舌の色はピンク
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2020年04月24日(金) |
漫画ベスト50 [30-11] |
短編は入れだすときりがないから、かなり省いています。 それでも入れてあるのは、よっぽど好きというもの。
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30.六の宮姫子の悲劇(短編読み切り)[つりたくにこ)]
ガロらしさの色濃い、どこまでも奥行き尽きない、視力を狂わされるような漫画。 悲劇ってなんだろう。 と傍から考えたとき、悲劇は大体悲劇的になる。 六の宮姫子にとっての悲劇は、傍から当て推量するものでない。どこまでも当事者のもので、本来悲劇とはそういうもの。 だから、この漫画は、六の宮姫子の悲劇。 どれだけ抱きしめたくても読者の手は彼女に届かない。
29.うしおととら(全33巻)[藤田和日郎]
少年漫画の到達点。 荒々しい豪快な絵が印象的な妖怪バトル漫画で、作者の入魂をこれでもかと味わえる。 伏線ばりばりの面白すぎる物語、泣かせるエピソード、キャラクターたちの境遇の過酷さ、それを乗り越えていく熱さ。 藤田和日郎の絵の一番の強みは、描線が生きていることに違いない。 象徴的なのはキャラの表情。漫画界でも最上なんじゃないだろうか。 同じ作者でも、シナリオの緻密さや演出のダイナミックさでいえば、「からくりサーカス」の方が優れているかもしれない。 だが「うしおととら」は物語終盤、ラストにかけての突っ走りが群を抜いている。 泣きながら震えながら燃え上がりながらどかどか炸裂するカタルシス。すんごい。 あと主人公の武器がめずらしい。槍。"獣の槍"。この"獣の槍"のデザインがめっぽう格好いい。設定もすんごい。
28.南瓜とマヨネーズ(全1巻)[魚喃キリコ]
あの時代にあの時代をよくぞこの作品に残しておいてくれたと、僕が権威ある人間なら最高峰の賞を授けるものを。 女たらしの代名詞となった"ドン・ファン"や、カミュの異邦人における青年"ムルソー"のように、ある人物像の象徴として名を残し続ける存在があるが、この漫画の"ハギオ"もまた、時代の一側面をとその身に担ったキャラクターだ。軽率で軽薄で、誰のことも好きでなく、何を考えているのかよくわからない。 男側から見た女像として、何を考えているかよくわからない女はあらゆる作品にさんざん描かれてきた。比べると女から見た男像として、何を考えているかよくわからない男というのは、なかなか描かれてこない。描かれたとしても、最終的にはその片鱗に理解が及ぶようまとめられがちだ。ハギオは、最後までよくわからない。だが"このよくわからない男、なんか知ってる""男ってこういうところある"と、読み手に思わせるところがある。そしてそれは、男たちに共通する神秘ではない。女たちが共有している秘密なのだと思う。
27.孤独のグルメ(全2巻)(久住昌之/谷口ジロー)
輸入雑貨商、独り身中年の井之頭五郎は今日も飯を求めて街を練り歩く。 すっかり有名作となりましたね。 初めて読んだ際の感想は、”この面白さが他の人にわかるのだろうか”だった。 人気が出ていくにつれ、“これの面白さがわかる時代になってきてるのか”という感動があった一方で、”みんな本当にわかってるのか”という不安もあった。 ファンの多くに共通した心理じゃないかと思う。 なにぶんこの漫画の魅力は言語化しにくいところにある。 そして、だからこそ漫画として表現されたということ自体に尊厳がある。
26.妖怪ハンター(シリーズ10巻分ほど)[諸星大二郎]
考古学者稗田礼二郎があちらこちらの妖怪と対峙し退治していく話…では決してない。 稗田礼二郎はたしかに妖怪をはじめとした怪現象のもとに呼ばれ、その謎について迫られ、学識ぶった解説はするが、問題解決はしないことがほとんど、また本当に単なる学者なので対決なんてもってのほか。事件の観測者、語り部に過ぎない。 だから対決構造に慣れきった身ほどギョッとする。僕にはこの感覚がとても気持ちよかった。 そしてまた快現象のアイデアが豊富で奥深く、そこには漫画的ハッタリもよく効能していて、空想欲がどっぷり満たされる。 どの話が好きというより、諸星大二郎先生の描く世界が好き。 だから「妖怪ハンター」でなくても、先生の作品の何を読んでも求めていたものは満たされてる。
25.ノーマーク爆牌党(全10巻)[片山まさゆき]
特殊能力(ほぼ)なしの麻雀漫画。実際に凄腕らしい作者の、実戦理論らしき話もちらほら。 ただこの漫画の最たる魅力はキャラクター。 どのキャラにも可愛らしさと格好良さがあり惹きつけられる。 展開にも意外性とカタルシスがあり、麻雀のルールがわからなくたって面白く読めるはず。 一見では絵が下手に見えるかもしれないが、漫画としては成立している。申し分なく上手いと思う。
