その日は朝から湿った雨が降ったり止んだりしていました。
私はレッスンの後、街中のカフェで彼からの電話を待っていました。
彼はこの日ゴルフのコンペが終わってから
表彰式には出席せずに私と会う約束をしていました。
私は英文の読解に集中していたので、
数回目の着信でやっと彼からの電話に気付きました。
これから夜を迎える7月最後の週末の街は明るく賑わっていました。
彼の車に乗り込んで、すぐに彼の顔を見ました。
最近は会って最初に見る彼の表情で、
その日のデートがどんな風になるか予測がつくようになりました。
この時の彼の表情は少し疲れている様子でした。
後で理由を聞くと、私が彼からの電話を受けてから
彼の車のある場所まで行くのに時間がかかったので、
待っている間に苛々していたようです。
「今日はホテルから一歩も外に出ないから。」
車の中で彼が言いました。
「そうなんですか?」
彼はいつもとは違うシティホテルの名前を言って、
「食事もそこでするから。」
と言いました。
お部屋に入ると私達はすぐに荷物を置いて、
ホテルの中の中華料理のレストランへ行きました。
彼はその日は正午からゴルフコンペがあったので、
10時頃にゴルフ場へ向かう途中で食事をした後は
何も食べていませんでした。
彼はビールと紹興酒、私は杏露酒と白ワインを飲みながら、
中華料理のコースを頂きました。
この日の私は、ブルーと白のストライプのクレリックシャツに
少し光沢のある黒のタイトスカートを着ていました。
「そういうシャツ、似合うね。
仕事が出来る風で。^^」
「そうですか。
じゃあ、Tさんの会社に雇って下さい。^^」
「嫌だ。時間に遅れるから。」
「ごめんなさい。^^;
でも、私は今日はレッスンの後、2時間も待ってたんですよ。」
「でも、それは織り込み済みなはず。
15分後に着くって電話していたのに、
着いてから15分も待ったんだから。」
褒められたのも束の間、
彼のお叱りの言葉を受けました。^^;
この日は彼に抱かれている間も気持ちが集中出来ませんでした。
心のどこかで冷めていて、彼を客観的に見ている自分がいました。
この日の私達は二人とも
愛するよりも愛されたいと思う分量が少しだけ多くて、
愛情を分け合うバランスが悪かったのだと思います。
二回目に抱き合った後で、彼はシャワーを浴びると、
「今日はもう無理。」
と言って、二つあるベッドのうちの
私がいない方のベッドの上に寝転びました。
それから、
「理沙子は出来ても俺はもう無理だからな。^^」
などと意地悪を言い始めました。
私達がツインのお部屋で抱き合う時は
一つのベッドしか使わないことがほとんどです。
彼が抱き合った後に一人でもう一つのベッドに移ったのは、
この日が初めてのことでした。
いつもは抱き合った後も一つのベッドで寄り添っているから、
私は不意に寂しい気持ちに襲われました。
あの人とのことを思い出したのです。
あの人はいつでも抱き合った後は
すぐに私から離れたがっているように見えました。
「こっちに来て。」
私がそう言ってしばらくすると、彼が私のいるベッドの方へ来ました。
彼は私の気分に気付かずに、しばらく一人で陽気に話していました。
「どうして返事しないの?」
彼に聞かれても、私はそのまま黙っていました。
「どんな顔してるの?」
彼が私の顔を覗き込むように私を抱き寄せました。
「お泊りデート止めましょうか。」
「どうして?」
「ずっと一緒にいて、Tさんが疲れちゃうといけないから。」
そして、私はあの人のことを持ち出して、
あの人が私と付き合っている数年間で病気が悪化した話をしました。
「それは違うだろう。
俺は最初から病気じゃないし。」
「だって、さっきずっと私に意地悪を言ってたから。」
「からかってるんだよ。^^」
「そうやって、
Tさんはいつも誰彼構わずからかうんですか?」
「誰彼構わずってさぁ〜。^^;」
「私だって大変なんですよ。
Tさんみたいな人と付き合うのって初めてなんですから。」
私はベッドでの彼の我侭ぶりを挙げてみました。
彼は笑いながら、
「さっきの仕返しされてるみたいだな。(笑)」
と言いました。
「私ってTさんの何ですか?」
「何って…恋人だよ。
理沙子は?」
「私にとってTさんはってこと?」
「そうだ。」
「答えない。」
「自分が答えられないようなことを人に質問するなよ。」
「答えられるけど、言わない。」
彼は私にキスをして、
「大好き。」
と言いました。
「何番目に好き?」
「ワンコの次に好き。^^」
私はワンコ以下なのかと思うと悔しかったけれど、
その後は話の流れが変わりました。
彼は私と観たいと思っている映画二本と
私と一緒に行きたいと思っている美術展の話をしました。
彼の私に対する気持ちがどんなものなのかは分からないけれど、
とりあえず、彼の頭の中のスケジュールには、
ずっと先まで私とのデートのプランが入っているようです。
深夜、ホテルを出る時もまだ雨が降っていました。
別れ際、車の中で私がそっと彼の右手に触れると、
彼は私の唇に短いキスをしました。
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