が目に入った。よく考えてみれば、クラリスは一度もダブルと直接話していない。この撮影所に話せるらしきものと言えば彼? だけなのに、何やら決まりごとが複雑で、条件が厳しいようだ。箱も映写方法もそうだが、どうしてここはこんなに迂遠なんだろうか。
思いながら部屋を見渡していて、ふと気づいた。
緞帳の陰に何かが隠されている。
最初どこから下がっているのかも分からないと思った赤紫の幕は、きちんと天井から下げられていて、壁の一部を覆っている。その端から、何だかカメラのフラッシュのように点滅する白い光が漏れている。本当にかすかなものだったが、部屋の中で秩序だっていないものはそれだけだったために、ひどく目をひいた。
兄たちはまだ話し合っている。
そっとその様子を伺ってから箱を下りたのは、何か分からない感覚で、かすかに怯えていたからかもしれない。





窓だった。そしてその外に広がっていたのは、海と空だった。分厚い暗い不吉な雲の広がった空には、蛇のように青白い稲妻が走っていた。どのような厚さの壁なのか、音はまったくしない。しかし、時折空が凶暴な光量に塗り替えられるのを見れば、それが決して遠くないのは明白である。
海はただ、海だった。ぎざぎざに牙をむく荒れた波の平原が見渡す限り広がり、船どころか鳥一匹視界には入ってこない。思わず真下を覗きこんで、クラリスは窓の下に何の手がかりもない壁が続き、その先は海の中に消えているのを知って思わず息を呑んだ。この場所は海の極めて近い場所にあるか、いっそ海の上に浮かんでいると言ってもいい。撮影所の建物まで、兄の運転する車で連れてきてもらったのに。
「海です」
思わず振り返ると、ダブルは相変わらず動かない顔のまま、クラリスの後ろから見下ろしていた。
「海、海は分かるけど……」
「色々なものが棲んでいます。よいものも、悪いものも」
答を思いつかず、窓を振り返ったとき、海面には異変が起こっていた。暴れ狂う波頭の間に、明らかに尋常とは異なる水泡の塊が浮かび上がり、それはどんどん密度を増していく。窓枠に飛びつき、ガラスに額をくっつけるようにして見守っている少女の視線の先に、やがて圧倒的な質量が浮かび上がってきた。距離をあけていてさえ恐怖を覚える大きさと、速さ。それが海面を突き破ったとき、クラリスは両手を口元に当てた。稲光に照らされた緑色の鱗、背に並ぶ刃状のひれ。長大な体がアーチ型にひるがえっている間、彼女は息もせずにそれを見守り、最後に躍り上がった尾びれが海面を叩きつけると、思わず身をすくませて窓から身を引いた。
「形をなしたもの、なりそこなったもの、生命のあるもの、それを失ったもの。時間と記憶が溶け、常に新たなかたちを生み出している」
体の冷たさを実感しながら、クラリスは白い人形の顔を注視する。
「あれは、その中のどれかなの?」
「さあ、私にもわからない」
不意に手が伸びてきて身構えたものの、それは単に丁寧に緞帳をつかみ、同じく丁寧に戻しただけのことだった。しかもそれはそうなっていないことが不都合であるからというより、クラリスをこれ以上怯えさせないようにするためだということが、明確な根拠に拠らずして分かったのである。
「あれも時折姿を見せるが、我らの意志には従いません。海があれを生んだのか、あれが海を生んだのか、それでさえも理解の外にある。我々はこう呼んでいます。荒ぶる化物神の住まう場所、始原の暗黒をのんだ海、『龍の深淵(Dragon's Deep)』と」
「……クラリス」
凍ったようになって聞き入っていたクラリスは、弾かれるように兄の傍に走り寄った。半分隠れて様子を伺っていると、ダブルは相変わらず滑るように進み、動かない顔で二人を見下ろす。
「お邪魔しました。大変参考になりました。太郎飴さんによろしくお伝えください」
「お伝えします」
結局ダブルの声は、最初から最後まで変わることがなかった。誰かがマイク越しに話しているかのような、そのかすかなハウリングまで。





撮影所を出て駐車場を歩き出すまで、クラリスは無言だった。何となく目を合わせずに隣を歩いていたマルチェロは、かなり考え込んだ末に、妹を見下ろした。
「どうだった。他のところと随分違っただろ」
「うーんと、……何だかさっぱり分からなかった」
言いながらも、妹の視線は何か貴重なものを探しているかのような目つきで、地面に向いている。
「ねえ、でも兄ちゃん、もう一回来てもいい?」
「あまり何回も来ないようにね」
言ったところで守られないだろうという忠告をする人の口調がしばしばそうであるように、マルチェロの言葉は少し遠く、ほろ苦い。






