VITA HOMOSEXUALIS
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私はまわりを見てみた。
映画館の後方にぎっしりと立っている男たちの中には、体をぴったりくっつけている人たちが何組かいた。ガンガンと映画の声が響く館内で、彼らは画面を見ているわけでもなく、音を聞いているわけでもなく、性の快感に浸っているに違いなかった。
私もまた暗がりの中で自分のペニスを出し、私の前に立った大きな男にそれを握られていた。私の腰にはじわじわと快感の疼きが押し寄せていた。もっと早く手を動かして欲しかったが、男はそれを知ってか知らずか、ゆっくりと私のペニスをしごいては時折止めた。
そのとき、何か硬いものが後ろから太ももに触れた。
私は前を見たまま左手をそちらに延ばしてみた。
驚いたことに、私の手には硬くなった生のペニスが触れた。誰か別の人が私の後ろから私にペニスをこすりつけているのだった。どんな人なのか、私は気になった。
こんなときはお互いの顔を見ないのが礼儀のように私は感じたが、横を向くふりをしてそっと後ろの人を見た。短髪の若い職人風の男がじっと目を閉じて、なかば口を開き加減にしていた。彼は少し腰をかがめるようにして、自分のペニスを私にこすりつけているのだった。
私はそれを握った。そしてその手を動かした。後ろの男はかすかな息をもらした。
私が手の動きを止めると、男の先端から粘液があふれた。私はそれを彼の亀頭に塗りつけた。しばらくするとそれは乾く。そこでまた手を動かす。また止めるとまた粘液があふれる。
それは、私が前の男にされていることであった。彼が手を止めるたびに、私の先端からは切ない粘液が垂れた。快感の疼きは徐々に強くなり、ついに私はこらえきれなくなった。右手で前の男の手にとんとんと合図をした。その瞬間、私は前の男の手の中にあふれるほどの精を放った。
前の男は私にポケットティッシュを握らせてくれ、そっと右の方へ移っていった。
私は後ろの男のペニスがぐいぐい硬くなるのを感じた。先端からあふれる粘液は止まらなくなった。
後ろの男は私にハンカチを握らせた。そのハンカチの中に彼は射精した。
私は呆然と立っていた。そのうちに、後ろの男もいなくなった。私も外に出た。
丸めたティッシュとハンカチは映画館のゴミ箱の中に捨てた。
私は後ろの男がハンカチを握らせた左手をそっと嗅いでみた。
かすかな精の香りに混じって芳香が漂った。男はハンカチに香水をしみ込ませていたのだった。それはひょっとしたら彼が自分の股にふりかけていたのかも知れなかった。「こういうのもマナーかな」と私は思った。
外に出ると私はよろめいた。外は明るく、暑く、町が溶けて私の上に崩れてくるようだった。
あてもなく新宿西口を歩き、高層ビルの前の公園のようになっているところで私は腰をおろした。トランクスが濡れて気持ちが悪かった。「この世にこういう世界があるのだ」私はそう思うと少し涙を流した。
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