ホテルのベッドでお昼寝から目覚めたら、
隣に彼が居て、携帯電話の中のレストランのリストを見ていました。
私に何を食べたいか聞いたとしても最終的に決めるのは彼。
毎週デートの度にお店を考えるのが面倒になったのか、
私が彼に任せっきりなことに腹を立てたのか、
彼は私に棘のある言葉をぶつけて来ました。
一方的にきつい言い方をされたのが悲しくて、
私は彼に背中を向けて目を閉じました。
『もう、私、今日はこのまま帰るね。』
喉まで出かかった言葉をどうにか堪えました。
しばらくして彼は私に出かける用意をするように言いました。
彼の苛々は消えて、穏やかな言い方に変わっていました。
「何だかお腹空いてない。
今日は何も食べないで、こうしてここにいる。」
彼は自分が言い過ぎたことに気づいたようでした。
彼がいつもと変わらない調子で話しかけてきたので、
私も自分だけいつまでも臍を曲げていても仕方ないと思い、
着替えて出かけることにしました。
ホテルを出ると、昼間に降っていた雨は既に上がっていました。
彼と歩きながら普通に話しているうちに、
ついさっきまでの悲しい気持ちは次第に薄れていくような気がしました。
彼が連れて行ってくれたのは、おでんと焼き鳥のお店でした。
予約が取れないお店で平日はとても混んでいるのだけれど、
この日は祝日なので空いているだろうと彼は思ったようです。
純和風の趣のあるエントランスを入ったところで、
彼の靴紐が解けていることに気づきました。
「なんか…。」
彼は何か言いかけたけれど、その先は言いませんでした。
私が立ち上がって彼の顔を見ると、そこには優しい笑顔がありました。
私達の間の空気が一瞬にして変わったみたいでした。
それから、私達はカウンターの席に並んで座りました。
私達は見つめ合って、美味しいお酒とお料理を頂きました。
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