チフネの日記
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2008年10月07日(火) 2008年 手塚誕生日小話

10月7日。その日の昼休み。
疲れを癒す為に、リョーマは屋上でのんびりと寝そべっていた。
日差しはさほど強くなく、眠気を誘う位心地良い。
でも、リョーマは眠れずにいた。
疲れ過ぎて、逆に目が冴えてしまっている。

(あー、もう本当っ、くたくただよ……)

原因を思い出して、眉を思い切り寄せる。
よくも好き放題してくれたなと、内心で悪態をつく。

事の経緯はこうだ。
今日は恋人である手塚の誕生日。
『一番に祝って欲しいから泊りに来てくれないか』
そう頼んできた手塚に、案外子供っぽい所があるんだと思いつつリョーマは即座に承諾した。
嬉しかったからだ。
手塚が一番に祝って欲しい相手だと、はっきり言ってくれたことがたまらなく嬉しかった。
そんな風に喜んだ自分を、今は殴ってやりたい位だ。

そして日付が変わる瞬間、『おめでとう』とリョーマはお祝いの言葉を口にした。
『ありがとう、越前』
『……』
手塚が顔を近づけて来たのを、リョーマは黙って受け止めた。
その後、パジャマを脱がしていく手も払いのけることはしなかった。
多分こういう展開になるんだろうなとは予想してたからだ。
それでも平日は部活があるからと、ずっと気遣っていてくれたから、誕生日とはいえ当然手加減してくれるものだと…信じていた。
手塚は引退した身だが、リョーマは次の日も朝練を控えている。
ちょっとだけなら平気だろう。
そう思ったが、甘かった。

(朝までするなんて、あの人何考えてんの!?)

誕生日というイベントの所為か、手塚の気持ちの中で何かがぷつっと切れてしまったみたいだ。
もう無理、と涙を滲ませて訴えても、手塚は開放してくれなかった。
結局流されて、付き合ってしまった自分も良くないのだが、それにしても限度ってものがある。
おかげで朝練に出ることも叶わず、放課後は罰走確定だ。
手塚に文句を言うと、しれっとした表情で『俺と特訓してたことにすれば良いだろう。そう言っておけ』と意味不明な言葉が返ってきた。特訓って、腰限定ですか?馬鹿か。
そんなの新部長となった海堂に『元・部長の所為。俺は悪くない』と訴えても無駄だろう。
最悪、とリョーマは声に出して言う。

朝練に出る体力位は残しておく気遣いすら出来ないなんて、酷過ぎる。
その訴えにも、『だったらもっと体力を付けるべきだな』と、真面目に言う手塚はどうかしているとしか言えない。
『よし、ならばその手伝いをしてやろう』
くたくたになった体に再び手を伸ばしてきた時は、本気で腹を立ててその辺に置いてあった目覚まし時計で殴ってやった。
手塚は低く呻いたが、良い気味だと思う。

(もうあんなエロ(元)部長のことはしばらく忘れて寝よう。
というか、エッチもこの先お預けだね)

ゆっくりとリョーマは目を閉じた。
が、屋上のドアがキィと音を立てて開かれる。

「おチビ〜、やっぱりここにいたあ」
「やあ、越前」
見知った先輩達の登場に、リョーマは驚いて体を起こした。
「不二先輩に菊丸先輩…?なんで、ここに」
「いや、良い天気だから俺達もここで休憩しようかなと思ってね〜」
人懐っこい顔で、菊丸が笑いながらすぐ隣に腰を下ろす。
「風が気持ち良いね。越前がお昼寝したくなるのもわかるよ」
不二も笑って、菊丸と反対側に座る。
「……なんで、そんなに近くに来るんすか。他の場所も空いてるのに」
「いいじゃん。おチビといたいんだもんー」
「そうそう。たまには一緒にお話しようよ」
二人に挟まれて、リョーマの胸に何か嫌な予感が込み上げる。

「ところで越前。今日は何の日か知ってる?」
不二が唐突に口を開く。
「何の日って、あの」
「知ってるんでしょ。ねえ、おチビ」
にやっと笑う菊丸に、リョーマは思わず体を後ろへ引こうとする。
しかし不二が腕をがしっと掴んで逃げることは出来ない。

「あの、不二先輩出来れば放して欲しいんだけど」
「駄目だよ」
「なんで!?」
「僕達、手塚に何をプレゼントしようか迷っていたんだ」
「それが、なんなの」

関係ないとばかり不二の手を振りほどこうとするリョーマに、
今度は菊丸が逆の腕を封じ込めて来る。

「手塚の趣味ってよくわかんにゃいから、直接聞いてみたんだ。
欲しいものはなんなのって」
「……」
リョーマの額に汗が流れた。
危険だと本能が忠告している。けど動けない。

