VITA HOMOSEXUALIS
DiaryINDEX|past|future
ある秋の日、あるところで活動中に「内ゲバ殺人」を目撃した。
横丁から走り出た数人の覆面、ヘルメットの男が路上の男を鉄パイプでめった打ちにして逃げた。
道路にはケチャップのような血だまりがぐんぐん大きくなった。倒れた男はぴくりとも動かなかった。
私もすぐにそこから立ち去ったが、どういうわけか警察の事情聴取を受けるはめになった。
私は素直には答えなかった。そうすると相手の態度が硬化した。目つきの鋭い、いかにも昔は特高だったといったおもむきの刑事がねちねちと私を恫喝しはじめた。
事情聴取は一日だけでは終わらなかった。何度も呼び出しがあった。
そして、私のアパートは見張られるようになった。日曜に目を覚まし、カーテンを開けてみると、電信柱の角に私服らしいのが二人タバコを吹かしていた。
「あんた、何かやったんじゃないの? 警察がつきまとってるみたいだし」
私はアパートの管理人の太った中年のおばさんから叱責され、上京してから住んでいたアパートを追い出された。それで下町の金魚屋の二階に住み処を替えた。
その頃になって、私はようやく活動に倦み始めた。6000枚もビラを撒くが、集会に来るのは数人である。あちこちの闘争に出かけて行くが、地元で何十年も闘いに取り組んでいる人々の迫力には負ける。数人でチョロチョロと歩いたデモでも常に「大勝利」と総括される。「敵は我々の戦闘力を恐怖している」という。しかしそれは戦時中の大本営発表のような強がりではないか。
私は依然として闘争そのものには意義があり、我々の路線は間違っていないとは思っていた。
しかし、体の疲れ、権力の暴力装置すなわち警察への警戒、厳しい上下関係、革命を支える前衛の無謬性という考え、こういうことが次第に私の心身の力を殺いでいくようであった。
|