チフネの日記
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2005年12月24日(土) 王子誕生日話 不二リョ編


恋人であるリョーマと過ごす、初めての誕生日とクリスマスイヴ。

当然不二は、リョーマと一緒に過ごすつもりでいた。

リョーマが生まれてきた誕生日を祝い、クリスマスと一緒に二つ分プレゼントを渡す予定だった。

「リョーマ君。24日は、空いているかな?」

不二としては、勿論フリーだよねという意味を込めたつもりだった。

しかし、
「あ、俺用事あるから」
返って来た言葉ははあまりにも冷たいものだった・・・・。


(家族の人たちと食事でも行くのかな・・・・)

家族となら仕方ない、と思う。
リョーマの両親だって、大切な子供の誕生日を祝いたいという気持ちはあるだろう。
それを優先してよと迫っても、リョーマを困らせるだけだ。
そんな真似はしたくない。

ただ、もし相手が友人だったら?
クリスマスパーティーとかに先に誘われているだけだったら。

(僕も参加しちゃだめかな。そしたら一緒に過ごせるのに)

しかしリョーマと親しい桃城・菊丸や、一年トリオに尋ねても、
24日に会う約束はしてないと言われた。

それでは、やはり家族との約束か。
ならば安心だけれど。

(もし他に好きな奴がいて、そいつと過ごすとしたら・・・?)

アメリカにいた時のかつての恋人とか、と不二は妄想を膨らませる。

だったらリョーマに直接尋ねれば良いのに、それも出来ない。


かくして悶々としたまま時間はあっと言う間に流れ、24日になってしまった。


(今頃リョーマ君は何をしているんだろう)

窓辺に立って、不二は溜息をつく。

プレゼントは購入してあるが、渡しに行く勇気が無い。

(リョーマ君は本命からプレゼントをもらうから、僕が渡しても迷惑かもしれない)
いつの間にか妄想が、確定へと摩り替わっていた。

(一緒に今日を過ごしたかったなあ)

何故こんなことになったのか。

(やっぱり強引でも引っ張ってくるべきだったのかも)

やっと自分の不甲斐無さに気付き、額に手を当てる。
時計を見ると、もうすぐ11時になる所だ。

(もしかして、まだ間に合うかも)

休日のリョーマは、かなりの寝坊だ。

本命(と、不二が勝手に思い込んでいる)と会うにしても、もう少し後の可能性が高い。

(走ってリョーマ君の家に行けば、間に合う!)

もっと早く行動しろよと、菊丸がいたらツッコミを入れてただろう。

とにかく急いで上着を羽織って、プレゼントを抱え部屋を飛び出す。

「周助、どこへ行くの?」
階段を降りてくる足音を聞きつけ、母親がキッチンから顔を覗かせる。
「リョーマ君の家!悪いけどお昼ご飯は二人前用意してくれる!」
何が何でもリョーマを引っ張って来るつもりでいる、不二はそう叫ぶ。
「え?周助、どういうこと」
「ごめん急いでいるんだ!」
「周助!」

皆まで聞かず、不二は家を飛び出した。
リョーマの家まで一目散に走って公園を通り抜ける。
そのまま脇道を抜け、まっしぐらにリョーマの家へと向かう。
頭にあるのは、リョーマのことだけ。

(本当は他の誰とも、今日を過ごして欲しくない・・・・)

なんでもっと早くに言わなかったんだろうと、悔やむ。


その角を曲がって、真っ直ぐ行けばリョーマの家がある。
大分近付いたことで、不二は油断していた。
ちょうど角から出てくる人影に、まるで気付かなかった。

まともにぶつかって、道へ転がってしまう。

「痛−っ!」
「ちょっと、どこ見てんの・・・って不二先輩!?」

突き飛ばされたままの格好で、リョーマは文句を言おうとしていた。
が、相手が不二だとわかり、目を丸くしている。

「どうしたんすか、こんな所で」
埃を払いながら、リョーマは立ち上がる。

不二はプレゼントを急いで拾い上げて、リョーマの元へと駆け寄った。

「ごめんね、僕が前を見ていなかったばかりに」
「いいっすよ、別に」

気にして無いというリョーマに、ほっとする。
が、今度は一人で外を歩いていたことを気にする。

家族と用事があるのでは、無いのか。

やはりこれから本命と・・・と不二は目を伏せる。
だがここで引く訳に行かない。
その覚悟で、家を出て来た。

「君に話があるんだけど、いいかな?」

恐る恐る切り出した不二に、「いいっすよ」とリョーマはあっさり頷く。

だが「歩きながらでもいいっすか」と言われる。

(その人の所へ早く行きたいの・・・)
等と言えず、とりあえず「いいよ」と頷く。

リョーマがどこに向かうか知らないので、半歩後ろという形で歩き出した。

「で、何すか?」
「今日、のことなんだけど」

いざとなると、どう切り出したら良いかわからない。
ああでもない、こうでもないと考える不二にリョーマは文句を言うことなく、
黙って次に言われる言葉を待っていた。

「あのね、これ・・・」

ようやっと、持って来たプレゼントを差し出して言いたいことを告げる。

「君の誕生日のお祝いをしたいんだ。
今から僕の家に来て欲しい」
「・・・・・・・・」
「こんなの遅いってわかってる。
でも!君に本命がいたとしても、諦められないんだ」
「はあ?」