われらは人形で人形使いは天さ
それは比喩ではなくて現実のこと
この席で一くさり演技(わざ)をすませば
一つずつ無の手筥に入れられる
       『四行詩集』(ウマル・ハイヤーム著)より



2005年10月06日(木)
うちの役者話、続き(FACETさん訪問編)

ちょうどメールで「FACET」のうまむーさんから、『うちの現場に来てもいいですよ』とのお誘いをいただいたので、いただいたメールをもとに再構成してみました。




〜訪問記〜



(イメージ画像:ほどよく雑然とした撮影所の廊下。ジュリオとクラリスが歩いている。ジュリオはウォレットチェーンの下がったパンツにノータイのワイシャツ、クラリスは秋色のカットソーにジーンズとか)

クラリス(K):勝手に出てきちゃって、あとで怒られないかなあ。
ジュリオ(J):大丈夫大丈夫、ちょっと挨拶しにいくだけだし、すぐ戻ればそもそも気づかれないって。FACETプロさんの現場は近いし、撮影はセットばっかりだし。
K:そこには特に近づかないようにって言われたような気がするんだけど……。
J:(笑いつつ)まあダンチョーならそう言うだろうけどさ。よ、ここだ、と。(ノック。扉には『真鍋英一朗様 控え室』の張り紙が)
(扉の内側から):はい。
J:虫捕りプロの者でーす。見学に参りましたー。
真鍋英一朗(M):やあ、いらっしゃい。(戸を開ける)



(出てきた英一朗が満面の笑顔。鍛え抜かれた体、日焼けした肌、ばっちり決まったオーデトワレ。そして何故か着ているのがバスローブ

(開けた扉をそのまま閉めるジュリオ)


J:(青ざめた顔でくるりと振り返って)帰ろう。
K:え? なに、どうしたの、ジュリオさん。(一瞬だったのでよく見えなかったらしい)
J:中に変態が入ってる。見るな。帰るぞ。
K:急に帰ったら失礼なんじゃ……。
M:(無理やり中から扉を押して出てくる)本当に失礼だな、君は。ひとの顔を見るなり閉めるとはどういうことだ。
J:(半泣き)やかましい!! 俺ですらも危機感を覚えたわ!!
K:(体半分ジュリオに隠れた状態で)あ、こんにちわ。初めまして。虫捕りのクラリスと申します。よろしくお願いしまーす。(礼)
M:はい、こんにちわ。(こちらも礼) 最近頑張ってるみたいだね。よく噂を聞きますよ。
K:ありがとうございます、まだ色々慣れてないん……。……すごい格好ですねー……。
M:(まだ扉を押し返しながら、鷹揚に笑う)レディの前で失礼しますよ。ちょっと前の現場の関係があってね。どうぞ、むさ苦しいところですが、よければ。あいにく今ちょっと九十九はいないんだけど。(ひじで完全に押し返してしまい、扉の内側へ手を差し出す)
K:わーい、お邪魔します。(とことこ中へ)
J:(やっと扉を抜け出して)クラリス!
M:諦めなさい。(中へ入っていく)



(室内にて、コーヒーとケーキをいただきながら談笑しているクラリスと英一朗。ジュリオがクラリスの隣に座っているが、ソファのひじかけの上につっぷしてぶつぶつ言っている)


J:俺が殺される……おーれーがーダンチョーにころされるー……
K:あ、じゃああのケーキって本当に作ってたんですね。
M:そう、まあフリを色々と覚えるより、一回本当に作れるようになった方が早いから。体を作るのもそうだけど、本物にはやっぱりかなわないですよ。わたしが短気だというのもあるけどね。
K:そこで短気なのに見合う速さで習得できるのも、けっこうイレギュラーだと思いますけど。……って(ジュリオの肩を叩く)ジュリオさーん。もういい加減にしようよ。ケーキ美味しいよ? ほら。
M:(コーヒーを一口飲んで)いい加減その根拠の無い誹謗中傷を控えてもらえませんか。強姦魔にでもなったような気分だ。
J:(ばっと顔を上げて)根拠なくないだろ! アーティステックインプレッション10.0で女孕ませそうなツラして!
M:(天をあおぐ)
K:わージュリオさん無意味に表現力豊かだ……。



