舌の色はピンク
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2020年04月25日(土) 漫画ベスト50 [10-1]

順位付けなんかして何様だと自戒したくもなりますが、ここに並べてある作品はいずれも「神!」くらいに思っています。


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10.PINK(全1巻)[岡崎京子]



昼はOL、夜はホテトル。部屋にはワニを飼っている。
設定と人物造型と話運びと演出がかんぺきにガッチリはまって、始まりから終わりまで隙がなく、作品としての完結度が高すぎ、感想しようにも手に負えない。
すごい…。
よくもこんな、移ろいゆく時代の一側面とその底にたゆたう普遍性とを、まるでスキップするような調子で、軽妙に、ドラマとしても楽しませながら…と言葉を連ねるほど安っぽくなってしまう。まともに感想できない。
単行本一冊単位の物語を描かせたら往年の岡崎京子を越える漫画家はいないんじゃないか。
というより物語作家として随一なんじゃないか。
唯一の難点は読むとあんまり圧倒されちゃうから、うかつに読めないこと。




9.ジョジョの奇妙な冒険(シリーズ100巻超)[荒木飛呂彦]



ジョジョは第何部が好きかを男の子に問うのは、宗教を尋ねるようなものですね。
千年の友情も壊れるし、万年の友情だって始まる。
僕は第四部がたまらなく好きだ。
町を舞台にしている分もはや”冒険”ではないのだが、それだけに”奇妙”さが際立っていて、おそろしさも興奮度も突き抜けてる。
少年をワクワクさせる要素てんこもり。
素晴らしいのは、大人が読んでもその少年性が呼び起こさせられる刺激性。
それは奇抜なアイデアを神がかったような技術で漫画に落とし込めている荒木先生の芸当あってだけれど、のみならず、作者も編集者も読者もみんながみんなイキイキとジョジョを楽しんでいたその魂が、まるごと漫画に閉じ込められているみたいな、神秘的な魔力まで感じてしまう。




8.今日から俺は!(全38巻)[西森博之]



西森先生の最高傑作は「天使な小生意気」だと思うし、一番笑えるのは「道士郎でござる」で、一番人に薦めやすいのが「お茶にごす」と、それぞれの太鼓判があるのだけども、代表作はいつまでも「今日から俺は!」であってほしい。
漫画的トラブルの配置とその解決への筋道が見事すぎる。
それも、シナリオのレールを沿うだけの無機質な調子でなく、キャラクターあっての大運動会の顛末なのだから素晴らしい。
また、この人の漫画には、漫画である必然性がいつもある。
他の媒体では不可能な表現にいつも感動してしまう。
コマ割りが上手い作家という話題で名が挙げられている記憶はないけれど、めちゃくちゃ上手い。
上手さを意識させない点でも神がかっている。
しかも誰も真似できない、このひとだけの呼吸がある。



7.ガラスの仮面(1〜49〜続刊)[美内すずえ]



ネタ漫画のつもりで読んでみたらとんでもない名作で、ひれ伏しきった。
ハイハイ演劇ものの少女漫画なんでしょうなどと、くれぐれも知ったつもりになってはいけない。
まさにオールジャンルという冠がふさわしい。青春、恋愛、友情、家族、スポ根、芸術、社会性、ミステリー、笑いあり涙ありな上、バトル漫画としての構造まである。
そのシナリオ進行の面白味もさることながら、作中劇にしてみてもこれだけで一本の傑作が成立するほど仕上がっているのだからつくづく贅沢だ。
キャラクターもばりばりたっている。
主人公のライバル役となる亜弓さんの、至上ともいえる気高さったらない。
また単に人物としても、主人公との関係性にしても、多くのひねりがあり、古さがないどころか、いっそ新しさまで感じられる。
そしてこれは作品に一貫している。ありきたりだなあと白ける要素がまるでない。
漫画読みほど新鮮に感じられるかもしれない。
ためらいなく人に薦めたい一本。




6.ピンポン(全5巻)[松本大洋]



漫画として完成しきってる。
それが言いすぎであろうとも、せめて青春スポーツ漫画の完成形とは言わせてほしい。
キャラクターの人格も行動様式も関係図も成長も、卓球を題材としたその生かし方も、また勝敗の展開も、描画も、ちょっとした遊び心も、しゃれっ気も、茶目っ気も、ぜんぶひっくるめて、楽しい!
この、楽しい! こそ、漫画の本分じゃないかと思う。その仕事を見事にやりきってる。
もうここから1コマも引けないし、ここに1コマも足せない。
セリフの1文字はおろか、描線1本にしたって変えられない。
傑作揃いの松本大洋、「しあわせなら手を叩こう」も「鉄コン筋クリート」あたりも大好きだから悩んだ。
作中、ドラゴンと呼ばれる強キャラがインタビューへの返答で、月本君のようなレベルの選手がわが校にいないことが水準の低下を云々と演説しているけども、この論法はまさしく松本大洋自身に向けてしまえる。
つまり、たとえば小説界において、"松本大洋のようなレベルの作家が"と言ってしまえる。
こんな才能が漫画界に流れたことは、他の分野からすれば計り知れない損失。
そしてもちろん漫画界からすれば、代えのきかない宝物。