「手塚が言うには、『俺は越前と過ごせる時間さえあれば何もいらない!』だってさ」
「そうそう。素敵な誕生日を送る為に、俺達も協力してやろうと思うんだ」
「朝、拒否されたって落ち込んでたよ。だから、僕らからのプレゼントは゜二人きりで過ごす昼休み’に決定したって訳」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
不二と菊丸の言葉に、リョーマは必死で抵抗する。
しかし足は菊丸に押さえ込まれて、手は不二によって後ろに固定されたかと思うとリボンで縛られてしまう。
「はい、プレゼントの出来上がりー」
「後は手塚に持って行くだけだね」
「待ってよ。俺をどうするつもりなんすか?」

怖かったが、リョーマは一応聞いてみることにした。
菊丸と不二は顔を合わせて、にやっと笑う。
嫌な笑顔だ。

「決まってるでしょ。手塚にプレゼントとして進呈するんだよ」
「その後は手塚次第だにゃー」
「どこで渡すつもりっすか。まさか人前で」
「その点は大丈夫!」
自信たっぷりに菊丸が胸を張る。
「海堂から部室の鍵を借りてあるから、二人きりで過ごせるよー」
「海堂先輩から……」
はあ、とリョーマはため息をついた。
きっと放課後は、迷惑なのと気の毒なのと複雑な目で見られるだろうなと思う。
それにしても部室を私用で使うようなことをして欲しくない。
「でもすぐ授業が始まるのに」
無駄だとわかっているが、リョーマは抵抗を続けた。
すると今度は不二がふっと鼻で笑う。
「その点はぬかりないよ。越前は具合が悪くなって、5時間目は保健室で休むってことにしておくから」
「しておくからって、そんな簡単に」
「僕に出来ないことは無いよ」
「……」
不二に言われると、本当にその通りな気がするから困る。
とにかく、不在を誤魔化すことは可能らしい。

「それじゃ、手塚の所へ移動にゃー!」
「一気に行くよ」
「え、ええ!?」
二人に抱え上げられた、かと思うと屋上から階段まで駆け抜けて行く。
途中、何人かの生徒に目撃されたことにリョーマは悲鳴を上げたが、
不二も菊丸も聞いちゃいない。
「先輩達、見られてる見られてるっ!」
「はいはい、もうすぐ部室だからね。静かにしてー」
「頑張るにゃ!」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない!」

後から誰かに聞かれたら、なんて答えよう。
どうしてこんなことになったかって?

(決まってる、全部部長の所為だー!)

この二人にとんでもないことを吹き込んだ、それが全ての元凶だ。
絶対後で文句言ってやる。でなきゃ気が済まない。

部室に到着して、ようやく地面へ降ろされる。でも縛られたままで、逃げられないよう不二が肩を掴んでいる。
どうにもならない状態だ。

「手塚、お待たせー!誕生日プレゼント持って来たよ」
菊丸の声に、中から扉が開かれる。
「越前っ!」
「はい、僕達からのプレゼント。時間は有効に使ってね」
にこっと笑う不二に、手塚は顔を僅かに険しくなる。
そして厳しい声で、「申し出はありがたいが、断る」と言った。

「えっ」
「ええ?」
リョーマも驚いて声を上げてしまう。

(部長、なんで?この二人に頼んだんでしょ?
それとも、不二先輩達が勝手に仕組んだこと?)

困惑するリョーマを余所に、手塚はきっぱりと菊丸と不二に告げる。

「越前に授業を放棄させるような行為を俺が望んでいると思っているのか。
悪いが、このプレゼントは保留させてもらう」
「手塚、本気?」
「ああ」

きっぱり頷く手塚を見て、リョーマはほっと息を吐いた。

(やっぱり部長だ。そうだよね、こんな馬鹿みたいな誘いに乗るはず無いって信じてた!)