24.最強伝説黒沢(全11巻)[福本伸行]
福本先生の息抜きに描かれ始めたコメディ…と見せかけて、骨太の福本力学が放たれていく。 工事現場作業員の独身四十路男黒沢が何をしても空回りする日常の様は、目を背けたくなるほどの哀愁に満ちながらなお笑いを誘う。 その布石もあいまって、終盤に立ち上がり燃え上がる黒沢の咆哮は、読者の胸を貫いた挙句貫通しきらず、ずっと胸中にとどまり続ける… 言い過ぎではない。すくなくとも僕の胸にはずっと黒沢が棲んでいる。
23.駅前花嫁(全1巻)[駕籠真太郎]
なにかと奇才やら鬼才やらと呼ばれがちだけれど、ストレートに天才でしょう。駕籠真太郎。 ただ才能の方向性が、グロとかエロとかスカトロとか、社会逸脱者の志向に伸びてしまっているだけで。 僕も彼の嗜好は得意でないけれど、何分あの天才を味わうためには仕方ない。 苦手を押し切ってでも天才の御業には触れたいもの。 20冊くらい読んだ中では、この短編集が最も、ネタも絵も充実しているよう思えた。 とはいえ、どの本がとか、どの話がとかではなく、とにかく言いたいのは、駕籠真太郎が天才だという一点。
22.それでも町は廻っている(全16巻)[石黒正数]
商店街を舞台とした日常もの。 初めて読んだ当時はまだまだ僕が未熟で、ギャグ漫画の枠にはめて読んでしまい、上手だけど別に笑えはしないな、くらいの下等な感想をいだいていた。 だんだん読み方がわかってくると、もう、こうべをたれずにはいられなかった。 1巻のあとがきにある"コミュニケーションの教科書になるような漫画(を描きたい)"という表現も今ならよくわかる。 人と人との触れ合いかくあるべしと、押しつけなしに学ばせてくれる。 また話作りには細やかなギミックがあちこちに仕掛けられ、そのおかげか"彼らの日常を追体験する"というよりかは"彼らの日常に迷い込む"感覚に読めば読むほど陥り、ドンドンのめり込むこととなる。 ほかにも語り切れないほど魅力が多いのに、それらがとっ散らからず一体化しているバランス感覚も至妙。 いうまでもなく「外天楼」も名作だけど、「それ町」の成し遂げた偉業がすさまじすぎる。
21.相討ち(短編)[平方イコルスン]
イコルスン先生の才能について考え出すと悔しくて悔しくて眠れなくなるほどなのに、認めないわけにはいかない面白さ。 女の子同士のずば抜けた会話の妙が現在の氏の漫画の主だった魅力とされるわけだけども、「相討ち」にはちょっと特殊な色合いがあり、わずか4ページの短編ながら、起承転結それぞれに感じ入るところがある。 男女ものでありながら恋愛関係度外視なのもいい。恋愛どころじゃないのだ、あの二人は。
20.よつばと!(既刊13巻)[あづまきよひこ]
日常系の境地。 この世界に入り浸っていたいと思わせる、心地よさにまみれた朝昼夜。 安直に"優しい世界"と表現したくはない。 でも、"正しい世界"と表現したくなるような憧れがある。 現実世界が間違いだらけで認めたくないだなんて安いイチャモンだが、現実がなんであれ、「よつばと!」の世界は正しい世界なのだと、「よつばと!」の世界こそがきっと正しい世界なのだと、思い込みたくなる。
19.シュメール星人(全3巻)[ツナミノユウ]
シュメール星人は宇宙人でありながら地球人とほぼ変わらない日常を過ごす。 ストレンジャーの心情を仮託されているのかもしれない。 とにもかくにも時代を先取りしすぎていた漫画。 単なる感性だけの問題でなく、共感性羞恥という概念の蔓延や、細やかなモラルの観点が多くの人に行き届いた今か今よりちょっと前なら、もっときっと読み取られやすいはずとも思える。 作家先生については尊敬の念が強すぎるあまりおそれ多くて言及できない。
18.サナギさん[全6巻+続編既刊2巻][施川ユウキ]
ちょっぴり毒気のある4コマ漫画。 日本語表現に暁通している施川先生だからこその視点や手並がぞんぶん堪能できるし、キャラクターたちはみな可愛らしく、読んでいて顔を緩ませない時間がない。 僕は施川先生を知るまで4コマ漫画は悉くつまらないものと決めつけていた。今でもそのきらいはある。 この漫画では、3コマ目ですでに答えとしての笑いを成就していることが多い。 そこに加えて4コマ目でもう一転し異次元殺法とするのだから並大抵の4コマ漫画じゃない。 氏の作品だと「オンノジ」が最高傑作なんじゃないかと思うし「森のテグー」は最も可愛らしく「もずくウォーキング」は最も人に薦めたく「ヨルとネル」は最も心に残った。 だけど一番好きなのは「サナギさん」。 サナギさんがフユちゃんとゲラゲラ笑ってるだけで幸せな気分になる。
17.HUNTER×HUNTER(1〜34〜続刊)[冨樫義博]
