ひとりごと
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明日パソコンが帰ると電話があった。 1週間の予定が2週間近くかかったことになる。 長かった…はずなのだけれど早かった。 ここであんなにたくさん目標を立てたからかな? パソコンがない最後の1日 お気に入りのビーズを広げて遊んでみた。 作ったりほどいたりつないだりばらまいてみたり夜更けまで楽しんだ。
長い歴史を持つ遊園地がもうすぐ閉鎖される。 そこは豊かな薔薇を持つバラ園が有名だった。 こんな近くに何年も住んでいたのにバラ園を訪れたのは初めてだった。 白く曇った空の下で、薔薇たちは無邪気に豪華に楽しげに咲いていた。 美しかった。 春の花も見たかった。夏も冬の姿も見たかった。 この薔薇たちの行く末が、来た道のように幸せでありますように。
高校時代の友たち3人と会って楽しいランチ。 20年以上経っても変わらないおしゃべり。 思い出話に今の話、そして希望に満ちた未来の話。 みんな夢を忘れてはいなかった。 なんて素敵なの!
そこには来られなかった友がくれた黒薔薇が美しく咲いた日だった。
雨の日曜日。珍しく夫と映画を見に出かけた。 「カジノみたい」と友が言っていたわくわくするゴージャスな場所に 今日はジーンズと濡れたスニーカーで入って行った。 ひとりの時には諦めるたっぷりのポップコーンも今日は食べられる。 そしてこんなときしか飲まない氷入りコーラを携えて。 背の高いシートに体を預けて紙コップを抱え光り始める幕を見つめる。 さぁ、別世界へのテイクオフ!
今日は早くからふるさと村に出かけた。 休日のこの里は「日本の秋」を楽しむ家族連れでにぎわっている。
脇道から山に深く入っていくと静かな世界が待っていた。 木々の間から差し込む光は森の空気に清められて透き通っていた。 その光を浴びると私の身も心も澄んでいくよう。 しばらくどんぐりの落ちる音だけを聞きながらぼんやりしていた。
父から譲ってもらった古い一眼レフ。 まだ使いこなせていないこの重い機械を持ち 三脚を担いで野山に出た。 ふるさと村。 私のふるさとではないのにたしかにふるさとの香りがする。 静かな空気の中にシャッターの音が響いた。 波紋はひとりぼっちの白鷺から私のところまで広がってきた。
郵便屋さんのバイクの音が待ち遠しい。 ポストの中に手書きの文字を見つけると飛び上がるほど嬉しい。 はがきを裏返す瞬間、封筒を開ける瞬間の幸せ。 言葉を読むとき穏やかにふくれあがってくる喜び。
瞬間のこんな思いを友にも届けたくて 私も手紙を書いた。
朝からりんごのケーキを焼いた。 ランチのパスタはキノコソース。 今日は友たちが来る楽しい日。
テーブルいっぱいにビーズを広げて おしゃべりしながら手を動かす。 色とりどりのガラスの粒を選んで糸に通す。 鏡の前で首にかけたり指に絡めて眺めてみたり。
キラキラ光る時間をありがとう!
友たちから ポストに手紙が届く。 ひとりの部屋にFAXが届く。 携帯電話にメールが届く。
みんなありがとう! おかげでとても元気です。
朝焼けを映した海のような 珊瑚礁が透けて見える海のような そんなビーズで指輪を作った。 思いっきりロマンチックに甘く作ってみたかった。 ゆったり流れる音楽の中で漂いながら。
太陽にかざしてみると花のようにも見えた。
今日はオフ会。 都心のデパートの屋上に友たちが集まった。 ネットで出会った人々と もう当たり前のように顔を合わせて笑いあえる。 最初はあんなに緊張したのにね。 ネットの人が本当にいる!って思うだけでどきどきしたのにね。 あれは新鮮な感動だったね。
午前中に引き取りに来ると言う約束だった。 それまでに友達のHPに挨拶に回った。 玄関のチャイムが鳴るまでできるだけ多く。 そしてその音は11時55分に鳴った。 ぷちぷちのシートに包まれたパソコンは トラックの荷台に積まれて旅立っていった。
部屋に戻るとテーブルや床でとぐろを巻いているケーブル類。 それをくるくると巻き取り戸棚の中に入れてぱたんと閉じた。 広くなったテーブル。 掃除がしやすくなったリビングの床。 私のパソなし生活の始まり。
パソコンが明日の朝から入院する。 しょっちゅう悪いわけではないのでピンと来ないのだけど 預けて修理をしてもらわなくてはいけないらしい。 1週間から10日かかると言う。 その間、久々のパソコンなし生活。
腰を痛めて横になっていたときには、 キーボードは使えなかったけど見ることができたので そんなに離れていると言う気がしなかった。 去年突然壊れたときも、5日でなんとか帰ってきている。 そしてその5日間も修復のために毎日パソコンをいじっていた。 だからまったくインターネットのできない生活は2年ぶり、 まったくパソコンのない生活は7年ぶり!
