チフネの日記
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2008年02月14日(木) 鳳リョ・誕生日編

取り囲まれてるリョーマを発見して、鳳は急いで駆け寄った。

こんな心配があるから、出来れば氷帝には来て欲しくないのだ。
「絶対、今日は迎えに行くから!」と主張するリョーマに折れてしまったが、
やはり間違いだったと再認識する。

「先輩達!リョーマ君から離れて下さい!」
「ちっ、やけに早い登場じゃねーか」

舌打ちして振り返ったのは、元部長の跡部だ。
続いて忍足が「日吉の奴、ちゃんと足止めしたんか?」と、眼鏡のずれを直す。
「俺はちゃんと頼んだぜ。あいつの分のチョコも渡してやるって言ったら、
OKしたんだからな」
「だから岳人、二つ持っているんだ」
「まあな、この位の頼み聞いてやるのが先輩ってもんだろ」
向日と芥川がどうでもいい事を話している。

鳳は一歩前に出て、大きく声を上げた。
先輩に対して・・・と思わないでも無いが、怯んでいる場合じゃない。

「珍しいとは思ったんですよ。いつも一人で練習してる日吉が、俺を誘うなんて。
先輩達の命令だったんですね」
「だからどうした、あーん?」
「約束があるからと言って、今日は無理だと言っても引きとめようとするし。
最後には武術使って足止めようとするんで、ここに来るまで苦労しました。
結果的にちょっと気絶させてしまいましたが・・・」

仕方ないですよね、と鳳は爽やかに笑う。

笑う所じゃないだろ、と皆は心の中で突っ込む。
その笑顔の裏側に見えた黒さを見てしまい、言葉に出すのはためらわれる。

「リョーマ君。こっちに来て」
先輩達の後ろにいて見えなくなってしまってるリョーマに、鳳は手を伸ばした。

「長太郎!」
「痛ぇ!」

近くにいた跡部を突き飛ばし、リョーマは鳳の元へと駆け寄る。

「大丈夫だった?何かされなかった?」
心配そうに顔を覗き込む鳳に、リョーマは目を伏せてふるふると首を振った。

「怖かった。いきなりこの人達がチョコ受け取れって迫ってきて、
イヤだって言うのに無理矢理押し付けようとした!
断っているのに!」

まるでか弱い小動物のような。
切々と訴えるリョーマの姿を見て、鳳は「可哀想に、怖かったんだね」と呟く。

「鳳、違うぞ!
たしかにチョコレートを渡そうとしたが、越前は「いるかそんなもの、どっか行け!」と
啖呵切ったんだぞ!?怖がってなんかいねーよ」
「そうだよ、これ位が越前が怖がるもんか!」

跡部と向日の言い訳にも、鳳は耳を傾けない。
見えるのはただ愛しい人の、怯えた姿それだけ。

「先輩達・・・リョーマ君に近付くなと何回言ったらわかるんですか?」
「ちょお、待ってや。ここは冷静に、な?」
「そうそう。感情的になるのやよくないC」
「何度言ってもわからないから、実力行使することになるんです」

ごくっと、4人は唾を飲み込む。
鳳が誰か一人を捕まえたら、その間に逃げ出そう。
彼等の頭の中には逃げることしか無い。

が、その場を取り直すかのように、
リョーマがくいっと鳳の上着を引っ張った。

「ねー、今日は止めようよ。
折角、長太郎の誕生日なのに時間が勿体無いよ」
「でも、いいの?君を怖い目に合わせた人達を放っておいて」
「うん。制裁は明日にでもしてくれればいいよ」


にっこりと可愛い顔と声で、とんでも無いことを言う。
リョーマの影に、鳳以外の全員は悪魔の尻尾が見えた菊丸がした。
そんな所も魅力の一つだが、正直制裁はどうかと思う。

「リョーマ君がこう言ってるので、今日は何もしませんけど、
明日は覚悟しといて下さいね」

じゃっとリョーマの肩を出して去っていく鳳を、
4人は呆然と見送る。
明日、何をする気だと。

「俺様は明日は休むぞ」
「俺かて、あそこまで言われて誰が登校するか」
「何だよ、皆して。鳳がそんなに怖いか?」
「じゃ、岳人は平気なんだ?」
「・・・やっぱり休む」
「でしょ。俺も休むC。ゲームでもしよっ」


