過去日記倉庫(仮名)
もくじもどるすすむ
フリフリおれ的わたし的ベスト2007はこちらより


2008年05月23日(金) Drum Sketches / Susie Ibarra (あといろいろ)

スージー・イバラの最新アルバム。データと感想をメモしておきます。

去年の5月Brecht Forumでのライブとプライベート録音を組み合わせたものになっています。画家のフジムラマコト氏とコラボレイトしていて、ライブペインティングもあった模様。このブログにある写真を見ると締め太鼓みたいな民族楽器の太鼓を使っているように見えるんだけど、どの曲なのかなあ。

以前もライブ録音とプライベート録音の曲を交互に置いたHome Cookin'というアルバムがあって(公式サイトにもデータが無かったので手前味噌ながら自分の書いたものにリンク。2番目を参照)そちらは全てデュオなのですが、このアルバムはだいたいソロで、共演者がいてもそのクレジットは無しになっています。Innovaレーベルというのは初めて知りました。


以下、曲ごとの感想を簡単に。曲タイトルは全てDrum Sketch-(番号)。*印の曲はElectric Kulintangで共演している(というかご主人なんですが)ロベルト・ロドリゲスによる野外録音。


1* 虫の声をバックにクリンタンのソロ。最初は電子音のSEかと思ったんだけど、野外録音して生の虫の声が入ってるんでしょう。たぶんオリジナル。ライナーに映画で使用されるとある。というか演奏風景とかいろいろ撮ってるみたいです。見たいなあ。曲はタイトルジングルっぽい感じ。

2 心拍音+カエルの鳴き声のようなSEが流れる中、ゴング(手持ちの小さいもの)から始まる。1分くらいからシンバルと何か金物を打ち合わせ、こするような演奏。これがシンバル同士を合わせてるような強い音なんだけど、それは一枚スタンドから外したものをつけることになってて、彼女がそういう演奏をしているのは聴いたこと無かったんで、どうやってるのかなあと思った。ブラシで皮を擦っている音もするので、お尻の針金が出てる所(画像参照)を使っているのかもしれない。あるいはハイハットに何か噛ませてるとかかな?終始テンポは出さず、音響的な演奏。2分弱でとても短い。

3* フィリピンでの野外録音。7分と長い。人の声とかバイクの音とかうるさいのであとでかぶせたのかと思ってしまう。人通りの多い通りで演奏しているような音。クリンタン+ドラムの演奏で太鼓はいないみたい。ドラムはスージーっぽいんだけど(ロベルト・ロドリゲスではないと思う)、地元のクリンタン奏者と共演してるのかな?

4 2の続き? 心拍音のようなSEをバックにブラシプレイ。擦るスピードや角度等いろいろ組み合わせて、ときどきシンバルの音も聴こえる(これはお尻の針金だなあと思う)がやはりテンポは出ない。

5 SE無し。シンバル連打。速いテンポでマレットで刻みながら、反対側の手でシンバルをつかんでミュート/ゆるめてエフェクティブな音を出してる。これも彼女がやってるのは珍しいと思いました。ジム・ブラックとかジョーイ・バロンとかだとよくやってるんだけど。奏法として新しい所は無いながら、アジアの民族音楽(例えば中国の京劇音楽の鉦を鳴らすのとか)のグルーヴを感じるのが新鮮。そういう感覚を試しているのかなと思う。これも2分弱と短い。

6 SE無し。クリンタンソロ。オルゴールっぽい。クリンタンの伝統のリズミックなフレーズからテンポを揺らしながらナイーブな感じで歌ったり(この辺はクラシックっぽいです)、1・10と比べてオリジナルの部分が多い演奏。

7 SE無し。シンバル連打から太鼓プレイに移る。これもマレットっぽい。リズムを刻むと言うより、間を広く取って音を選んで静かに語るような演奏。タムは2つ+スネア&バスドラ。シンバルはハット+2枚?

8* 3の続きっぽい、野外録音。シンコペーションとか3連を合わせるとアフリカっぽい感じになるなと思う。8分3つ取りで頭にアクセントとかそういう感覚はアジアには無さそうな気がする。でもやっぱポリリズムって楽しいですね。

9* SE無し。ブラシの先の方でちょこちょこと叩くのとリムショットみたいなアクセントを組み合わせてる。3でクリンタンと一緒に合わせてたリズムですね。ブラシで擦って表現できるかとか、それを発展させる試み。バスドラがゆるゆるノーミュートでどーんと鳴る。

10 クリンタンソロ。1と同じ。これもロベルト・ロドリゲス録音だと思うんだけどクレジットは無し。


---------


スージー・イバラはこれまでTzadik等、いろんな楽器を使ってしっかり作曲された作品を何枚も発表しているので、それと比べるとあまり作り込まれてないものになっているなと思う。題名通り今の自分のアイデアをスケッチしたもの、またHome Cookin'みたいなプライベート・スナップ、ていうかファン(=私)向け?っていう気がしたり(笑)。いやいや、ドラムの東南アジア音楽的アプローチという点から見るとかなりおもしろいのではないかと思います。

Electric Kulintangは従来のファンクとかR&B、ラテンのドラムのリズムを合わせたものになっているようなので、こちらの方でもともとのクリンタンのリズムを見つめ直すということになっているような気がします。これまでラテン音楽やアフリカ音楽であったような、民族音楽をどうドラムセットにアレンジするかという試みがまたここでなされているような。クリンタンとか一緒に演奏する太鼓のフィールでドラムをやったらどうだろうというのが聴けてよかったです。

今回調べていておもしろかったのが、音楽民族学にバイミュージカリティっていう用語があって(民族博物館のページ参照)それを初めて知ったことです。バイリンガルという言葉があるので言われてみればという感じなんだけど、ずっと研究されているんだな。自分の関心は逆のベクトル(ジャワの人がクラシックとかジャズを学ぶとどうかみたいな)を向いているので、またそれを指す別の用語があるのかもしれないけど、考える上でとても参考になりました。というか、日本人とジャワの人のギャップとかおもしろい。あるんだろうなあ…民族音楽って地元の言葉や環境音と関わってるのでリズムとか音感とか微妙に違うんでしょうね。



また以前クリンタンについて調べていた時にはなかった新しい映像があったので貼っておきます。言葉はぜんぜんわからないんだけど、見てると楽しい。米国生まれで音楽をやっている方がルーツを訪ねるレポートみたいな感じで、part1ではその方々の米国での活動を紹介しています。このジャズバンドのゆる〜い感じがたまらなくいとおしい(笑)顔つきといい、この他人と思えない感じは何だろう…part2ではミンダナオに渡って現地のクリンタンを見るんだけどこれがすごいことになっている。伝説の長老演奏家がいるだけあって盛り上がる。村のおばぁがものすごいスピードでクリンタンたたいて踊ってる所は必見です。

同じ監督が関連する作品を撮っていて、この活動拠点のフィリピン人によるフィリピン人のための劇場というのを紹介する映像がまたおもしろかった。このBindstiff Studioというのが米国内ひとつしかなくて非営利でやってるそうです。またこれも民族博物館の資料ページですがこの写真の人たちがここで活動してる方々っぽいです。なんか見覚えがあってへーと思った。来日してるんですね。


aya_nkym |diaryJazz Boxantenna

即興アートWebRing
即興アートWebRing | 参加サイト一覧