どうしても外せない…。 氏の最高傑作は「レベルE」であると長らく位置付けていたが、蟻編、選挙編、王位継承選編と進むにつれ、いよいよ少年漫画未踏の領域を突っ走ってきてるとうかがい知れ、ひれ伏さざるを得なくなった。暗黒大陸を踏破しようとしているのはおまえの方だと言いたくなる。 コマ割りの神妙は、才能によるだけのものとも思われない。映画でもアニメでもゲームでも、あるいはライブ映像や、はたまた現実世界の視界ひとつだってあまさず肥やしにして、漫画に還元している。 だから画面を見ているだけでも実は面白い。 その上に、あの文字量で繰り出される高濃度なシナリオ構成に触れられるんだから幸せだ。
16.夢幻紳士〜怪奇編〜(シリーズ数十巻分のうちの1冊)[高橋洋介]
主人公である夢幻魔実也さんは、…ウソだろう勘弁してくれと心を閉ざしてしまいたくなるような名前をしてはいるが…漫画界随一の色気をただよわすキャラクター。 その流し目、人を嘲るような薄笑み、静止画からでも伝わる気品にあふれた身のこなし、めろめろです。 妖怪や化物、怪異を相手取ってるはずなのに、魔実也さんの魅了っぷりがいちばんの怪異。 キャラクターを抜きにしても、画面の取りかたが素晴らしい。 その世界の必要部分がキチッとコマに収められている気持ちよさ。 お話も、えっここで終わるのってところで切る潔さが独特の余韻を残しクセになる。
15.ちーちゃんはちょっと足りない(全1巻)[阿部共実]
「空が灰色だから」で、目を背けたくなるような”うまくいかなさ”を見事に描出してみせた阿部共実先生の名作。 多かれ少なかれ、漫画はキャラクターに、主題に沿った善し悪しの立場を担わせるものだ。 何を善しとし、何を悪しとするか? これを軸にシナリオで弁証法させたら、もう誰も阿部共実先生を越えられないんじゃないか、そしてこんな作品を描いてしまっては、もう先生自身も以後越えられないんじゃないか…とおののかされるような極まりが見受けられた。 ごたくを置いとくと、めっちゃくちゃ感動した。
14.エアマスター(全28巻)[柴田ヨクサル]
元体操選手である女子高生がその類稀な身体能力を活かして街の喧嘩ストリートファイトに身を投じていく。 ストリートファイトのロケ地が豊富で楽しい。 いつでもどこでもが醍醐味ですものね。歩道橋を飛ぶスカイマスターと金次郎のバトルは何度読んでも興奮する。 キャラクターたちの設定も幅広くよく練られている。 ゴーストライターやプロモデラー、アイドルオタク、ゲーマーなど、「どこでも」だけでなく「誰でも」を押し出すことで、ストリートファイトが立体化している。 また、今ではよく話題にもされる、いわゆる”主人公が絡まないバトル”、”敵同士のバトル”なるものは、僕の知る限りこの漫画が一番うまく面白い。 そして名言がわんさか。 キャラクターならではの名言もあるし、名言ありきで構成されたようなキャラクターもいる。 読んでる最中ずっと興奮しっぱなし。 合法ドラッグ。
13.李さん一家(短編)[つげ義春]
つげ義春による体験記仕立ての短編。 あまりに有名な最終ページの衝撃は、たしかに脳天をつらぬく。 その演出もさることながら、冒頭の、辺鄙な場所のボロ屋に住まうことにしたという描写もたまらない。 水木しげるを彷彿させる白と黒の草木の世界に、匂い立つような木造家屋の臨場感。 架空の五感が刺激され、あぁこのボロっちぃ景色愛しいなと信じられてくる。。 作者の美意識が脳髄に浸透する。その支配される感覚が心地良い。 つげ義春の醍醐味はここにあると思う。 もちろん「ねじ式」も大好きだ。何度読んでも、読むたびに感動してしまう。「やなぎ屋主人」も大好きだ。これはこれで、心境の領地が侵されていく感じ。
12.舞姫テレプシコーラ(全10巻+続編5巻)[山岸凉子]
小学生の姉妹を主人公に据えたバレエ漫画。 山岸凉子もまた、お話が書ける作家。 作者と物語に一定の距離が置かれているようなところがあり、キャラクターの幸にせよ不幸にせよ、”じゃあ、そういうことですので”くらいの突き放しを感じる。 そのバランスが絶妙で、怖いくらいに公正。話にわざとらしさがなさすぎてゾッとする。 これほどまでに話運びが自然な漫画を他に知らない。 この漫画には重苦しい展開もあるけれど、作品全体からいえば常に希望の方を向いていて、明るいとは言い難くとも、いたって健全だと思う。
11.デカスロン(全23巻)[山田芳裕]
マイナー陸上競技である十種競技を題材にしたスポーツ漫画。 大ゴマのド迫力、大胆でもあり繊細でもある登場人物たちの心理描写、先の気になってしかたない展開、褒めどころがありすぎる。 そして何度読んでも泣く。 十種にもわたる混合競技を描くにあたり、”やりたいことを一つに絞りきれなかった優柔不断さ”転じて”煩悩まみれ”という性を主人公に託したテーマの展開も見事。 あとこの漫画に登場する多々良というキャラクターが、全漫画通じてトップクラスに好き。
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