ちょっと外れる行動はあるが、基本的に真面目な性格な手塚が、
授業をさぼって部室で事に及ぼうとするなんてあり得ない。
よく考えればわかることだ。

朝の態度から一変して、尊敬した目で手塚を見詰める。
「どうかしたのか、越前」
「ううん。なんでも無いっす」
心配そうに振り返る手塚に、リョーマは明るい声を出して答えた。

「なんだ、折角のプレゼントなのに受け取ってくれない訳」
「そうだよー。苦労したのに」
ぶちぶち言う菊丸と不二に、手塚は「気持ちはありがたいが」と苦笑しつつ礼を言う。
それでも引かない彼らに、手塚は仕方ないとばかり何かを耳打ちする。

「わかったよ、もう」
「じゃあ、もう帰る。バイバイ、おチビ」
「はあ、バイバイ……」
やけにあっさりと引いていく3−6コンビに首を傾げていると、今度はぐいっと手塚に手首を掴まれ、部室に引き込まれる。
何かされるかと身構えたが、それはただの懸念だった。
手塚はすぐリョーマを開放して、真摯な姿勢で謝罪を口にする。

「すまなかったな、越前。俺の不用意な発言な所為でおかしなことに巻き込んでしまった」
「あー、うん……確かに大変だったけどね」
けれど、手塚の態度を見てどうでもよくなっちゃったのも確かだ。
あの二人に流されるような人じゃなくて良かったと、内心見直してたりもする。

「悪かった」
恐縮して項垂れる手塚が気の毒になって、リョーマはもうこの件は水に流そうと決めた。
「別にもういいっすよ。あの二人も悪気があってやったことじゃないんだから、多分」
「そうか、良かった。今朝もずいぶん怒らせたみたいだから、この件で口も利いてくれなくなるんじゃないかと心配した」
「そんな訳無いじゃん……、もう怒ってないよ」
「怒ってないのか?」
「うん」

ほっとしたような笑顔を向ける。
その顔にドキドキしてしまう自分は、なんて単純なんだろうと思う。

(これが惚れた弱みって奴?)

結局、深夜から今朝にかけてされたことも許してしまう。
甘いなと思うけれど、手塚のことが好きだからどうしようも無い。

「でも、惜しかったな」
「何が?」

仲直りしたことで、二人は昼休みが終わるまでと体を寄せ合う。
残念そうに呟く手塚に問い掛けると、あの真面目な声で答えが返って来る。

「今日が休日だったら、授業の時間など気にすることなく一日中ベッドの中にいられたはずだ。
そう考えると平日なのが実に惜しい。そう思わないか、越前」
「え…??」
「まあ、いい。学生の本分は勉強だ。授業にはきちんと出るべきだ。
どの代わり部活が終わったら、迎えに行くからな。今日も母にお前の分の夕飯を頼んである。
そうそう、家の方にも連絡もしておいた。よろしく頼むとお願いされたぞ」
「あのー、ちょっと、部長」
「7日が終わるまではまだ時間があるからな。油断せず行こう」
「今夜も!?ねえ、そのつもりっすか?」
「当然だ」

冗談じゃないと、リョーマは青くなった。
とりあえず授業には行かせてもらえるから、その後は部活をさぼってでも逃げ出そう。
これ以上付き合いきれない。絶対、無理。

(見直した俺が馬鹿だった!やっぱり付き合い方を考えさせてもらおう……しばらく所か、来年まで距離を置いてもいいんじゃないの)


しかしその後脱走を図ろうとしたが、手塚の依頼によって見張っていた不二と菊丸に捕獲され、今度こそプレゼントとして引き渡されてしまう。


そうして二夜連続、リョーマは手塚の本気とやらに付き合わされて夢を見る暇さえ与えられず、ぐったりとした状態で次の日の朝を迎えた。


2008年10月04日(土) 2008年 跡部誕生日小話

完全に油断していた。
腕力は自分の方が上だと過信してたのが不味かった。
両手首はがっしり後ろで縛られれ、おまけに椅子に括りつけられている。足も同様だ。
動けない。
情けない状態のまま、跡部は叫んだ。

「さっさとこれを外しやがれっ。俺様の誕生日を祝いに来てくれたんじゃないのかよ!?」
目の前に立っている恋人は、ふっと鼻で笑う。
「祝いには来たよ。その気持ちは本当。でもね…」
その瞳が冷たく光る。
「あんたの要求に応えるつもりはこれっぽっちも無いから」
「はあ?ふざけんな。今日は特別な日なんだってわかってるのか?」
訴えてもリョーマは表情を崩さない。
「あんたの誕生日でしょ。知ってるよ。くどい位、何度も念押ししてくれたからね」
「そうだ。だったら、今日位俺の我侭に付き合ってくれてもいいだろ」
「ヤダ」
「リョーマっ」
「あんたの我侭って、口にも出したくないようなことばっかり。
それに付き合う義務は無いよ」
「……」