どんな生活になるのかなぁ。 やっぱり手持ち無沙汰になるのかなぁ。 それまでは何をしていたんだっけ。 メールができないときって誰とどうやって どんな話をしていたんだっけ。
でもせっかく与えられた時間だもの。 とりあえずの目標を考えてみよう。
1.この1週間の間に球根を植える。 2.「千と千尋の神隠し」を観る。(他にも観たい映画はいっぱい) 3.この秋で最後になってしまう向ヶ丘遊園のバラ園を見に行く。 4.一眼レフできちんと写真を撮る。 5.秋のお菓子作りを楽しむ。 6.友だちに手紙を書く。 7.本棚の整理をする。 8.ずっと読みたかった本を買って読む。 9.作りかけのハーダンガー刺繍を仕上げる 10.作りかけのキルトに少しでも手を入れる。
わー。 「とりあえず」なんて書き出したけど、やりたいことはいっぱい。 1週間じゃ足りないかも。 これがいくつできるかな。 そしてもっと何かできるかな。 今度ここに帰ってきたときにどんな話を書けるかな。
「たまにはパソコンなしもいいものよ」って言うかしら?
「おやすみ」 「ばいばい」 と打ち込んでチャットが終わった。 最後のひとりと別れてしまった。 もう動かない文字をしばらく見つめて そしてページを閉じた。 また私はひとりの部屋の中にいた。
まるでにぎやかな夢からさめたよう。 楽しかった思いがふんわり残って ちょっと寂しくて。
でもこれは夢じゃない。 きっと眠りについている友たちは 今も日本のどこかにいる。
また会いましょう。 この不思議な箱の中で話しましょう。 友たちとつながる光る糸を感じながら 私もそろそろ眠ります。 おやすみなさい。 ありがとう。
雨にぬれながら どきどきしている昨日来た薔薇。
心配しないで。 最初に目があったときから あなたのことが大好きよ。 これからもずっとずっと大切よ。
初めて出会ったときの たったひとつの あのときめきを 純粋な喜びを 忘れない。
いくつ薔薇が増えても。
帽子をかぶって庭に出て昨日の続きの種まきをした。 しゃがんだ背中にお日さまが暖かい。 レンガの下で小さくこおろぎが鳴いている。 秋の園芸は気持ちがいい。
あぁ、そう言えばこのごろ彼ら遊びに来ないなぁ。 こんなにいいお天気だから外で元気に遊んでいるんだろうな。 楽しいことがいっぱいで時間もいっぱいの幸せな年頃の彼ら。 私のかわいい小さな友だち。 「大変でしょう」って言われるけど本当に楽しいの。 だってきっと今だけなんだよね。 すぐに大きくなって、近所のおばさんの家になんか来なくなっちゃうよね。 だから今のうちにいっぱい遊んでもらうんだ。
そんなことをぼんやり思いながら手を動かしていたら 家の中で電話が鳴った。 「うちのエリナ、お邪魔していない?」 「いいえ。今日はまだよ。」
うふふ。 うちは彼女の行きそうな場所のひとつになっているのね。 なんか嬉しいな。
再び庭に戻って、今度はパンジーの鉢上げ。 小さな苗をつまんで慎重にポットに植え替えていたら 今度は玄関のチャイムが鳴った。 「こんにちはー。コウヘイです。」 「はーい。いらっしゃい。」
腰も痛んできたからちょっと休憩。 小さな友だちと遊ぶことにしよう。 ほら、またチャイムが鳴った。 「エリナでーす。ツーちゃんも一緒だよ。」 「いらっしゃい。コウヘイくん来ているよ。」
3人組がそろってしまった。 庭仕事の続きは明日にしよう。 きっと明日も晴れるでしょう。 それにパンジーより彼らの成長のほうが早いかもしれないものね!
