こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2009年04月11日(土) 長い一日


 色々なことがあった一日でした。

 久しぶりに行ったワインバーでは

 ホールスタッフが二名入れ替わっていました。



 私の小さな焼餅が原因で彼と口論になりました。


 「いきなり帰るってどういうことだよ。」


 お店を出るなり彼が声を荒げました。


 「理由は言いたくない…。」


 「俺、頭に来てるんだよ。

  急に帰るって言い出したり、GWは元彼に会うって言ってみたり。」


 「さっき、私がお店の外からメールしても全然気付いてくれないし。

  電話もしたのに…。」


 「気付かなかったんだから仕方ないだろ。

  理沙子が電話で席を外して何分も帰って来ないなんて

  よくあることじゃないか。

  俺にはさっぱり訳が分からないよ。」


 「お店の女の子と夢中になって話してたからでしょ。

  隣にいる私のことなんて忘れて。」


 彼は急に顔を崩して笑い出しました。


 「もしかして、焼餅焼いてるの?」


 「だから、理由は言いたくないって言ったでしょ。」


 「可愛いなぁ。」


 「すぐに私の気持ちに気付いてお店を出て来てくれると思ったのに。」


 「あんなんじゃ分かりにくくて、全く気付かないだろうが。」


 「あの新しい女の子、変わってるね。

  カップルの会話に入ってきて自分のことばかりずっと話してるし。

  私は前に働いてた女の子が好きだったのに。」


 「変わってるというより、無神経なんだよ。

  俺も客に対する言葉遣いじゃないなと思ったよ。

  でもそれをあの場で直接本人に言うのも大人気ないし、

  後で他のスタッフに一言注意しておこうかと思ってた。」


 彼は長くそのお店に通っていて、

 以前から働いている他のスタッフのことはよく知っています。


 「でも、楽しそうに話してたよ…。」


 彼はいつもフレンドリーなのです。

 それは相手の年齢や性別に関わりなくそうなのだけれど、

 何故かその日はそんな彼の態度に胸がチクチク痛んだのでした。



 ホテルに戻ると彼はソファーに座っている私の膝の上に頭を乗せて

 横になりました。


 「私は焼餅焼きなんです。」


 「知ってる。」


 「いつも私ばっかり焼餅焼いてる。

  Tさんは焼餅焼くことなんてないでしょ。

  いつも女の人に愛されてばかりだから…。

  新しいお母さんにもいっぱい愛されてたんだと思う。

  それはTさんがそういう風に振舞っていたからなんだけど…。」


 「それは…俺の一番痛いところなんだよ。」


 それから彼は若くして亡くなった彼の母親について話し始めました。

 それは以前聞いた話よりもずっと詳しいものでした。

 私の膝枕で静かに話をする彼の表情は

 ワインバーで女の子と話をしていた時とは別人のようでした。




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 彼は話を終えて起き上がると、

 私の顔を見ていつもと同じ口調で言いました。


 「何泣いてんだよ。」




 この夜、彼に抱かれて快感が高まるにつれて、

 彼の悲しみや孤独感が私の身体に深く刻まれるような気がしました。


 愛し合った後、彼の腕の中で長いこと話をしました。

 彼はまた旅行の話をしました。

 時間が空けられそうな日程が決まったらすぐに知らせるからと

 言いました。


 「元彼に会うって言ってたけど本当なのか?」


 彼は急に思い出したように尋ねました。


 「会ってもTさんは気にならないでしょ。」


 「最後に会いたいなら仕方ないじゃないか。」


 「もしかしたら、また抱かれることになるかも。

  それでもいいの?

  それとも、そうなったら別れるの?」


 「別れないよ。
  
  嫌だけど、七年も付き合っていた二人が会って

  そういう流れになることもあるかもしれないだろう。

  最後にそんな風にしたってどうせいいもんじゃないだろうけど。」


 「自分の方がいいって自信があるのね。(笑)」


 「俺は自信なんて無いよ。」


 「貴方は元カノと会った最後の日は抱かなかったの?」


 「勿論何もしなかったよ。

  そこでセックスしたら、

  煙草を吸いながらこの一本で煙草は止めると言っているのと

  同じことだろう?

  もし、元彼と会ってそういうことになっても

  俺にそのことは言わないでくれ。」


 彼の話を聞きながら、

 私はもう二度とあの人には会うことはないだろうと思いました。

 あの人と一緒にいても私はその間ずっと彼のことを思い出して

 会ったことを後悔するだろうから。



 彼に抱かれる度に彼と朝まで一緒にいられたらと思います。

 彼の腕の中で話をしながら眠りにつけたらどんなにいいだろうと。

 私がベッドを離れようとする時、

 彼は必ずもう一度と言って私を抱き寄せます。

 一週間もしないうちにまたすぐに会えるのに別れ際が寂しいなんて、

 私はいつからそれほど欲張りになったのでしょうか。


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理沙子

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