VITA HOMOSEXUALIS
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都会生活も半年過ぎたころ、私は少し退屈になり、大胆にもなった。
映画館の中で見知らぬ男を射精させたり射精させられたりするのには飽きた。
そんなとき、私は渋谷の大盛堂で「薔薇族」という雑誌を見た。
学生服の男たちの写真が載っているその雑誌を私はファッション雑誌かと思った。
だが、立ち読みしているうちにそれは違い、同性愛者のための雑誌なのだとわかった。私の目は誌面に吸い寄せられたが、レジに持っていく勇気はなかった。はやく閉じようと思って斜め読みした。最後のページに「祭」というスナックの広告が出ていた。そこには同性愛の人々が集まるのだろうと思った。私は場所だけしっかり記憶して「薔薇族」を閉じた。
ある秋の夜、私は厚生年金会館の隣のビルの二階にある「祭」の前に立った。たしか紫色の地味な看板が出ていた。私は思いきってその重いドアを開けた。
どこにも異様な雰囲気はなかった。普通のスナックだった。私はカウンターに座って水割りを注文した。高校のとき、隣町のスナックにたびたび通って以来、都会に来てからこういうところに足を運ぶのは初めてだった。
カウンターの向こう側にはカッコいいお兄さんがいて、熱いおしぼりを出してくれた。ふっと良い匂いがした。私は黙って飲み始めた。客は少しだけ。みな普通に飲んでいた。
ノートが何冊か置いてあった。私はそれを読んだ。ここに来た人たちが思いを書いたノートだった。たいていは、好きな人がいるが、相手が同性愛ではないので告白できない、この苦しい胸の内、みたいなことが書いてあった。私は「ケッ」と思った。こんな湿った感情はすさんだ私には訴えないのだ。
しばらく飲んでいると目の前にすっと水割りのグラスが置かれた。「これはあちらから」とお兄さんが言った。その方を見ると中年のやせたおじさんがこちらを見ていた。私は「どうも」と軽くグラスを上げてそれに口をつけた。おじさんはにっこり笑って私の方にやってきた。
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