チフネの日記
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2009年04月12日(日) どんなにつれなくても  跡リョ

驚愕に目を見開く相手を見て、鼻で笑ってしまう。
この俺に本気で勝つつもりだったのかよ、と。
「だから言っただろ。今度は相手を見てケンカを売るんだな。一つ教訓になっただろ」
がっくりとプールに沈む姿からは、最初に見せた威勢の欠片も無い。
つまらない奴、と肩を竦めてプールサイドへ上がる。
騒ぐ連中を押し退けて、忍足と向日とそれから樺地がこちらへ近付いて来た。
「おー。お疲れ、跡部。お前、水泳でもいけるんやな」
「相手が弱過ぎただけだ」
「謙遜のつもりかよ。それにしても圧倒的だったな。これで跡部が泳げないとかだったら笑ったのによ」
「馬鹿言うな。おい、樺地」
「ウス」
樺地からバスタオルを受け取って、体を拭く。
全く、後の二人はただの野次馬と大して変わらないな。

「しっかし本気で勝負受けるとは思っていなかったぜ。向こうもそのつもりで軽口叩いていたんじゃねえのか?」
向日の言葉に、笑って返してみせた。
軽口、にしては奴には悪意がたっぷりだったからだ。
「これでつまらねえこと言う馬鹿が大人しくなれば嬉しいことだな」
「半分以上は妬みやろ。有名税だと思うて軽く流しとけや。ちょっと大人げないで」
「ふん。だったらお前が矢面に立つか?」
「いやー、遠慮しとくわ。やっぱり跡部がトップにいる方が落ち着くからな」
「調子いいな、お前……」
「誰も望んで風当たりが強い所には行きたくないってことだろ。ま、お前なら簡単にやっつけちゃうけどなー」
向日が今もプールから上がれない相手を指差す。
奴は水泳部の部長だ。
それが俺に競泳で負けてよっぽどショックだったみたいだ。
だったら最初から、くだらない噂なんか流すべきじゃなかったと俺は思った。

テニス部ばかりが優遇されているのはおかしい。
生徒会長が自分の部に予算を割いているのは公私混同の行為だ。
そんな悪意ある噂を流していた張本人を自ら罰してやっただけだ。
大体、テニス部の諸経費は監督と俺の個人的な財産から出している。部外者にどうこう言われたくは無い。
そんなに部のことを考えているのなら、てめえも個人で費用を捻出しやがれ。
あるのは文句ばかり。うんざりだ。
しかしその程度ならまだ我慢出来た方だ。
『大した実力もないくせに、跡部は金の力で部長や生徒会長や恋人までも買ったらしい』
この一言が決定となった。
特に最後のは許せない。
絶対撤回させてやると、奴のいる教室に乗り込んだのが今日の昼休み。

てめえの得意とする水泳で勝負してやるぞ。
啖呵切った後、奴は上等だと笑っていた。
得意分野で負ける気は無かったのだろう。
買ったら水泳部の予算を上げると約束させろとまで言った。

馬鹿め。
心の中で笑って、だったら俺が勝った暁にはてめえが喋ったことを全員に撤回しろと約束させた。
結果はご覧の通り。
数十秒ものタイムの差での勝利をもぎ取った。
ギャラリーも大勢いる中での負けはかなり堪えたに違いない。
この先、俺のことでつまらない悪口を言うやつもいなくなるだろう。
ざまあみろだ。

「さすが跡部様。勉強も運動も万能で羨ましいわぁ」
忍足がわざとおどけたような声を出す。
黙れ。俺の努力も知らないでと、内心で呟く。
水泳だって今日初めてやった訳じゃない。家のプールではよく泳いでいたから得意なものの一つだ。……必死で泳げるように頑張ったところなんて誰も見ていないけどな。
そんなことも知らず、忍足は会話を続ける。
「お前に思い通りにならんことなんて無いやろ」
「あ、それは俺も思った。あの越前でさえ結局は付き合うことをOKしたんだろ。すげえよな。
もう他に叶えられないことは無いんじゃねえか?」
越前。
その名前が出たことで、一気に落ち着かなくなる。
気付かれないよう、俺は髪を拭く振りしてタオルを被った
「くだらねえこと喋るな。俺は着替えに行く。お前らもさっさと部活に行けよ。
俺より遅かったやつは罰として走らせるぞ」
「えー、跡部横暴」
「樺地、この二人を引っ張っていけ」
「ウス」
「樺地を使うのは卑怯やで!」
ずるずると樺地に引き摺られ、二人が退場して行く。
周囲に誰もいなくなったことを確認して、俺は大きく溜息をついた。

思い通りにならないことが無いって?
馬鹿言え。あるに決まっている。
まさに今、直面しているんだからな。

着替えてから制服のポケットに入れてた携帯を確認する。
今朝と昼休みとさっき送ったメールの返信は無い。
この分だとまだ機嫌は直っていないらしい。
「越前」
呟いた声がやけに虚しく響く。
俺のこと、嫌いになってなんかないよな。そうだよな。
心の中で泣きながら「放課後、迎えに行く」とまたメールを打った。

きっと誰もこんな俺の姿を知らない。
当然だ。周囲に越前は俺に夢中になっていると言ってあるのだから。
実際はそれとは真逆で、愛想の無い越前にこっちが振り回されてばかりだ。




「何だ。今日も来たんだ」

青学の練習が終わったのを見計らって、校門で待ち伏せする作戦を取った。テニスコートや部室に行ったら、今より機嫌が悪くなるのがわかっているからだ。
運良く通り掛った越前に素早く駆け寄ると、冷たい目で俺のことを見た。
けど、ここで怯む訳にいかない。
「メール見ていないのか」
「携帯をわざと置いて来たからね。色々うざそうだから」
あんたのメールが沢山入ることを予想した。だから置いて来たと越前の顔に書いてある。

こいつの吐き捨てるような言葉と、氷のような視線にドキドキさせられることに最近気付いた。
勿論、表には出さない。
周囲にも越前にも引かれることはわかっているからだ。

「そこまで避けることないだろ」
歩き始めた越前を追って背中から声を掛けると、早歩きしやがった。
このやろ。とことん無視するつもりかよ。

昨日、いつも以上に俺は苛々していた。
さっき勝負した水泳部のあの馬鹿の言葉がちょうど耳に入ったからだ。
越前とは金で結ばれた関係じゃない。
それを確かめたくて青学に訪れたら、越前の奴は三年連中に囲まれてちやほやされていた。
ちやほやなんてされていない、あんたが勝手にそう見ただけと越前は言ったが、頭に血が昇った俺は聞いていなかった。
あいつらとは離れろと、結構滅茶苦茶言ったと思う。
「ふざけんな。頭冷やすまで、あんたとは会わないから」
越前は完全に切れて、俺の前から逃げ出した。
直後に俺は落ち込み反省して電話やメールをしたのだが、越前から何一つ返って来ることは無かった。