昨日と同じように気持ちよく目覚めた休日の朝。 青い空にピカピカのお日さま。 うっすら白いいわし雲。 早起きの夫はとっくに外出してしまって影もない。 それでは一人で優雅なブランチといきましょう。
トマトとフレッシュバジルを仕上げに入れたふんわりオムレツ。 その横にはこんがり焦げ目のついたウインナー。 グラスにはフレッシュオレンジジュース。 紅茶はちょっと濃い目のイングリッシュブレックファースト。 そして白いふくふくの食パンとこれがメインの薔薇の実ジャム!
うふふ〜。 おいしかったよ。 親ばか、手前味噌、自画自賛だけどいいの。許して。 指先傷だらけ、肩もこりこりの甲斐はあったわ。 自分でそう思えたらいいのよね。
でもこれほどのたくさんの実をつけるには グラハムはどんなにがんばったことでしょう。 やせた土地からありったけの養分を吸収し、 お日さまの恵みをできるだけ受けるように空を高く仰いで。
きちんとお世話をしなかったことを申し訳なく思ってしまった。 剪定に施肥、虫取りに病気予防、これからはちゃんとするからね。
私の薔薇たち、ごめんなさい。 そしていつもどうもありがとう。 楽しくのびのびと美しく咲いてね。 これからもいつもお日さまの恵みはあるからね。 そして私の愛情も♪
| 1日かけてジャム作り |
2001年10月13日(土) |
気持ちよく目覚めた休日の朝。 青い空にピカピカお日さま。 園芸日和! のはずだった。
身支度を整えて庭に出たら ガーデンテーブルの上に広げたままの 薔薇の実のことが気になった。 とりあえず中身を抜いて乾燥させておこう。 ティーにするならそれでじゅうぶんじゃない?
ひとつグラハムトーマスの実を割ってみた。 なんて清冽な香り!みずみずしい果肉! かじってみると、若いリンゴのような甘さ。 これを干からびさせるなんてもったいない。 このフルーツでジャムを作りましょう。 庭仕事はそのあとね。
右のざるから実をひとつ取って 鋏で切れ目を入れて半分に割って 中の種と毛をこそげ出して ガクや茎のかたいところを切り取って 左のボールに放りこむ。 ひとつひとつ、その作業。
栗の皮をむいたり、豆を莢から出したり筋を取ったり、 そんな作業はわりと好き。 好みの音楽を聴きながらただ手を動かす。 できあがりの山がどんどん大きくなっていくのが嬉しい。 ところが。 この薔薇の実を処理する作業はなかなか進まなかった。
1枚目のCDが終わる頃、ランチ休憩。 右のざるの中身は少しも減っていない。
夫が2冊目の本を読み終えた。 左のボールの中身が少したまってきたかな。
5枚目のCDはとっくに終わっている。 薔薇の実はまだ半分は丸いままだ。
サッカーの試合が始まった。 最初から全部お酒にしたらよかったかも。
手元が見えなくなって電気をつけた。 もうやめる?いいえ、いつかは終わるはずだもの。
もうひとつのサッカーの試合が終わった。 やった!薔薇の実作業も終わり〜!
もう外は真っ暗。 おなかもすいたよ。 でもこれからがジャム作りよ。 スライスしてレモンを加えてことこと煮るの。 それからお砂糖を加えてことこと煮るの。 途中で裏ごししてちょっとお味見。
わ。おいしい!リンゴと杏のミックスみたい。 これって私の贔屓目かしら。 これだけ手間と時間がかかったからおいしくなかったら嘘だ。 そんな気持ちがおいしく感じさせるのかしら。
さらにお砂糖とワインと加えてもうひと煮込み。 とろりとしたら火を止めて 煮沸した瓶に熱いうちに入れて固くふたを閉めた。
アプリコット色した薔薇の実ジャムの出来上がり〜♪ お味は明日のお楽しみ。 ふくふくの白いパンに乗せていただきましょう。 楽しみだけどちょっとこわい。 今日1日の苦労が報われるのか、朝になったらわかるんだ。
| 帰宅ラッシュの電車の中で |
2001年10月12日(金) |
大きい箱の中に人がいっぱい。 白い暗い光が満ちて 誰もが黙ってちょっと疲れて。 私も一緒に右に左に揺られて。 カタンカタン。ゆらゆらゆら。
ふっと夢を見ていたみたい。 さっきまでいた小さな部屋の中で うっとりと聞いた友たちの明るい歌声が 耳のそばで響いた気がした。 思わずあたりを見回しちゃった。
まわりには静かな背中たち。 私は楽しく遊んできちゃったよ。 お仕事のみなさん、お疲れさまでした。 いい週末を過ごされますように。 明日も秋晴れでありますように。
私。 四つ葉のクローバー探しの 名人だったんだよ。
うん。 そうだったね。 思い出したよ。
予定通りの雨降り。 予定通りに今日はHP作りを一気に進めよう。 と思っていたけどこれはなかなか予定通りにはいかないものよね。
リカバリのとき、一旦CD-Rに記憶させたファイルは みんな「読み込み専用」になっていて それを全部はずさないと上書きができないのですって。
あーん、もう! なんてつまらない単純作業。 もっと効率いい方法がきっとあるはず。 そう思いながらもカチカチクリックして ファイルをひとつずつ確かめて薔薇の写真を開いたの。
見慣れたはずのうちの薔薇たちも 久しぶりに見るとなんてかわいいの? それぞれの香りが甦ってくるよう。 そう、この子たちの記録を作っていたのよ。 がんばらなくっちゃね。
少し、ほんの少〜しだけ進みました。 予定では明日は晴れるはず。 PCの前にじっと座ってなんかいられないね。 今日はもうちょっとだけがんばってみようかな?