5.シグルイ(全15巻)[山口貴由]



残酷時代劇。箸が転んでも腸が飛び出す。なにかと腸が出る。
とは申せ、グロテスクなどは問題じゃない。
どっぷり濃厚なシナリオと切れ味するどいエピソード、常にスリルある話運び、また特徴的なナレーションによる独特のテンポがたまらない。
技もかっこいい。
なのに剣技に頼りきらないのが虎眼流。抜刀惜しさに、そのあたりの石で敵の顔をつぶしたりする。実際の剣術家もそうだったのかもしれないと思わせられる妙な説得力がある。
そうした生々しさが全体に行き届いている。江戸時代の風俗や武家の嗜みについての細かい蘊蓄はいちいち興味深い。
セリフ回しも素晴らしい。名言がたくさんある。
というよりほとんどのセリフを名言としてしまいたいほど。この点ネット文化と好相性で、よくレス画像に使われているのを見かける。
だからといってネタ的にだけ味わうのはもったいない。
シリアスに読んでもがっつり答えてくれる、たぐいまれな足腰の強さが魅力の作品でもある。




4.わたしは真悟(文庫版全6巻)[楳図かずお]



ボーイミーツガールミーツロボット。
楳図かずおの本気。
ホラーやギャグばかりの面白おじさんじゃないんだとよ思い知らされる。なんのてらいもなく心服できる。
いや心服なんて生ぬるい。崇め奉りたくなるような…神々しさまで感じるようになる。
この漫画はまさしく神を描いた作品でもあり、終盤にはそこいらのセカイ系がかるく吹っ飛ぶ壮大な宇宙観が表れるが、序盤から中盤にかけての、少年少女の世にも美しい逃避行は、それにも増してかけがえない。
少年少女の全てがつめこめられたような凄味。
少年少女の神性を信じきってる楳図先生のきよらかな思念がダイレクトに伝わってくる。




3.リングにかけろ(全25巻)[車田正美]



男のバイブル。
最初期のひたすらに貧しい、ちまちましたボクシング漫画やってたころも好きだし、必殺技が飛び出すようにあってきた頃も盛り上がるし、そして終盤の剣崎順には惚れざるをえない。
ハッタリもよく利いている。発電所でトレーニングして必殺パンチを編み出しましたとか、わけのわからない理屈ならぬ理屈が楽しい。
しかし車田漫画はネタにできる突っ込みどころが多すぎてもったいない読まれ方をされがち。読み終わった後にはどれだけ笑いにしてもいい。でも読んでいる最中は同じ地平に立ちのめりこんでしまわないと、どんなツッコミも野暮で空虚で無粋だ。あの熱量を受け入れさえすればどれだけ感動できることか。
今でも通じるいわゆるジャンプ漫画というと、その原点に「ドラゴンボール」や「北斗の拳」が挙げられがちで、まれに「聖闘士星矢」も触れられるけど、僕はリンかけこそがパラダイムシフトであったと思う。リンかけの最序盤はまだジャンプ漫画の文法になっておらずまんま昭和の漫画。それが中盤からグッとリアリティが薄れて、高火力演出のバトル漫画となる。バトル漫画の美味しいところは大体リンかけがやってる。ここで大事な力学は"カッコいい"こと。ポーズが、セリフが、必殺技が、行動理念が、哲学が、リンかけはとにかく"カッコいい"。




2.火の鳥(文庫版全10巻)[手塚治虫]



まだ幼いころ、手塚が嫌いだった。絵が嫌だった。
がどうしてもやることのない暇な夜に、親の持っていたこの漫画を読んだ。
いつの間にやら読みふけり、夜も更けていたが、いつも口うるさい親がこの夜ばかりは放っておいてくれた。
三冊分ほど読み終えて、ますます手塚が嫌いになった。
話が怖すぎるのだ。
人間が次から次へ憂き目に遭う。
悪人だけならまだしも、善人だって途方のない受難にみまわれる。
それにまた多くの子供と同様に、僕もよく宇宙や永遠や漠然とした死というものを考えては身震いする少年だったから、急所を突かれたような狂おしさがあった。
結局この夜は眠れなかった。
大きくなってから読みなおしてみたら、子供の頃よりなお恐ろしかった。
手塚は自身がヒューマニスト扱いされるのを嫌っていたという。この大作にしてみても、ヒューマニズムが主軸にあるとするのは(それを人道主義と解釈する限り)あまりに表層的な見方だ。
ただし人間そのものを…その核心を抜きだそうと、その輪郭を描き残そうと、そのありったけをこの漫画に収めようとしていたのではないかとは、読みかえすたび信じ込んでしまいたくなる。
だから恐ろしくもなる。人間そのものが収められた作品が、恐ろしくないわけがない。