「おい、越前。しばらく会わないっていつまでだよ。まさか一ヶ月とか言わないよな」
「もっと長いかもしれないっすよ」
「おい」
ツンと前を向いたまま、越前はあくまで俺を無視しようとする姿勢を貫く。手強い奴だ。
「あんたにはその位しないとわからないでしょ。
昨日だって、休憩時間に居眠りした罰として乾先輩の汁を飲まされそうになって、
逃げないようにって先輩達は俺のこと囲んでいただけなのに。それをちやほやだって!?
馬鹿みたい」
「いや、それは話を聞かなかった俺が悪かった……」
「本当にわかっているんすか?」

越前の言葉に、心が揺れる。
これが今まで付き合っていた相手(か、どうかもわからない。名前すら忘れたどうでもいい連中だ)なら、「馬鹿はてめえだ」と切り捨てていただろう。
いや、それよりも前に本音をぶつけあって会話なんてしたことも無い。
いつでも都合よく付き合える相手、そんなのしか選んでいなかったのだから。
俺のことを悪く言う連中もそうだ。直接ケンカ売って来るやつなんかいない。陰で足を引っ張ることしか出来ない小心者ばかり。
両親は良い子である俺にしか興味が無い。
しょっちゅうつるんでいるチームメイト達とは気が合うが、ここまで深く自分を曝け出してはいない。

越前の前だと不思議に今まで言えなかった言葉が自然と出て来る。
「悪かった」だなんて、今まで自覚してても絶対に口に出したことなんて無いのにな。

「ああ、わかっている。お前の言うことを聞かないで勝手に怒っていた俺が悪い」
そう言うと、越前はやっとこっちを見た。
誠意が伝わったと、思いたい。
「そんなに反省してるのなら、今回はファンタ一本で許す」
「いいのか」
「二度と青学に乗り込んで喚いたりしないと約束付きで」
「約束する!」
「なら、いいよ」

ほっとしたように越前が笑う。
俺もその顔を見て安心する。このまま避けられたりしたら、ドキドキを通り越して心臓が痛くなる。

「あっちに自販機があるから、行こ」
「ああ」

越前は態度も言葉も素っ気無いけど、嘘をついたり見栄を張ることもしない。
だからこいつの言葉は全部信じられる。
もし俺を見限っていたら、近付けさせることすらしないだろうから。


『そこのサル山の大将。試合しようよ』

あの時、ピンと来るものがあった。
ただの生意気で怖いもの知らずのガキがする目じゃなかった。
本気で俺に挑み、そして勝つ気だ。
あの亜久津を倒したという実力も興味を引いた。
けどこんな野試合でやるのはつまらない。

『焦るなよ!』
俺は余裕で笑ってみせた。
そうだ。こいつとどうせやるのなら公式で叩きのめす方が面白そうだ。
『逃げんの?』
最後まで勝気な姿勢を崩さない越前に、ぞくぞくした気持ちが止まらなかった。
こいつといればきっと毎日退屈しないで済む。
見たこともない世界を広げてくれそうだと俺の勘が告げていた。


そして氷帝で越前の試合を見た直後、すっかり魅せられてしまった俺は越前に交際しろと迫ったのだった。


「何にやにやしてるんすか。気持ち悪い」
「お前、仮にも付き合っている相手になんだ、その言い方は」
越前の発言にまたしても喜ぶが、一応反論しておく。この方が俺らしい態度だから。
「なんか思い出し笑いしているみたいで、変っすよ」
正直に越前は思ったことを口にする。
俺に対してはそれでいいけど、いつか揉め事に巻き込まれそうで怖い。
いつか注意しておこうと、心に決める。
「別に笑ってなんかいねえよ」
「嘘。口元がにやついてた。もっとしゃんとしてよね。その方がずっとマシっすよ」
言われたことを考えて、俺はある結論を出す。
「つまり越前は俺の真面目な顔が格好良いって思っていることか」
「どうしてそうなんの……」
「にやついている顔が嫌だってことは、その反対は好ましく思っているってことだろうが」
「違うだろ」
はあ、と越前は溜息をつく。
「あんたが他事考えて笑っているのがムカつくだけで」
「……」
「……」
思わず顔を見合わせると、越前は「やっぱ今の無し」と俯く。

「なんだ、俺がお前以外のこと考えているのが面白くないってことか」
「無しだって言ってるじゃん」
「だったら安心しろ。俺が笑っていたのは出会っていた頃を思い出していただけだ。気にすることは一つも無いからな」
「もういいって!」

顔を赤くして怒る越前は、とても可愛い。
今日もまた新たな発見をした。

「くだらないこと喋ってないで、早くファンタが飲みたいんだけど!ほら、さっさと歩く!」
「はいはい……」

先を歩く越前の背中を見て、俺はまた笑っていた。

こんな風にいつも俺のことを叱って、そして喜ばせて欲しい。
冷たい言葉や態度の裏に愛があると、俺はもう知っている。
何を言われても、喜びに変えることが出来るんだ。


全く越前は思い通りにならないけれど、幸せな気持ちにしてくれる。
今まで会った中で、誰よりも。
それだけは確かなことだった。


終わり


2009年04月11日(土) 眠れない夜 不二リョ

今よりももっと子供の頃、最初になりたいと思ったのは『姉さんの王子様』だった。
物心が付くか付かないかの頃、姉さんが「周助、王子様になっていつか私の来てね」と繰り返し囁いていた成果だ。
最もこの話は今ではタブーになっている。
口に出せば姉さんが「あの頃、周助は私のことが大好きで自分からそう言ったんだから!」と怒るからだ。
都合よく擦り返られている気がするが、こちらも3・4歳のことで曖昧になってる為、反論出来ない部分が多い。
蒸し返すのは止めようと暗黙の了解が出来ている。

それからなりたいものは沢山変わって行った。
学校の先生にも憧れた。写真も好きだからカメラマンもいい。
でも植物も好きだからお花屋さんとか、植物園で働きたい。勿論、テニスのプロにもなりたいと思った。

でも今、なりたいものがあるかと問われたら、こんな風に答える。
越前リョーマの隣にいられる人になりたい、と。
それはどうしたらなれるのか、まだ見当が付かない。
まだ15歳で、遠くに行く好きな人を追い掛けることさえ出来ない僕には途方も無い話だった。


「これで、全部?」
「うん」
リョーマの部屋の片付けが終わった所で、不二は軽く肩を叩いた。さすがに少し疲れた。

「綺麗になったね。意外とちらかっていたから、どうなることかと思っていたけど」
「だから俺一人でやるって言ったのに」
唇を尖らせつつ、リョーマは用意していたペットボトルを不二に向って投げる。
「でも一人でやったら、今日中には終わらなかったかもしれないよ?」
「その時は親父をこき使うから、いい」
「あ、そう」

全国大会のゴタゴタで、リョーマは直前まで部屋の片づけをしていなかった。
もう明日にはアメリカに発ってしまうというのに。
だったら一緒に荷物を纏めようと提案したのは不二からだった。
そうでもしなければこの最後の日、一緒に過ごす時間はほんの数分しか無かったに違いない。
片付けでも側にいられれば、不二にとっては良かったのだから。

「先輩、休みましょ」
床にぺたんと座り込んで、リョーマが言う。
そして自分の分のペットボトルの蓋を開けて、あっという間に半分まで飲み干した。
不二も喉が渇いていたことを思い出し、リョーマの側に座って渇きを潤す。
少し飲んだところで、リョーマに話し掛ける。