(ノックなしで、ジャケット姿の九十九がだらだら入ってくる。挨拶をしかけて、その場に足を止め、三人をまじまじと眺めながら煙草をくわえ直す)


K:あ、どうもお邪魔してます。
J:ちーっす。
九十九玲司(R):ああ。どうも。(会釈)……。
M:ちょうどよかった、玲司。(手招き)虫捕りの方だ。
R:ん。いや、いいけどさあの………英ちゃん何ンでそんな格好してんの? スペシャルの撮影ってとっくに終わったんじゃなかったっけ。(ぴっと指差しながら)
K&J:?(振り返る)
M:……玲司。クラリスさんだが、現場の方を見学されたいそうなんだ。セットを見せてあげてくれないか?(飛び切りの笑顔)
R:(指差した格好のまま固まる)……(頷く)…はい。
J:……(まじまじと英一朗を見ている)
R:(クラリスの前で姿勢を低めて、いい笑顔)どうも、九十九です。ククールっていうと混乱するから……とか思ったけど、おれと君を混同するやつなんていないか。
K:あの。
R:修道院のセット、今ちょうど組んでるよ。(親指で差す)見たくない?
K:あ、見たい。(思わず立つ)
R:よし、行こ行こ。(子供みたいにさり気なく手を繋いでいる。外見の色味が同じなので、兄弟のように見えなくもない)
J:あ、ちょ…(手を伸ばしかけて、人が大勢いる方に連れて行こうとしているのを見て考え、ひとまず反対するのをやめる)



(二人が去るのを待って、ジュリオがゆっくりと英一朗を見直す)


J:……今の、どういう意味です。
M:(空になったカップに視線を落としつつ)別に、何も問題はなかったように思いますが。
J:あ、あのね真鍋さん、本当、冗談置いといてカンベンしてくださいよ。あの子一応看板だし、けっこう繊細だし、手つけられると困るんですって。
M:ばかな。あのね、彼女何歳ですか? まだ十八歳にもなっていないでしょう? そりゃ確かに素行に問題があるのは認める。仕事も仕事だしね。しかし、子供は別問題です。惨いことをするのは、趣味じゃない。そういう現場も、正直遠慮したいですよ。
J:(鳩が豆鉄砲食らったような顔で)急にまともですね……?
M:(苦笑しつつ)別に最初からそう非常識なことを言っていたわけじゃないでしょうに。
J:(服装はどうなんだと悩みながら)ま、よく考えたら道理ですね。クラリスなんて、まだまだガキなもんだし。
M:虫捕りは最近扱ってるそうですね。
J:(首の後ろに手)あー……いや、ま。十五だったかな。でも、あの子は大丈夫ですよ。吹っ切れたもんだし。
M:そういう問題じゃない。あえて品を下らせることはないと言ってるんです。わたしが口を出す義理じゃないけどね。
J:(溜息)制作に伝えますよ。
M:別にきれいごとを言うつもりは全然ありません。子供に味あわせるには惜しい楽しみだと思います……。つまり、大人同士で楽しもうということ。……そう思いませんか?
J:真鍋さんはその通りだと思いま(苦笑しながら顔を上げる)
M:(上がったジュリオの顎に指をかけている)
J:は。え。お?
M:大人同士でね。



(暗転)


(後刻、虫捕りの控え室にて。ソファにだらーんと座り込んで真っ白に燃え尽きているジュリオ。腕を組んで見下ろしてるマルチェロ)


M:(意を決したように、ぽんと肩に手を置く)
J:(無反応)
M:(真剣そのものの声で)とりあえず、体を張って守ったんなら、別にいいやそれで。
J:フザけんなぁあああ!!!(泣き喚いている)





えーごめんなさい、私一人が楽しいです(笑 このような連中が遊びに行っていいサイトのオーナー様、絶賛募集中。



2005年10月05日(水)
オフライン案内

いい加減タイミングずれちゃって恥ずかしいんですが、通販の準備ができましたので、オフラインページに問い合わせ方法を記載しました。今のところ通販物は一種類しかありませんから、タイトル冊数もへったくれもないんですが、なんか皆さんに交じりたかった昆虫の見栄だと思ってください……(相変わらず陰気だなしかし)