不二の妄想を耳にして、リョーマは目を見開く。

「本命って何!?俺、先輩以外と誰も付き合って無いっすよ」
「だ、だって今誕生日を一緒に過ごす人の所へ、向かっているんだよね?」

リョーマは呆れて、大きく息を吐いた。

「わかった。じゃあ、先輩は俺の後をついて来て」
「え?」
「気になっているんでしょ。今から誰と会うのか」

気になるに決まっている。
こんな大切な日に誰と会うのか。

「待ってよ、越前!」

引き止めるよりも前に、リョーマは行ってしまう。
慌てて追い掛けた。

こうなったらその相手と直接対決しよう。

再び勝手な方向へ妄想が流れ始めたとき、
リョーマの足が一軒の家の前で止まった。

「ここ?」
「うん。約束してた人はここにいるっす」
「え、でも・・・」

表札には「不二」と出ている。
どう見ても、さっき出てきた自分の家だった。








全てを知って、不二は体から力を抜いてソファに倒れ込んだ。
まだ動けない。

その横では、リョーマが美味しそうにケーキを頬張っている。
姉・由美子の手作りケーキだ。


『リョーマ君、どうせイヴは周助と過ごすんでしょう?
ならケーキを焼いておくから、是非食べて。
リョーマ君の為に美味しいの作るから」

リョーマが約束した相手は、由美子だったのだ。
その彼女は、リョーマにケーキを出してから「またね」と外出してしまった。

ちなみに母親もリョーマの為に昼食を用意していた。
『由美子がケーキ作っていたのもあるけど、
てっきり招待していると思っていたから。
そういえば周助からは、前から用意するように頼まれて無かったかしら?』

「教えてくれても、良かったのに」

全て不二の早とちりだった。(というよりも妄想)

最初からリョーマは、不二の家に来るつもりだったのだ。

「でも先輩は用事があるかって聞いただけで、誘ってはいなかったよ」

不機嫌そうな声。
他に本命がいると誤解したのを、怒っている響きだ。

「ごめん・・・」

返す言葉も無い。
あろうことか、リョーマの気持ちを疑った。

「どうしたら、許してくれる?」
許してくれるのなら、殴っても構わない。
そう思って頬を差し出す不二に、リョーマの手が触れる。


「他に本命がいないのは、わかってくれた?」
「・・・うん」
「なら、もういいよ。
俺もわざとハッキリ言わなかったから、その所為で悩んだみたいだし。許す」
「本当?」
「うん」

許されたことに、不二は安堵する。
これから物を訪ねる時はハッキリと。
しっかりと心に刻む。

「ねえ、リョーマ君」
「何すか」
「やり直し、していい?」


きょとんとするリョーマに、先程渡し損ねたプレゼントを差し出す。

「誕生日、おめでとう」
「ありがと」


すれ違いは、ようやく終わりを告げた。

今からは最初の望み通り、リョーマの誕生日を二人で楽しく過ごす時間が始まる。








2005年12月23日(金) 王子誕生日話 跡リョ編

テーブルに運ばれたコーヒーに手を付ける気にもならない。
しかし自分だけ何も頼まないという訳にもいかないだろう。
せめてコーヒーくらいと思ったのだが。

(こんな物、口に合うか・・・!)
何の豆を使っているか知らないが、コーヒーとはこんなものじゃない。
跡部は内心で不満を叫ぶ。

「景吾、コーヒーだけでいいの?お腹空くよ」
「いや・・・食欲が無いからいいんだ」
「食欲が無い?風邪でも引いてんの?」
「そういう訳じゃ無い・・・」

目の前で遠慮なく食事しているリョーマを見て、跡部は溜息をついた。


今日はリョーマの誕生日であり、クリスマスイヴでもある。
この時の為に、跡部は前々からレストランに予約を入れてた。
しかも貸切でだ。

大事な大事な恋人の誕生日を祝うのに、他の人間は邪魔だ。
たったそれだけの理由で。

そこで二人きりのお祝いをしよう。


しかし本日リョーマを迎えに行った時、
「俺、レストランとか堅苦しい所苦手だからね」
と言われてしまった。

突然の予定変更に、流石の跡部も狼狽する。

「・・・なら、どこが良いんだ」

リョーマの望む所なら、文句も無いだろう。
情け無いが、今は意見を聞くことが先だ。

「うーん、それなら」
ついて来て、とリョーマに引っ張られる形で連行される。


(おいおい、どこに行くか言わないと貸切することが出来ないじゃねえか!)

