VITA HOMOSEXUALIS
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2015年05月18日(月) 媚びる

 私は高校に入った。

 地元の高校は恐ろしいところだった。同和地区に肩入れする生徒と、朝鮮系に肩入れする生徒との間に険悪な対立があったからである。それは大人の世界の抗争を反映しているのだった。だから、それぞれのバックにはそれなりの「組」の力があった。もっとも、同和系の方には共産党によってある程度の「抑え」が効いていた。最も恐れられていたのは朝鮮系の数人の上級生で、この人たちのやることには教員も手が出なかった。

 その中でも最も凶暴という噂があったのは、赤茶色の髪の毛を持つ小柄な三年生だった。どちらかというと柔和な顔つきに見えたが、歯が欠けており、目を細めて笑うと凄みがあった。黒い制服のボタンはいつも上から二つばかり開いていて、裸の胸が見え、金色の細いネックレスが首にぶら下がっていた。靴はぺしゃんこで、ぺった、ぺったと音をさせながらいつもがに股で歩いた。

 取り巻き以外は誰も近寄らないこの男に、どういうわけか私は好かれた。私の方にすり寄ってきて、「おまえさん、可愛い顔をしちょるのう」と私の頬をなでたりした。彼はいつも私のことを「おまえさん」と呼んだ。

 私の方でも彼に媚びた。タバコを吸うときにライターを差し出したり、弓道場で酒盛りをするときに使い走りをしたりし、私は彼を「先輩」と呼んだ。

 そのうちに私は彼とその取り巻きと一緒に隣町のスナックに飲みに行くようになった。もっとも、私は形だけ水割りを頼んだが、形だけ口をつけるだけで、ほとんど飲むことはなかった。カウンターのストゥールは高く、座り心地が悪かった。ボックス席の背もたれは背が高く、当時のいわゆる「アベック喫茶」というものに似て、そこに座り込んでしまうと誰が座っているのかわからなかった。

 あるとき、先輩とその取り巻きの一人と三人で飲みに行ったとき、一人が居なくなった。

 「おまえさん、あれがどうしちょるか知っちょるか?」、赤茶色の髪をした先輩はにやにや笑いながら聞いた。

 私が「わかりません」と答えると「やりに行ったんじゃ」と笑った。スナックにはママともう一人の女性店員がいたが、その女性の姿が見えなかった。彼らはスナックの裏手にあるアパートの一室でセックスしているという意味だった。

 「わしらあも何かせにゃあつまらんのう」先輩はそう言って私をボックス席に誘った。

 店には他に誰もおらず、私たちはグラスを持ってボックス席に移った。

 「ここをいろうてくれえや」先輩は私と並んで座り、私の手を取って自分の股間に導いた。ズボンのファスナーはすでに開いており、そこから白いワイシャツの端がひらひらと蝶の羽のようにはみ出していた。私は目をつぶって先輩の股間に触れた。

 不思議にもそこはぐにゃんとしおれており、私が手を上下に動かしても硬くならなかった。そのかわり先端が粘液で少し濡れ、それが糸を引いた。

 「ああ、気持ちがええのう」先輩はグラスをぐっとあおって笑った。

 私は少し汗ばむほど熱心にそれをしごいたが、「そんなにせんでもええ」と言われて手を緩めた。

 私は彼が性的不能者なのではないかと思った。だから性欲が凶暴な暴力になって発散するのだ。きっとそうに違いないと思った。

 先輩のペニスに触ったのはそのとき一回限りだったが、その後も私たちはそこへ飲みに行き、先輩は私の頬をなでたり、唇をつけたりした。むっとするアルコールの匂いは当時の私に不快感しか起こさなかったが、私はこうやってこのグループに属していることによって、他の生徒から乱暴な仕打ちを受けることはなく、守られているのだと思った。


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