明日は雨らしい。 今日のうちにやってしまおう。 それでなくても熟した薔薇の実は ぽとぽと落ち始めているんだもの。
5月に美しく香り高く咲いた薔薇たちは 虫たちにも大人気だった。 その甲斐あって 花のときと同じように房になって実をつけた。
メルヘンランドはフェンスを赤い実で彩った。 グラハムトーマスはアーチを黄色い実で飾った。 かごが重たくなると フェンスやアーチは寂しくなった。
きれいに洗って乾かして。 重さを量って数を数えて。 瓶は熱湯で消毒。 お酒と氷砂糖はどちらも無彩色。
赤い黄色い実が瓶の底で弾む。 白い四角い氷砂糖がそれを覆う。 透明なお酒が注がれる。 ゆがんで大きく見える薔薇の実たち。
重い大きな宝の瓶に 今日の日付のラベルを貼って あとは待つだけ。 3ヵ月後をお楽しみにね。
あっ!
やってしまった。 夫の茶碗を割っちゃった。 キュッキュッと洗う右手とそれを持っている左手のバランスが ちょっと狂って飛んでっちゃったの。 お鍋に当たってきれいにまっぷたつ。
別に高価なものではないんだけどね。 結婚する前に荻窪の○友で買ったんだったっけね。 たしか1000円もしなかったのよね。 一応夫婦茶碗だったのよね。
あーあ。 相棒を失ってしまった私のお茶碗。 なんだか寒そう。 おこっているような戸惑っているような。
夫が無事に帰ってきた。 なんとなくホッとした。
遅く起きた休日の朝。 暗い空に冷たい風。 ぼんやり風邪気味。 外に出る予定もない。 今日は家でのんびり過ごそう。
テレビも音楽も少ししんどい。 読みかけの本を胸にいつの間にかまどろむ。 目が覚めるとしとしと雨降り。 色づき始めた沙羅の葉をころがるしずく。 雨音を聞きながら再びとろりと夢の中。
気がついたのはたそがれ時。 熱い甘い透明なお茶を飲もう。 ゆらゆら揺れる白い丸い花。 ころんとふくらむ赤い実黒い実。 ガラスのポットを覗き込むとさっきの夢を思い出す。
3年ぶりの横浜でした。
運河のほとりで若者たちがそれぞれのアートを展示販売していました。 若者に混じって友達もガラスの作品を並べていました。 ブラジル屋台で甘くないアンコのようなものがかかったご飯と ソーセージの盛り合わせを買ってビールと一緒にいただきました。 風が冷たかったけど気持ちよかったです。
元町ではおしゃれなお店を覗きながら歩きました。 夫はブリティッシュトラッドのジャケットを買ってご満悦。 私は紅茶とチョコレートを買いました。
山下公園では何かにぎやかにお祭りをやっていました。 屋台で売っていた各国の食べ物のおいしそうな香りに誘われたけどちょっと我慢。 色とりどりの風船が人々の声に揺らされてふわふわと踊っているようでした。
マリンタワーではバードピアに行きました。 鳥をさわったり、えさをやったりできるのです。 フラミンゴやエミュー、クジャクバトにホロホロチョウ。 そして相思相愛、いつも仲のいいソウシチョウ(相思鳥)。 小さい鳥が勇気を出して近寄ってくれたのには感激でした。
中華街は今日もにぎやかでした。 ほの明るさがまだ残る夕暮れ時にお食事をしました。 屋台を横目で見て我慢した甲斐があってとてもおいしいお料理を楽しめました。 そのあと大きな月餅と金木犀のお茶と菊のお茶を買いました。 夜になって街はいっそう鮮やかに元気に見えました。
そして今、おいしい中国茶で温まりお菓子を少し切り分けていただきながら 鳥の写真や海の写真を眺めています。 今夜はカラフルでにぎやかな夢を見そうです。
おせんべいを焼いた。 上新粉でお月見団子を作った残りを伸ばして 缶のふたやクッキー型で抜いたのを干していたのだ。 幸い今週ずっといいお天気が続き きれいに真っ白に乾いてからからと音がするほど。
○魚焼き網にのせ、弱火で1枚ずつ焼きます。
1枚ずつ? いいやー。まとめて焼いちゃえ!