陰気ついでに意味の分からない話もしますが、うちのPCの中にはいっぱいひとがいます。とうとうあっちの世界にいっちゃった話ではありません。話を作るとき、人を作りこんでそれを動かす形で発想していくタイプなので、手を広げれば広げるほど作った人物が残っていく現象があるのです。


今のところ、もっとも幅をきかせているのは淑女シリーズの登場人物です。彼らは無意味に作りこみがきっちりしている分、もはや『私が管理している劇団の所属の役者』か何かのように振舞います。何故か、舞台を下りると現代の服装の俳優です。



(イメージ画像、隅に観葉植物が置いてあるくらいで、殺風景な控え室。布張りのソファがあり、そこにマルチェロとクラリス(役者)が座っている。マルチェロはブルーグレーのニットにチノパン、クラリスは水色のキャミソールドレスに白い網のボレロ、金のバレッタとか。クラリスがソファに丸まって台本を読んでいる。マルチェロは頭の後ろで指を組み、何か考えながら目を閉じている)

クラリス(K):……(台本の端っこから兄の様子を伺う)
マルチェロ(M):(特に気づかない)
K:(台本に半分顔を隠したまま、足を片方兄の膝に乗っける)
M:(片目あけて)何だこれ。(片手で足を膝から払い落とす。そのまま手を戻し、また前の姿勢に戻る)
K:(すっごく嬉しそうに笑いながら、もう一回、今度は両足を乗せる)
M:(片目あける)パンツ見えるぞ。
K:(台本の陰で、ひーひー笑っている)兄ちゃんしかいないもん。
M:よいしょっと。(身体を起こし、妹の足首を片方とっ捕まえて、真面目な顔でくすぐりはじめる)
K:*@♪☆〇$#……!!(兄を蹴っ飛ばしながら、大喜びしてる)




などという、何にも使えない妄想をこねている間に人が増えていきます。



(ジュリオ(俳優)が来る。イタリア系のブランドのジャケットにノータイ)

ジュリオ(J):あ、ダンチョーがクラリス襲ってる。
M:嫌な言い方するな。(足を放り出す)
K:(勢い込んで起き上がる)ジュリオさん、他の現場行ってきたの? どうだった?
J:どうって……別に、普通だけど……(考え込む)
M:近頃とみに他のスタジオが気になるらしい、あんまり迂闊なことしゃべらないでくれ。
J:迂闊なこと? 濡れ場とか?
M:ジュリオ。(指先で手招き)
J:?(腰を折る)
M:(指先で思いっきり額をはじく)
J:っいってぇ! 何も言ってないじゃないすか!
M:前払いだ。
K:(不満そうに膝抱えてる)兄ちゃんがそれだから私、ほとんどうちの現場しか見たことないんだけど……。
J:(額をさすっている)そうそ、過保護は教育に悪い。別にいいじゃないですか、見学くらい。
M:どっちでもいいようなものなら、もっと慣れてからでも別にいいだろ。
J&K:あのねー……。




この辺にしときます。ちなみに『ほかのスタジオの役者と会う編』『よそのサイトの役者さんとしゃべる編』等々、めっちゃ続きます。



2005年10月04日(火)
……一区切りつきました

本日で「招かれざる客」終了、ちょっと他のものを片付ける間を置いて次章「幕間」を始めさせていただきます。


……。回を重ねるごとに加速度的に反響が無くなっていく今日この頃、ぶっちゃけ無人のジャングルにキャミソールドレスで踏み入るくらい不安ですが(汗 よう考えたらこのテンポでまだ、百二十枚も進んでません。普通にやってもあと百八十枚くらいでごく普通の中篇になるし、それくらいにならないと面白いかどうかも分かりませんね、師匠(明後日の方向に


とか言って寝ようとしたら、寝しなにオイルサーディンを一缶食べたのが悪かったのか、血が昇って寝られません。なんてこと。



TSさん>
ようこそいらっしゃいませ! そして発行物の感想をいただけたのは、全部合わせて二人目です。う、うれしい(涙)
さらにあの小説、感想の言いようがないということに気づいて、今更ながら落ち込んでいます。ええ、我ながら『幸福の王子』にあの解釈はちょっとひどいですね……。基本的にモチーフに沿って進めるつもりでおりますが、あくまでモチーフなのでどう転がし落とすかははっきり決まっておりません。頑張ります(待
あ、あとガシャポンですが、どうもかなり開けづらかったようで、申し訳ないです(;;) あれやこれやで収穫祭当日はありがとうございました。また遊んでやってください〜