「明日、何時だっけ」
「……9時。前にも言ったと思うけど」
「ごめん、ごめん。つい忘れちゃって」

本当は覚えていた。リョーマのことで何一つ忘れることなんて無いのに。
つい確認したくて尋ねただけだ。
本当に行ってしまうことを、実感するだけの為に。

「長かったような、あっという間の数ヶ月だったな」
また一口飲んでから言うと、リョーマはこくんと頷いた。
「俺も、同じかも。先輩と付き合ってから今日まで、まだ一週間位にしか経っていないみたいっす。
でも一年位一緒にいたような、そんな感じもする」
「うん、僕と同じだね」

笑顔と向けると、リョーマも目元を綻ばせている。
別れを前にしても、こんなに穏やかだ。
それは最初から、決まっていたことだから。
こんな日が来るとわかっていて、歩んで来た。
覚悟は出来ている。だから取り乱すことなく、笑顔を作ることさえ出来る。

泣き顔を見せる心配も無い。
リョーマに最後まで笑顔の自分を覚えていたかったから、良かったと不二は内心で呟いた。








「俺、夏が終わったらまたアメリカに戻るから。そういう訳で、先輩が言った付き合うとかそういうの出来ないっす」

告白したのは不二の方からだった。
入部直後から生意気で、だけど光り輝くような越前の存在は無視出来るものじゃなかった。
それはテニスの実力が他より抜きん出ているから、だけじゃない。
リョーマ自身にも惹かれているからと気付いたのは、雨の日の試合を終えてからだった。
まだ全ての実力を隠し余裕のある不二に対しても、リョーマはひたむきでがむしゃらになって食らい付いてくる。
勝ちたいという執念を隠すことのない圧倒的なオーラと、強い瞳に、好きだなと自覚してしまった。

そうなったらもう止めることは出来ない。

都大会が終わったその日、不二はリョーマが一人になったのを見計らって好きだと告げた。
同性同士のタブーなんて、頭から吹き飛んでいた。
ただリョーマの側にいたい。他には何も考えられなかった。

幸いなことにリョーマは不二の告白を嫌悪することも、戸惑うこともなく静かに聴いてくれた。
そしてちょっと肩を竦め、付き合えないと口にした。

「アメリカ……本当なの?」
大会が終わったら、行ってしまう。
冗談みたいな発言に疑いの目を向けると、リョーマは「本当っす」と頷く。
「出来れば他の人には黙っていて欲しいっす。先輩が付き合って欲しいなんて言わなかったら、今のも内緒にしてたんだから」
目線を逸らすリョーマの顔には、僅かに日本に残ることの未練が読み取れた。
ほんの短い期間の中でも、青学のことを大切に思っているのだろうか。
それでもどうしようもない事情を抱えているのかもしれない。例えば家庭の事情とか。
だとしたら、止める術は何も無い。


「誰にも言わないよ」
不二は素早く答えた。
「でも、越前……もし、もしもだよ。君がこの先も日本に留まっていたとして、学園生活も続くとしたら。
少しは僕の告白の返事も今と違った風に考えてくれてたかな?」
仮定で話すなんて馬鹿げている。無意味だ。
わかってはいるけれど、不二はリョーマに問い掛けてみた。
この先も同じ場所にいられたとしたら、どうするのかと。
もう望みは絶たれているというのに。
それでも、聞きたかった。

リョーマは少し眉を寄せて「さあ?」と言った。
「わかんない。だって現実は変わらないから、考えてもしょうがないんじゃないっすか」
「うん、でも今のでわかった」
「何が?」
「少しは僕のこと、考えていてくれているんだね」
「……は?」
不二は自信たっぷりに頷いた。
「あんた、俺の言ったこと聞いてた?なんで、そうなるのか教えて欲しいっす」
「うん。それは、ね」
強がりではなく、不二は笑ってみせた。リョーマが否定するほど、何故か自分の考えが合っている気がしたからだ。
「もし僕の告白が最初から嫌だと思ったら、即座に君は切り捨てていただろうと思って。
アメリカへ行くとか持ち出したのは、傷付かないようにって気を使ってくれたんでしょ」
「違うっ」
「そうかな。君は僕のこと気になっているんだよ。だから理由をつけて断ろうとしている。
僕の為に」
「……」

リョーマが僅かに動揺してるのを見逃さず、不二はその手をぎゅっと掴まえて握った。

「ねえ、越前。アメリカに行くまでの間でも構わない。
残された時間を、僕に下さい。付き合ってもらえないだろうか」

必死に訴えると、やがてリョーマは諦めたように肩から力を抜いた。

「応えるつもりなんか無かった」
「うん」
「でも先輩が覚悟出来てるっていうのなら、俺も逃げる訳にはいかないっすよね」

顔を上げた時にはもう吹っ切ったみたいで、いつもの力強い瞳に戻っていた。

「俺もあの試合から、不二先輩のこと気になっていたんだよね。
それが好きっていう気持ちかまでは確定してない、そうなるまでの時間も残されてない。
でも、いいんすか?」
「うん!じゃあ、今日から僕と君は恋人同士だよ」
「はい」

リョーマが返事をした瞬間から、期間限定のお付き合いがスタートした。

とはいえ、全国大会を前にして前より一層忙しくなって、
二人きりで会う時間は決して多くは無い。
それでも短い中でめいっぱい楽しもうと不二が働き掛けたおかげで、
ささやかだけど沢山の思い出を作った。
とてもアルバム一冊では収まりきらない位の、どれを取っても大切な瞬間ばかり。

だけど、それも今日で終わり。

夕飯の用意が出来たことを告げる声に、二人で階下へ降りる。
不二が来たことと、日本での最後の食事ということで、「特上頼んじゃった」とリョーマの母は笑って言った。
「どうぞ、お構いなく」
頭を下げる不二の横に、リョーマは黙って腰掛ける。
お寿司を前にしてもはしゃぐことは無い。むしろ表情は曇っている。
もしかして寂しがっていてくれているのかなと、不二はその横顔を見詰めた。
だとしたら、同じだねと後で言ってあげるべきだろうか。

お寿司を食べ始めてもリョーマは無口なまま黙々と食べ続けている。
不二も会話が無いまま、お寿司を口に運んだ。
美味しいはずのそれがちっとも味気なく感じたこと。
きっと一生忘れない。


最後だからということで、今日不二はお泊りの許可を得ている。
すっかり片付いたリョーマの部屋に布団を並べて敷いてから、それぞれ潜り込む。

「てっきり一つの布団で一緒に寝ようって言うかと思った」
少し距離が空いた先、顔をこちらに向けたリョーマがそんなことを言う。

「そうして欲しいの?」
不二が笑うとリョーマはむっとしたように布団で顔を隠してしまう。
「もう、いい」
「ごめん、ごめん。でも僕はこうして隣で寝てるだけでも十分だよ。
今日まで一緒にいられたこと、ずっと忘れない」
「先輩?」
リョーマが顔を出す。
不二は笑顔のまま、布団から片手を差し出した。
「最後に一つだけ我侭言おうかな。
眠れるまで握っていて欲しいんだ」
「……子供みたい」
そう言いつつもリョーマも手を差し出してきた。
告白した時のように、不二はその小さな手をぎゅっと握り締めた。

