舌の色はピンク
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2020年04月23日(木) 漫画ベスト50 [50-31]

一作家につき一タイトルの縛りにしました。
本来つけられようはずもない順位を無理矢理並べているだけなので、ほとんど上下の意味はありません。
なお漫画は楽しいものであってほしいという思いがあり、シリアスだったり芸術的だったりするよりかは、健全で娯楽性の高い作品を好んでいます。


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50.セクシー田中さん(既刊2巻)[芦原妃名子]



アラフォーOLに執着する20代前半OLという取り合わせの妙がまず面白く、またベリーダンスという題材も興味深い。
田中さんという人物像は、この時代にあって誰かに書かれる必要があったのだろう。その担い手が芦原妃名子でよかったと思う。




49.ギャンブル王子嵐(全3巻)[中島徹]



日常の出来ごとのなんでもかんでもを賭けの対象にしてしまう高校生が主人公のギャグ漫画。
ギャンブル狂いの外道担任教師と、家格の再興を夢見る元金持ちを加えた三人で、本当にずっと万事を賭けてる。
キャラがみんな倫理観なくて自分をつくろわずエゴ丸出しなのがたまらない。
「少年雀鬼 東槓」や「玄人のひとりごと」も好きだけど、この漫画はとかくキャラが素敵。ゲスなのに憎めない。




48.マギ(全38巻)[大高忍]



冒頭からずーっと面白い。面白さだけでできてる。
王道少年漫画の大筋を邪道の枝葉で彩っている感じで、重たい話はとことん重たいし、登場人物同士の思想の行き違いも奥深い。
冒険ファンタジーのモチーフに中東が扱われるのは新鮮だった。
必殺技や魔法なんかも、アラビア語っぽい語感があてがわれていてこれが盲点的かっこよさ。




47.初恋の世界(1〜7〜続刊)[西炯子]



地方のチェーン喫茶店店長を務める独身四十女の主人公のもとにやたら料理の上手い男が現れ、ドラマが始まる。
"地方"、"大人の女"、"職務"がキーワードともいえる西炯子の集大成みたいな漫画。
大人というものにも幾多の区切りがあって、いちいちに、それぞれなりのモラトリアムがあるのだと痛感させられる。
しかもこのモラトリアムは運動する。その運動の軌跡を物語として読める作品。巻を重ねるごとに面白い。地道に面白さ増していくのが憎い。



46.ミラーボールフラッシングマジック(短編読み切り)[ヤマシタトモコ]



こんな漫画が読みたかった、というより、こんな漫画が描きたかった、と多くの人に歯噛みさせたであろう傑作。
少なくとも僕は悔しかった。
感動とか熱狂とかいった琴線をひゅるりとすりぬけていく、実にスマートな仕上がりそれ自体に感動する。




45.あさひなぐ(既刊32巻)[こざき亜衣]



青春ものではあるのにキャラクターが軒並み"性格が悪い"ことで評判の薙刀漫画。
正確には、誰にだって嫌いな人間っているし仲のよい相手にだって苛立つことはあるよね、くらいの、きわめて気取らないありのままな人間関係が表れている。
それだけにイイ話が際立つ。感動の押し売り感がない。




44.NANA(既刊21巻)[矢沢あい]



まず話の展開が面白い。人物が生きているから一つ一つのなりゆきが自然。
キャラクターたちが直面する問題はいずれにおいても正答がなく、誰しもに常に多層の葛藤が配されているわけだけども、各々の立場や価値観に根ざした論理展開、行動様式がさらなる無限の葛藤を生み出す始末。
NANAを読んだ男が、あぁこういうとき女の子にはこう振る舞えばいいのか、と学んだ気になるのは大変危うい。この漫画は何かにつけ正答を示していない。
わかった気になっちゃいけないな、くらいできっとちょうどいい。




43.土佐の一本釣り(全25巻)[青柳裕介]



古めの男くさい漫画。
カツオ漁船の船旅の苦労と歓喜が本題のはずだけど、ちょいちょい挟まれる陸に戻ったときの女とのふれあいこそが読みどころ。
一見すればいかにも前時代的な男尊女卑ありきな男女観。
しかし、例えばさだまさしの「関白宣言」が女を服従させるようでいてその実あまりに厳しい克己心を男側に課しているように、この漫画においても、女を邪険に扱いながらその実、男に対してのほうがよっぽど厳しい。イイ男への花道は長く遠く険しすぎる。




