チフネの日記
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2006年11月25日(土) 千リョ短文

引き寄せられて、抱きしめられた瞬間。
あれ?と、思った。

初めて会った頃の距離はどこへ言ったんだろう。
拒絶してた時は、触れさせることすら許さなかったのに。

今は、こんなにも近い。








「リョーマ君ー。何、考えてるの?」
まだ素肌の状態のまま、お互い体をくっ付けている。
正確には千石がリョーマを抱きしめているのが近いのだけれど。

「・・・喉が渇いた」
素っ気無く、リョーマは答えた。
実際、声は掠れている。
原因を作った千石にちらっと視線を投げると、
すぐに体を起こし用意してあったペットボトルを手にしてまたベッドに戻って来た。
「先に用意しておいて良かったでしょ」
「そういう問題じゃない」
言いながらもリョーマも痛む体を起こし、ペットボトルを受け取る。
「ファンタが良いのに」
「こんな時まで甘い炭酸飲む気?」
「うん」
水かよと思いつつも選択が無いので、仕方なくそれを口にする。

「・・・ふぅ」

冷蔵庫から出しっぱなしにしてたので少し温かったが、文句を言う程じゃない。
カラカラになった細胞に水分が染み渡っていくのを感じる。

「リョーマ君、俺にもちょうだいっ」
半分程飲んだところで、千石が背中を抱きしめた状態で擦り寄って来た。
お互いまだ服は着ていない状態で、直に千石の体温を感じる。
「勝手に飲めば」
ペットボトルを千石の手に持たせようとすると、「違うー」と言われてしまう。

「口移しして欲しいなあ」
「何考えてんの」
「お願い!なんかラブラブな感じで良いじゃん」
「馬鹿じゃない」

ねえねえ、と千石は今度はリョーマの背に体重を掛けるように甘えてきた。
「ちょっと!重いよ」
「リョーマ君がしてくれたら、どいてあげる」
「いい加減にしなよ。普通に飲めばいいじゃん」
「口移しっていうのがポイントなのにー」
くすんと、泣き真似までしてくる千石に、処置無しとリョーマは項垂れる。

過去の経験からすると、ほぼ勝ち目は無い。
こういう状況になったら、千石は我侭通すまでずっと言い続ける。
上から物を頼むのでは無く、お願いーと甘えた犬のような声と目で。
あれに勝てた試しは無い。

千石に会うまで、リョーマは誰かの言うことを聞くなんて考えもしなかった。
付き合いを始めた時も、自分は変わることは無いとも信じていたのに。

実際、思った以上に・・・好きになっていることに気付いた。


「清純」
「ん?なあに、リョーマ君・・・・!?」
素早く水を口にして、リョーマは振り返った。
背中に凭れている千石の顔をぐいっと引き寄せて、キスする。
そして水を流し込む。

距離がゼロになる。
あれほど鬱陶しいと思ってたはずの男と付き合うことを決めて、
キスして、その先までした。
名前すら覚えていない時は、こんなに近くなるとは思わなかった。
体だけじゃなく、心もだなんて。


「ん、んっ」

口移しで水を飲ますだけのはずだったのに、舌を絡め取られ、
いつの間にか二人で深いキスに熱中していた。
大体そうなると予想してたけど、乗ってしまう自分が不思議だとリョーマはキスの合間にそう思った。


「また他事考えてたでしょ」
口から零れた水を千石は唇でちゅっと吸い上げてくれてる。
くすぐったい、と身を捩るが許してくれなくて逆に押さえ込まれてしまう。
「他事って、別に何も考えて無いんだけど」
「そういう顔してなかったよ。俺、リョーマ君のことならわかるもん」
「ふうん?」

千石の言葉に、リョーマは曖昧に笑った。
何を考えていたかなんて、言うつもりは無い。
今はまだ受け渡せない。
リョーマの最後のプライドみたいなものだ。
でも、いつか。・・・言ってしまうかもしれない。
千石になら、全部預けてもいいと思っている自分は相当この恋に溺れてる。


沈黙したままの状態に不安に思ったのか、
千石が肩を引き寄せ、ぎゅうと抱きしめてくる。
「リョーマ君・・・、俺といる時だけは俺のこと考えてよ」
「清純?」
「お願い」

見当はずれな言葉に、リョーマは軽く笑った。
「リョーマ君?」
「ばか。別に誰かのこと考えてた訳じゃないよ」
「え、じゃあ・・・?」

どうでもいいじゃん、とリョーマは千石の胸に頭をくっ付けた。


服越しじゃなく、距離ゼロの体温が心地良い。
ずっとくっ付いていられて離れたりしなきゃ良いのに。
なんて思う自分に、まだまだだねと小さく呟いた。


チフネ