そうしてお互い仰向けのまま眠る体勢に入る。

「おやすみ、越前」
「おやすみ、不二先輩」

数分と経たない内に、規則正しい呼吸が聞こえる。
子供だなあと笑って、不二は手を握り締めたままリョーマに気付かれないよう、そっと起き上がる。
そして安らかな寝顔を上から眺めた。


ねえ、越前。
今日までという約束で僕達は付き合って来た。
だから明日になったら、お別れすることはわかっている。
でもいつか、僕は君を追い掛けて行きたい。今はまだ無理だけど。
そういうことが自分の力で出来るように頑張るから、
再会した時に告白してもいいかな。
このままバイバイなんて、嫌だよ。
その時はちゃんと聞いて欲しいんだ。


安らかな寝顔を堪能した後、不二はリョーマの頬にそっと口付けた。

きっと今夜は眠れない。
明日リョーマを見送った後、死んだように眠ろう。
そして起き上がったら、今よりも強くなる為に。
頑張ろう、と心に決める。
今度こそなりたい自分を手にいれるんだ。





もそもそと不二が布団に入っていく音を聞きながら、
リョーマは目を瞑ったままできゅっと唇を強く噛んだ。


(不二先輩の、馬鹿)

今日何が起きても驚かないと決めていたのに、こんな時ですら彼の理性は崩れない。
けれど、あっさりと別れを受け入れている訳じゃないことは、
今の頬へのキスで気付いた。

(もっと気持ちをぶつけてくれてもいいのに)

引き止めようとしている目をしているくせに、不二は決して口には出さない。
アメリカに行くことを前提で付き合うことを提案した手前、何も言えないのかもしれない。

きっと明日も笑って、送り出す。そんな姿が目に浮かぶ。

その時に言ってしまおうか。

(絶対また会いに来るから!)と。

このまま終わりなんて、嫌だ。
でも今更そんなことを言っていいのか、わからない。
不二を困らせて、当てのない約束で縛っていいものか。
迷っている。

明日までに言わなくちゃいけないのに。

(どうしよう)

出発まで、もうそんなに時間が無い。
どう伝えるか、じっくり考えよう。後悔しないように。


互いに眠れないまま、夜はゆっくりと過ぎて行く。


翌朝、お互いの隈を見付けて何かを察し、本音をぶつけることになるのだけれど。

今のリョーマと不二は、気付かないままずっと悶々と悩み続けていた。


終わり


2009年04月10日(金) 認めるしかない  千リョ

うわあ、越前君だ、って喜びと、なんでここにいるの?って驚きとで俺の心はごちゃごちゃになっている。
会いたかった。でも会いたくなかった。そんな複雑な気持ちだ。
この場で頭を抱えたい位。

「ちーっす」

原因はこの子にある。そこで得意げにボールを掲げている、越前リョーマ。

合宿脱落を賭けたボール争奪戦。
何人かの奴が張り切って拾ってくれたおかげで、ボールの数は予定以上に足りなくなった。
って、何してんだよ!山盛りは無いよ!
ちょうど俺の所に一個降って来てくれてラッキーだった。
拾えなかった高校生達がどうしようと焦る中、最後の一個が少し先に残されているのを乾君が発見した。
当然、我先にと皆が拾いに行く。脱落が掛かっているから必死だ。
そんな事情を全く知ることもなく、突如現れた越前君がそのボールをあっさり拾ってしまった。

ちーっす、じゃないよ。この空気読める?
不敵な笑みを浮かべている越前君に、相変わらずだなと俺は頬を掻いた。
何勝手に拾っているんだ!とケンカ売られてもおかしくない状況なのに。
物怖じもせず立っている越前君は、以前と全く変わりなくて。
俺の目には眩しく映るから困る。

だから、まずいんだって。
この子を見ていると、どんどん好きになってしまうから。



初めて会った時もそうだった。

「そりゃ、どーも」

普通、初対面の他校生…しかも年上相手にボールぶつけるか?
ただちょっと喋っただけなのに、顔面にぶつけてしかも倒れた俺を放置ってありえないよ。
しかし越前君はそのありえないことを、平気でやってのける。
一体何て子だと最初の内は腹を立てた。
態度も口の利き方も、行動もまるでなっていない!
次に会ったら謝罪させてやろうと思っていた。

「おい、越前。千石さんのこと知っているのか?」
「いや、全然」

これだもの。
気絶させた相手を忘れたのかと、怒るのを忘れて脱力したのを覚えている。
なんかその一言で、もう彼のことを許していた。
だって覚えていないって呑気に言う越前君に、これ以上絡んでも仕方無い。
俺の方が器が小さい人間だと思われそうで。
だから、もういいやって気になった。

どうせだったら彼と試合をして、俺の方が強いって認めさせた方が早い。
そうしたら、ちょっとは態度変えるでしょ。
なんて。
甘かったと、後で知ることになる。

結局、俺は青学との試合で越前君と当たることは無かった。
それどころか、オモシロ君に負ける始末。
何だかなとがっくりしながら、亜久津との試合に目を輝かせている越前君のことを見ていた。
頬には絆創膏。亜久津がやったって噂は聞いている。
本人に確認したら「てめえには関係ねえだろ」と答えたけど。
間違いないんだろうなあ。
あの傷は、亜久津がやったんだ。
普通、そんな相手と試合するなんて怖くて逃げ出したくなるはずなのに。
越前君の目には怯えも無く、むしろ挑むように亜久津のことを見ている。

あんなちっちゃくて、亜久津のボールを一度受けたら吹っ飛ばされそうなのに。
一体、この子の自信はどこから来るんだろう?
そんな顔して、本当に亜久津に勝てると思っているの?

決勝を賭けた戦いなのに、俺の視線は越前君ばかりを追っていた。

思い返すと、この時にもう芽生えていたのかもしれない。
純粋な興味から始まった、彼への気持ち。
試合が続くにつれて、ドクンドクンと鼓動が早くなっていくのがわかる。

だってテニスをしている時の越前君の姿は、本当に綺麗で目が離せなかったんだ。

どうして対戦相手が俺じゃないんだろう。
そして、ここまで越前君と互角に戦える亜久津が羨ましかった。
きっともし俺が彼と当たっていても、ここまで戦えたどうか自信が無い。
亜久津だからきっと、越前君の実力をここまで引き出して、
観客をも夢中にさせる試合をすることが出来たんだ。
山吹のエースと呼ばれてはいたけど、そんなのが恥ずかしくなるような二人の試合に、
もっと強くなりたいと拳を握り締めた。



都大会が終わって、俺は時々偵察と称して青学に行ったり、
試合の度に会場で越前君の姿を探し、勿論試合は欠かさず見に行った。

けど、そこまで。
話し掛けようとしたり、接触しようとはしなかった。

だって彼は男の子で、俺も同じ男。
打ち明けてどうなる?
世間からしたらまだ異端と呼ばれる、同性への恋なんて。
この淡い気持ちをはっきりしたものにするのが、怖かったんだ。
一歩踏み出すには、勇気が圧倒的に足りなくて。