口々に今日は危なかったと、皆で反省点を述べ始める。
が、誰一人、もうリョーマを諦めようとは言わない。
どんなに物騒は発言しようが、
鳳に向けられる言葉や表情を見ると諦める気も無くなる。
気を許した人間にのみ、リョーマが見せる素直な態度。
一度でいいから、自分も・・・と考えてしまうのは愚かなことなのか。

今度はもっと長く鳳を足止めすべきだと、いつまでも話し合っている中、
日吉は未だ部室のソファで気絶中だった。
結局今回の一番の被害者は、彼なのかもしれない。

そんな周囲を気にすることも無く、
鳳とリョーマは二人だけの世界を作って家へと向かっていた。

「長太郎。家に着いたらいいものあげるね」
「本当?何だろう、楽しみだな」
「今は教えないよ。到着するまで内緒だから」
「えー、待ちきれないなあ」
「ダメ、言わない」

いちゃいちゃしながら歩いている二人に、
犬を連れて散歩している人もぽかんと口を開けてしまう。

が、鳳とリョーマは全く気付かない。

お互いにしか目を向けないまま、今日も過ぎて行く。


2008年02月12日(火) 鳳リョ


「長太郎。暗い顔して、どうかした?」
「え、暗い顔なんかしてた?」
「してた、してた。で、何?悩みがあるなら言ってよ。
俺が力尽くで解決してあげるから」
「あ、ありがと。リョーマ君の気持ちは嬉しい。
でも、力尽くとかじゃなく、俺の心の問題だから…」
「そこで一人、落ち込んだりしない!とにかく話してみてよ。
口に出した方がすっきりするでしょ。ほら」
「そこまで言ってくれるなら話すけど…。怒らないで、聞いてくれる?」
「うん、何?」
「この間ね、俺とリョーマ君が二人でいる所って、
『大型犬の上に黒い子猫が乗って、猫が上から指示出してるみてーだな』
そんな風に言われたんだ」
「どこの誰だよ!そんな事言ったのは!」
「ああ!リョーマ君、怒らないで!だから言ったのに〜」

五分後。

「まあ、言った奴は後でシメるとして…」
「ほどほどにね」
「まあ、善処するよ。で、長太郎の悩みと今のとどう関係してるの?」
「うん。自分でもわかっているけれど、どちらかというと消極的な方だよね。
で、リョーマ君は積極的」
「だね」
「他の人から見ても、俺がリョーマ君に引っ張ってもらうのは明らかでしょ。
それで俺達は上手くいってるけど、でも本当はリョーマ君の心の中では、
もっと頼りがいになる奴になって欲しいとか、俺に合わせて無理しているんじゃないかって考えて!」
「で、落ち込んでた?バカだね。そんなのあるはず無いじゃん。思い込みはやめなよ」
「本当に?」
「うん。どっちかというと、長太郎の方こそ無理して俺に合わせてない?
色々我侭言って、困らせてばっかりじゃん」
「そんな事!リョーマ君といられるだけで幸せなのに、無理なんてしてるはず無いよ」
「だから、それは俺も一緒だよ。長太郎といられるなら、それでいい。
それだけで十分、頼りになっているから…わかった?」
「リョーマ君!」
「それに長太郎だって積極的な時だってあるじゃん。一昨日のあれとか」
「わあああ!リョーマ君、ここではちょっとストップ!」
「思い出した?」
「思い出した、思い出したからっ!」
「何赤くなってんの。自分でしたことなのに」
「それは、言い訳も出来ないけど…」

くすくす笑いながら、リョーマは鳳に体を密着させる。
そこへ仲睦まじく寄り添う二人に、冷ややかな声が被さった。

「なあ、お前ら…さっさと出て行ってくれない?」
「え、なんで?」
「なんでって、ここ部室だろうが!見ろよ、この有様!
お前らの会話を聞いて、身悶えている奴等がいるんだぞ。
さっさと出て行け」
「スミマセン、宍戸さん。リョーマ君と話したら、つい周りが見えなくなってしまいました。
じゃあ行こうか、リョーマ君」
「そうだね、続きは長太郎の部屋でしよ」
「賛成」

