私がバスルームの前の大きなミラーの前で髪を乾かしていると、
「理沙子〜。」
と私の名を呼ぶ彼の声が何度か聞こえました。
私はもっと名前を呼んで欲しくて、彼が聞こえるか聞こえないかの声で
「は〜い。」
と返事をしました。
「用意出来たか?」
しばらくして、彼が私の所に来ました。
さっきまでベッドで裸で寝ていた彼は、既に着替えていました。
「まだ、寝ていて良かったのに。
髪を洗ったから、もう少し時間がかかりそう。」
「俺が乾かしてやろうか?」
「大丈夫ですよ。大人なんですから。^^」
「それは知らなかったよ。」
「少し、ソファで休んでいて。眠いでしょ?」
髪を乾かした後、ソファの所へ行きました。
薄暗い部屋の中、彼の表情はひどく疲れているように見えました。
「今日は疲れちゃったね。」
彼に寄り添うように隣に座って言いました。
「本当に疲れたよ。」
「Tさんが欲しがるから。^^」
「よく言うよ。誰のせいだよ。^^」
「もう駄目って言ったのに。」
「体はそうは言ってないから。」
何だか彼に無理をさせているようで、胸がチクリと痛みました。
彼が静かに笑いました。
「ほんと、面白いこと言うよなぁ。^^
ルールだなんて…。」
部屋を出てから、エレベーターの前で
なるべく軽く聞こえるように尋ねました。
「来週いつ会えるかお電話くれますか?」
「どうしようかなぁ。無言電話でいい?(笑)」
彼が意地悪を言います。
「次に会う日が決まっていないと、それまでの時間が寂しいの。」
彼は私の右手をそっと握り締めました。
抱き合った後の気だるい会話。
今までセックスの後の男の人は
抱いたばかりの女と距離を置きたがるものだと思っていたけれど、
彼に抱かれた後は
その場から離れ難いような柔らかな空気に包まれます。
外に出ると、彼は片手を上げタクシーを止めました。
時計は既に12時を回っていました。
「ちょっと待って。」
私が乗り込もうとする直前、彼は私に千円札を二枚渡しました。
「ありがとう。」
私はお礼を言って受け取ると、タクシーに乗り込みました。
私は運転手さんに行き先を告げました。
それから、窓越しに彼を見て手を振りました。
アルコールが残っていて彼が運転出来ない時は、
いつも同じように私をタクシーに乗せます。
私は彼とのデートの帰りに、
一度も一人でタクシーを止めたことはありません。
彼は必ず運転手さんの顔を確認してから私を見送ります。
帰ってからお礼のメールをすると、彼からすぐに返信。
赤いハートマーク3つと一緒に、明日電話するねと書かれていました。
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