それに越前君はきっと俺の名前すら覚えていない。
近付いてみじめな思いをするのも嫌だったから。

そんな臆病な俺には遠くからこそこそ想っている位がちょうど良い。
側にはいられないけれど、見ているだけならいいよね、と彼が試合を勝ち抜いていく様をずっと影から見守っていた。


そして全国大会が終わってしばらくしてから。
越前が青学から去ったという噂を耳にした。
確かめる為に直接青学に行き、ちょうど通り掛ったオモシロ君を掴まえて尋ねると、あっさり教えてくれた。
「そうなんすよ。あいつ、誰にも言わずいなくなって、詳しいことは何も聞いていないんですけど」
「そうなんだ」
落ち込む俺にオモシロ君は「越前と試合したかったんすよね?すみません」と見当はずれな謝罪をする。
違うって、そんなんじゃない。それに、とんでもないことだ。
越前君と俺とじゃ試合にもならない。
まだ俺の力は全然足りない。きっと一生分掛かってもどうかわからない位だ。

そっか。
これで越前君とは会うことが無いんだ。
悲しい気持ちで空を見上げると、こんな時なのに夕陽がとても綺麗だった。

青学から帰るのもきっと今日がこれで最後。
越前君がいなかったら、ここに来る用も無い。
元々引退した俺が来るのも不自然だから、ちょうど良い。

そしてきっといつか、テレビで彼が活躍した所を見られる日が来る。

それまで、さようなら。

俺はこの日、彼への気持ちを忘れようと決めた。
一歩も踏み出せなかった、臆病で半端な恋。
最後まで格好悪い幕引きだった。


なのに、また越前君は再び姿を現した。

青学の人達に真っ先に取り囲まれて、小突き回されたり質問されたりしている。
きっと黙って行っちゃったことであれこれ言われてるんだろう。
そして跡部君と真田君も大盛りのボールを見せ付けるように、彼に話し掛けている。
二人は越前君と試合してその実力を認めているみたいだから、
きっと合宿参加することを喜んでいるんだろうな。
簡単に声掛けられるなんて、羨ましいよ。本当。

俺はというと、その場から動けないでいた。
もう二度と会えないと思っていたのに再会するなんて。
ラッキーなのか、そうじゃないのか。

変わらない意思の強い目は、ボールを取られた恨みから殺気立っている高校生達に、
なんか文句あるの?と訴えているみたいだ。
早速挑発しているよ……。

ああ、越前君だなあと笑ってしまうと同時に、俺は無意識に足を踏み出した。

忘れようとした想いが、また静かに動き出す。
不毛だ、叶わないとわかっていても止められないことってあるんだ。
このチャンスを逃したら、次は無い。
彼への気持ちを認めろと、神様が俺に囁いているのかもしれない。
後悔しないようにって。

その為にもまずは挨拶からだ。
何か騒いでいる高校生達の騒ぎに紛れて、そっと彼に近付く。

好感度の為に、まず笑顔。
でも得意なそれが何故か引き攣る。
多分、緊張しているんだと思う。だって、直接声を掛けるのは久し振りだから。
さあ、深呼吸して声を出そう。

「やあ、越前君。久し振りだね」

声が裏返ってしまったのも仕方無い。
挨拶出来ただけでも、上出来だ。

そしてきっと名前を覚えていないであろう彼の為に、俺は自分から告げた。

まずはここから、始めよう。


終わり


2009年04月03日(金) 僕の告白 3 不二リョ

教室に戻ると、当然のように英二が「成果はどうだった?」と尋ねて来た。
「他に生徒が沢山いて、告白出来なかった」
「ええー?折角のチャンスなのに、何やってんだよ」
不満そうな英二に、「でも代わりに練習が終わったら、一緒に帰る約束した」と伝える。
「ええ?二人きりで?」
「当たり前でしょ。その後、僕の家で話をすることにした」
「でかした、不二!」
バシバシ背中を叩いてくる英二に、僕はただ笑ってやり過ごした。
事態は英二が思っているよりずっと、ややこやしいことになっている。
真実を伝えるのは止めよう。

「もしかして上手くいくんじゃない?おチビもその気だったりして!」
「……だといいけどね」

上手くいくかなんて、まだわからない。
もしかしたら、もっと取り返しの付かなくなる展開になることだって考えられる。
でも、迷っている場合じゃないんだ。
越前の心をもっと知る為に、必要なこと。
だからこの局面を乗り越えてみせなきゃいけないんだ。


そして、いよいよ放課後。
委員の仕事でかなり遅れたけれど、越前はちゃんとコートに姿を現した。

「来ないかと思った」
「何で」
ストレッチをしている彼の横に立って、そっと話し掛ける。
むっとしたように、越前は僕を見た。逃げるなんて心外だと言いたげだ。
「越前の方こそ覚悟が出来ていないのかと思ってね」
「冗談。後で泣いても知らないよ」
その言葉にくすっと笑った後、僕は再びコートに入った。

「それは、楽しみだね」
果たして、泣くのはどっちになるのだろうか。
証拠になるものはないが、僕は越前の態度にある疑問を抱いていた。
そうじゃなかったら、こんな無謀な賭けには出なかっただろう。怖過ぎる。


練習が終わり、僕は片付けをしている越前を待った。
「不二、頑張れよ!」
手を振る英二に、同じように返す。
明日、また結果を聞かれるんだろうな。全部説明は出来ないけど、ある程度は報告しなくちゃいけないだろう。
さて、どうするか……。


「先輩」
考え事をしていたら、制服を着ている越前が目の前に立っていた。
「もう終わったの?」
「っす」
強気な表情の中に、不安な影が瞳に見え隠れしている。
「じゃあ、行こうか」
気付かない振りをして、僕は家へ向って歩き出した。
やや後ろから遅れて、越前も付いて来る。

歩いている間、会話はほとんど無かった。

「ここだよ」
「はあ」

家に到着して、ポケットから鍵を取り出す。
姉さんは夕飯はいらないと言っていたから、帰りは遅い。裕太は寮にいて、戻って来る予定は無し。
母さんの予定はというと、友人とコンサートに行くと言っていた。キッチンには一人分の食事が用意されているだろう。

つまり、今この家には僕と越前だけしかいない。
絶好のチャンスという訳だ。

「上がって」
「お邪魔、します」
きょろきょろと辺りを見回す越前の仕草は子供みたいで、可愛いなと思ってしまう。
「僕の部屋は二階の奥にあるんだ。今、飲み物を用意するから先に行っていて」
「はあ」
「さすがにファンタは無いけど、我慢してね」
「なんでも、いいっすよ」

 
伏せ目がちのまま、越前は階段を上がっていった。
僕はそれを見送りながら、軽い足取りでキッチンへと向う。

ここまでは順調だ。
さて、どうやって切り出そう。

冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、用意したグラスに注ぐ。
二人分、トレイに乗せて自室へと向う。

半開きのドアから中へ入ると、越前は窓際に置いてあるサボテンを眺めているところだった。

「オレンジジュースしかないけど、いいかな」
「あ、はい」
グラスを受け取る動作はどこかぎこちなくて、
緊張しているのかなと、思った。
試合でもそんな所見せたことないのに。
何だか得した気分になった。

