過去日記倉庫(仮名)
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2008年03月19日(水) 好きだ、/ メロディ

疲れた。映画の筋とか登場人物の気持ちとかどうでもよくて、ただきれいな風景だけが見たいなあと思っていたら、去年の今頃も似たようなことを書いてあった。季節的な感覚なのだろうか。自分は理想の実現とかきれいな風景を夢で見ることができないので、そういう映画が必要なんだよね。その時はトニー滝谷を見た。悲しい話だったけど始めからそんなに共感しなくてもいい映画で、見ていて楽でよかったです。村上春樹に感謝。

今年もそういう無意識の感覚につられて?ちょっと前に好きだ、を借りてきた。こんなに淡々とした作品だとは知らなかったのに、意外にその時の感覚にはまっているもので、すごくよかったです。またラスト、コーションを見た方に(結局見逃した…)この監督のブロークバックマウンテンがよかったときいたので、一緒に借りてみた。

こっちはすごいドロドロだったんだけど(笑)、やっぱり山の風景はきれいでした。羊と馬。そりゃ楽しいだろうなって感じ。いいなあ牧場。あとは着てる服がよかった。デニムのシャツとか上着とかブーツとかかっこよかった。昔の洋服っていいよねえ。内容もいろいろ考える所があったけど、それについては今日は書くスペースがない。自分が書く必要もないかなあ…ただヒース・レジャーはとにかくチャーミングだと思ったね。惚れるよなー。他の出演作を見たくなりました。最近お亡くなりになって、若いのに残念です。

好きだ、は十数年をはさんだ幼なじみの恋の物語、っていうのだろうか。宮崎あおいちゃんと瑛太が見たくて借りました。あと西島秀俊も、先日見た犬猫に続いて追いかける感じ。DVDのジャケからしても?普通の泣かせる恋愛ものだと思って、あんまり期待してなかったんだけど、見てみたらなんかもうひたすらロングショット長回しで薄暗い映画だった。セリフもぽつぽつという感じで、話は割とダイナミックに展開しているんだけど、淡々と時間が流れるだけなのだった。

宮崎あおいちゃんはかわいかったなあ。この時に撮らないと!と監督が動いたかいがあった(インタビュー参照)というか、それはよくわかりました。あおいちゃんは自分の妹に顔が似ていて親しみが湧く。たまたまこの作品の瑛太君も横顔が弟に似てたので、ふたりが並んでる場面とかちょっと懐かしい感情を持って見ていた。この監督は横から撮るのが(それもちょっと斜め後ろからの)好きみたいで、正面のショットよりも段違いに多かったですね。

撮り方というか構図とか色合いが洗練されてる割に、筋立てとかキャラクターのつくりが一昔前の少女漫画ちっくだったのが逆におもしろかった。なんかエロい所に転びそうになるし。見ててむずがゆくなってくる(笑)。残念ながらこれに胸キュンはなかったね。後半の永作博美になってからのパートはよけいうざくて早送りしようかと思ったくらい。(まあこれは嫉妬ですよねー。ケッ…でも好みだと思ってたらうざかったんだよねーだめだわー)私は好きなものは好きとはっきり伝えるので(もっと寝かしてから言えよくらいの勢いで)、こういううじうじうした流れっていうのが耐えられないんだよねー。もっとこうじわじわいろいろ味わった方が人生楽しいだろうになあ。

まあでもとにかく色がきれいで、音も静かでそれで癒されてしまいました。監督がかつて住んでいた秋田大館市で撮ったそうですが、空気がきれいそうで、見ていて気持ちがよかった。虫の音が大きいんだね。沖縄とあんまり変わらない。暗いのにあおいちゃんが一人で歩いてるのはおばさんとして心配になった(笑)音楽は菅野よう子なんだけど、BGMっていうのが流れない。物音と沈黙と、それに耐えられず漏れる言葉とため息と口ずさまれる断片的なメロディ。それが十数年の空白を渡って絆をよみがえさせる。ずっとたどたどしい音だったのがエンドロールできれいにアレンジされた曲で流れるのがすさまじくドラマチックに感じられる。

