舌の色はピンク
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2020年04月12日(日) 映画ベスト50 [5-1]

5.アレックス[ギャスパー・ノエ]




"時はすべてを破壊する"が合言葉。
このテーマでギャスパー・ノエが、やってのけてくれた。
時間軸が逆行していく構成は監督曰く「メメント」に影響を受けたそうだが、出来は比べものにならない。
必然性と偶然性がほどよく絡まりあうシナリオ、精神を引っ掻き回すダンス音楽、霊感を覚醒させるような映像、いずれも隙なし。
極彩色とぐるぐるまわるカメラアングルによるトリップ感はつくづく気持ちがいい。
やりたいことやっておきながら客を置いてけぼりにしない完成度に脱帽。


4.四か月、三週と二日[クリスティアン・ムンジウ]




2007年のパルムドール。
1980年代の独裁政権下におけるルーマニアで、強く禁止されている中絶手術をどうにか決行したい妊婦が街を駆けずり回る。
こんなに暗くていいんだろうかってくらい話も映像も暗い。
その暗さは、夜にろくろく電灯もともっていない当時のルーマニアの暗さを反映しているそうだ。
好きなのは空気感の描写で、とくに「よその家で食事する最中の居心地のなさ」が素晴らしかった。
ほかの映画や漫画でも描かれるところではあるけれども、二つ頭抜けている。
そのシーンを筆頭に、人と人とが接するごとに生じる居たたまれなさの表現が見事だった。
居ることが堪れないのだ。
この映画の登場人物には誰にも決してなりたくないが、どの人物にも自分の影を見出せてしまう。


3.皆殺しの天使[ルイス・ブニュエル]




タイトルで誤解してほしくない、メキシコ映画の大傑作。
ホームパーティーに集まる十数人の紳士淑女。
多いに盛り上がり、夜も更けたころホスト側もそろそろお開きかというそぶりを見せるのだが、しかし…。
あぁもう好きで好きで仕方がない。
不条理ものは、ただハチャメチャなことをすればいいってもんじゃない。
一定の秩序にのっとって、自然の摂理にもとづいて、つまりは条理を捨てきったりはせず、新生の条理を息づかせなければ、単なる無粋だ。
その点この映画はもう文句の付けどころがない。
おれが求めていたのはこれだったのかと、自身のなかでまだ混沌にあった希求が投射され即座満たされゆくあの快感が、きっと過去最高だった。


2.ホーリー・モーターズ[レオス・カラックス]




この映画が僕に、映画の鑑賞のしかたを教えてくれた。まさに蒙を啓いてくれた。
まともな映画じゃない。
なにやら俳優業を営んでいるらしい男が、一日の間に次から次へ、様々な人生を演じていく…とでもまとめられるのか。
その目的もわからなければ、支援しているらしい裏方組織の仕組みもわからない。
何がどこまで現実で、何をどう解釈したらいいのかも考えれば考えるほどわからなくなってく。
だからといって粗雑な作りではまったくなく、豊富なアイディアがきちんとその時々で整序されて収められている。
話を楽しむ映画、話以外を楽しむ映画、だとかの見方から解放されて、
映画の楽しみかたは自由なのだと、無限の平野に立たせてもらった心地がした。
その解放感により安らぎを求めて、もう五回くらいは観たろうか。たぶんこれから先、その数より多く観るだろう。 


1.アンダーグラウンド[エミール・クストリッツァ]




第二次世界大戦中、武器商人がレジスタンス活動のために親友と市民とを地下に潜伏させたきり、終戦後もそれと知らせず彼らに武器を作らせ続ける…という粗筋をもってして、誰がこの映画をこんな風に撮れるだろう。
人物たちは皆よく笑い、よく歌い、よく踊り、よく殺し、よく怒り、よく愛し、ぞんぶんに生きる。
青天井に力強く、底抜けに明るく、快活で、楽しくて、悲しくて、こちらが大事に大事に育ててきた知情意を、こてんぱんに叩きのめされる。
全属性攻撃という感じ。ノックアウト。この映画を観たらしばらく他の映画は観れない、どころか、小説や漫画も一週間読めなくなった。
ジプシー音楽の快調なノリとか、ひっきりなしに画面を賑やかす動物の存在感もいいんですよ。
役者も最高なんですよ。こう…表情とか発声とかちょっとした仕草が、たまらないんですよ。
でまた凄味に圧倒されながらなお、ずっと笑えるんですよ。喜劇も高純度で、ちっとも白けない。
ラストシーンがまた…。夢の始まりのような、さなかのような、終わりのような、もう、全身から涙が出てくるようなかつてない感動が、ごおっと押し寄せてくるんですよ。
なんなんでしょうかこの映画は…まじで…ほんとに…。


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思った以上に、暗くて静かで重いという内容ばかりだった。
僕が悪いんじゃないですね。良い監督がそんな映画ばっかり撮ってるのが悪い。


泣く泣くランキングには記載できなかった、でも好きな映画タイトルもざっと羅列しておきます。
こっちの方がずっと明るい。

羅生門ほか黒澤作品(「まあだだよ」以外)全部、エンドレスポエトリー、小さな恋のメロディ、勝手にしやがれ、ペーパームーン、ダンサーインザダーク、エンター・ザ・ボイド、偽りなきもの、ダークムーン、第十七捕虜収容所、バッファロー'66、ブラウンバニー、バーフバリ、きっとうまくいく、フルメタルジャケット、ある過去の行方、カミーユ・クローデル、コリン、鉄男、シン・ゴジラ、東京物語、スワロウテイル、誰も知らない、星くず兄弟の伝説、バック・トゥ・ザ・フューチャー


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