○焼くときは手まめにひっくり返すことが大切なポイントです。
はいはい。手まめにね。 ここだけは本に忠実に、1枚ずつていねいにひっくり返しましょう。
「お・せ・ん・べ・や・け・た・か・な」
無意識に口ずさんでいた。 一瞬何のことだか自分でわからなかった。 そうだ。そんな遊びがあったのだっけ。
子供たちは手のひらを下にして両手を出す。 オニが「お・せ・ん・べ・や・け・た・か・な」と言いながら 手の甲をひとつずつ軽くたたいて回る。 最後の「な」に当たった手は裏返しにされる。 そしてその続きからまた「お・せ・ん・べ・や・け・た・か・な」。 こうしてどんどんひっくり返され、 表・裏・表・裏とひっくり返された手は、はい焼き上がり! 引っ込める。 そうして最後まで残った手(おせんべい)の持ち主が次のオニになる…。
と、そんなのどかな遊びだったと思う。 よく妹たちとお風呂の中で遊んだな。 わざとお湯をたたいて跳ね飛ばしたり。 オニが続くとお湯からあがれなくてのぼせたり。
単調な仕事は物思いにふけるのにぴったり。 まるで糸がほどけるようにスルスルと幼い日のころが思い出される。
立ちっぱなしの足が疲れるころ、やっと最後の1枚が焼きあがった。 刷毛でお醤油をスルスルと塗る。 お醤油とお米の焦げる素朴な香りがキッチンに立ち込めて あの古い家の台所と重なって見えた。
時計を見るとちょうど3時。 さぁ!おいしいお茶を淹れましょうか。
この季節になると読み返す本がある。
その日は金曜日だった 街中の金木犀が散りはじめた日 そして あたしが彼に会った日 ・・・・ 彼と会った日に彼は死んだ あたしを助けて
「その日は金曜日」赤石路代・作
こんなモノローグで始まるこの作品は少女マンガ。 年の離れた妹がいて(もしかしたらいなくても) 結婚するまで少女マンガをとっていた。 これはたしか「別冊少女コミック」に載っていたんだっけ。
私の好きなタイムトラベラーもの。 でも、少女向けのこれはSFという感じではなく せつないラブストーリーだった。 科学的な説明とか理屈は抜き。 「こーゆー人間もたまにいるらしい」で納得する。
春や夏、冬の場面もあるのに 全体を覆っているのは金木犀の香り。 金木犀の季節に彼の死で始まったストーリーは 12年後、未来の金木犀の季節まで続く…。
あー! 読み返したらやっぱりまたせつなくなってしまった。 涙、涙…。 おやすみなさい。 そろそろ終わりの金色の香りに包まれて。
惜しげもなく散らされる パステルカラーのふわふわ。 いつかこれで羽まくらを作りたくて こっそり集めているの。 気が長いって笑ってね。
今日もお昼からご近所さんでビーズの先生。 ビーズの材料、手作りデザート、そして いつものように家の電話の子機を持って行く。
庭が接したご近所さん。 家にかかってきた電話が子機で取れるほど近いのよ。 おすそ分けのお菓子や野菜やお花の苗も 庭でフェンス越しにやりとりしたり そのままおしゃべりしたりの仲よしさん。
講習会の前にまずは腹ごしらえね。 メニューはツナとバジルのトマトソースパスタと大根サラダ。 それに私がが作った杏仁豆腐の金木犀ソースがけ。 レシピの話に花が咲いて、ついつい長引くランチタイム。
今日はあのバッグを仕上げなくてはね。 外は暑いくらいね。いいお天気。 お洗濯物がよく乾きそう! 秋植えの球根、もう買っちゃった?