主人公が音楽に目覚めてそれを仕事にする(演奏家ではないけど)という筋なのに音楽に関して書き込まれたエピソードはまったくないのでリアルに感じられないんだけど、まあいいやって感じ(笑)。演出が俳優の素を引き出して撮る形になっているらしい(即興的な演出(12)というか。ウォン・カーウァイもそうらしい。その方法がおもしろいと思いました。)ので、もともと演奏家としての要素を持ってないとそれが出てこないんじゃないのかな。確かに瑛太君はずっと野球やってていきなりギターを始めた役というのにうまくない?と思ってたらやっぱりギターが弾ける人だったりとか。永作博美がわざと下手に弾いたみたいな場面は、いやあなたはそれ以上うまく弾けないでしょって感じだったし。その辺はグダグダな感じがした。

前半のテンション高く張りつめていた雰囲気から、ずっユウとヨウスケと二人っきりでじりじりすすむのかなと思ってたら、後半東京で関係ない人のおしゃべりがけっこう入ってきて、それを見てるのがちょっと疲れた。途中で止めて次の日に続きを見たりしてましたね。前作のtokyo.soraが群像劇で、そういうつづれ織りの彩りも入れたかったのかなと思ったけど、虎美ちゃん(その名前の話だけに登場する?キャラ)とか加瀬亮演じる怪しい奴は存在感があってよかった。加瀬亮の貧乏臭いゆるゆるパーマの髪型最高。なんだろう、他人だから与えられるゆきずりの無償の優しさっていいよなと思った。そしてその横に、人の目をかすめて盗んだり殺しにかかったりする罪も、裁かれることなく並べて置かれる。自分にはそういうよそよそしい所が好ましくて見ていました。酔いつぶれた虎美ちゃんが目覚めた時に見せる西島秀俊の笑い方とかとてもよかった。

実は二人の間に居る人物として、ユウのお姉さんがいて、それがとても印象的だった。小山田サユリさんという方がやっていて、見覚えあるけど名前知らないなあ〜っていうくらいだったんだけど、すごいきれいでよかったです。好きな人を事故で亡くしたっていう設定(少女漫画だな…)に尽きると思うんだけど、河原に座ってギターのメロディを口ずさんでる所で泣き、好きな人の幻影を見て駆け寄る所で泣き、公式サイトの壁紙で初めて見た台所の窓辺の写真(お姉さんがいつも見ていた風景、と勝手に判断)で泣き、と私にとってはほとんどそれだけの映画だったと言っても過言ではなかった。そういう感想をけっこう見かけたので、それだけよかったと思うんだけど。

その虎美ちゃんとのおしゃべりで、うまくいかない時、どうするかっていう問いに、虎美ちゃんは目を閉じて自分がうまくいっている所を思い出すと答える。ユウは笑うって言う。(この辺はとてもなじんだ感じがするので、脚本ではなく自由に考えて言わせてるのかもしれないな)だいたいみんなそんな感じなんでしょうね。私はやっぱり楽器を演奏しようとするかなあ。ドラムじゃなくてピアノだけど、昔練習してもう間違うことのない曲を弾く。それこそバイエルとか、ソナチネの好きな曲とか、ハノン(スケール・笑)でもいい、覚えてて無心に自由に弾き切れるものを。

それを思い出したのは、やっぱりお姉さんを撮った所で、河原に座ってギターの曲を歌ってる所なんだよね。それこそ4小節くらいなんだけど、お姉さんは一生懸命カウントを取って声を出そうとする。繰り返されるメロディをたどって、カウントを取って声を引っ張り出したい。ここの撮り方が本当によくて、お姉さんと同じタイミングで涙が出たな…ユウはそれでお姉さんはヨウスケを好きになるだろうと思うんだけど、そうなんじゃなくて、お姉さんはヨウスケが無心に音を出して紡ぎ出すそのメロディを頼ってる。そうしないと何もかも内側に崩れて沈んでしまいそうだから。

ごく単純な、ルートから上がって戻ろうとするだけの形なんだけど、何度も何度も何度も繰り返しながら、これからどこに行くのか全力で探している間のその音が大事なのだ。お姉さんが倒れて二人が別れるまでにその曲が完成されることはなくて、二人が再会する時にこのメロディがきっかけになるっていうのはあるけど、そうしてまた出会って一緒に完成させていくストーリーが続くのかもしれないんだけど、自分としてはお姉さんが歌っている所で完了している。これも垂直に立ち上がって永遠に止まる瞬間なのだろうか。

彼女は前に進む方も何もかも見送って後退する方も選ばず、あえて先が決まらない瞬間に従ってそこに永遠に留まり続ける、そのための行為だったんじゃないかと思えてならない。それは見ている自分が、夢に留まって眠り続けることに憧れていたからなんだろうと思う。できることならそうなりたいんだろう。そうやって実現される場面が必要だった。


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