床に腰を下ろし、二人でオレンジジュースを静かに飲む。
時折、越前は何か言いたげにちらちら視線を送って来るんだけれど、
やっぱり自分から何か話そうとはしない。

言えないか。
やっぱり止めましょう、なんて。

僕は飲み干したグラスを、静かにトレイに置いた。

「ねえ、越前」
「……何すか」
「先にシャワー使う?」
ぎょっとした顔で、越前がこちらを向く。
手からグラスが落ちそうになり、慌ててキャッチしている。
動揺しているらしい。

「シャワー、って」
「普通だと思うけどなあ。ほら、部活で汗掻いて気持ち悪いでしょ。軽く流した方がいいよね」
「はあ…」                         
「それとも、越前はこのままの方がいいのかな?」

にじり寄って行くと、越前は自然と腰を引いてしまう。
(一応)押し倒す側なのに、何してんのと笑いそうになる。

「いや、俺はその」
「ああ、なんなら一緒にシャワーを浴びようか。どうせ脱ぐんだから、どこでも同じだよね」
そっと手に触れると、越前は慌てて引っ込めた。
「不二先輩って!」
「何?」
「こういうの、慣れてるんすか?まさか本当に俺にどうこうされたいとか思っているんじゃないよね!?」
ほとんど悲鳴みたいな声だった。

やっぱり。

僕は自分の推測が正しかったと直感する。
それでもまだ演技を続けた。

「何言っているの。先に言い出したのは君の方じゃないか。したいって言ってたよね」
「それは付き合ってからの話!したいとは言っていない!」
「往生際が悪いよ、越前。だって受け入れたら付き合ってくれるんでしょ」

壁際に追い込む形で迫ると、突如越前は手を床に置いた。

「ごめんなさい、無理っす!」
「越前?」
「先輩を抱きたいなんて、これっぽっちも思っていない!あれは断る為の口実で、
俺にそういう趣味は無いっす。だから、これ以上は無理!」
「なあんだ、だったらそう言ってくれれば良かったのに」
「え?」

顔を上げた越前は呆気に取られていて、その無防備な様子が可愛いと思った。

「僕だって、君に押し倒されたいなんて思っていないよ。
ただ君の本音が知りたかっただけなんだ」
「じゃあ、俺は何もしなくていいんすか」
「当たり前じゃないか」

笑って言うと、「良かった」と越前は体から力を抜いた。

「本気で焦った……。もしかして、生きて来た中で一番かも」
「あんなこと言うからだよ」
越前の額を指で軽く押してやる。

「告白を断るにしても、あんなこと冗談でも言ったら駄目だよ。
今回は助かったとしても、本気で取る奴がこの先にいるかもしれない」
「そうっすね……。今、よくわかった」
しゅんとなった所を見ると、反省しているらしい。
今後は僕に言ったような断り方をすることは無さそうだ。

「でも、どうしてあんな事言ったのかな?聞いていい?」
問い掛けると、越前は気まずそうに目を泳がす。
話そうか迷いながら、最後には口を開いた。

「ああ言えば、諦めてくれると思ったからっす。今まではそれで撃退していたから」
「今まで?」
「うん」
越前は過去を思い出すかのような目をした。
「俺、アメリカでも何故か女子よりも男から告白受けることが多かったんだ。
なんでなのかはわからないけど」
それは君が可愛いからとは言わないでおいた。
越前はそんな言葉決して望んでいないだろう。
「色々迫られることも、セクハラされることもあってほとほと嫌になったんだ。
しかも皆、俺のこと女の代わりみたいに扱ってくる。そんなの真っ平なのに。
だったらこっちが押し倒す方だぞって脅しかけたら、相手が逃げ出して。
それからかな、そう言って断るようになったのは」
「そう、だったんだ」
「不二先輩もそれで諦めるかと思ったんだけど」

とんだ誤算だった、と頭を掻く。
「まさかこんな展開になるとは思っていなかったっす。先輩はいつから気付いていたの?」
「最初はわからなかったよ」
僕は正直に答えた。
「図書室で会話した時かな?違和感に気付いたんだ。
君が男を押し倒すように見えなかった。
このまま諦めるよりも、ちゃんと知りたかったんだ。だから確かめてみた」
「ふーん、良い勘してるね」
力なく笑って、越前は僕を見た。

「さっさと諦めてくれれば良かったのに」
「悪いね。諦めは悪い方なんだ」
「それはよくわかった。まさか誘われるとは予想外だったから。
ねえ、でも俺がやけになって押し倒したらどうしてた?」
「さあね」
僕は首を傾げた。
「でもどちらにしろ、それ以上は進まなかったと思うよ。
君が本気で僕を抱きたいという気持ちにはならないだろうから」
「そうっすね」
越前は、がくっと項垂れた。
今日まで上手く交わしていたことが、ここに来て通じない。かなり困っているみたいだ。

そんな彼に、僕は手を差し伸べた。

「先輩?」
「ねえ、越前。もう一度僕の気持ちを聞いてもらえないかな?」
「……」

じっと見詰めると、越前は「いいよ」と小声で言った。
それを聞いてから、再び僕は彼に告白をした。

「君のことが、好きです
最初に言われたことが引っ掛かって、悩んだりもした。
でも一緒にいたいという気持ちは変わらなかったんだ。
その位、好きだから。
そんな君に無理強いもさせたくない。
キスから先のことはとりあえず置いといて、今は僕と一緒にいてくれないかな。
付き合って下さい」


越前は何も言わない。
しばらく沈黙が続いた。
僕は焦ることなく、回答を待ち続けた。
勿論、断られても諦めるつもりは無い。
何度だって再挑戦しようと決めている。
今日は、気持ちを伝えることが出来ただけ満足するべきなんだ。


「いいよ」
「え?」
「先輩の気持ちはわかった」

静かに越前が口を開いた。
「あの、越前」
「あんな条件出しておいて、逃げなかったのは不二先輩が初めてっす。
ちょっと心動かされたかも」
「本当?」
「うん」
「やった!」

思いがけない結果に、心が嬉しさで一杯になる。
越前が頷くと同時に、僕は目の前の小さな体を抱きしめた。
「ちょっと、先輩!?いきなりこんなことは」
「くっ付いているだけだから、お願い!今日だけ大目にみてよ。
君と付き合えると思ったら嬉しくって」
ね?と顔を覗きこむと、仕方無さそうに越前は頷いた。

「くっ付くだけっすよ」
「勿論」


どうやら、明日は英二に良い報告が出来そうだ。




こうして、僕達は晴れて付き合うことになった。

失敗したら、僕の貞操が危険に晒される所だったんだけど、賭けに勝ったんだ。

彼の心を得る為に、思い切って告白して良かったと思う。
そうじゃなかったら、今こうして越前が腕の中で笑っていることは無かったのだから。


キスから先のことは、後々考えればいい。
説得には自信がある。

時間を掛けるのも楽しいよね、と何も知らない越前の体をより一層強く抱きしめた。


終わり


2009年04月02日(木) 僕の告白 2 不二リョ

越前の言葉と表情に打ちのめされた僕は、当然その後の練習に身が入る訳がなく、
何度も手塚と竜崎先生から注意を受けた。


「不二ー、今日どうしたの?調子悪そう」

朝練が終わり、教室へ移動する。
早速、英二が寄って来て僕の顔を覗きこんだ。
多分、動揺していることを見抜かれていたのだろう。
何でもないと言ったところで、追求は続く。
仕方なく、僕は無難な言葉を口にした。