42.究極超人あ〜る(全9巻+1巻)[ゆうきまさみ]



高校の光画部、つまりは写真部を題材とした、元祖文化系漫画とでもいうんですかね。
何を目的ともしていない、一風変わった、でもただの高校生活。
先輩-後輩の関係性が今の時代のそれよりずっと色濃く、ちゃんと"先輩が後輩を振り回す"のが楽しい。
そして主人公の"あ〜る"が唯一無二のキャラクター。
忘れられない名言がいっぱい。
“怒ると胃に悪いぞ。胃が悪いとご飯が食べられなくなるんだ。ご飯が食べられないとおなかがすくじゃないか。おなかがすくと怒りっぽくなるじゃないか。怒ると胃に悪いんだ。胃が悪いとごはんが食べられなくなるんだぞ。ご飯が食べられないとおなかがすくじゃないか”



41.PAINT IT BLUE(短編)[松田洋子]



とても女性が描いたとは思えない、などという表現は失礼だし常々避けているが、この漫画だけはそう評させてほしい。
とても女性が描いたとは思えない、男性的な、カビくさく汗くさい、モノクロームの世界。
零細町工場で働くブルーカラーの現場を舞台に、"ひもじいけど幸福はあるよ"という描きかたもせず、"こんな暮らしは最低だ"という描きかたもせず、ただどっしりした読後感を残す。
「赤い文化住宅の初子」の方がお話として好かれるだろうけども、心に残ったのはこっち。冒頭数コマ時点から"すげー"ってなった。




40.げんしけん(全9巻+続編全12巻)[木尾士目]



オタクサークルを描いた大学青春漫画。
今ではもうオタク自体もオタクを取り巻く風潮もすっかり変わってしまったが、連載開始当時の感覚からすれば、斬新な試みかつ見事な成功だった。
漫画の教科書かってくらいコマ割りが上手い。好き嫌いや独自性だとかを寄せ付けない正統派の上手さ。上手すぎるから格別上手いとも意識せずに漫画を読ませられる上手さ。
この上手さがあるから、場の空気の表現も大いに生きる。
ちょっとした沈黙や間、言葉を選ぶ取次ぎの一秒間、遠くにだけ人の気配のある建物の夜の静けさ、相手の目を見て出方をうかがう視線など、漫画でしか表わせ得ない空気感を、もののみごとの原稿上に再現している。




39.刃牙(シリーズ100巻超)[板垣恵介]



少年漫画において"ハッタリ"は欠かせない重要兵器。
この漫画ほど読者へのハッタリが痛快な漫画もそうそうない。
作中の無茶を、ぎりぎり現実にあるかもしれないと思わせるような論拠や情報を示して説明するのだ。これにどれだけ無垢な少年読者が騙されてきたかしれない。
だが少年たちも恨みはしないだろう。
それらは作中の破綻を秩序立たせるために置かれた無機質な設定、では決してないからだ。
面白い嘘なのだ。それも、法外に。




38.ひきだしにテラリウム(短編集)[九井諒子]



漫画という調理器具を小器用にあやつって、無限とも思えるアイデアを食材に、多彩な料理をふるまってくれる。
僕はウェブ漫画に偏見があり、あまり読まない。
"どうせ面白いんでしょ"という目で見てしまうので、読んでも"ほら面白かった"くらいにしか感得できず、自分の未熟さを思い知らされるから。
ところが九井諒子には負けた。"あああ面白かった!"と感動できた。あれだけの感動を認めないわけにはいかない。




37.咲-saki-(既刊20巻)[小林立]



特殊能力ありの麻雀漫画。
巻を増すごとに遠慮なくなってくバトル漫画のごとき能力の数々は、読者から何でもありかよみたいに諷されがちのようだけれど、実のところ能力と勝敗の成り行きは実によく練られている。全然何でもありじゃない。すげーです。
ページの割り振りが大胆で、ふつう10ページかけるようなエピソードをあっさり1、2ページで済ませたりする。そのぶん大ゴマ連発したりもして、かなり特殊なコマ割りだけどめちゃくちゃうまい。
人物の掘り下げが絶妙。膨大な数のキャラクターたちは、1,2ページはおろかほんの数コマだけでキャラ立ちさせられてたりして、余計な説明で埋めない"隙間"がうかがえるのもこの漫画の魅力だと思う。

