VITA HOMOSEXUALIS
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私はその後も映画館に行った。
たいてい誰か見知らぬ人に握られて射精する。何度か通ううちにそれにも慣れてしまった。
秋になったある日、私はまた暗がりの中で男が寄って来るのを待っていた。
そのとき私の手をくいくいと引く者があった。黒ずくめの服装をした若い男だった。
私は男の手に引かれるまま、暗がりから出た。
男は私を二階に誘った。二階にはトイレがあった。男は少しあたりを見回し、誰もいないのを見定めると私を女子トイレに誘った。
女子トイレの和式便器をまたいで男と向かい会ったとき、私は初めて映画館で出会う人の顔を見た。眉のほとんどない、目の細い、薄い唇が横に長い、細面の顔がそこにあって、こころもち微笑んでいた。不思議なのは、まだ秋口とは言っても暑いのに、男は黒くて長いコートのようなものを来ていたことだった。
男はコートの前をはだけた。驚いたことに、その下に彼は何も着ていなかった。ブリーフひとつだった。
男は無言で私の肩に手をかけた。それから私を抱き寄せた。そうして私の首筋に唇をつけた。
その唇は私のうなじから耳の根元を這った。男の掌が私の頬をはさんだ。男は私の唇に自分の唇を押し当てた。
男同士のキス。それは初めての経験だった。いや、そもそもキスそのものが初めての経験だった。男は舌で私の唇を舐め、そして私の口の中に舌を入れてきた。舌と舌がねっとりと絡んだ。
私は勃起していた。男の手は私の下に延び、私のズボンのジッパーをおろすと、器用に私のものを引っ張り出した。私はまだ薄着だった。男の手は私のズボンそのものをおろし、私のトランクスをおろした。私は下半身が裸になってしまった。男はさらに私のシャツの中に手を入れ、私の乳首をまさぐった。声を立ててはいけないと思ったが、「う」とうめく声が出てしまった。男は私を抱き寄せた。私は男に身を預けてしまった。
男も自分のペニスを出した。そしてそれを私のペニスに押し当てた。
男は私の耳にふうっと熱い息を吹きかけた。男の唇は私の顔を玩び、男の手は私の体を玩んだ。
私も男の体を撫でてみようとした。しかしそれはいかにも不器用だった。
次第に私には快感が押し寄せてきた。私は「イク」とささやき。男から体を少し離し、便器の中を目がけて射精した。
「ポトッ」と音が出るほどの大量の射精だった。
それから私は、自分がこうしてもらったからには、相手にも射精させてあげないといけないと思った。しかし、男のペニスはぐんにゃりしたままだった。私があえてそれをしごこうとすると、男は「いいよ、出ないもん」と笑った。
男はペニスをしまうと黒いマントのような服のボタンをはめ、「じゃあね」と言ってトイレから立ち去った。私は自分の濡れたペニスをトイレットペーパーで拭き、誰かいないかそっとドアをあけてまわりを見た。誰もいなかったのでトイレから出た。
「あれは何だったのだろう」、「あの風のような人は」と私は思いながら階段を下り、映画館の外に出た。町は少し暮れてきていた。
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