「昨日、夜更かししたって言ったじゃないか。だから、ちょっとね」
「なーんだ」
英二は頭の上で手を組んだ。
これで納得したかな?と思ったのも束の間、
「てっきりおチビのことで悩んでいるかと思ったのに」とずばり言われてしまう。

「ええ!?」
一瞬息が止まる。
まさか、まさか英二に知られていたの?
「ねえ、英二」
肩をぐいっと掴むのと同時に、担任が教室へと入って来た。
「話は後にしよ」
そう言って、席へとつく英二を止められるはずがなく。
「うん」と頷くしかなかった。




「地区大会が終わった頃かなあ。やたらとおチビのこと目で追っていた気がしたんだ。
不二が誰かに興味を持つって珍しいじゃん。それで観察してたら、わかっちゃった。
ああ、そっか。おチビのこと好きなんだって」

休み時間に英二は、何故僕の気持ちに気付いたのかを簡潔に語ってくれた。
どうやら自分でも思っている以上に、越前のことを見ていたようだ。
うわあ、と凹む僕に、英二は「大丈夫」と言った。
「気付いているのはー、俺と乾位だって。
後は不二がどこを見ているかなんて、気付いていないよ」
「ああ、そう」
乾もか、と肩を落とす。
そうだ。英二が気付いて、乾にばれていないはずがない。
こっそり胸の内に秘めていたのに、二人の人間に知られていたという事実は地味に僕を打ちのめした。

「で?おチビに告白すんの?それで悩んでいるんだろ?」
「えっと……」
告白はしたけど、別件で悩んでいるとは言えず黙ってしまう。
沈黙を肯定と受け止めたのか、英二は「だったら今日のお昼休みがお勧めだよ!」と指を突き出して来る。
「は?昼休み?」
「うん。今日、おチビと話しをした時に放課後は図書当番で遅れるって言ってた。
昼休みも当番だって。
どう?昼休みの図書室!告白に最適だろー。はい、チャンス到来!」
「……どうしてそうなる訳?」
「善は急げって昔の偉ーい人は言ってた。よし、行って来い!」
「だから…」
全く話を聞かず、英二は一人で盛り上がっている。
ま、いいや。
どうせ越前とはもう一度話をしようと思っていたのは確かだ。

あのままじゃ引き下がれない。
何か、まだ二人で幸せになれる道はあるはずだ。
僕はそう信じている。




そして昼休み。
英二に送り出される形で、教室を出た。
そして目的地の図書室のドアを静かに開ける。
カウンターに視線を向けると、越前がそこに座っているのが見えた。
迷わず僕はそこへ近付く。

「こんにちは」
挨拶すると、越前は「ああ」というような目で僕を見た。
「本を借りに来たんすか」
「ううん。実は君に用があって」
途端にこちらを見る目が険しくなる。

「何?まさかここで話そうっていうつもり?」

生徒の数は少ないが、いることには変わりない。
ここで会話していたら、きっと筒抜けだ。
しかも内容は……あんなのだから余計憚られる。

「違うよ。ちょっと場所を変えて話せないかと思って」

図書室にはいくつか死角になる所がある。生徒が来ないような本が置いてあるコーナーとか。
小声で会話をしたら、誰かに聞かれることは無いはず。
そう思って誘ってみたのだが、越前はどうも気乗りしないようだ。

「俺、委員の仕事があるんで」
カウンターから離れられないと、そっぽを向いてしまう。
駄目だ。失敗した。

どうしようと落ち込んでいると、ドアが開く音がした。

「ごめんね。遅くなっちゃった」
やって来た女子生徒は越前に謝罪しながら、カウンターの中へと入る。
どうやら今日のもう一人の当番らしい。

「私、返却の本片付けてくるね」
積み上げられた本を見て、彼女は再びカウンターから出ようとする。
遅れて来た罪滅ぼしとして、全部元の場所に一人で戻そうと思ったのかもしれない。

でも、僕はそれを遮った。
越前と会話をする良い機会だと思い付いたからだ。

「本なら、僕と越前とで片付けて来るから。君はここで座っていて」
突然の申し出に、二人が声を上げる。
「え?」
「先輩何言ってんの」
予想通りの反応にニコッと笑いながら、僕は本を手に取った。

「行こうか、越前」
「……」
「いいよね?」

多少強引かもしれないが、彼と話す為だ。
僕は目で必死に訴えた。

「………」

何か言いたげな(恐らく文句だろう)顔をしながらも、
越前は渋々椅子から立ち上がる。
「ここ、お願いしてもいいっすか」
「えっ、はい」
女子生徒と入れ替わりに、越前が外へと出る。


「あんた、強引過ぎ」
「ごめん」

本は僕が手に持ったまま歩いて行く。
所定の棚に行くと、越前が手を出すから渡してやる。
そして元の場所へと戻すのを繰り返した。
全部終わった所で、僕らは人気のいない方へと移動した。


「一体、どういうつもりっすか」
越前は少し怒ったように言った。
「まだ覚悟も出来てないくせに、俺の所に来ていいんすか」
挑発的な態度に、ぞくっとさせられる。
あ、別に彼に押し倒されても良いと思った訳じゃない。
どっちかというと、逆だ。
でもそうしたら、最後。付き合うことは出来なくなってしまう。
慎重に僕は口を開いた。

「その覚悟についてなんだけど。
越前、君は本当に僕のこと抱きたいとか思うのかな?」
「……」
「どうなの」
畳み掛けると、越前は僅かに目を逸らす。

どうしても彼が女の子ならともかく、同じ男を組み敷くとは想像出来ない。
ひょっとして、断る口実だったりして。
そんな疑問が浮かんだ。
それを直接、越前にぶつけてみることにした。
怯んでいる所をみると、図星かもしれない。

「もしかして、今までそんな経験も無いんじゃ」
「それについてはノーコメント」
越前は僕の顔を見ないままで言った。

「先輩には関係無いでしょ。
付き合うかどうか決めるのは、先輩が俺を受け入れるかそうじゃないかってことだけ。
駄目ならこの話は無かったことにすればいい」

話を終えて逃げようとする越前の腕を、捉まえる。
今度こそ、これで終わらせたりしない。
その為にも、確かめなくちゃいけない。

「だったら、さ」

この賭けに負けたら大変なことになるのはわかっている。
それでも越前を得る為にも迷ってなんかいられない。

「今日、僕の家に来てよ。誰もいないからちょうど良いよね」
「え……」
「越前の言ったこと、試してみようよ。
クリア出来たら、僕と付き合ってくれるんだよね?
だったら、してもいいよ」