 


36.ステップバイステップ(上下巻)[安永千澄]



"階段"を共通のモチーフとした短編集。
安永千澄の頭のなかの宝石箱を覗かせてもらったような、貴重な体験をさせてもらった。
とくに上巻に収められている、ひな壇の話の心澄みわたる美しさ!
文学作品をコミカライズしたようなとも言いたくなる一方で、漫画でしか表現しえない作品だとも。
何度でも読みたくなる。なのに今手元になく、その短編のタイトルもわからない。




35.殺し屋イチ(全10巻)[山本英夫]



ラブコメ。
変態猟奇アクション漫画と見るかラブコメと見るかどうかで評価が変わる。
たしかにヤクザが銃をぶっ放す。殺し屋の刃は顔面を切り裂く。彼らの抗争において、またときには抗争に関係ないところで、男性器も女性器も容赦なく破壊されたりはする。
でもこれは、世にも美しく楽しい、ラブコメなのだ。ぜひとも最終巻まで読んでほしい。




34.宮本から君へ(完全版 全5巻)[新井英樹]



会社員の仕事漫画としては異様に過ぎて、あえていうなら青春漫画に近いが、主題は主人公宮本の生き様。
直情的で爆発しやすく、奮闘しようともがく男といえば類型が浮かびそうなところ、読んでみれば無為一無二の人物像が開かれていく。
新井英樹は話が書ける作家。
漫画はジャンル問わず、”展開”はあっても”話”がないことが多い。
この人の書く人物は、…たまたま漫画ページにとじこめられているだけで…人生を生きているので、話になる。
「キーチ!」「ザ・ワールド・イズ・マイン」「愛しのアイリーン」、代表作の多い氏の漫画はいずれも魅力たっぷりながら、作品に込められたパワーが溢れかえっておさまらない「宮本から君へ」を、今は推したい。
 



33.アイスバーン(短編)[西村ツチカ]



絵がいい…。
アートみたいな方面にいききらない、あくまで漫画の領分を土俵にしているところも好き。
読むと脳が解放される。頭蓋骨とかいう狭い部屋に閉じ込められてたんだなと気づく。




32.失恋ショコラティエ(全10巻)[水城せとな]



逃げ出したくなるような恥ずかしいタイトルとは裏腹に、人間の弱い部分や醜い部分や浅ましい部分を暴きたてそこへ幸福も歓喜もくっつけてしまえる手並は神がかり的。
幸福と不幸は共存しているし、希望と絶望は抱き合わせで、いつでも明日は待ち遠しく遠ざけたい。
この漫画は表面的な人間ドラマとしても楽しめるし、奥底にたゆたう"幸福の正しさ"について思考を向けてみても興が尽きない。
「脳内ポイズンベリー」といい「窮鼠はチーズの夢を見る」といい、水城せとなは外れがないです。
現在連載中の「世界でおれが一番◯◯」も度肝を抜かれる面白さ。完結したら順位覆るかも。




31.喧嘩商売(全23巻+続編既刊13巻)[木多康明]



"最強の格闘技は何か?"
16人に及ぶ格闘家たちの生い立ちは、まるで"Wikipediaにある人物ページで面白い記事"の面白味の核心を培養したような強烈なエピソード揃い。
それ自体だけでも面白いし、それがキャラの背骨となるから対決にも深みがある。
「喧嘩稼業」としてリスタートしてからは、ギャグは控えめに、ほぼシリアス路線になってくれた。
ギャグ漫画だった「幕張」にも「泣くようぐいす」にも、きっと木多先生はこんな路線へ舵を取りたかっただろうと推し量りたくなるような試みはみられる。
どっちもできてしまうし、どっちもやりたかったのだろう。今はシリアスをお願いします。
あとこの漫画の主人公佐藤十兵衛は、世間的に褒められた人格をしていない。
いわゆる"卑怯キャラ"だとか"ダークヒーロー"だとかの生ぬるい役どころではなく、本当に"嫌なやつ"なのだ。
それでいて魅力的。木多先生にしか描けないキャラクター。


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