跡部の動揺にも気付かず、リョーマは先へと進む。
そして。

「おい、ここか?」
「うん」

着いた先は都内のどこにでもある、某ファミレス。
あまりのことに、跡部は固まってしまう。

(冗談だよな?俺様が用意したレストランを蹴って、ここを選ぶなんてタチの悪い冗談に決まってる!)

「ちょっと寒いんだから、突っ立ってないで入ろうよ」

跡部の期待を裏切り、リョーマは店内へと移動している。

「ま、待てよ!」

慌てて後を追い、跡部も中へと入る。


「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
そうです、と頷くリョーマに、もう諦めるしか無いと悟った。





クリスマスだというのに、リョーマが注文したのはマグロ丼定食だった。
マグロ丼にとろろ蕎麦、味噌汁、漬物とドリンクもついて1480円。

(絶対、怪しいぞそのマグロ。俺様が今まで食べてきたものにそんなのは無い。
それでいいのか、リョーマ!?)

美味しそうに食しているリョーマにそんなことを言えず、
跡部は黙って食べ終わるのを待った。


「景吾。デザートも頼んでいい?」
「ああ・・・・いいぜ」

嬉しそうにメニューを見てリョーマが決めたのは、
期間限定だというデザートだった。

店員が運んで来た皿を見て、跡部は絶句する。

舌が痺れるんじゃないかと思うくらいに、ふんだんに乗せられた生クリームの海。
それだけで胸焼けしそうになる。


「気分悪そうだけど、本当に大丈夫?」

デザートを食べながら、リョーマは首を傾げる。

「問題ない。それより・・・美味いのか、それ?」
「うん」


リョーマは生クリームの海から三色のアイスを口に運んでいる。
チョコと苺と抹茶らしいが、あまりにも鮮やかな色に眩暈が置きそうだ。
着色料にしても、鮮やか過ぎる。
アイスにも飽きたようで、今度はクリームの海の下からスポンジをすくい出している。
申し訳程度に苺はクリームの上に苺が飾られているとはいえ、ケーキとは言いがたい物体だ。



(メニュー名は混沌か?)


それらを美味しそうに食べているリョーマがわからない。

凝視しているとまずいことを言ってしまいそうで、ふと視線を外す。
そして店内を見て、驚愕する。

他にも‘混沌’を口にしている客がいる・・・!

(嘘だろ)

脱力した跡部は、椅子から落ちそうになる。

(俺様が知らないだけで、庶民はこれを当たり前のように注文するのか?)


「どうかした?」
冷や汗を掻く跡部に、リョーマが目を瞬かせる。

「いや、何でもねえ」
「何でも無いって顔していないよ」

カタン、とクリームを掬っていたスピーンが机に置かれた。

「ねえ。やっぱり怒ってる?」
「何をだ」
「景吾が用意してくれたレストランを断って、ここに引っ張って来たこと」
「・・・・・・・・・・・」

悪気無くリョーマは、「景吾にこういう店似合わないよね」と笑った。

「でも、俺達まだ中学生でしょ。
景吾が誘うようなレストランとかにはまだ早いと思うんだ」

そうは思わないという言葉を、辛うじて跡部は飲み込む。

「そんな大袈裟にしなくても、いいじゃん。
今はここでちょうど良いんだよ」
「・・・そうか」

にこっと笑うリョーマに、仕方なく頷く。
ちょうど良いと言われても、’混沌’を前にして心から肯定するのは難しいものだ。

「なあ、食べ終わった後はどうする。
お前が言うちょうど良い場所はどこだ」
「勿論、行き先は景吾の家」
「は?」
「どうせ混んでるだろうに、そういう所に行くの面倒だよ。
だから景吾の家に行って、二人きりでゆっくり過ごそうよ」

面倒という言葉は引っ掛かるが、二人きりで過ごすのには賛成だ。

「じゃあ、すぐに出るか!」

急に生き生きとし始めた跡部に対し、リョーマは首を振る。

「まだ食べ終わってない」
「そんなのほっとけ。ウチでいくらでもケーキを食わせてやるから」
「ヤダ。勿体無い。そんなに早く行きたいんだったら」

スプーンで、‘混沌’を山盛りに掬って。


「景吾も手伝ってよ」

いわゆる「あーん」状態。
それは歓迎だ。
歓迎だけれど・・・・。

乗せられてるものに、問題があり過ぎる・・・!

「いや、ちょっと待てリョーマ」
「ねえ、早く。景吾」

笑顔と共に迫ってくるリョーマに、
やっぱりこの店だけには入るべきでは無かったと、今になって後悔した。




チフネ