部室を出て行く二人を見て、宍戸は軽く首を振った。

「あいつら…せめて場所をわきまえろよ」

その辺で聞きたくも無かった睦言にダメージを受けてるチームメイトを一瞥して、
何も見なかったことにしよう、と宍戸は着替えもそこそこに荷物を持って逃げ出した。



2008年02月11日(月) 鳳リョ



向日「越前って猫のイメージだよなあ」
ジロー「ああ!わかるー。黒猫ちゃんってイメージ?」
向日「で、鳳は」
忍足「大型犬やな」
ジロー「うん、そんな感じー」
向日「猫と犬が仲良しっていうのも変だよなあ」
ジロー「そう言われれば、そうかも」
鳳「そんなこと無いですよ。前にテレビで猫と犬が一緒に暮らしているの観ました。
そういうケースもあるんじゃないですか?」
忍足「いや、お前ら一緒にいるイメージはそんなほのぼのしたもんや無いな」
向日「そうそう。どちらかと言うと大型犬に爪立てて乗っかった子猫?」
ジロー「あー、その上で暴れてんの」
忍足「鳳が滅茶苦茶不憫な印象やな」
鳳「ちょっと先輩達、好き勝手言わないで下さい・・・」
向日「じゃ、そういう苦労は無いのか?」
鳳「無いですよ」
向日「本当か?あのチビっ子が怖くて、逆らえないんじゃねえのか?」
鳳「あの・・・向日先輩」
向日「なんだよ」
鳳「その、後ろに」
向日「は?」

向日が振り返った先には、ものすごい表情のリョーマがいた。
忍足とジローは知らん顔を決めて、横を向いてる。部外者を装っているらしい。
(たしかに最強の猫なんだよね・・・・)

場を収めようとせずに、鳳は呑気に先輩に降りかかった災難を眺めていた。



2008年02月10日(日) 鳳リョ


ちょこん、と腰掛けた彼の膝の上。

「こんなんでいいの?」
尋ねると、鳳はこくんと頷く。
なんか表情が固い。
「長太郎?ひょっとして、重い?」
「違うよ。ちょっと緊張しちゃって…」
「緊張って、なんで?」
「なんとなく」

照れたように笑う恋人に、リョーマは首を傾げた。
半年近く付き合っているのに、まだ鳳は慣れないらしく、
時々こうして固まる。
でも、今回は…。

「膝に乗って、って言ったのは長太郎なのに、変なの」

誕生日に何が欲しい?と聞いて、その答えがこれだった。
膝の上に座って欲しいだなんて、相当変わってる。
それだけじゃなんだと思い、一応こんな時期だしと自分の判断でチョコレートも持って来た。
鳳から今年は誰からも受け取らない!と聞いてたので、
それだったらあげようって気になったのだ。

「変だけど、なんかやっぱり緊張しちゃうんだよ」
「ふうん」

椅子に座っている鳳に、横になる形でリョーマは座っている。

「こんなんがプレゼントっていうのも変だし…」
「俺は嬉しいよ」
「そう?長太郎の嬉しいって、よくわかんないよ」
誕生日なんだからもっと、我侭言えばいいのにと思うのだが(普段は自分が我侭ばっか言っているのだから)、
鳳の要求は本当にささやかだ。
だからこそ、彼を好きになったのかもしれないけど。

「そうだ、長太郎。チョコ食べたくない?」
「え?チョコって、リョーマ君が持って来たチョコ?」
「うん」
手の届くところに、チョコの包みがある。
それを掴み、リョーマは包装を解いた。
中には菜々子お薦めの生チョコが入っている。
ココアパウダーが手につくのも構わず、リョーマはそれを一つ、指で摘んだ

「はい、あーん」
「え、えっと」

戸惑っている鳳に、くすっと笑いながらチョコを口元へと近付ける。
覚悟を決めたのか、鳳が口をそっと開けた。
見逃さず、チョコを中へと入れる。

「美味しい?」
「はいっ。今まで食べたどんなチョコよりも、美味しい」

顔を真っ赤にしている鳳に、可愛いよねと思いながらまた新しいチョコを指で掴む。

「はい、もう一個」
「え、…い、いただきます!」

幸せそうな鳳を見ていると、自分も嬉しくなる。

こんなプレゼントでいいのか?と思ったけど、
お互い楽しいからいいか、とココアパウダーがついた指を舐めて、リョーマは微笑んだ。


チフネ