VITA HOMOSEXUALIS
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2015年05月21日(木) 抒情のとき(2)

 私にはもう一人、弓道部の友だちができた。

 それは小柄で美しい少年で、内向的で文学的と思われていた。赤い皮の表紙のノートに銀色のペンで詩のようなものを書いていた。家が学校に近かったので、帰りがけに誘われたのが親しくなったきっかけだった。彼のお姉さんはとても美人だという噂があった。

 彼の家は広くはなかったがひんやりとして落ち着いたところだった。居間には大きな書棚があり、中央公論社の「世界の名著」というシリーズが並んでいた。やがてお姉さんがお菓子と紅茶を運んできた。

 「バッハはお好きですか?」と聞かれて、バッハが何者かも知らなかった私はびっくりした。それでとっさに「はい」と答えてしまった。

 「じゃあ、リヒターでいいかしらね?」とお姉さんはLPレコードを取り出し、音楽をかけた。何か静かな、さざ波を刻むような音楽が聞こえてきた。私はコチコチに緊張した。

 「本を読めよ」と彼は言った。私はそれまでマンガとSF小説と、遠藤周作がふざけて書いている笑い話しか読んだことがなかった。「SFが好きなら安部公房なんかいいかも知れない」と彼は『箱男』という本を貸してくれた。

 彼と話していると自分がすうっと純粋になって、精神的に高いところへ上って行けるような気がした。私は彼に手紙を書いた。彼からも返事が来た。それから文通が始まった。毎日学校で出会っているのに、私たちは手紙で話しあった。郵便で送ることもあり、かばんの中にそっと忍ばせておくこともあった。

 私の手紙は彼のものにくらべるとずいぶん稚拙だった。しかし、手紙のやりとりをするようになると、私は自分が彼を好きになって行くのを感じた。同級生たちは女の子の話をし、誰が可愛いとか、どの男とつきあっているとか、そういう話ばかりしていたが、そういう話が幼稚に思えた。


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