チフネの日記
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2006年02月28日(火) |
honey番外編〜honeyな誕生日 |
小さく欠伸をしたリョーマを見て、不二は目を細めて笑った。
「眠いのなら、寝てもいいんだよ?」 「・・・ヤダ。起きてる」 「明日の授業、起きていられないかもしれないのに」 「それはいつもの事だから平気」 「・・・そう、ってダメじゃないか。授業はちゃんと受けなくちゃ」 「それよりも先輩の誕生日の方が大事だよ。だって初めて一緒に迎えるのに!」
ね?と身を寄せてくるリョーマに敵うはずもなく。 不二は黙って肩に手を回した。
不二の誕生日は2月29日。今年はカレンダーには記されていない。 だったらせめて28日から1日に変わる瞬間を、お祝いしたいと、 リョーマから言い出した。 それで平日の今日、リョーマは不二家に泊まりに来ている。
明日も授業があるからと、リョーマは母はさすがに渋ったが、 不二と不二の母からも一緒に電話でお願いをした甲斐もあって、 許可は無事に下りた。
今、不二のベッドに二人一緒にいる状態。 用意されたリョーマ用の布団は、使われないまま放置されてる。 成長期の二人が使うには少し狭いが、くっつき合っている分は問題ない。 離れたくない。お互いそう思っているのだから。
「そういえば不二先輩って、毎年沢山プレゼント貰うんでしょ?」 黙っていると眠くなるだけだと、リョーマはなんでも良いからと適当な話題を出した。 「誰に聞いたの?」 「二年の先輩達が部室で喋っていた。今年もすごいんじゃないかって」 「ふーん」
たしかに去年沢山のプレゼントに埋もれた。 部室に持ち込んだ時、皆が驚いていたくらいの量だ。 (噂されても、仕方ないか)
だけど今年はどうしたのか、ちゃんとリョーマにはわかってもらいたい。 去年受け取ったのは、リョーマと出会っていなかったからで不誠実な訳じゃない。
「今年は友達以外からは、受け取らなかったよ」 「そうなの?」 眠そうに瞬きしながら、リョーマは小首を傾げる。 「うん。やっぱり好意を持ってくれる子からは、特にね。 期待させちゃ悪いし、何より僕には君がいるだろ」
ね、とリョーマの鼻を軽く押すと、照れたような笑顔を覗かせる。
「先輩の答え、100点ー」 「合格かな?」 「うん。なんか先輩を好きな人達には悪いけど・・・嬉しいっす。 俺が先輩の特別みたいで」 「みたいじゃなくて、特別なんだよ」 「・・・うん」
頬を染めるリョーマが可愛くて、今度は額に軽くキスを送る。
交際してから、順調に二人の仲は深まって行った。
リョーマの不二への想いは変わらず素直に大胆で、いつも好きだって気持ちを全身で表している。 不二もそんなリョーマを見ている度毎に、想いが強くなるのを感じた。 好きだ、といつでも思う。今、この瞬間でさえも。
「ねえ。友達からのプレゼントって、菊丸先輩とかから?」 会話が途切れたら寝てしまうと、リョーマは必死だ。 こりゃ絶対日付が変わるまで頑張る気だ、と不二はもう寝かせることを諦め、会話に付き合う。
「うん。英二からはCD貰ったよ。僕は普段あまり聞かないジャンルだけど。 一押しだって言ってたな。 大石からはアルバムと、タカさんからは写真立て。二人とも僕の趣味わかっているからね」 「へえ」 「乾からは高等部で使えるからと言って、辞書を貰った。 重過ぎて持っていくのが大変なものだけど」 「じゃあ部長は?あ、えっと手塚先輩からも何か貰った?」
その瞬間、不二は表情を曇らせた。
「貰ったよ・・・うん・・・手塚からもね」 「どうしたんすか?」 「いや、どう言ったら良いのか・・・」
爽やかにプレゼントを押し付けて行った手塚の顔を思い出し、 不二は体を震わせた。
『お前達の愛と、実用を兼ねてだ。 いくつあっても足らないくらいだろ?』
大きなお世話だと突っ返してやろうとした。 が、手塚は素早く身を翻して去ってしまった。
リョーマと付き合い始めた当初、体調のことも考えてやれとH禁止宣言をされたこともあった。 結局、我慢出来るかとぶき切れたリョーマの発言にショックを受けて、 しばらく魂が抜けた後は気持ち悪いくらい物分りが良くなってしまった。 こんなものをプレゼントに寄越す程に。
果たしてどちらの状態が良いのか。 あまり考えたくない選択だ。
「不二先輩、大丈夫?そんな大変なもの押し付けられたんすか?」 心配そうに顔を覗き込むリョーマに、 「なんでもないよ」と微笑み掛ける。
「手塚の話はやめよう。今は君だけのことを考えていたいんだ」 「う、うん」
釈然としないリョーマ。だが不二があんまりにも遠い目をしているのだから、 追求は止めようと決める。
「後は君から貰ったサボテンがあるね。 ありがとう、大事にするから」 「うん」
リョーマが不二に渡したのは、小さなサボテンの鉢植えだ。 ありきたりかもしれないけど、とある願いを込めて不二に渡した。
‘4月になったら、今ほど会えなくなるだろうから。 代わりに、これを側において’
そう言って鉢植えを差し出したリョーマ目は、少し寂しそうだった。
卒業を前に控え、感傷的になっているのか。
高等部に不二が上がれば、毎朝・毎放課後過ごした時間は失われる。 けれど不二は空いている時間、全部リョーマに会う為に使うつもりでいた。 通う学校は違うかもしれない。 でも二人の関係に、距離は無いはず。これからだって。 そう信じている。
「サボテンも大事にするけど」 「え?」 「これからも、君自身も大事にするから」 「先輩」
今度は唇にキスしようかなと不二が顔を近づける寸前、 リョーマが「あ!」と声を上げる。
「もう日付が変わるよ」 「・・・本当だ」
お喋りしている間に、時計の針が進んでいたらしい。 11時59分。もう少しで28日から1日に変わる。
「手、繋ごう?」 布団の中から出したリョーマの手を、不二はぎゅっと握り締める。
「5、4、3」
カウントダウン始めるリョーマの顔を見詰めながら、不二は心の中で願う。
次の誕生日も、この子が隣にいますようにと。
「1」
0に変わる瞬間。
お互い顔を見合わせ、今度こそちゃんとキスをする。
「誕生日、おめでとう」 「ありがとう」
何よりも側にいて欲しい。 可愛い僕の大切な人。
チフネ
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