こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2009年04月24日(金) 欲望と愛情の狭間で


 彼が待ち合わせの時間よりも10分早く着いて、

 私が15分遅れてしまったから、

 結局彼を車の中で30分近く待たせてしまった私。

 きっとそのせいで

 一昨日の彼は初めから意地悪モードのスイッチが入っていたようです。

 こういう時に限って、私はつい彼の気分を刺激してしまうようなことを

 言ったり、したりしてしまうのは何故なのでしょう。




 いつもの和食のお店のカウンターで、

 彼は日本酒、私はシャンパンを飲みながら食事をしました。

 彼は時々私に意地悪を言いつつも、いつものように陽気で饒舌でした。


 「最初は緊張してたけど、もうリラックスしてるだろう?^^」


 既に何度も彼と訪れ、

 女性のご主人や女の子達とも顔なじみのお店です。

 カウンターだと初めは緊張してしまうのですが、

 お酒がすすむにつれ、ごく自然に振舞っていたようです。


 5月の旅行の話をしました。

 彼は私に何を見たいか、どこへ行きたいか尋ねました。

 私は行きたいと思っている場所を幾つか挙げました。

 彼はリクエストの多い私に、


 「全くわがままなお嬢さんだなぁ。」と言いながらも、


 私からしばらく話を聞くと何か思いついたかのように、


 「分かった。後は俺に任せて。」


 と言いました。




 この日、お店の女主人との会話で、

 旬の美味しいお魚が食べられる日には

 お店から彼にメールを送ってもらうというやり取りがありました。

 彼の言葉の中には私に本当に美味しいものを食べさせたいという

 気持ちが感じられました。

 お店を出る時、彼はご主人に


 「彼女は食べることが大好きなんだよ。」


 と私のことを言いました。

 カウンター越しに丁寧な接客をしているご主人には

 既にお見通しのことだと思うのに、 

 あえてそんな風に言ってくれる彼の気持ちが嬉しく感じられました。




 ホテルに戻るタクシーの中で、

 
 「ああいう若い女性のスタッフばかりのお店で、

  私のことはあまり話さないでね。

  貴方だけが悪い人だってことにしておいて。^^」


 と言いました。

 ホテルのエレベーターを待つ間に、彼は


 「お互い同じようなもんだろ。」


 と言いました。

 シースルーエレベーターで私達二人きりになると、

 彼は私を夜の街が見える一面のガラスに押し付けて、

 扉が開くまでの間、激しいキスをしました。




 お部屋に戻って、長いソファに座りました。

 ほろ酔い気分になっている私に、


 「本当に理沙子は面白いよな。」


 と彼が言いました。


 「そんな、私が凄く変わってるみたいに…。^^;」


 「これは褒め言葉なんだよ。」


 彼は黒のストッキング越しに私の脚を優しく撫でました。

 それから、黒のパンプスを脱がせると、

 私の両方の足の甲にキスをしました。

 それから、いつもの言い方で、


 「早く、シャワー浴びて来いよ。」


 と言いました。




 ベッドの中で抱き合いながら、


 「いっぱい感じる理沙子が好き。」


 と彼が言いました。


 「こうしてる時の私だけが好きなの?」


 と聞くと、


 「食べている時の理沙子も好き。」


 と言いました。


 「今日行ったお店のご主人や女の子達、私に優しいよね。

  そのうち貴方に振られちゃうって思ってるからじゃないかな。」


 「自分だけが悲劇の主人公みたいに…。

  そんなことを言うなんて理沙子はナルシストだ。」


 私はこの時、彼の表情を見なかったので、

 彼の真意がはっきりとは読み取れませんでした。

 ただ、前後の会話やこの日の彼のセックスから

 彼の言いたかったことが後になって見えてきました。


 「理沙子は本当にいやらしいな…。」


 「貴方に会ってからいやらしくなったの。」


 「そんなこと無いだろ。

  いやらし過ぎて前の彼に振られたんだろ。」

 
 彼のストレートな言葉に胸が痛みました。


 「女がいやらしいと男に振られるよね。」


 「俺はいやらしい理沙子が好きだよ。

  男ってさ…。」


 彼は私を愛撫しながら、静かに言葉を続けました。


 「相手がいっぱい感じてくれると、凄く気持ち良くなるんだよ。

  自分だけが感じるんじゃなくてさ。」


 「女もそうよ…。」


 「じゃあ、おんなじだ。」


 私は快感に集中しようと目を閉じました。

 やがて、私が彼に逝かされた後、




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 彼があの時言いたかったことは、恋はいつでもフィフティ・フィフティ

 だということだったのではないでしょうか。

 だから、その真実から目を逸らし、逃げようとしている私のことを

 彼はナルシストと呼んだのでしょう。

 楽しさも切なさも不安も嫉妬も欲望も全ては二人で共有していることで、

 どちらか一方のせいにすることなど出来ないと。




 部屋を出る時に、


 「また帰りが遅くなっちゃった。

  何だか悲しくなって来ました。

  自分の欲望が強過ぎて…。」


 と私が呟くと、

 彼は黙って私の右手をぎゅっと握り締めました。


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理沙子

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