VITA HOMOSEXUALIS
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先輩が卒業してから、私は幼なじみの同級生に生活態度を注意されるようになった。
「これまでみたいなこと続けちょったらホンマにダメになるぞ」と言われたのだった。
彼は、小学生の頃から知っている。近所の大きな醸造元の三男坊だった。背が高く、頭も良く、運動も良くできて、皆のリーダーだった。高校生になると、浅黒い彼の顔はギリシャの彫刻のように引き締まって輝いていた。
「オマエ、体を鍛ええよ、素材はええんじゃから」
彼はそう言って私の頬を両手で包んだ。若い木の香りのする彼の顔が近づくと、私は気が遠くなるように感じた。
私は弓道部にいて、練習が終わると鹿皮の「ゆがけ」で臭くなった手を洗うためにグラウンドの隅の水道のところに行った。そこは陸上部のフィールド競技の練習場の隣で、走り高跳びの選手だった彼の体が若い鹿のようにはずみ、弓のようにたわみ、バーを越えるのを私はうっとりと眺めていた。
ときどき、練習が終わると私たちは自転車を並べて帰った。
私たちの高校は海を見下ろす丘にあり、下り坂から夕陽に輝く海が見えるのだった。
しばらく自転車を並べて走ると砂浜だった。私たちは松林の中に自転車を止めて、遠くにヨット部の練習の帆が見える海を眺めながら並んで座り、ときに寝ころんで、いろいろなことを話した。
「おまえ、卒業したらどうする?」私はあるときそう聞いた。
「おれ東京に行く。東京の大学でドイツ語を勉強して貿易の仕事をやるんじゃ」彼はきっぱりと答えた。そんな先のことまで決めていることに私は驚いた。
「そんならおれも東京行こ」私は何も決めてなかったが東京に行きたくなった。
私たちは制帽を枕にして寝ころんだ。「おまえの心臓、ぬくいのう」彼は私の胸に手を当ててそう行った。私も彼の胸に手を当てた。「おまえの心臓もぬくい」
彼の心臓は力強く脈打っていた。
それから5年後に、その心臓は止まるのだ。だが、そのときはそんなことを知るはずもなかった。
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