無言で睨みつけると、リョーマはぷいっと横を向けてしまう。

全く、なんでこんな事になってしまったのだろうと跡部は考える。
ただ、リョーマと楽しく…そう、楽しく誕生日を祝いたかっただけなのに。
派手なパーティはもういい。
恋人に祝ってもらう、それ以上の祝いがあるか?
そう考えて、誕生日のこの日はリョーマだけと過ごすと決めていた。
一日中自室で、朝から晩まで。
体力が続く限り、15歳の自分をリョーマに受け取ってもらうつもりだった。
他にもいつも以上に過激なことも、とちらっと考えたりもしていた。
考えるだけじゃなく、チームメイトに喋って自慢もしたこともあったが…。

そこから漏れたのだろうかと、青くなっていく跡部にリョーマは腰に手を当てて言った。

「思い当たるようなことがあるんでしょ」
「いや、俺は何も」
「ふーん、跡部景吾とあろう者が誤魔化すような真似するんだ」

やっぱり、ばれてる!
どう言い訳したものかともごもご口を動かしていると、リョーマが深いため息をつく。

「全く、何考えてるんだか。恥ずかしいを通り越して呆れるよ」
「待て!誤解だ。誰に何を吹き込まれたか知らないが、間違っている。俺を信じろ」
とにかく言い包めなければと、跡部は必死で訴える。
リョーマに密告した奴は、後できっちり仕置きするつもりだが、今はこの状態を立て直すのが先だ。
もう一度「信じてくれ」と言うが、リョーマは聞く耳持たないとばかりに首を横に振る。

「へえ……。皆からの忠告が間違いね。あれだけの人数前に喋っていたことも、嘘だって言うんだ。ふーん」
「皆?」
「そう、皆。だからさっさと縛っておこうって最初から計画してたんだよね」

最悪だ、と跡部は項垂れる。
調子に乗って、この日のことを自慢した自分を締めたい位だ。
まさか氷帝のチームメイトが全員リョーマに告げ口をしていたなんて。
悪夢としか言い様が無い。


跡部にとっては非常に最悪な結果だが、
氷帝の人々はリョーマの身を案じて密告しただけに過ぎない。
ついでに「ありがとう」と笑顔まで付けて礼を言われたのだ。
良いことをしたと、全員が喜んでいる。


「それで…どうするんだ。このまま帰るつもりかよ?」
怒っている恋人を宥める術など思いつかない。
すっかりしょげてしまった跡部は、俯いたまま声を出した。
自業自得とはいえ折角の誕生日にロープで縛られたまま、放置されるのだろうか。
不安そうな跡部に、リョーマはふっと笑ってロープを取り出したのと同じ鞄から何か取り出す。

「お祝いに来たんだから、帰る訳無いじゃん」
「本当か!?」
「うん。でも、景吾の期待しているようなことは無し。安全性を考えて、体勢はこのままで」
「ちょっと待て。ロープ位は解いても」
「あんたにそれを言う権利は無いだろ」
「……はい」
「よしっ」

リョーマは満足そうに頷いてから、鞄から取り出した箱のリボンを解き始めた。
「プレゼントもちゃんと用意したんだよ。
あんな事聞かされて、本当に腹が立ったけどね。
でも何も無しっていうのも可哀想だなーって思い直した」
そう言って跡部に箱を差し出す。
首を伸ばして覗き込むと、そこには小さなケーキが一つ入っていた。
ケーキだけ?
そう言いたげに跡部は顔を上げた。
リョーマはその考えもお見通しというように、くすっと笑う。
「それね、俺の手作り」
「手作り?」
冗談だろう?と思って聞き返すが、リョーマはこくっと頷く。
「だってお前、料理なんてほとんど出来ないじゃないか」
「だから菜々子さんにやり方を教わった。
2回も失敗して、材料も無駄にしたけどね。
あんたって手に入らない物無いから、プレゼント何しようかすごく迷った。
でも妄想に応えるつもりは無いし、だったらと思って俺の出来ることをしてみた。
誰かの為に料理したのは、初めてだよ。受け取ってくれる?」
「……ああ」

上擦った声で、跡部は答えた。
リョーマの手作りケーキ。今度はいつ拝めることになるか。
形が不恰好だけれどどんな一流店が出したケーキよりも跡部にとって価値のあるものだ。
出来れば永久保存しておきたい。
ところがリョーマは用意していたフォークをあっさりケーキに刺してしまう。
驚いた顔で固まる跡部に「食べるでしょ?」と一口大にして差し出す。

両手を縛られている為、跡部はフォークを持つことが出来ない。
ひょっとしてリョーマ自ら食べさせてくれるのだろうか。
期待に目を輝かすと同時に、リョーマがそれをぱくっと食べてしまう。

「おいっ、それは俺にくれるんじゃないのか!?」
動揺して思わず跡部が叫ぶと、リョーマは無言のまま近付いて来て首に手を掛けてきた。
そのまま引き寄せられ、今度は跡部の口に自分の口を押し付ける。