主婦らしい他愛ない平和な会話が続く。 そうしているうちにできていく小さな作品。
最後の仕上げがポイントなのよ。 ちょっと見せてね。 ・・・・ できた! うふふ。かわいいね。
顔を上げると時計は4時をさしていた。 陽射しは淡い夕方の色。
それではまたね。また教えてね。 あ、そうそう!ちょっと待ってて。
庭に出た彼女が持ってきたのはたくさんの水仙の球根。 もうかわいい緑の芽がのぞいている。
実家でね。いっぱい増えたんですって。 とてもいい香りなのよ。どこかに植えてね。
嬉しいな。 暗くなる前にもう一仕事。 かわいい球根たちをアプローチ脇に大切に植えた。 春の楽しみがまた増えた。
泥を落として立ち上がると小さな人影。 あれ?ミィちゃん?
忘れ物よ。
ご近所さんのかわいいお嬢ちゃんが差し出したもの。 それはうちの電話の子機だった。 あはは!
今日、金木犀のジャムを作った。 50gっていったいどれくらいの量なんだろう? 金木犀の木が寂しくならないように、 目立たないところから花を摘んでいく。 房になってしっかりと柄についた小さな花を摘むのは ちょっと乱暴なほど力が要る。 かすかに胸が痛む、手に伝わる初めての感触。
あ。 15年前、夜の街を花を求めて歩いたときには こんなふうには花を取らなかった。 安心した…。 咲いている花をむしったのではなかった。 そう、たしか今よりもう少し盛りを過ぎた時期の花、 散った花を葉っぱからふるい落としたのだった。 妹がそれをつば広の帽子で受けたのだ。
「なぜか素敵なことをしているような気持ち」なんて言って 公園やよそのお花をむしっていたのでは小学生の妹にもしめしがつかないもの。 15年前の私にもそれくらいの道徳心はあったのね。 あぁ、それでもふるい落とすのもやっぱり罪だったかな?
あの時とは違う午前の日が射す明るい庭で 青空の下、花を摘みながらそんなことを考えていた。 今日の花は九分咲き。 まだ散りたくなさそうな花をぷつぷつと摘んでいく。 ざるの中がしっとりと重くなっていく。 香りが体にまとわりつく。
やがて花はお砂糖で煮られて瓶の中へ。 たゆたゆと揺れるシロップの中で 4枚の花びらをきちんと開いた花が私を見つめていた。
金木犀の季節、昔々に作った金木犀酒を出してみた。 15年前の日付は10月12日。 今年より金木犀の花は遅かったのね。
金木犀の香りが好きで、どうにかしたくて それでやっと思いついたのが、お酒に漬けることだった。 花を集めるのがそれはそれは大変だったっけ。 家の金木犀の木は大きくて花をたくさんつけていたけど、それでも足りなくて、 夜の住宅街を小さな妹を連れて金木犀の花を求めて歩いた。 なぜか素敵なことをしているような、うきうきした気持ちを覚えている。
そんな大変な(楽しい)思いをして作ったほんの少しのお酒は 花の色を映してオレンジ色に芳しくできた。 大事に少しずつ特別なときだけに飲んでいたのに 中国のお酒で同じようなものが安く売られているのを見つけたときには ずいぶんがっかりしたんだった。
でもね。瓶のふたをパッチンと開けると浮かび上がる。 白い街灯で照らされた幼い妹の楽しそうな横顔や 街中を包んでいた夜の空気の香りが思い出されるの。
金木犀のお酒と一緒に出てきたたくさんの瓶。 りんご酒、キウイ酒、梅酒、苺酒、薔薇酒。 それぞれに閉じ込められていた時間。 あぁ。みんな覚えているよ。 そのときの風景、空気の香りを。
何年か経ってからのこんな思いをしたくて 私はお酒を作るのかもしれないな。 今年? 薔薇の実を漬けるよ。 氷砂糖と一緒に大きな瓶に入れて透明なお酒をそそいで。 冬が来るころにはきっと夕焼けみたいな茜色ね。 この秋の思い出いっぱいのお酒になっているはずよ。 友たち、一緒に飲みましょう!
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