1.寄生獣(全10巻)[岩明均]



かんっ…

…ぺきに完全で隙がない…。
テーマ、シナリオ、キャラ、エピソード、テンポ、バトル、キャラクター、セリフ、ミギー、作画、興奮度、衝撃度、没入度、どれをとってみても素晴らしく、そしてそれらが一切無駄なく一本のストーリー上に紡がれる美しき調和。
まだ「寄生獣」を読んでない人が恨めしくて仕方ない。
全10巻というところにもふしぎな完全性を見出せる。
1巻1巻、1話1話が割り当てられた役割をあまりにも全うしすぎていて、どの巻を手にしてみてもどっしり重みを感じる。
それが10巻できれいに終わる。完全な調和。
ところが僕の実家には30冊の「寄生獣」があった。
長兄と次兄と僕とでそれぞれ揃えていたのだ。
僕ら三人兄弟はものの好みがまるで違う。しかし「寄生獣」は全員が好きだった。
たとえ読みかた好みかたが違うにしても、あの面白さ…漫画で可能な面白味をあらん限り凝縮しきったようなあの面白さ…の前にあっては、惑星を前にした岩と砂の違いでしかないのか。
いけ好かないあの子も「寄生獣」を好き好んでいるかもしれない。
親の仇にだって「寄生獣」を読ませてやりたい。
この面白さを地上の全人類で共有したい。


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ほか思いつく限りのお気に入りを以下に羅列。

ハーツ&マインズ、あげくの果てのカノン、ハイスクール奇面組、五年生、のだめカンタービレ、七夕の国、ヒストリエ、ピコピコ少年、第七女子会彷徨、封神演義、町でうわさの天狗の子、のたり松太郎、漂流教室、奇子、ブッダ、アドルフに告ぐ、GS美神極楽大作戦、無限の住人、ハーメルンのバイオリン弾き、黄金のラフ、ラストイニング、ドーリィ♪カノン、ゾンビ屋れいこ、半神、残酷な神が支配する、谷仮面、夏坂、忍空、とめはね!、帯をギュッとね!、Piece、深夜のダメ恋図鑑、MMR、コールドゲーム、女王の花、5時から9時まで、ぴんとこな、エクセル・サーガ、幕張、ニューハワイ、ネウロ、スラムダンク、とりあえず地球が滅びる前に、度胸星、大正野郎、へうげもの、ピューと吹くジャガー、すごいよマサルさん、7SEEDS、ミステリと言う勿れ、昨日何食べた?、西洋骨董洋菓子店、ぱら☆いぞ、銀と金、カイジ、アカギ、天、無頼伝涯、度胸星、大正野郎、へうげもの、お尻触ってくる人なんなの、成程、スペシャル、月曜日の友達、ヴォイニッチホテル、制服盗まれた、赤色エレジー、アオイホノオ、吼えろペン、ベルサイユのばら、ゼブラーマン、最終兵器彼女、シガテラ、はじめの一歩、ギャグマンガ日和、ギャラリーフェイク、とりかえばや、うずまき


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ベスト50のどこかに入るはずなのに漏れていた2タイトルを追記。


ニッケルオデオン(全3巻)[道満晴明]
おしゃれで可愛くてちゃんと面白い、といえる漫画が2010年代にかなり増えた。
道満先生はその筆頭、牽引役といえたんじゃないか。
めちゃおしゃれでめちゃ可愛くてめちゃ面白い。
「ニッケルオデオン」は道満先生のその手練手管がいかんなく発揮された短編集。
豊富なアイデアの数々は、映画小説漫画などの過去作品を引き合いにうまいことセオリーの逆手をとったりしていて、いずれにも一ひねり二ひねりきいている。
短編にしておくにはもったいないような話もちらほらある。そんなアイデアも世界観もざくざく使い捨てるのだから実にぜいたくな読み物だ。


ドラゴンボール(全38巻)[鳥山明]
言わずと知れたバトル漫画としての魅力はもちろん、作者がキャラクターに寄り添っていないからこそ引き立つ人物像の奥行きが見どころでもある。
主人公孫悟空の結婚の成り行きがわかりやすい。ほか細かいところでもいろいろと、到底"通常の漫画の約束事ではありえない"描写がてんこもり。
日本一メジャーな少年漫画でありながら、メジャーじゃない手法ばっかりなのだ。それがまた時代も世代も越えて多くの人を惹きつけているのだと信ずる。


れどれ |MAIL