(リョーマからキス?一体どうなってんだ)

思考が固まって動けない跡部はされるがままだ。
記憶の中に、リョーマからキスされたことは一度も無い。初めての行為だ。
ぼんやりとしている間に、リョーマは少し開いた唇にさっき口に入れたケーキをねじ込んで来る。
そんなに甘くないクリームの味が、跡部の口に広がって行く。
一生懸命奥へと押し込もうとするリョーマの舌の動きに応えるように、
跡部もケーキと同時に柔らかな感触を味わった。

「どう?美味しい?」
ふうっとリョーマが息を吐いて、唾液を拭う。ついでに跡部の唇の端も拭ってくれる。
にこっと可愛く笑うリョーマに、跡部は真顔で頷いた。
正直ケーキの味よりも、リョーマからのキスに感動していたのだがそれは黙っておく。
「ああ、最高だ。美味かったぜ」
「まだ残ってるけど、食べる?」
箱を指差すリョーマに、跡部は即答した。
「お前が食べさせてくれるならな」
「じゃあ、もう一口いこうか」

今度は椅子に縛られた跡部の膝の上に乗って来た。
ケーキを口に含んでリョーマはぎゅっと抱きついて来る。
跡部が自由になれないと思って、大胆になっているのだろう。
またクリームとケーキをお互いの舌で味わいながら、最後にちゅっと軽いキスをする。
「誕生日、おめでとう景吾」
「ありがとう、リョーマ。もっと祝ってくれるか?」
「しょうが無いなあ。そんなに俺の作ったケーキ食べたいの?」
「ああ。今まで食べた中で一番美味しい。だからもっとくれ」
「うん、いいよ」

気分良くリョーマは何度もケーキを跡部の口へと運んでくれた。
跡部が自由に動けないとわかっているから、次第に大胆になっていく。
手足が縛られているので、跡部は顔だけ近づけてリョーマの耳元から首筋にキスをする。でも嫌がらない。
むしろ嬉しそうにくすくす笑っている。
お返しとばかりに今度はリョーマがケーキを跡部の口へと押し込む。その繰り返しだ。
そうしている内に膝の上に乗ったリョーマは挑発するかのように下半身を密着させて来た。
ぎょっとして目を見開く跡部に「でも、残念。何も出来ないでしょ」と言う。
「ケーキで我慢してよ」
「……はあ」
「ほら、もっとあげるから」

とうとう最後の一切れを口に入れて、リョーマがキスをして来る。
跡部はそれを存分に味わってから、ゆっくり唇を離した。

「で?このまま帰るつもりかよ」
「もうちょっといるけど、でも景吾はこの格好のままでいてもらうよ。危険だからね」
「冗談じゃねえ。あんなに挑発しておいて、じっとしていられるかよ」
「でも動けないよね。大丈夫、帰る時にはロープ解いておいてねって、伝えておくから」
「その必要は無いぜ」
「え?」

にやっと跡部は笑って後ろに縛られていたはずの手を動かし、素早く膝に乗っていたリョーマを捕獲する。
「何、どういうこと!?いつの間に解いていたんだよ!」
「油断してたお前が悪い」
じたばたするリョーマを片手で押さえ込み、もう一方の手で両足のロープも解いた。
「いつから自由になっていたんだよ!」
憤慨するリョーマに、跡部は余裕の表情で答えた。
「二度目にケーキをくれた時だな」
「じゃあなんでその時に、反撃しなかったんだよ」
「リョーマからのキスが嬉しかったからに決まってるだろ。あんな機会滅多にないからな」
「最低。自由になっていたくせに、面白がってたんだろ!」

逃げようとするリョーマをがっしりと両手で抱きしめて、
跡部は楽しげに笑った。

「嬉しいプレゼントを貰ったことだし、お返しをしてやらなねえと俺の気が済まないな」
「い、いらないっ。お返しなんて必要無い!」
「是非させてくれ、リョーマ。15歳の俺様がたっぷりともてなしてやる」
「ヤダ。俺、もう帰る!」

そうは言っても、リョーマの自由は跡部が握っている訳で。
巧みな手の動きに、次第に抵抗する力を失ってしまう。

結局、跡部が望んでいた通りの誕生日がほぼ再現されることになった。







月曜日になって、
大層ご機嫌な跡部を見た氷帝のチームメイト達はリョーマに何が起こったか即座に理解し、大いに同情した。
しかしその後、告げ口した彼らに恐ろしい制裁が待っているのは言うまでも無い。



チフネ