ぽかんと口を開けた越前に、僕は笑顔を向けた。

「部活が終わったら、一緒に帰ろうね」

とんでもないことになりそうだけど、
もう止める訳にいかない。
賽は投げられたのだ。


2009年04月01日(水) 僕の告白 1 不二リョ

必死な僕の告白に、彼は顔色一つ変えない。
そっと口を開き、いつもの素っ気無い声で答えた。

「そうっすか。でも俺と付き合いたいと思っているのなら、
先輩、あんたが突っ込まれる方だよ。その覚悟は出来てる?」

強い意思が篭った目に、一歩も動けない―――。



「っ!?」
ぱちっと目を開ける。視界はまだ暗い。
脇に置いた時計を見ると、時刻はまだ夜中だった。
考え事をしている内に少しうとうとして、先程の夢で目を覚ましてしまった。

「夢、じゃない」
大きく息を吐いて、枕に顔を埋める。
そう、夢なんかじゃない。
今日……ああ、日付が変わったから昨日か。
僕は、後輩の越前リョーマに告白をした。

入学時から一際目立っていた彼は、あっという間にレギュラーの座を獲得して、
大会でも実力を余すことなく発揮している。多分、まだまだこの先も伸びて行くのだろう。

しかし越前が人目を引くのはテニスの腕前だけじゃない。
物怖じしない言動。挑発敵な態度。
越前は相手が年上だろが遠慮はしない。
青学では最初は反発していた二年生達は、越前の実力を目の当たりにしてからはすっかり静かになっている。
けど、相手が他校生ではそうはいかない。
越前の態度が元でケンカに巻き込まれるんじゃないかって、気が気でならない。
知らない所で何かあったらどうしようと心を痛めたことだってある。

そうでなくても違う意味でも、絡まれることだってありそうなのに。
少しくせのある綺麗な髪。どこに力を秘めているのかと驚かされる華奢な体。
そして何より越前のパーツの中で印象的なのが、大きな目だ。
見詰められたら、呼吸が苦しくなり動けなくなる。

それが恋だと気付いたのは、地区大会が過ぎた辺りだった。
彼が目に怪我をして、片方の目が眼帯で覆われたのを見た時、
もう彼が傷付くのを見たくない、出来ることなら代わりたいと強く思った。
多分、それが越前を意識をし始めた瞬間だった。

それからはいつの間にか、彼のことを目で追っていて。
眼帯が取れた時、良かったと安堵したのを覚えている。
そして両目を再び見たら、何だかすぐに告白したい衝動に駆られた。

どうしてあんなに焦ったのか、僕にもわからない。
けど、さっさと告白しないと、一気に越前が遠くなってしまう。そんな予感がしたんだ。
実際、彼は女の子達にも人気があった。
それだけじゃなく、偵察に来る他校の生徒達も何だかじっとりした目で彼のことを見ている……気がする。
そういえば大会でも越前のことをそんな風に見ている選手も何人かいたような。

隠されていた瞳をもう一度見た瞬間。
早くしなくちゃ、もっと大勢の人が越前の魅力に気付く前に。
告白して、彼を手に入れてしまおう。
そう思ったんだ。


放課後。時間をくれないかと休憩時間に耳打ちすると、驚く程簡単に彼は頷いてくれた。
そして人気の無い所に連れ出して、思いを告げる。

「君が好きです。どうか、付き合って欲しい」

手に汗がじっとりと滲む。こんなに緊張したのはいつ以来だろう。
越前は何て答えるのかと、じっと顔を見詰める。
驚く?笑う?それとも嫌悪する?
ちらっと反応をうかがうと、そのどっちでもない普段と変わらない顔で僕のことを見ていた。


「そうっすか。でも俺と付き合いたいと思っているのなら、
先輩、あんたが突っ込まれる方だよ。その覚悟は出来てる?」

予想外の言葉に、僕は固まって動けなかった。
「話はそれだけ?じゃあ、俺帰るっす」
そして越前はその場から去って行ってしまった。

あれは一体何だったんだろう。
ようやく動けるようになった僕は、越前に言われたことの意味を考え始めた。
帰り道も、夕飯の時も、ベッドに入ってもまだ考えている。
ずっと上の空だった所為で、家族がどうかしたのかと心配げに声を掛けて来たけど、
何も言えなかった。
まさか「突っ込まれるかどうかで悩んでいる」なんて言えるはずない。

僕は、ただ好きだと伝えたかっただけなのに。
キスから先のことなんて、考えてもいなかった。
それら全てを飛び越えた発言を、越前から聞かされるなんて予想しなかったよ。

どうしよう。
もう一度、自身に問い掛ける。
越前と付き合いたい。
けどそれで提示された条件を飲むかと言われたら……やっぱり遠慮したいかも。
キスの先を想像すると、僕が越前を押し倒している図しか浮かばない。
越前の言ったことと、反対だ。

困ったな。

こうしていたも堂々巡りだと、息を大きく吐く。
どういう意味で、越前があんなこと言ったのかわからない。
ひょっとしてからかっているのかも。
まさかあの彼が、本気で男の僕をどうこうしたいなんて考えるはず……ない。
そうだよねと言い聞かせて、明日もう一度確認しようと決める。
明日じゃない、今日だった。
もういい、と寝直すことにする。眠りの世界へ行こうと、目をぎゅっと閉じた。





「おはよー、不二。あれ、なんか目の下に隈が出来ていない?」
「おはよう、英二」
朝から英二に鋭いツッコミを受けて、笑って誤魔化す。
「昨日、本を一気に読んでいたら、つい夜更かししちゃってね」
「ふーん、何の本?」
「……」
何でもいいじゃないかと、頬が引き攣る。こういう時に限って、追求してくるんだから。
「サボテンの本、だよ。色んなことが書いてあって為になる」
「へえ。相変わらず熱心だにゃあ」
それで気が済んだらしい。
ちょうどやって来た桃城に向って「おはよ−、桃!」と駆け寄って行く。
やれやれ。
まさか越前の発言について悩んでいたなんて、とても言えないよ。
ほっとして、胸を撫で下ろす。


「あ」

桃から少し遅れて、越前がこちらに向って来るのが見えた。
今朝は練習に遅刻しなかったようだ。ひょっとして、桃の自転車に乗せてもらって来たのかもしれない。
そうだ、と僕は閃く。
越前がコートに入る前に、捉まえよう。この後、ちょっと話がしたいから。
僕は慌ててコートの外へと出た。

「おはよう、越前」
「ちーっす」

素っ気無い挨拶。けど、良かった。いつも通りだ。
変に避けられたりしたら、気まずい。

「あの、越前」
「何すか?」

僕を見上げる越前の表情は、昨日の出来事は無かったかのように普段と変わらない。
本当に忘れていたりして。
ちょっと不安になる。

「あの、後で少し時間くれないかな。手間は取らせないから」
「何で?」
「何で、って昨日のこと……もっと詳しく聞きたいんだ」

そう言った僕に、越前は鼻で笑った。

「その様子だと、覚悟は出来ていないみたいっすね」
「え……」
「俺は本気。差し出す覚悟が無いなら、悪いけどあんたとは付き合えないっすね」
「越前、あの」
「もういいっすよね。じゃ、朝練始まるんで」
あっさりとした口調で、越前はスタスタと歩いてコートへと行ってしまう。

あの言葉が本気だったなんて。
どうしたらいいんだ!?

青褪める僕に、
「不二!朝練を始めるぞ。整列しろ!」と、手塚の声が響いた。


チフネ